語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村野四郎「無神論」

2015年10月08日 | 詩歌
 村野四郎には神がないと
 ぼくの詩の友だちはいったが
 それなら あれは何だろう

 朝の戸口のところで
 洗滌器を手にさげて
 満足そうに立っている あれは

 痛みと痺れの向こう岸で
 もうこれ以上 立っていられないと言うように
 塵埃車によりかかって
 とおくの青い流を見ている
 あの影のごとき形象
 あれはいったい誰だろう

 ぼくの中には 神がないと
 それは おそらく本当だろう
 ぼくには神をおく場所がない
 ぼくは寺院でもなく
 ぼく自身がその神なのだから

 リルケの神は存在であった
 ぼくもまた燃えつきる存在
 崩壊しつつある神なのだから

□村野四郎「無神論」(『抽象の城』、宝文館、1954)
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 【参考】
【詩歌】村野四郎「鉄棒(二)」
【詩歌】村野四郎「高障害」
【詩歌】村野四郎「競争」
【詩歌】村野四郎「鉄槌投」
【詩歌】村野四郎「拳闘」
【詩歌】村野四郎「棒高飛」
【詩歌】村野四郎「槍投」
【詩歌】村野四郎を読む(4) ~鹿~
【詩歌】村野四郎を読む(3) ~さんたんたる鮟鱇~
【詩歌】村野四郎を読む(2) ~体操~
【詩歌】村野四郎を読む(1) ~飛込(二)~
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【VW】制裁金や訴訟、信用失墜・・・・フキゲン、ワーゲンの誤算

2015年10月08日 | 社会
 (1)独フォルクスワーゲンが世界のトップの座に王手をかけるようになるまで、圧倒的な成長の原動力になってきた男が2人いる。フェルディナンド・ピエヒ(78歳)とその腹心、マルティン・ヴィンターコーン(68歳)だ。
 VWの最高意思決定機関は監査役会だ。ピエヒ・監査役会会長(当時)が2007年にヴィンターコーンを社長に抜擢して以来、じわじわと市場シェアを伸ばし、トヨタ自動車を追い詰めてきた。その2人が相次いで会社を去ることになろうとか、誰も予想しなかったはずだ。
 ピエヒは、ポルシェ創業家の末裔。かつてVWの名車「ビートル」を生んだ伝説の祖父を持ち、自分も生粋の技術者としてポルシェやアウディで華々しい成果を挙げてきた。1993年にVW社長にのし上がり、世界一の自動車メーカーにするという野望を密かに抱き続けてきた。
 ヴィンターコーンは、独ボッシュ(大手自動車部品メーカー)を経てVWグループに参画。品質担当当時の働きぶりがピエヒの目にとまり、VWの社長まで駆け上がった。

 (2)ピエヒとヴィンターコーンの仲違いが表面化したのは今年4月。「相打ち」で決着がついた。
 発端は、ピエヒがヴィンターコーンの社長任期延長に反対したこと。ヴィンターコーンがこれを「返り討ち」にし、ピエヒは監査役会会長を辞任。表舞台から退いた。
 ところが、9月18日、米国で「不正ディーゼル事件」が露見。23日、今度はヴィンターコーンが引責辞任に追い込まれた。

 (3)VW史上、こうした内紛は珍しくない。1931年にフェルナンド・ポルシェがポルシェ社を設立し、2台目まではポルシェ家とピエヒ家の関係は良好だった。しかし、
   1960年代から2002年まではピエヒ家の勢力が高まり、
   2002年9月から2008年10月までポルシェ家が逆襲し、
   2009年3月から2012年7月までポルシェ家の独立性が喪われ、
   2014年9月から2015年9月25日までピエヒ家が孤立した格好で、社長がマティアス・ミュラー・ポルシェ社長に代わった。

 (4)今回、ピエヒが一時は「自分の分身」とまで言っていた腹心のヴィンターコーンの社長任期延長に反対したのはなぜか。その背景にただでさえ芳しくなかったVWの業績がある。
 今やトヨタと世界覇権を争う巨大帝国を築きあげたVWグループだが、傘下に抱える12ブランドのうち、販売台数の6割を稼ぐVW乗用車の利益はアウディの半分以下(前期)という実情なのだ。
 世界最大の中国市場は、VWにとって今や販売台数の4割を占めるドル箱と化し、不動の地位を固めている。だが、足元では景気低迷と過剰設備にあえぎ、販売減に歯止めがかからない。今年1~6月期は前年同期比3.9%減という惨たる結果となった。

 (5)VWが近年、最優先市場と位置づけて力を入れてきたのが米国だ。ヴィンターコーンは米国での販売目標100万台を掲げ、2013年には新工場を構えて本格攻勢をかけたが、昨年は前年比2%減の59万台にとどまった。
 米中の巨大市場で苦戦が続く中、最大の誤算がVWを襲う。一連の排ガス不正スキャンダルだ。
 当初、VWはここまで事態が深刻化するとは想定していなかったらしい。なぜなら、今回VWによる米排ガス規制の不正回避を認定した米環境保護局(EPA)によれば、2014年9月時点でVWは不正を認めていたからだ。
 だから、米当局による不正公表のわずか4日後(9月22日)にはVWは65億ユーロ(8,700億円)の引当金を計上。迅速に対応できたのは、昨年来対応が検討されてきたからであるはずだ。
 しかし、EPAは最大180億ドル(2兆1,600億円)もの巨額の制裁金を科すと発表。VWの経常利益は1兆7,000億円(2014年)だから、これが全て吹き飛ぶことになる。
 さらにVWは、同様の不正を行っていた対象車は世界で1,100万台に上ると公表。VWは問題車両のリコールも検討中で、その費用も重くのしかかる。
 米国では株主による集団訴訟も取り沙汰されていて、総額で一体どれほど費用が膨らむのか、先はまったく読めない。

 (6)巨額の費用負担もさりながら、何より問題は、欧州自動車業界全体で築き上げてきたクリーンディーゼルに対する信用失墜だ。ハイブリッド車の対抗馬として、欧米メーカーが力を注いできた主力エコカーが、クリーンディーゼルカーだった。事実、欧米の新車販売台数に占めるディーゼル車の割合は今や5割超だ。

 (7)ブランドイメージ失墜の危機を受けて、VWは経営陣の刷新を決定。9月25日、マティアス・ミュラー・ポルシェ社長をVWの新社長に充てる人事を発表した。
 しかし、これが将来「内紛」を招く可能性もある。実は、VWが2009年にポルシェを子会社化して以降、2010年にミュラーをポルシェ社長に送り込んだのはピエヒなのだ。失脚したかと思われた絶対権力者は、今も見えない力を発揮している。
 VWの議決権の過半数を握るのは、持ち株会社のポルシェ自動車持ち株SE。そのポルシェSEの議決権は、ピエヒ家とポルシェ家がほぼ半数ずつ握ったまま。過去に何度も社長の首をすげかえてきたピエヒの野望は健在といえる。 

□記事「制裁金や訴訟、信用失墜・・・・フキゲン、ワーゲンの誤算」(「週刊ダイヤモンド」2015年10月10日号)
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 【参考】
【VW】不正の遠因は前社長の独裁 ~数値目標優先と内紛が招く会社の末路~
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【VW】不正の遠因は前社長の独裁 ~数値目標優先と内紛が招く会社の末路~

2015年10月08日 | 社会
 (1)フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題について、米国の環境保護局(EPA)が最大で180億ドル(2兆1,600億円)もの制裁金を科す方向だ。この額は、VWの昨年の営業利益額を上回り、同社の経営の屋台骨を揺るがす。
 今後、ブランドイメージは凋落し、販売が激減し、赤字転落は必至の情勢だ。

 (2)不正の遠因には、辞任したヴィンダーコルン・前社長の無謀な拡大主義や内紛が影響しているようだ。
 VWは、2000年半ばまで経営が低迷、1988年に北米生産から撤退して以来、北米市場は鳴かず飛ばずだった。
 一方、この頃のトヨタ自動車やホンダは、北米を収益源とした。
 2007年にVW社長に就いたヴィンダーコルンは新計画を発表、「2018年までに1,000万台を販売してトヨタを追い越す」と宣言した。
 計画は一見順調に進み、2014年に1,000万台に到達。トヨタと世界販売1位の座を競い合う展開になった。
 ただ、課題の北米市場は、2011年に23年ぶりに新工場を立ち上げ、現地生産を復活させたものの、相変わらずシェアは回復しなかった。
 VWは、中国や中南米など新興市場ではトヨタを上回って圧倒的な存在感がある。北米市場さえ攻略すれば、トヨタに優位に立てる。その「切り札」として導入されたのが、今回、不正に規制逃れをしたディーゼル車で、ハイブリッド車並みのエコカーと売り込んだ。

 (3)VWはディーゼル技術に強い。ただ、ディーゼル車はガソリン車と比較して、二酸化炭素の排出量は少ないものの、窒素化合物の排出が多いうえ、中速・高速走行時の加速性能が劣る。
 この劣勢を挽回するために、適合試験時だけに車の規制をクリアし、通常走行時には規制を無視して窒素酸化物が多く出る代わりに加速性能が良くなるエンジン制御の違法ソフトウェアを使っていた模様だ。

 (3)VWは原理原則に忠実でまじめな社風だとされる。
 一方、ヴィンターコルンは独裁者で、数値目標に厳格、目標を達成できない幹部には人事で容赦ない。
 ベンツに16年ぶりに輸入車トップの座を奪われることが確実な情勢になると、今年7月末にはVW日本法人社長が事実上解任された。
 なかでも北米市場は最重要の強化地域だったので、独裁者を恐れて組織ぐるみで違法行為に手を染めたのではないか。
 また、ヴィンターコルン・社長は、今年の初めまで、実力者のピエヒ・監査役会長と権力闘争を広げており、それに勝つためにも業績を落とすわけにはいかない状況に追い込まれていた。

 (4)VWの状況は、
   大量リコールを起こしたホンダと
   粉飾決算をした東芝
を足して2で割ったようなものだ。
 ホンダは、伊東孝紳・前社長が身の丈を超える「600万台計画」を打ち出し、それを達成させるために品質を後回しにして新型車を発売したら、大規模リコールに発展して、ブランドを失墜させた。
 伊東氏も「独裁者」として知られた。東芝は、経営トップの「チャレンジ」の美名の下、業績を粉飾した。その背景には、歴代社長のメンツをかけた権力闘争もあった。
 当然とはいえ、独裁的なトップが無謀な数値目標を掲げ、内紛が起こる会社の末路は哀れだ。

□井上久男「VW不正の遠因は前社長の独裁? 数値目標優先と内紛が招く会社の末路 ~経済私考~」(「週刊金曜日」2015年10月2日号)
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【VW】制裁金や訴訟、信用失墜・・・・フキゲン、ワーゲンの誤算


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