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日米の制空権下での艦隊決戦思想の相違

2016-12-22 13:40:47 | 軍事技術

 倉山満氏は「飛行機で戦艦を守れるようにしよう。制空権を取って艦隊決戦を有利にしようとしました。艦隊決戦主義から、制空権下での艦隊決戦主義になったということです。」(1)(P175)と書いている。一方で日本も航空機の発達から制空権下での艦隊決戦主義に移行したと言われている。だがその中身には当然相違があったと思われる。

 双方に共通しているのは、弾着観測に航空機を活用し、砲の命中精度を上げるために、観測機を守るための制空権確保、ということである。それでも違いはある。日本の場合は弾着観測機を艦上戦闘機で守ることを考えた。零戦の航続距離が異常に長いのは、艦上攻撃隊の援護や陸上攻撃機の援護のためではなく、艦隊上空を観測機援護のために長時間飛行するためである。そのことをはっきり指摘したのは兵頭二十八氏と記憶している。

零戦の開発が開始されたのは、支那事変が始まった当時であり、戦闘機無用論もあった位だから渡爆撃機の援護の重要性が全く認識されておらず、当初の要求仕様は航続距離ではなく、滞空時間で示されていた。

 米海軍の場合は、敵攻撃機は艦上戦闘機と、両用砲の対空砲火の二種類によって守ることとしたと考えられる。敵艦の中でも、特に空母を主として攻撃し、敵空母の航空機運用能力を無くすことを主任務にしていた。だから米空母の場合、艦上戦闘機と艦上爆撃機の比率が日本に比べて高く、雷撃機の比率が低い。戦闘機は艦隊防空と攻撃隊の直掩に使うからで、爆撃機は空母の飛行甲板を破壊して航空機運用能力を無くせばよく、必ずしも撃沈する必要はないと考えた。こうして制空権を握った上で、主力艦の決戦を行う。

 駆逐艦の主砲に対空兼用の、両用砲を全面的に採用することによって、他の海軍と異なり米海軍は駆逐艦にも防空能力を持たせた。大戦後半の圧倒的防空能力とはいかなくても米艦隊は効果的な対空火力を持っていた。既に緒戦の珊瑚海海戦で日本海軍の艦上機搭乗員は、そのことを身を持って知り、戦訓として上申したが海軍上層部の取り上げるところとはならなかった。

 ミッドウェー海戦では、多数の米雷撃機を零戦が撃墜し、一本の魚雷も命中させられなかったことから、敗北の結果となっても、米艦隊の防空能力の高さを認識することはなかった。運が悪かったことを意味する「魔の五分間」という神話の罪は重いのである。澤地久枝氏の「滄海よ眠れ」にも書かれているように、全体の戦死者は日本側が遥かに多かったにもかかわらず、パイロットの戦死者は米側の方がずっと多い。これは、米空母を攻撃したのは飛龍だけだったことによる。要するに、敵艦隊攻撃に参加した航空機は米海軍の方が遥かに多かったために搭乗員の被害の絶対数が多くなったのである。

 日本海軍の場合は軍縮条約で劣勢に立たされた主力艦比率のために、まず決戦の前に主力艦を少しでも減らすことを考えた。そのために艦攻による雷撃ばかりではなく、陸上攻撃機を太平洋の島嶼に配置して、攻めくる米艦隊を雷撃する、陸上攻撃機なる、他の海軍に例のない機種を発明した。

日本はあくまでも、艦隊決戦以前に主力艦をより多く撃沈する意図だったのである。だから、主力艦を撃沈可能と考えられた雷撃を敵艦攻撃の主力とした。後で再浮揚したことや戦略的要素を考慮しなければ、多くの戦艦を破壊した真珠湾攻撃は、この意図からは成功だった。マレー沖海戦は、陸上攻撃機が主力艦撃沈に有効であるという幻想を日本海軍に抱かせてしまった。

わずか90機程度の陸攻が戦艦を2隻も撃沈したのだから、陸攻に期待するのも無理はない。しかし、その後の陸攻は期待に外れ、恐るべき被害に比べて戦果は挙がっていなかった。マレー沖海戦の幻想が、戦果を過大評価させ、現実の戦果を見誤る結果となったのである。

では陸攻が海軍から無用になったのか、といえばそうとも言えない。陸攻の思想を結果的に受けついたのは、ソ連だった。ソ連は戦闘爆撃機や爆撃機に対艦ミサイルを搭載して、米空母を飽和攻撃によって撃沈しようとしたのである。魚雷に替わって対艦ミサイルがソ連の「陸攻」の兵装となったのである。

まともな空母を運用できなかったソ連は、陸上から発進する爆撃機によって主力艦となった米空母に対抗しようとしたのである。航続距離の長い爆撃機から、米空母の防空圏外から、長射程の対艦ミサイルを米艦隊の防空能力を超える多数を同時発射して、撃ち漏らした対艦ミサイルで米空母を撃沈しようとした。

正に陸攻の理想とした能力を備えたのだった。ある時期に米ソ海軍が衝突したら、この企図は成功していたように思われる。しかし、よく知られているように、米海軍はイージスシステムを開発して、敵機の同時対処能力を飛躍的に増やして対処した。ソ連がカタパルトを持たないとはいえ、正規空母を持とうとしたのは正解であろう。

しかし、本質的に大陸国であるロシアが、旅順艦隊とバルチック艦隊の全滅以来、本格的な外洋艦隊を持たないのは、ロシアの宿命であるかも知れない。ソ連崩壊によってロシアは世界帝国であることを止めた結果、外洋艦隊を持つ必要はないのかも知れない。かつてはロシア帝国とはいっても、ヨーロッパ外交の1プレーヤーに過ぎず、ソ連崩壊によって、ロシアは世界帝国から元の地位に戻ったのである。

 

(1)負けるはずがなかった!大東亜戦争・倉山満

 


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