頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

ドラマ「BOSS」#1

2011-04-15 | film, drama and TV

BOSSに「」を付けるか迷う。「BOSS」も"BOSS"もなんか変だよな。

天海祐希率いる特別犯罪対策室が戻ってきた。相変わらずのシリアス+コメディ。未解決の国家公安委員長狙撃事件と、戸田恵梨香行方不明、吉瀬美智子の代わりに釈由美子と長谷川京子が参加。

刑法39条により無罪となった男が殺される→連続の事件になる模様で来週へ続く。前シリーズが楽しめたなら同様に楽しめると思う。

釈由美子の化粧の乗りが妙に悪いとか、眉毛のせいなのか長谷川京子が変顔に見えるとかどうでもいいことにツッコミたくなる。しかし竹之内豊のストーリーと無関係な言動が今シリーズでも健在で、それが一番楽しい。事件の解決よりむしろそっちの方が面白い。ぜひ一度野立会に参加したいものだ。

では、また。



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まさか

2011-04-14 | days

土曜日のキックボクシング観戦の後、近くのバー?あるいはおしゃれ居酒屋へ。何回か行ってるのにお店のカテゴライズがいまだに出来ない。

10人ほどで和やかに歓談していたら、22時を過ぎてから猛烈に眠くなってきてしまった。この時間は一日の内でもっとも頭がさえる時間なのに、おかしい。飲み会の最中に眠くなるなんておかしい。おかしい…

しかし睡魔が何度も何度も私の背中を押すので、23時前に帰ってきてしまった。

twitterで「日が変わる前に帰るというまさかの事態」と書いたら、「ほんとまさかの事態です(笑)」というコメントがあった。本当にまさかの事態である。いやまさかの失態である。

昼間に酒を飲んでいてダブルヘッダーだったのがいけないのか、夜の席はおじさんに囲まれたから拒否反応が現れたのか、どちらかだろう。いや他に私の知らないところで、私の中に新しい生き物が湧いているのだろうか。

では、また。


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ドラマ「名前をなくした女神」#1

2011-04-13 | film, drama and TV

仕事を辞めて主婦になった杏は夫と息子と引越し。マンションから近い幼稚園に入ることができたが、そこでできたママ友たちの心の奥底には…でかいマンションに住む木村佳乃は夫がかまってくれない。同じマンションに住んではいるけれど低層のワンルームだという倉科カナは、木村のようなセレブに憧れているがだいぶ歪んでいる。尾野真千子は夫が細かくて言葉がキツイ…

うーむ。これが意外と面白かった。まさか安達祐美が出てきて、あんなんなるなんて。女ってこえ~。

この手のドラマが面白いという自分がちょっと分からないが。

「だよね~」とみなと同じであることで安心し、異質なものを排除していくというのが女性のもつ本質なのだろうか?「それは違う。あなたのこの部分は正しいけど、この部分は違う」というような論理を展開させることを避け、丸ごと100パーセント受け入れるか、拒絶するというのが=女性なのだろうか。

一概にそう言えるわけでないのだろうけど、やっぱりそうなのかなと思わせる巧いドラマだ。

やっぱり女ってめんどくさくて怖い(女であることがめんどくさくて怖い、かな)

女は単体だととても愛らしいスイートハニーなのが、集団になると醜悪なビッチ(←放送禁止用語?)になってしまうのはなぜなのだろう。

男の場合はどうなのだろう。自分ではよく分からない。男の友情(友情もどき)については女性陣から何か言いたいことがあるんだろうが。

同じように昼ドラっぽくなってしまっている「江」はあまり面白く思えないのに、こちらは面白く思うのはなぜだろうか。

では、また。

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花見

2011-04-12 | days

トレッサ横浜の近くに三ツ池公園というところがあって、そこには根岸の森林公園より多い1600本の桜の木があるというので先日行って来た。

周囲の土地より少し低くなったところに池があってすり鉢状になった大きな公園。確かに桜だらけだった。ビニールシートを敷いて宴会している人たちも多くいた。自粛なんて関係ない関係ない。

この桜は今週末にはもう見ごろでなくなってしまうのだろう。だからこそ、わざわざ見たくなるわけさね。

もし桜がちょっちゅう見られるものなら、誰も見向きもしなくなるんだよな。ACのCMのように。







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熱い

2011-04-11 | sport

土曜日は、ジム主催の試合があって昼から観戦。アマチュア、プロのキックボクシング、総合格闘技とのミックスの試合があった。アマチュアの試合のメインイベンターだったKぢ君の家が近くにあって、アマチュアの試合とプロの興行の間2時間ぐらいそこで飲み食いした。

昼の3時に飲む酒は意外と旨いとか、ヨークシャーテリアのようなミクロな犬は苦手だったけど、意外とかわいいもんだなとか色々と感じたことはあるが、よく覚えていないのではしょってしまう。

ジムのYトレーナーはボクシングの元プロで日本ランカーでもあったのだけれど、このたびキックボクシングでプロデビュー。この最後の試合が面白いのなんの。パンチで圧倒的に有利なこちら側と、キックで圧倒的に有利な向こう。膝蹴りは相当わき腹にもらっていたし、パンチは相当当たっていた。結果はドロー。今までで生で観た格闘技で一番面白い試合だった。

身を削るような思いをしながら魅せる姿に打たれた。

では、また。


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江頭2:50震災ボランティア

2011-04-09 | days


江頭2:50のピーピーピーするぞ!という番組。過去の動画があれこれと観られる。震災の後にエガちゃんが東北入りしたという噂に関して話してくれている。今回はYoutubeのを貼り付けてみた。いやいや。スゴイ人だねえ。





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2011-04-08 | days

この本が読みたいと思って買う。

家に帰る。読み始めると、なんだか違うと思う。

読むのをやめる。

別の本を買う。

読み始める。なんだか違うと思う。

この繰り返しが最近続く。

春のせいなのか、頭の劣化を感じる。



本をなかなか読むことができないとかけて、

独身者ととく。

そのこころは

読めない

よめない

嫁ない…



さらに我が頭の劣化を感じていただいた。

では、また。


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『美味礼讃』海老沢泰久

2011-04-07 | books

「美味礼讃」海老沢泰久 文藝春秋 1992年(初出別冊文藝春秋1991年196号~198号)

なぜか再読した。

辻調理師学校の辻静雄が、なぜ新聞社を辞め、調理師学校の副校長になったのか、本物のフランス料理を日本に伝えるためにどんな苦労をしたのか、同業者のどんな妨害があったのか。辻の半生を描く。

いやいや。あらためて凄い本だ。辻静雄という一人の人間も凄いし、それを描く海老沢泰久も凄い。中学生の頃に読んだら、将来はコックかあるいは何か料理に関わる仕事に就きたいと思ったかも知れない。未読の人には一読をオススメしたい。

読みやすいのにずっしりくる。私自身はグルメでもないし、フランス料理の作り方に強い興味があるわけでもない。だから、細かい料理法を覚えようとして読むような読み方をしているわけでもないけれど、それでもここまでするのかという料理人たちの技に驚く。

辻が成功して、新聞記者時代の友人を招いてディナー・パーティをする。材料費だけで20万はかかるような豪華な食事。読売の社会部の記者は辻が出世したのを見せびらかされているような気分になったようだ。それで言う。


 「やめるさ。だが、これだけはいっておく。こんな料理は無用のものだ。誰も食べられやしないんだからな。おまえは何の役にも立たないことをやっているんだよ。ラーメン屋のおやじのほうがよっぽど立派さ(単行本312頁より引用)」



うーむ。我々がしていることの、ほとんどが無用のもので役には立たないんだろうと思う。小説も音楽も舞台も映画もペットも服も車も、なくては困るというものほとんどないだろう。無用なものを作り出し、無用なものを所有し、消費する。それが我々なんでしょうよ。それでいいんじゃない?

では、また。




美味礼讃 (文春文庫)
海老沢泰久
文藝春秋
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「江頭2:50のピーピーピーするぞ!」

2011-04-06 | film, drama and TV

昨日の「ぷっすま」は凄かった。江頭2:50スペシャルで、初登場以降のエガちゃんの映像ばかり放送。

テレ朝の局長室の上の隙間から乱入するシーンには笑った。バク転を脳天でするのにも笑った。

無料のインターネットテレビのムーパルというところで、「江頭2:50のピーピーピーするぞ!」という番組をやっていた(知らなかった)

下に、ニコニコ動画の2009年2月19日配信分を貼り付けてみた。

あまり見られない、よく喋るエガちゃん。喋りもなかなか面白いではないか。



「江頭2:50のピーピーピーするぞ!」第93回過去動画リクエスト
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『ま・く・ら』柳家小三治

2011-04-05 | books

「ま・く・ら」柳家小三治 講談社 1998年(文庫オリジナル)

決して客に媚びず、つまらなそうな顔をして面白いことを言う男。私が生きる手本としている小三治の、落語のまくら(本題に入る前のお話。最近あったこととか、談志はそのときの政治の話を平気でしていた)ばかりを一冊にまとめた本。

本題よりまくらの方が面白いと言われたりすることもあって、さすがに面白い。面白くも何ともない自虐的な話をしたり、天候がどうとかいう当たり障りのないまくらばなしをする噺家もいるけれど、ここに詰まっているまくらは長くて面白いのばかり。本になっているのだから当たり前か。

小三治はオートバイが好きで4台を、車用の駐車場を借りて、車一台分の場所に4台停めているそうだ。そこになぜかホームレスが住み着いてしまった(駐車場物語)なんて実にうまい。

この話をアレンジした作り話を今考えているので、今度飲み屋で「いかにも本当の話」のように話してみようか。

では、また。



ま・く・ら (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社
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『ONE FINE MESS 世間はスラップスティック』景山民夫

2011-04-04 | books

「ONE FINE MESS 世間はスラップスティック」景山民夫 新潮社(文庫1988年)マガジンハウス(単行本1986年)

放送作家として、エッセイストとして、小説家としてちょっと前には有名だった景山民夫。宗教の方に行ってしまい、98年に謎の死を遂げてからもうずいぶんと時が経った。突然このエッセイのような小話のような本が読みたくて、本棚から引っ張り出してきた。

ひょうきん族でロス疑惑の三浦和義に似ているというのでフルハム三浦というリングネームでひょうきんプロレスで松本竜介と闘ったエピソードやアメリカにいたときの話など雑多雑多雑多。しかし面白い。再読のはずなのに何にも覚えていない。

エッセイとされているけれど、ほんの少しの嘘が混じっているように思うので(解説では中島らもが「景山民夫は日本一背が高い嘘つきである」と書いている)、純粋なエッセイではないような気もする。従来のエッセイとは味も違う。

読み返してみて、シトロエンの2CVとかバブリーのようでバブリーではない、ちょっと粋な都会人の生活が垣間見える。そしてそんな生活に昔はすごく憧れたなーということも思い出した。

今は、粋であることを目指すのじゃなくて、結果として粋に見えればそれはそれでいいけれど、粋であるか決めるのはお前じゃない、周囲の人だよ、って思っている。

私も大人になっているわけよね。

では、また。



↓Amazonでは中古本なら買える。250円で配送料無料だって。そういう売り方するようになったのね。


ONE FINE MESS―世間はスラップスティック
クリエーター情報なし
新潮社
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あるプロレスラーの話

2011-04-03 | days
AVの伝説、村西とおる監督と言えば、知らない男子は男子じゃないと言うぐらい有名。ダイノジ大谷という人のブログ不良芸人日記の中に、監督のブログを転載したものをたまたま見つけた。監督のブログは 村西とおる暴露ブログ
たまに読むと、ずどんと来ることが書いてある。ブログの過去記事はネットでは読めなくて、本になったそうなので今度読んでみようと思っている。(タイトルにAVって入っている本は恥ずかしくて買えない、などというセンチメンタルな心は私は持ち合わせていない)

そんな訳で、以下村西とおる監督が書いたことを、大谷という人のブログから転載する、プロレスラー剛竜馬のこと。私が書いたのではないから、一読の価値あり。2009年の記事なので読んだ方もおられると想像するが。では。




2003年1月15日JR西新宿の自動販発券機の前でプロレスラー剛竜馬は

路上に落ちている小さな財布を見つけました。

誰れのものか知らん、とその財布を剛が拾って手に取ってみたときでございます。




傍で「ドロボー」と叫ぶ老婆の声がしました。

置ちていた財布はその老婆が落したもののようでした。

突然ドロボーとはこれいかに、あわてて剛が拾った財布を

老婆に返そうとした、その時でございます。




二人の若い会社員と思われる青年が剛の首と足に組みついてきました。

剛は185センチ、体重100キロを越す偉状夫でございます。




しかし外見とは違って長いプロレスラー生活で剛の体は

あちらこちらが傷んでいました。両膝も完全にイカれていました。

ようやく一歩一歩踏みしめて歩くのがやっと、のいわば障害者の体の状態でした。

正義漢に燃えた青年のタックルにあって、剛はその場にあえなく

くずれ落ちました。




ほどなく駅員や警察官がかけつけることとなり

「ひったくり」の容疑をかけられてその場で御用となり、

警察の留置場にブチ込まれる破目となったのでありました。




翌日の東スポの一面で「剛竜馬、老婆から財布をひったくり逮捕される」と、

デカデカと報道されました。

しかし警察の取り調べ室で剛はかけられた「ひったくり」の容疑を

ガンとして否定し、決して認めることはありませんでした。




拘留はこの種の犯罪では異例の188日間の長期に及びました。

取り調べの結果は不起訴処分となっての保釈となりました。

が「無事、無罪」となって釈放された剛でしたが、

そのとき、剛は全を失っていたのでありました。




かけがえのない家庭を失っていました。

剛には二女一男の子供がいましたが、下の男の子は当時はまだ小学生でした。

離婚は子供たちが学校でイジメにあっては可哀そうだから、

と獄中の剛から言い出し、取り調べ室で妻から届けられた離婚届けに

判を押したのでした。




仕事も失っていました。

以前から全身満身創痍の体となって、満足の動きがままならなくなっていた

剛のもとへのプロレス興行の誘いはめっきり少なくなっていました。

でも一年のうちのわずかな回数でしたがリングに上がることがありました。

古いプロレス仲間や彼を兄貴分や師匠と慕うプロレスラーからの

「誘い」によるものでした。

それもあの逮捕拘留事件以後パッタリと無くなりました。




剛はもう一つの仕事も無くしていました。

逮捕時に「元プロレスラー、派遣社員」として剛の肩書きが

マスコミ紙上で紹介されましたが、剛はプロレスラーとして

年に一、二度リングに上がるとき以外は、知り合いに紹介された

ダンボール工場で派遣社員として働いていました。




体が大きく目立ってはプライドも傷つくこともあるだろう、

との会社側の配慮があって勤務はもっぱら夜間シフトで働いていました。

作業の内容はおもに工場内の床の上の清掃でした。

膝を痛めている剛は重い荷物を持つ作業はできませんでした。

「お情け」で雇ってもらい掃除の仕事に汗を流していたのでございます。




その「お情け」の仕事も、

あの事件あってバッサリと切られることとなって

「無職」となりました。




剛は厚木の家賃4万円足らずの古ぼけたアパートで一人生活をしながら、

知り合いの所を訪れては仕事の斡旋を頼む日々を送りました。




食うのにも困り果てて親しい人たちにわずか千円の金を

無心するとこも度々でした。そしてたまにプロレスの仕事があって

数万円の金が入ると、あと先の生活のことなど考えることのない風に

酒をあびるほど飲み酔いつぶれた姿を見せるのでした。




そんな自堕落な剛に辟易して親しかった友達も一人去り二人去りして

晩年、剛と連絡をとるのはほんの限られた人間だけとなっていました。

剛が死ぬ数日前、何人かのレスラー仲間や友達のところへ

剛からのメールが届いていましたが誰れも剛に返信を返すものはいませんでした。




2009年10月15日夜、連絡がないことを心配した長女がアパートを訪れ、

部屋の中で倒れている剛を発見しました。

救急車で病院に運ばれ手当てを受けましたが、

3日後の10月18日、剛は敗血症のため永眠しました。享年53。




剛は神戸で生まれました。母子家庭の極貧の暮しで苦労する母や妹たちに

楽をさせてやりたい、できれば妹たちには高校や大学まで行かせてやりたい一心で、

剛は中学卒業を待たずに上京し弱冠14歳でプロレスラーとなりました。




剛竜馬のプロレスラーとしての絶頂期は二度ありました。

1987年、遠征していたヨーロッパから急拠呼び戻され

藤波が保持するWWWFのジュニア選手権王者に挑戦した頃、

でございます。




その人気はプロレスの世界を超えたものとなり、

テレビ朝日系列の刑事モノドラマに菅原文太、鶴田浩二、梅宮辰夫の

豪華スターたちとともに刑事役で競演を果たしております。




二度目の絶頂期は1995年4月2日プロレスの世界では初めての試みとなった

週間プロレスの発刊元ベースボールマガジンが主催する東京ドームでの

オールスター興行でした。




その試合の第4試合に登場した剛は6万人の満員の大観衆に

剛のプロレスのスタイルである「ショア!」の大歓声で迎えられました。

試合後「バカ、バカ」の大コールをもって大観衆は剛のリング上での

みごとな闘いぶりを讃えました。




「バカ、バカ」とはその頃の剛のキャッチフレーズとなっていた

「プロレスバカ」から剛の「愛称」でした。




幾多の毀誉応変に色将られたプロレスラーとしての剛の人生でしたが、

その分水嶺となったのはまごうことなくあのJR西新宿駅での

「一件」でした。




それは運に見果なされた人間がたどる、約束されたかのような

「悲劇」の瞬間でした。しかしあの場面で剛がプライドを捨て

「真実」を話すことができえたなら、

決して逮捕されることはなかった筈でございます。




その「真実」とは剛が隠していたプロレスの試合からうけた「胸の損傷」

のことでした。剛はその「胸の損傷」ゆえに、突然、右手が勝手に

オーケストラの指揮者がタクトを振るような動きをすることにみまわれる

ことがあるのでした。




中風患者のように手が勝ってに動く、などとファンに知られることになったのでは

リングに上がることが出来なくなる、そのことを剛は恐れていました。

客観的には傷つき衰えた剛には二度とプロレスラーとしての栄光のとき、

はやって来ることはないであろうことは明らかでした。




なのに剛は、本心からもう一度、あの東京ドームで満員の大観衆から

「バカ」コールを浴びる日が来ることを夢見ているのでした。

「プロレスバカ」そのものでした。




警察に連行されて行ったあのとき、老婆の財布を拾い上げて、

あと手が奪うように大きく振って動いたのは既往症であった

「胸の損傷」からきていることを警察官に訴えれば

展開は大きく違っていたはずでございます。




目撃者として剛に飛びかかった青年の

「剛が財布を右手に持って奪うように大きく頭の上手振ったから、

老婆から財布を強奪したと思った」

との証言がなされていたのでございます。




なに由に拾った財布を頭上で大きく振りかざすに至ったか、

診断を受けていた病院のカルテや先生の証言を求めれば、

嫌疑が晴れることとなるのは明きらかでした。




しかし剛は警察での取り調べ室で、自からの既往症について

一切語ることはありませんでした。剛の古くからの知人で、

剛のその既往症の症状を良く知る男が、警察に面会に行って

その真実を話すように、とうながしました。




しかし剛は

「そんな病気があることを知られたら、ファンに見放され金輪際

リングに上がれなくなる」

と断固として知人の進言を聞き入れませんでした。




剛のプロレスラーとしてのプライドと夢が、剛のプロレスラーとしての未来を

粉々に砕いたのでございます。




剛はスポーツマンらしく、弁解じみたことを言うことが嫌いな男でした。

「ひったくり」報道がされたとき、その2年前に数本出演していた

ホモビデオが同時に「暴露」されました。




生活のために、ということもありましたが、当時金を借りていた

二丁目のバーのマスターから借金返済をせまられて、

やむなくその借金返済払いのために出演したという事情がありました。




しかし記者の質問にはそうしたことには触れず

「自分の体で稼ぐことのどこが悪いのか」

と泰然白若としていました。




また剛は自身が中学中退という学歴でありましたが、本を読むのが大好きでした。

司馬遼太郎、松本清張の本はすべて読破していました。

生まれ変わったら何にになりたいですか、ときかれると臆することなく

「小説家」と答えていました。

伊集院静が好きで一度氏と食事を一緒にしたときに撮った写真を、

剛はいつも胸ポケットに忍ばせ、ことあるごとには人に見せて自慢していました。




剛の生活のあまりの困窮ぶりに、見かねた知人が「生活保護」を受けるように

進言したことがありました。

手続きは全部こちらでやってあげるから心配ない、と。




しかし剛は頑として知人の進言を聞き入れることをしませんでした。

「生活保護を受けたら、俺はリングに上がれなくなってしまう、

そしたら最後だ。それだけは出来ない。俺が俺でなくなる」と。

座ったソファーから一人では立ち上がることができなくなってしまっている

体となっていながら、でございました。




剛は極貧の生活のなかでも決してプロレスラーとしての「誇り」を

最後まで失わなかった男であった、といっていいと思います。

剛は全身傷だらけで、満足に歩行することのできない満身創痍の身となっても

いつか必ずもう一度、あのリングの上に上がってスポットライトを浴びる夢を

捨てることなくもがき続けて生きたのでした。

極貧のうちに一人淋しく生涯を閉じた

「バカが誉めことばだった男」の物語りでございます。



まさしく「プロレスバカ」の人生を生きた男ありき、でございました。




死してようやく心から愛した家族のもとに帰ることができ、

高校生となった息子に抱かれた剛の遺影は、

一世を風靡した絶頂期のファイティングポーズのものでした。




やせ細った亡きがらと久しぶりの再会を果たした元妻は

「剛はようやく死ぬことができて、幸福だったと思います」

と葬儀に参列した古くからの知人たちに静かに語りました。




彼女のほほを濡らした一筋の涙が、

剛の永遠の安らぎを約束してくれていました。

合掌。



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米国ドラマ「ダメージ3」

2011-04-02 | film, drama and TV

NHK-BSでやっていたのを録画しておいて、だいぶたってから観た。結構骨太のリーガルサスペンスである。

エレンはパティの事務所を辞めてしまった。次の勤務先はなんと検事局。今回の事件は大規模なねずみ講。被害者の金を取り戻そうとするパティ、それに絡む殺人事件を追う検事局。今回は意外な人物が死ぬことになり…

いやいやいや。面白い。シーズン1、2よりさらに面白くなっている。先が全く読めないし、そもそもシーズン3がどこに向かっているのか分からないまま観ていた。この感じがたまらなくいい。

毎回、あーここで終わるのかーと思わせる終わらせ方もいい。

米国ではシーズン4を2011年夏に放送するそうだ。シーズン3から観てもちょっと分からないことが多すぎるだろうから、どうせ観るならシーズン1からをオススメする。

では、また。




ダメージ シーズン3 DVD-BOX
クリエーター情報なし
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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『円卓』西加奈子

2011-04-01 | books


「円卓」西加奈子 文芸春秋社 2011年(初出別冊文藝春秋2010年9月、11月、2011年1月)

小学生3年生渦原琴子(こっこ)、美人で三つ子で中学生の姉ちゃんたち、じいちゃん、ばあちゃん、母ちゃん、父ちゃんとの8人家族で公団住宅暮らしの居間には中華料理屋から貰ったでかい円卓が。そんな家に住むこっこから見た家族、学校を描く。

いやいやいや。これ意外と面白かった。何の話だか全く分からないまま読み始めたのにすっかりはまってしまった。

小学校3年生の女の子の感性が実に瑞々しいしかわいい。友達が眼帯をしていると自分もしたくなるし、難民は=カッコいいものなのである。ふむふむ。こっこのジャポニカに書いてあるのは、


ししゅんきはだれにもやってくる
おまえにもおまえにもおまえはだれだ
ししゅんきです(55頁より引用)



にやりとしたり、噴出しそうになったり、ほほーとうなったりして、西加奈子という作家の力量を感じた。他の作品も読んでみよう。

では、また。



円卓
クリエーター情報なし
文藝春秋
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