「風の影」(上下)カルロス・ルイス・サフォン 集英社2006年
ストーリーは:
時は1945年のバルセロナ。古本屋の息子が手にした一冊の本。一読してその本に魅了されてしまう。その本の作者はどんな人だったのか?他に書いた本はないのか?探しているうちに、明らかになる悲劇、彼と彼の周りの人たちの降りかかる危険。果たして明らかになる真実とは?
古い本をめぐる冒険、恋、愛、裏切り、愛すべき時に愛せる人、愛すべき時に愛せない人、スペイン内戦の血塗られた歴史、意外性、物語(ストーリー・テリング)、魅力的なキャラクター
全てがここにある。
前々から読もうと思っていて積ん読本の山脈に埋もれ、アホい空耳じゃなくて、「あおい空知さん」のレビューを読んでまた読もうと思って、忘れて、やっと読み終わった。
ネタバレはしない。
1945年からそれ以後を生きる主人公の少年ダニエル。そしてその「本」の原作者フリアン・カラックスの生きる35年前。時間軸が行ったり来たりする手法。これを読んでいて思いだした。
本を読むという行為に飽いたような気分でいたときに、久々に読書の悦楽を与えてくれた作家。
ロダート・ゴダード
「千尋の闇」「リオノーラの肖像」「蒼穹のかなたへ」・・・
時間軸を縦横無尽に駆け巡る、そして冒頭に提出された謎が徐々に明らかになっていくプロセスとそれを読む、ドキドキわくわくする感覚。
久しく忘れていたのは、ゴダードの最近の作品は質が落ちているのでこの楽しみを味わえていなかったから。サフォンが思い出させてくれた。
「風の影」に話を戻して、ストーリーと無関係の一つのシーンについて。
主人公ダニエルが長い間欲しくて欲しくてたまらなかったモンブランの万年筆をプレゼントされるシーンがある。このシーンだけで色んなことを考えさせられた。
自分が少年だったら、主人公の気持ちになって「もらった!」と素直に喜べるのだろう。自分が孫がいる祖父の立場だったら「そんなに喜んでもらって嬉しい」という気分になるのだろう。そのどちらでもない俺の気持ちが実に不可思議でかつ興味深い。最初、ダニエルの気持ちになって喜び、しかし数行読んでいる内に、彼にプレゼントした立場になって「あげてよかった」と思ったのだ。
先日自分の誕生日の記事で、いまだに惑っていると書いたが、
いまだに惑っている中途半端なハンパ者だからこそ、こんな風に読書を楽しめたのではないかと感じた。
もう一つ、
モンブランの万年筆をどうしても欲しくて欲しくて仕方ない。でも家の状態からして買えるわけもない高価な物。
こんな風に思える物があることが羨ましいと思った。
こんな現代に生きていて、買えない物は少ない。モンブランの万年筆だって買える。
しかし、ダニエルがモンブランの万年筆をもらったときのようにもらってあんなに喜べる物など今この世にあるのだろうか?
どうしても欲しくて欲しくて仕方ない「物」などない。
中途半端に長く生きてくると、
どうしても欲しい物は、金では買えないことを知ってしまう。
さて、ただモンブランのエピソードだけでこれだけのことを俺に考えさせてくれたこの本。書店店員フェルミンの含蓄深い会話など読みどころが多い。
この「風の影」を読んで面白いと思った人にはロバート・ゴダードはオススメだし、ゴダードファン(なんているのか?)にはこの本はオススメである。
最後に古書店店員にして主人公ダニエルの親友フェルミンの台詞を引用して終わりにしよう。上巻222ページより。
「ぼくのためにも、彼女を大切にしてくださいよ、フェルミン。ベルナルダはほんとに心のやさしい人だし、さんざんつらい目にも逢ってきたからね」
「わたしがそれに気づかないとでもお思いですか?だって、彼女の顔に書いてあるじゃないですか。ありゃ戦没者遺族会の会員証をひたいにくっつけてるようなもんだ。言っときますがね、そういう耐え忍ぶ生活を、わたしだって、もういやってほど経験している。だから、あの女性を、めいいっぱい幸せにしてやるんだ。生きているあいだに、わたし、それだけできれば、じゅうぶんですよ」
だって、字がちっこいもん。
コメントが載る前ですが、お先に失礼します
ふるさんも注目はフェルミンですね
彼は良い味を出す脇役です
「風の影」今年読んだ中でまだこれをこえるミステイリ-本は出てきてませんネ
ユウマもお勧めです
ゴダードさんの
「時間軸を縦横無尽に駆け巡る、そして冒頭に提出された謎が徐々に明らかになっていくプロセスとそれを読む、ドキドキわくわくする感覚」はサフォンのストーリー展開そのものですね
興味津々です
それは、、「どこでもドア~~!!」
どこでもドアがあったら、ふるたんにいつでも逢いに行ける♪
う・・
字が小さいと真面目記事だってバレてたか
★ユウマさん、
この本の中核をなす存在がフェルミンだと思いますね。
>「風の影」今年読んだ中でまだこれをこえるミステイリ-本は出てきてませんネ
お。そこまで言っちゃいますか。なるほど。
「風の影」が少年の冒険とすれば、
ゴダードは大人の冒険であることが大きな違いでしょうか。
どちらも「冒険小説」というカテゴリーにはあまり入れたくない、
「ミステリー」かと思いますが。
★きゃんでぃーちゃん、
あら、きゃんでぃーちゃん!
ずいぶんとお世辞がお上手になったのね。
どこで覚えたの?
どこでもドア
開けたらまたどこでもドア
開けたら・・・
元いた場所に戻ってきましたとさ
全部が盛り込まれているって感じなんですよ。
わたしも久々にドキドキしながら読めた作品で
した。いやー、堪能しました。
自分がキラキラ、ワクワク、グズグズの少年時代
に戻ったような気さえしましたからね。傑作だと
思います。
忘れてならないのは、やはりフェルミンです!
これは少年と、少年のハートをもった大人の
二層構造の物語であるともいえますね。おっと
三層構造か。でもそれはネタばれだから言えな
い(なんて思わせぶり…)。
食い付きたい記事ですが、
只今緊急事態中につき(笑)、後ほどゆっくり参りますね。
楽しみを持って読めそうですね!
でも今は緊急事態なので…(爆)
緊急事態って何かな、と思ったら、
あれですね
またごゆるりとお越しくださいませ。
自分が少年に戻った感覚にさせてくれますよね。
私は今が少年時代なんですが
サフォンはこの続きを書く予定ではなかったでしたっけ?
だとすれば読まねばなりませぬな。お互い。
3層構造とはするどい。
A→A'(への成長)
B、C、回顧したD というような複雑な構成とも言えますね。
いずれにしてもこの本の紹介ありがとうございました。
私の記事内で、あお空さんの記事の直リンクを貼りたかったのですが、当該記事が発見できず、トップページのリンク貼り付けになったことをご容赦くださいませ
言葉の糸を手繰り、バルセロナの街を彷徨いながら、時空を超えた本の世界を堪能いたしました。
「忘れられた本の墓場」シリーズは四部作とか。早く次が読みたい!
「風の影」はとてもいい小説でしたね。「天使のゲーム」は未読です。
ロバート・ゴダードは近年あまり面白くなくなってしまったのですが、記事内に張り付けてある、「蒼穹のかなたに」や「千尋の闇」「リオノーラの肖像」のような初期の作品はため息が出るような出来だと思います。
ブログ書き始めるよりもずっと前に読んだものなのでレビューを書いてません。必要があって「千尋」は再読を始めたのですが、まだ読み終わっておりません。