頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『暗渠の宿』西村賢太

2013-01-13 | books
「暗渠の宿」西村賢太 新潮社 2006年

<けがれなき酒のへど> という女に騙された話と<暗渠の宿> というやっと念願の女との二人暮らしをはじめたがちっともうまくいかない男の話…

うーむ。これは止まらない。頁をめくる手が止まらない。

テレビで見かけたときは風俗好きで率直な物言いをするもてなさそうなおじさんにしか見えなかった作者。まさかこんなに面白いとは。

文庫巻末の歌手の友川カズキの解説も実にいい。これを読めば拙レビューなんかよりもずっと西村賢太の魅力が伝わると思う。

けがれなき、では女に騙されるだろうことは読んでいればすぐに分かる。そういうオチになることは誰にでも予想できる。しかしそこに至る経緯をこれでもかと、人間の内面をガリガリと削る様に唸った。

私小説はあまり好まず読んだ記憶がほとんどない。しかしこれですっかり虜になり、「どうで死ぬ身の一踊り」「二度はゆけぬ町の地図」「小銭を数える」「廃疾かかえて」「人もいない春」と「苦役列車」を買った。たぶん遠からず全作品を読んでしまうだろう。同時に、長年積ん読山脈に埋もれている車谷長吉の「赤目四十八瀧心中未遂」を発掘し、そして読んでないにも関わらず「鹽壺の匙」も買ってしまった。また、西村が尋常でないほどに心酔する藤澤清造の「根津権現裏」は書店で手に取ったときには暗すぎて読む気にならなかったのだが、氏の熱いココロに触れたからか、読んでみようかとも思った。本が増殖してゆく…

ダメ男についての、ダメ男による、ダメ男のための私小説、それが西村賢太。

ダメ男読者(=私)は、自分の姿を鏡に映しているような気分になる。

では、また。


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