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『空想科学入門 アシモフの科学エッセイ1』アイザック・アシモフ

2012-02-12 | books

「空想科学入門 アシモフの科学エッセイ1」アイザック・アシモフ 早川書房 1978年View From A Height, Isaac Asimov 1963

「ファウンデーション」シリーズや映画にもなった「われはロボット」「ミクロの決死圏」、でSF界の巨匠と呼ばれ、さらにミステリー「黒後家蜘蛛の会」も書いている、作者による科学エッセイ。

ファウンデーション ―銀河帝国興亡史〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)ミクロの決死圏 (ハヤカワ文庫 SF 23)黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

どういうわけか読み始めたら面白いなんてもんじゃなかった。

私の高校では、数学の教師はロシア語を喋り、物理の教師はラテン語を、化学の教師はサンスクリット語を喋っていた。残念ながら私は、事前にロシア語もラテン語もサンスクリット語もマスターしていなかったし、通訳も用意していなかったので…

それから月日は流れ、業務的なことあるいはそれ以外でも、アイソトープがどうしたとか、エントロピーとか、量子力学がどうしたこうしたという話が目の前を素通りしたりしてる。どうしても必要なことは学ぶけれど、それ以外については基本的にスルーしてきた。だって必要ないし、だって面白くないもの。

ところが、さらに大人になって分子生物学とか、神経生理学、進化論、生物学、相対性理論を単に面白そうだというだけの理由でちょっと読んでみると、これが意外と面白いのだ。「複雑系」を読んだときにエントロピーという意味不明な言葉に触れ、ちょっと興味を持っていた。物理学的にどうというよりも人間社会においてどうなんだろうというような、文系的なすり替えを意識してみちゃたんだけれど(というようなえらそーなものでもないか)

すると、この本の10章(お静かに!お静かに!)に書いてあるのである。シェイクスピアの作品は、全て辞書に載っている言葉である。それを並べ替えて、高次の意味を持たせることができているということは、エントロピーが減少しているではないか!シェイクスピア自身にこれに対応するエントロピーに増加があったかと言えば、余計に食ったりしたわけではないだろう。という友人からの意見に対してアシモフが答えてくれるのだ。

ここまで読んで、しかも門外漢の人は、「エントロピーってなんやねん?」と思われるだろう。私のような素人が説明しても仕方ないけれど、秩序は壊れゆく運命にありそして元には戻せないというのが文系的理解…であっているだろうか。すまん。後はこの本を読んだ方が早いと思う。

他にも理系的で文系人間にはよく分からないことをやさしく説明してくれている本は山ほどある。しかし、文章の巧さ、比喩の豊富さ、分かりやすさ、話題の広さでいったらこの本はトップクラスだと思う。古い本だから、データは古いんだろうし、最新理論は追っているわけがないけれど、最新理論など気にならない私のような文系人間には十分である。他には生命の定義や生物の大きさ、元素記号の意味、中性子、陽子、電子、温度の最高と最低は何度なのか、というような広範囲のトピックが語られている。

特に気に入ったのはこんなこと。

ひょっとすると、われわれは静かな池の中に一時的にたまたまおこった小さなさざ波を滑りおりているにすぎないのかもしれない。それが、われわれには、増大するエントロピーの滝 - 巨大な大きさを持ち、途方もない時間にわたって続いている大瀑布 - を矢のように下っているように思われるのは、われわれ自身の視野が時間空間的に限界を持ち、極微の範囲しか見えないからかもしれないのである(198頁より引用)



うーむ。我々の視野の狭さをまた別の角度から言い当てられてしまった。いや視野が狭いのは私だけか。俺って文系だけど、理系のこういう難しい本だって分かるんだよというバカみたいなアピールをしようとしている自分の底の浅さもまた感じる。すまぬ。

では、また。



空想自然科学入門 (ハヤカワ文庫 NF 21 アシモフの科学エッセイ 1)
アイザック・アシモフ
早川書房
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