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『謎の十字架 メトロポリタン美術館はいかにして世紀の秘宝を得たか』トマス・ホーヴィング

2011-09-01 | books

「謎の十字架 メトロポリタン美術館はいかにして世紀の秘宝を得たか」トマス・ホーヴィング 文藝春秋社 1986年
KING OF CONFESSIORS, Thomas Hoving 1981 

十年以上前に、美術品に関する、まるでミステリーのようなドキュメントを読んだ記憶があってまた読んでみたいと思った。昔のメモを探し出してきたんだけど、判読できない。それからしばらくして、著者がメトロポリタンの館長だったことを思い出して、ネット検索してやっとタイトルが分かった。

メトロポリタン美術館でキュレーターとして若い時を過ごすホーヴィング。象牙でできた十字架について耳にする。それは全長2フィート、たくさんの彫像が刻まれ、ラテン語、ギリシア語、ヘブライ語の銘文もぎっしりと刻まれていると言う。売主はユーゴスラビアからオーストリアに帰化したトピーク・マチューアン・ミマラと称する男。かなり怪しげ。まだ売れていないというその十字架について調べてみると、メトロポリタンの館長ジェイムズ・ロリマーは購入を却下したということが分かった。

ホーヴィングは何とかトピークに連絡をとり、チューリッヒの銀行の金庫でその十字架を眼にする。その十字架は紛れもない傑作だと確信したホーヴィング。食わせ物の館長をどう説得すればいい?ライバルのクリーブランド美術館、大英博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館の動きはどうだ。美術界を蠢く海千山千の者たちとの闘いの行方は…

いやいやいや。興奮した。読みながら「面白いよ。面白すぎるよ」とつぶやいてしまうくらい。

この十字架は本物なのか(現物をニューヨークで調べることをトピークが許さないので簡単には分からない。写真撮影も許さない)、トピークは何者なのか、盗品ではないのか(彼はナチが略奪した美術品の返還委員会のメンバーだったので怪しい)、ライバルの動き、館長の言動。ミステリーのように謎が提示されそれが解かれていく様を楽しむことができる。

極めて詳細な各登場人物の台詞、なめらかなストーリーテリング。再読のはずなのに、初めて読むように興奮させてくれた極上のエンターテイメントだった。

では、また。




謎の十字架―メトロポリタン美術館はいかにして世紀の秘宝を得たか
トマス・ホーヴィング
文藝春秋


↑新刊は在庫がないようだ。


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