頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『永遠の0(ゼロ)』百田尚樹

2012-03-23 | books

「永遠の0(ゼロ)」百田尚樹 講談社 文庫2009年 太田出版 単行本2006年

26歳になったぼく、司法試験になかなか受からない。そんな中、フリーライターをしている姉から仕事の依頼。それは祖父について調べること。司法試験に合格しなくても優しく接してくれるおじいちゃんは、祖母が後に再婚した人。血のつながりのある実の祖父は特攻隊の一員として戦争で亡くなったそうなのだ。祖父に接した人たちに話をきいていくうちに、明らかになっていく祖父の人物像、知らなかった戦争の真実とは…

うーむ。やられた。すっかりやられてしまった。

書店の一角を占める「太平洋戦争コーナー」とか「戦記コーナー」にはまず行かない。レイテとかインパールとか、ガダルカナルという言葉がタイトルに入っているような本は基本的に読まない。戦争を翼賛するような話を読みたくないし、戦争の細かい戦術的なことには昔からあまり興味がないし、戦争のヒーローの物語も特に読みたくはない。電車の中で、おじいちゃんが集中して本を読んでいると、たいてい佐伯泰英か戦記物だ(というのもずいぶん偏見だけれど)

本作もその類だと思っていた。のでずっと触手が伸びなかったのに、読み始めたら、こりゃすごいなとただ思った。

一人の零戦乗りの生涯+日本軍の詳しい戦記+男の生き様+日本軍上層部の体たらく+日本軍下層部の心意気 → 読み始めれば止まらない

食わず嫌いはアカンし、自分の偏見が己の視野を狭くしとるなー、とあらためて思った。説教くさい部分は確かにあるけれど、今まで知らなかったことがあまりにも多く、ちょっと恥ずかしい気もした。

文庫版の解説を亡くなった児玉清氏が書いていて、この文章が熱い。本文を読む前に読んで、ちょっと暑苦しいなと思ったのに、本文を読んだ後に読めば納得するばかり。彼の解説を引用させてもらうと、


心を洗われるような感度的な出来事や素晴らしい人間と出会いたいと、常に心の底から望んでいても、現実の世界、日常生活の中ではめったに出会えるものではない。しかし、確実に出会える場所がこの世にある。その場所とは、本の世界、つまり読書の世界だ。もっと場所を小さく限定すれば、小説(フィクション)の世界と言ってもいい。(文庫版577頁より引用)


さらに引用する。

多々ひたすら、全ての責任を他人に押しつけようとする、そうクレイマー化しつつある昨今の日本、利己主義が堂々と罷り通る現代日本を考えるとき、太平洋戦争中に宮部久蔵のとった行動はどう評価されるのだろうか。男が女を愛する心と責任。男らしさとは何なのか。愛するとは何なのか。宮部久蔵を通して様々な問いかけが聞こえてくる。(588頁より引用)



先日の名古屋の河村たかし市長だけじゃなくて、何人もの政治家が遺族会という大きな票田を意識しているからか繰り返す、「日本は悪くなかった」という意図した「失言」。その反対側にある、日教組的な「日本の戦争責任は重大だ。深く反省すべきだ」「国旗の掲揚と国歌の斉唱は右翼的、国粋主義的なので禁止すべきだ」という主張。

どっちもしつこいし、どっちもどうでもいい。

多分真実、いや我々がどう考えればいいかということのヒントはこの本に書いてあると思う。学校の教科書…は無理だろうから、夏休みの課題図書にすればよいと思う。いや、中身を読まないで勝手に戦争を肯定する物語だと判断して「キーー!なんでこんな本をうちの子に読ませるザマスかー!」というクレイマー母がやって来るんだろう。そう言う私もそう勝手に判断してたしね。

兎角世の中は逝きにくい。あ、いや生きにくいね。

では、また。



永遠の0 (講談社文庫)
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4 コメント

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Japanese (noga)
2012-03-23 16:09:16
 > 先日の名古屋の河村たかし市長だけじゃなくて、何人もの政治家が遺族会という大きな票田を意識しているからか繰り返す、「日本は悪くなかった」という意図した「失言」。

兵士は上官の命令に従った。だが、国がひっくり返った時も、責任者は出なかった。戦死者が悪いのか。

 > その反対側にある、日教組的な「日本の戦争責任は重大だ。深く反省すべきだ」「国旗の掲揚と国歌の斉唱は右翼的、国粋主義的なので禁止すべきだ」という主張。

戦争に責任があるならば、その責任者は存在するはずである。
 深く反省すれば、その責任者は名指しできるはずだ。
 国旗の掲揚が悪いのか。日の丸が悪いのか。日本が悪いのか。
 国家の斉唱が悪いのか。君が代が悪いのか。天皇制が悪いのか。
 左翼的、世界主義的な日本人は存在するのか。

http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://3379tera.blog.ocn.ne.jp/blog/






こんにちは (ふる)
2012-03-24 13:28:29
★nogaさん、

残念ながら何をおっしゃろうとしているのか私には分かりません。
お久しぶりです (こなつ)
2012-04-04 05:39:41
百田さんのはこれから読みました、立派な主人公に惚れました。
無駄死にさせられた若い人達
戦争ものでも読みやすいので、夏休みに読んで欲しいですね。
こんにちは (ふる)
2012-04-05 13:12:15
★こなつさん、

おっしゃる通り、夏休みに戦争を思いつつ読むのにいい小説ですね。
戦争を企図することと、一兵士として実行することには大きな隔たりがあることをあらためて考えさせてくれる作品でした。

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