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『ガダラの豚』中島らも

2011-02-20 | books

「ガダラの豚」中島らも 集英社 1993年(初出週刊小説1991年4月12日号~1992年9月2日号)

アル中の大生部教授はアフリカの呪術を起点とした民俗学の気鋭の学者。フィールドワークのための資金稼ぎでテレビに出演している。妻は新興宗教にはまってしまった。全てははアフリカで娘を亡くしたときから始まる。宗教、呪術、トリック、密教を絡め、東京からアフリカへと広がる冒険小説…

なぜだか突然再読したくなった。いやいやいや。再読してよかった。極上のエンターテイメントだ。あらためて中島らもという才能を失ったことが悲しい。


第二部は空海の「般若心経秘鍵」の引用から始まる。

哀れなるかな、哀れなるかな、長眠の子。苦しいかな、痛ましいかな、狂酔の人。痛狂は酔わざるを笑い、酷睡は覚者を嘲る、かつて医王の薬を訪わずんば、いずれのときにか大日の光を見ん。

難解な空海の文章から始まり、この引用がいったいどんな意味があるのか気になりつつ読む。


 「そうは言うが、日本人だって、何かあったら先祖のたたりだって言うじゃないか。アフリカでは死者よりも生者の妬みが呪いをもたらすと考えるんだよ」(単行本233頁より引用)


 「ヘロインというのは、阿片吸引の効果から思いついて西洋人が抽出したものだ。コカインもしかり。アンデスの高知民族のスタミナ源がコカの葉を噛むことだったことから、コカインの結晶が抽出された。それが結局麻薬として西欧社会を犯すことになって、最終的にコカ葉を噛むことや、ハシシュを吸うことが禁じられる。こんないい加減なことがあるか。中国人は、空腹を鎮めるために子供に阿片を飲ましていたのだ。そこからモルヒネ、ヘロインを作り出したのは中国人じゃないぞ。コカインを作ったのもインディオではないぞ。インドでは今でもみなチラムというパイプのような奴でガンジャを吸ってな、働きもせんと一日うっとりとして暮らしとる。何千年もそうやってきとるんじゃ。そういうドラッグは、ただ”いいもの”であってな。国が禁止しようがどうしようが、続くものは続く。アメリカの禁酒法を見てもわかるだろう。酒は悪ではないのだ。酒を取り巻くシステムが悪なんだ(262頁より引用)


呪術なんて非科学的な代物を、科学に汚染された我々読者に食わせる様も実にうまかった。自分の見ている景色が「正しい」景色なのかあらためて考えさせてくれた。

では、また。






ガダラの豚 1 (集英社文庫)
中島 らも
集英社
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