「運命の人」(一)(二)山崎豊子 文藝春秋社 2009年(初出は文藝春秋2005/5~2009/2)
この人はいったい幾つになったのだろう。まだ精力的に執筆していることに驚く。私は彼女の作品をいったい幾つ読んだのだろう。
舞台は昭和46年から47年にかけて。沖縄の返還、日中国交正常化の時代。主人公弓成は毎朝新聞政治部キャップ。大柄、傲岸不遜で強烈なキャラの持ち主。外務大臣小平(大平のこと)に可愛がられ、日々忙しい。外務審議官とも親しくしており、その事務官ともまた懇意にしている。事務官から極秘情報が弓成の元へ。米国による沖縄返還の密約には米国が復元補償費として支払うべき400万ドルを支払わずに、日本が対価として支払う3億2千万ドルの内に含めてしまうというもの。
弓成は大スクープのネタを手に入れる。しかしネタ元を守るため記事に出来ない。業を煮やして彼は野党の議員に書類を渡すことにする。その書類を手に、野党議員が国会で質問をしてから、大きな問題が巻き起こる。外務上の極秘事項を漏らしたのは誰なのか、野党議員に情報を提供したのは誰なのか。続くマンハント。結果、逮捕起訴された弓成。闘いは「国民の知る権利」VS「国益を守る」へ。政界、マスコミの裏側をえぐりながら進む度迫力ノンフィクション・ノベルここに。
いやいやいや。面白い。2日で一気に読んでしまった。実は最初は完全なフィクションだと思っていたので、それにしては実際に起きた事件が、あるいはそれを連想させること、そして誰だか分かる政治家の名前が妙に多い。あれ?作品の冒頭に「この作品は、事実を取材し、小説的に構築したフィクションである」とあるのに後で気がついた。
ハマコーや田中角栄、佐藤栄作などすぐにピンと来る人物たち。沖縄返還の密約については、詳しくは北海道新聞のここを読むと、現実の事だとよく分かる。
また逮捕され裁判に臨む弓成の姿は、記者・官僚と立場が逆なのに外務省の佐藤優氏のことを思わせる。しかし何より驚くのは山崎豊子の筆の滑らかさと鋭さ、全盛期と何ら変わらない。いや今が彼女の全盛期なのかも知れない。もう84歳か。老女かくあるべしという見本である。
ちょうど「不毛地帯」がドラマ放映されるとのこと。主演唐沢寿明がどこまで政界フィクサーと呼ばれた瀬島龍三(原作のモデル)に迫れるか楽しみである。勿論録画しても観るつもり。私は個人的に瀬島龍三という人物には並々ならぬ興味を持っているので。
「運命の人」というタイトルと内容との関連がいまのところ見えない。5月下旬に出る第三巻と6月下旬に出る第四巻を読めばきっと分かるのだろう。池田信夫氏は「事実関係を忠実にたどっているので、率直にいって小説としてはあまりおもしろくないが、事件を知らない人には読んでほしい」と書いているが私は小説としても充分に面白いと思う。
最後に気に入った部分の引用を
「それにしても、自国の議会対策しか考えないアメリカと、自国の国民のことなど一顧だにしない日本政府。弓成が入手した三通の電信文がなければ想像もつかないカラクリが、闇の中へ葬り去られようとしている」(一巻148頁より引用)
「イギリスのコモンロー(慣例法)に、クリーンハンドの原則というのがある。人を責める者は、自分の手がきれいでなければならないという意味なんだ、毎朝新聞は今、知る権利を強く主張しているが、もし毎朝側の手が汚れていたらどうする」(二巻49頁より引用)
「イギリスのコモンロー(慣例法)に、クリーンハンドの原則というのがある。人を責める者は、自分の手がきれいでなければならないという意味なんだ、毎朝新聞は今、知る権利を強く主張しているが、もし毎朝側の手が汚れていたらどうする」(二巻49頁より引用)
「運命の人」(三)のレビュー
「運命の人」(四)のレビュー
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山崎豊子女史の作品もまた、眉唾ものの大衆誤誘導的な社会派作品であり、B級大衆紙レベルの印象である。
本作品が制作された背景にも政治的な意向が伺える気配を感じるが、猿の惑星から早く卒業願いたい次第である。
そうですか。
1. そんなに嫌なら最後まで読まなければいいと思うのですが。
2. 記事に対して、具体的にここが違うと反論して下されば、何か返信できますが、ただ自分の感想を放り投げていかれても、コメントレスしかねます。