「ラブレス」桜木紫乃 新潮社 2011年
小夜子は釧路の市役所に勤める。伯母の百合江は生活保護を受けている。百合江の娘で、現在札幌に住む理恵から現在百合江と連絡が取れないと。百合江の妹であり、小夜子の伯母である里実にきくと住んでいる場所はすぐに分かった。長年の確執のある里実を連れて一緒に百合江の住居に行ってみると、百合江は位牌を握りしめたまま老衰状態にいた… 昭和25年に遡る、百合江と里実の物語。貧しかった時代、成人してから、男に恵まれなかった時代…
うーむ。軽い。軽すぎる。黄色い表紙、安っぽい蝶のイラスト、女子中学生ライトノベルの作者のような桜木紫乃という名前。
重い。重すぎる。その中身。外見と中身のギャップが猛烈だ。こんなチープな表紙にしないとむしろ手に取ってもらえない、そんな時代なのだろうか。
これを読んでいる最中の私の姿を見た人は、こんなチャラチャラした本を、いい歳した大人の男が、なに真剣な顔して読んでるんだろうと疑問に思っただろう。しかし、その人も読んでみれば、真剣な顔になるに違いない。
ある一人の女性の眼を通して見た、激動の昭和史でもあり、業と宿命を、お花の模様なしにリアルに描いた女一代記でもあり、笑いはなく、汗と涙にまみれるエンターテイメントでもある。
冒頭に、①百合江と里実の関係が少し描写されるが、これは何が原因なのだろうか ②なぜ位牌を握っているのか。誰のだろうか。というような謎が提示され、それが少しずつ解かれていく様は、帰納法的ミステリのようだし(そんな言葉ないか?)、幼少期から描かれる人生は演繹法的純文学のようでもある(言葉の使い方おかしい?)
薦めて下さった方に御礼申し上げるとともに、他の桜木作品をぜひ読みたいと思う。
桜木さんについては、本の雑誌の「作家の読書道」にインタビューが載っていた。第118回
では、また。
ふるさんのオススメがなければ、多分出会えなかった作品です。
10代の前半に、父親の本棚にあった、女流作家の半自叙伝みたいな女の一生みたいな作品を何冊か読んで以来、苦手な世界かと思い込んでおりました。
帰納法的ミステリであり 演繹法的純文学というふるさんの言葉に納得です。
直木賞候補になったときの伊集院静さんの選評に
「読んでいて作中人物の生涯を描きながらも作家の祈りのようなものにふれていた気がした」とありました。
私も読みながら、作者の祈りのような何かにふれた気がしました。
祈りに触れるですか。いい言葉ですね。同時に、本作を読んだ人の気持ちを表すいい表現です。
「女流作家の半自叙伝みたいな」作品は、昔よく書店にあったような気がします。その後も高い評価を得て、ずっと読み続けられているような作品はあまりないようですが。米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」なんかは稀有な例外でしょうか。
しかし、第一印象とか(第二印象とか)最初の印象って大切だとあらためて思いますね。最初の数冊がつまらないと、そのジャンルの本はもう読まなくなってしまいますしね。人に対する第一印象(あるいは最初の何回かの印象)も同様で。人は見た目じゃないともいいますが、同時に人は見た目なわけではないでしょうかね。脱線してしまいました。感謝。
重い作品だから超オススメよ!って軽く言えないけどもね
ふるさん 読んでくれてて嬉しいです。
オススメありがとうございます。おっしゃる通り、内容を未読の人にぺらぺら喋るべきじゃない作品ですね。
そう言うと、トリック一発勝負のチープなミステリっぽいですが、そうではありませんね。
桜木作品はその後も読み続けています