ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『イースタン・プロミス』

2008-03-15 14:40:37 | 新作映画
(原題:Eastern Promises)

----この映画、ヴィゴ・モーテンセンが
アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされたんだよね。
「うん。だけど、
もっと多くの賞にノミネートされてもよかったんじゃないかな。
デヴィッド・クローネンバーグの、
これはいい意味での成熟を感じさせてくれた作品だったね」

----クローネンバーグって
ホラーというイメージがあるけど…。
「そうだね。
でも近年では
ドラマ志向が強くなってきている。
とはいえ前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』もそうだけど、
目を背けたくなるような
直接的なバイオレンス描写が多いのは変わらない。
今回のこの映画は、
その冒頭から間違いなくクローネンバーグ印。
観客の予想をはぐらかすような展開の妙も含めて
実によくできた導入部だ」

----脚本は誰ニャの?
「『堕天使のパスポート』のスティーヴ・ナイト。
前作がロンドンに住むアフリカ人とトルコ人のお話。
こんどは、ロシアなど東欧からやってきた人々を軸に、
人身売買を題材にしている」

----えっ、そんなキツいお話ニャの。
「この映画のヒロイン、アンナ(ナオミ・ワッツ)は助産師。
子供を身籠った14歳の少女の帝王切開に立ち会ったことがきっかけで、
彼女の持っていた日記をもとにその身元を割り出そうとする。
少女は死に、アンナは生まれてきたこの子どもだけでも
故郷へ送り届けようと思ったわけだ。
しかしアンナはロシア人のハーフでありながら、ロシア語がわからない。
日記に挟まれていたロシアン・レストランのカードを手に、
その店を訪ねたアンナは、
そこでロシアン・マフィアの運転手をしている
ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)という謎めいた男に出会う。
そして、それがきっかけで
彼女は今まで知ることのなかった裏世界へと近づいていく」

----ニャルほど、ストーリーだけでもオモシロそう。
でも、クローネンバーグ印ってのは?
「う~ん。
これはかねてより思っていたことだけど、
このクローネンバーグはビジュアルを重視する監督。
特に、メタモルフォゼした人間の異様な姿が
彼の世界を特徴づける。
代表作『ザ・フライ』が分かりやすい例だね。
今回は普通のドラマだけに
その『ザ・フライ』や
『ラビッド』のような目を引く肉体の変化はないけど、
ロシアン・マフィアを特徴づけるタトゥーがそれの代わりをする。
主人公ニコライは、マフィアの一員として認められるための儀式として
ある印を体に刻み付ける。
痛みを伴うそのタトゥーが、彼の新しい存在の証になるんだ」

----で、それをヴィゴ・モーテンセンが…というワケだニャ。
「うん。
このタトゥーを観客に見せるため、
彼は全裸にならなくてはならない。
しかも物語の流れからも、
この全裸シーンは必要不可欠な仕組みとなっている。
公衆浴場で繰り広げられる、この全裸ファイトシーンは、
ちょっと信じられないほどの壮絶さ。
そこでは「見えた」「見えない」などということを気にするのが
恥ずかしくなるほどの
ギリギリの命のやり取りが行なわれる」

----ゴクッ。
「それに加えて
映像的にも、
まるでかつてのソ連映画を見ているかのような
澱んだ寒々しい色調と触感。
これは撮影だけでなく衣装の人にも敬意を表したいなと、
その名前を確認したら
デニース・クローネンバーグ。
監督のお姉さんだ。
そうそう、スタッフとしては音楽ハワード・ショアの貢献も大きいね。
クローネンバーグの世界を知りつくした音作りで、
こちらもクラシカルな雰囲気を醸し出している」

----俳優では、ほかに誰が出ているの?
「ボスにはアーミン・ミュラー=スタール。
その息子で情緒不安定なキリルにヴァンサン・カッセル。
これはちょっと見モノ。
いかにも、こういう人いるよなって感じの二代目バカを好演。
映画通の人たちには受けそうだ。
それと、アンナの叔父役に、
『早春』という名作で知られる監督のイェジー・スコリモフスキー。
彼はしばらく監督業を離れていたけど、
今年、新作『America』を撮るのだとか。
こちらも観たいなあ」

----でも、話聞いていると、
残酷シーンとかファイト・シーンばかり。
ドラマの方はどうニャのよ。
ヒーローとヒロインがいるんだから
愛のお話もありそうだけど…。
「いやあ。これがまた素晴らしい。
愛とまで言っていいのかどうか、
ふたりの心が通いあう瞬間の映像は絶品。
場内からはすすり泣きも洩れていた。
こんなことクローネンバーグの映画では珍しい。
ぼくがあれこれ言うより、
まずは観てみることをオススメするね」


           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「怖そうだけど、観てみるニャ」複雑だニャ


" style="line-height:160%;">※これは息を飲んだ度
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