ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『単騎、千里を走る。』

2005-11-19 15:41:24 | 新作映画
----これって高倉健が馬に乗って草原を駆けるの?
まさか麻雀の映画ってワケじゃないよね。
「四暗刻単騎待ち」……あれっ、目が赤い。
「いやあ、まいったねこの映画には。
涙があふれて涸れるときがまったくない。
久しぶりのチャン・イーモウ節。
いや、そんな言い方さえも失礼なくらい素晴らしい映画だ」

----チャン・イーモウで泣けるときたら
『あの子を探して』『初恋のきた道』のライン?
「いいところ突いてきたね。
以前どこかで高倉健が『初恋のきた道』を絶賛していた。
一方のチャン・イーモウも、
中国における外国映画開放政策の記念すべき第一作となった
『君よ憤怒の河を渉れ』以来、高倉健に憧れ、
彼と映画を撮るのが夢だったのだとか。
なるほど、この映画は『俳優・高倉健』を知りつくした
チャン・イーモウ監督ならではの作品となっている。
ふたりの想いはこういう形で結実したわけだ」

----どういうお話なの?
「主人公・高田(高倉健)は
民俗学者の息子・健一と別れて静かな漁村で暮らしている。
そんな彼の元に息子の妻・理恵から
重病で入院している健一が会いたがっていると電話が入る。
和解の期待を胸に上京した高田だが、
長年にわたる確執から息子は会うことを拒む。
打ちひしがれて病院を出る高田に理恵は一本のテープを渡す。
そこには息子とリ・カミンとのある約束が写っていた。
それを観た高田は息子の代わりに、
仮面劇『単騎、千里を走る。』を撮影しに、
中国の奥地・雲南省麗紅市を訪れる。
しかし、言葉がわからない彼に次々と難題が降り掛かる……というものだ」

----ふうん。それって高倉健版『ロスト・イン・トランスレーション』だ。
「そうとも言えるかな。
ただあの映画のビル・マーレイとは違って
我らが健さんは“戸惑い”で終わりはしない。
なんとしても目的を完遂しようという強い意思がある。
その“思い”が周囲の心を揺さぶり動かしてゆく」

----じゃあ、言葉が通じないことも克服しちゃうんだ。
「そうなんだね。
これを観ていると、
言葉の壁なんて
真のコミュニケートにおいては問題じゃないと言う気になってくる。
しかし、そのことを可能にしているのはやはり“健さん”だからだ。
だれもが認めるように、彼は背中で語れる真のスター。
その立ち居振る舞い、あるいは顔の皺一つひとつが言葉以上にモノを言う。
そしてくどいようだけど、
それはそのことを知りつくしたチャン・イーモウだからこそできた映画。
この脚本は、チャン・イーモウ&高倉健以外ではありえないってことだ」

----ニャるほどね。そう考えると映画はグローバルなんだね。
「この映画で高田は言う。
『自分もこの人たちのように人前で涙を流すことができていれば…』と。
これはまた俳優・高倉健が東映任侠映画以来、
スクリーンで長い間築き上げてきたイメージでもある。
どんなに辛くとも男はじっとガマン。黙して語らず……ってヤツだね。
しかし、ここでは最後にそれを大きく崩していく。
健さん自身、
『高田と言う男は、これまで私が演じてきた人物とは大きく違っていました』
と説明している。
つまりチャン・イーモウはいままでの健さん伝説を踏まえた上で、
新しい高倉健を作ってみせたわけだ。
そうそう、話は横道に逸れるけど、
理恵役が寺島しのぶというのも感慨深い」

----えっ、なぜ?
「だって富司純子、つまりは藤純子の共演だよ。
さて話を先に進めるけど、
実は彼が撮影しようとした『単騎、千里を走る。』の演者リ・カミンは、
彼の子供のことを私生児呼ばわりした男を刺して刑務所に入っている。
これじゃあ、撮影は難しい。
そこで周囲は他の舞踏家で撮影してはどうかと言うけど、
そういうわけにはいかない。
なぜって息子は『リ・カミンの「単騎、千里を走る。」』を撮ると言う約束をしていたからだ。
やっとの思いでリ・カミンの元へたどり着く高田。
だが、リ・カミンは生き別れになっている息子ヤン・ヤンのことを想うと、
『単騎、千里を走る。』を舞うことができないと言う。
彼の真情に触れた高田はヤン・ヤンを迎えに行くと約束する…」

----ニャるほど。これまた『単騎、千里を走る。』だね。
「そう、これは中国の『三国志』に由来している。
劉備の義弟・関羽が、劉備の妻子とともに宿敵・曹操の手に落ちるが、
劉備への仁義と誠を貫き、最後はただ独りで劉備の妻子を伴い
曹操のもとを脱出し、劉備のもとへ帰還する……」

----ふうん。
「さてこの映画は、後半、さらなる奥地へ向かうところから
別のドラマが立ち上ってくる。
リ・カミンの息子ヤン・ヤンと高田の関係だ。
ネタバレになるからエピソードの一つひとつを言うわけにはいかないけど、
そのヤン・ヤンとの出会いを通して、
彼は自分と息子の関係を見直し、
遠い昔に失われてしまった家族の意味を取り戻していくこととなる。
この子役ヤン・ジェンボーがまた巧い。
さすが70000人の中から選ばれただけある。
考えてみたら『あの子を探して』で、
チャン・イーモウの子役への演出指導の素晴らしさは立証ずみ。
さらにここではその<父と子>の絆を
『初恋のきた道』を思わせる
情感をいっぱいにたたえたキャメラワークで浮き上がらせてゆく」

----ふうむ。これは必見だね。
「あとガイド役のチュー・リンや通訳の女性も
信じられないくらいナチュラルな演技。
『地方を舞台にする場合、その土地々々に住む人々を描くためには、
そこに実際に住んでいる人々の心情が映し出さなければならない』。
これはチャン・イーモウの基本的考え方。
そのためプロではないホンモノの尊重、警察官などが多数登場。
それが雲南省の風景と実にあっている。
まるでドキュメンタリーを観ているみたいだ。
それなのに、それら素人の演技を実に自然に受け止め
素人と演じていることをまったく感じさせない健さん。
いやあ、ほんとうにスゴいものを見させてもらった」

         (byえいwithフォーン)

※チャン・イーモウはスゴい度
人気blogランキングもよろしく

☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)index orange
猫ニュー

※な、なんと本日11月19日、9時から
NHKスペシャル「絆(きずな)~高倉健が出会った中国の人々~」が放送されます。

※日本撮影パートは降旗康男監督を始め日本人スタッフ。これは少し複雑でした。
※最近トラックバックのお返しが追いつかずご迷惑をおかけしています。