ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『イノセント・ボイス 12歳の戦場』

2005-11-05 15:20:03 | 新作映画
「この映画を観ていると、
その昔にはやったある反戦フォークを思い出した。
マイケルズというグループが歌うその歌は『坊や大きくならないで』と言うんだ。
その中に『お前が大きくなると いくさに行くの
いつかはきっと 血に染まるだろう』
という一節がある。
これはまさにそんな映画だ」

----衝撃的な歌詞だね。どこの国の映画なの?
「メキシコ映画。でもそれはメキシコシティ生まれのルイス・マンドーキが
母国に戻って作ったからで、
舞台となっているのは内線下のエルサルバドル。
脚本もエルサルバドル出身のオスカー・トレスで、
彼の自伝的要素が多く取り入れられている。
ベルリン国際映画祭では最優秀作品賞(児童映画部門)を受賞。
アカデミー賞外国語映画部門メキシコ代表作品に選出されている」

----チラシを見ると、雨の中、少年たちが手を頭の後ろにして
兵士たちにどこかに連れて行かれているけど…。
「1980年。内線下のエルサルバドルでは、
政府軍は12歳になる少年たちを<兵士>として徴収するために、
村に現れては強制的に連れ去っていく。
この映画では、まもなく12歳を迎えようとする
主人公チャバの子供時代との別れを告げる最後の日々が、
家族との関係、そして友情や淡い初恋を織り込みながら描かれている」

----12歳って!(絶句)・・・。
「そうなんだよね。
将来のことや人生の意義に思いを馳せる年にはまだ達していない。
政府軍とゲリラ軍の思想の違いなんてもちろん分かるはずもない。
でも徴収される彼らは、それが意味することは分かる。
あまりにもあっけなく学校から連れ去られ、
家族との別れを惜しむ暇もない」

----恐い話だね。まさに「神はいないのか!」…って言いたくなる。
「親を除いては、ただひとり司祭が少年たちを助けようとする。
ミサを止めて教会の前で「もはや祈るだけでは足りません」
と語る彼の言葉が悲痛だ。
『人は神がいるなら戦争は起こらないのではないかと言う。
しかしそうではない。人々が神の法に従わないから戦争は起こるのだ』
と。
「バッド・エデュケーション」で神学校の神父役を演じた
ダニエル・ヒメネス=カチョの熱演が光る」

----なるほどね。
「ただ、こういう映画は論じにくいね。
村に徴収に現れた兵士から逃れて、
一晩中少年たちが屋根の上に寝そべり、
星の数を数えるなど、忘れがたい抒情的シーンもあるけど、
映画としてはそれほどの力を感じなかった。
監督が『メッセージ・イン・ア・ボトル』など、
どちらかと言うと
メロドラマを手がけてきた<職人>ゆえかも知れないけど、
『亀も空を飛ぶ』のような胸にずしりと響くところがない。
政府軍とゲリラ軍の戦闘も迫力あり、
それを避けて一家がベッドの下に隠れているシーンなど、
確かにそのまっただ中にいるような気にはなるんだけど…」

-----じゃあ、どこが問題なの?
「一つは構成かな。
たとえば主人公のチャバがぎりぎりで命が助かり、自分の家に戻ってくると、
そこは焼き討ちにあって、だれの姿も見当たらないというシーンがある。
しかし、ぼくら観客には
すでに一家が安全なところに逃げ延びていることが提示されているため
その絶望感が伝わりきらない。
それと、申しわけないけどこのチャバ役の男の子。
演技が気負いすぎで力が入っていて、
観ていて少し苦しくなった
(画像はチャバの妹と弟)」

----でも、そういうこと言うと、
この映画を作ったスタッフに申しわけないって気持ちでしょ?
「さすがによく分かってるね。
エンド・クレジット前に流される
『現在、世界では30万人以上の子供が戦場へ送られている』
というテロップを読むと、よけいにね。
それはアメリカの政策に問題ありというところまで言及される」

----となると、この映画のオスカー受賞の可能性は少なくなるね」
「うん。もしも大逆転で受賞したらそれこそ画期的だ」
           (byえいwithフォーン)

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