山本幸久著"渋谷に里帰り"を読みました。
峰崎稔32歳は食品をレストランなどのお店に販売する
会社の営業をしています。
ベテランの女性の営業員坂岡さんがが結婚で退職する
ことになり彼女の営業範囲を引き継ぐことになります。
その地域が渋谷です。
稔は東京の大学へ通いましたがずっと渋谷を避けていました。
よっぽど人に恨まれることでもしたのかと読み進みましたが
ひょうしぬけするような話です。
稔は小学校を卒業するまでは渋谷で育ちました。
パン屋を営んでいた祖父が亡くなった後店をたたんで
父親の故郷の北陸へ引越しました。
クラスメートのくるみは渋谷を出て行くものは裏切り者
だと言っていました。稔は内緒で渋谷を出ました。
昔の知り合いに出会いたくないというのがさけている
理由です。
本読んでいると渋谷は過疎地かと勘違いしそうです。
昔からずっと住んでいた人たちがどんどんいなくなって
しまっています。学校は統廃合されていきます。
坂岡さんはばりばり仕事をこなす人です。仕事に愛着と
情熱を奉げ、仕事で出会う人のためになりたいと働いて
います。
坂岡さんについて挨拶に廻ります。
どこの店でも坂岡さんは笑顔で迎えられます。
新しいメニューについてなど、様々な仕事を越えた相談事
を持ち込まれますが喜んで引き受けています。
稔は人に喜怒哀楽の表情が乏しいといわれています。
返事も気のないようなものです。
坂岡さんにびしびし鍛えられます。
ほんの数日間の出来事を書いたものですが稔が変わって
いく様子がわかります。
渋谷へ足を向けたとたんにあっさり昔のクラスメートには
出会ってしまいました。
稔も渋谷が好きなのでしょうね。
仕事に向き合う姿と故郷を思う気持ちの二つを描いた
お話でした。読みやすくていい本でした。
こんなに仕事に愛着を持っている坂岡さんが仕事を
辞める理由がいくら成績を上げても男性より低い
評価しかされない。そのうち自分より仕事ができない
男性が上司になるだろう。現に稔の方が今時点でも
給料がいい。こういうことです。
自分が辞めたあとの担当者が失敗をすればいいと
言います。でもそんなことになるようなまねは
しないとも。
坂岡さんの言っていることものすごくわかります。
でもほんの少しずつですが世の中は変わっていきます。
落ち込むことはありません。
現時点で坂岡さんが退職すると判断したのは正しいと
感じました。
たとえ仕事で実績を上げたところで人はあっという間に
忘れる。昔いっしょに仕事をした人がそう言ってました。
その通りです。誰もがそうです。
それでも仕事に愛着を抱く者は自分のため、仕事相手の
喜ぶ顔を見たさにがんばります。
後に何も残らないように見えても何かを含んだ空気が
残ります。