風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

NHK交響楽団 第2004回定期公演Aプロ @NHKホール(2月4日)

2024-03-02 14:34:59 | クラシック音楽




信じる道を命がけで突き進む井上の“最後のN響定期”

[Aプログラム]は井上道義のライフワークであるショスタコーヴィチ。《交響曲第13番「バビ・ヤール」》は、第2次世界大戦中のウクライナで起きた、ナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺がテーマである。生存者によるドキュメンタリー小説が出版されているが、銃殺される直前、死体が折り重なる谷底に自ら飛び込んで難を逃れたという、生々しい体験談が記されている。今日の世界を見れば、残念なことに、これを歴史の1ページとして片づけることはできそうにない。

「想像を絶する現実を前にすると、ショスタコーヴィチの音楽すら空しく感じる。これを演奏する意味があるのか」と、井上は自問自答を繰り返してきた。だが、常に音楽する意味を問い続ける姿勢こそが、指揮者・井上の本質なのだと思う。

前半には、短い舞曲を演奏する。ヨハン・シュトラウス2世の《ポルカ「クラップフェンの森で」》の原題は、「パヴロフスクの森で」。ウィーン音楽のイメージがあるが、もともとはロシア皇帝の離宮を囲む、貴族の別荘地を描いている。鳥のさえずる平和な光景は、革命により一変した。

続くショスタコーヴィチ《舞台管弦楽のための組曲》は、同じ舞曲と言っても、まるで異なる様相を呈する。最も有名な「第2ワルツ」は当初、ソ連のプロパガンダ映画『第一軍用列車』で使われた。音楽はここで、革命をたたえるアイテムの一つに変貌している。

2024年限りでの引退を表明した井上道義。これは彼が指揮する最後のN響定期である。初共演から46年。途中に長いブランクはあったが、2008年からは毎年のように共演を重ねている。マエストロの破天荒な言動が、周囲との軋轢を生むことも少なくなかったはずだが、信じる道を命がけで突き進む彼の音楽が、時としてどれほど魅力的に響いたか。唯一無二の機会を逃してはなるまい。

NHK交響楽団ホームページ

・・・一曲目にカッコーのワルツは選んだのには訳がありますがそれはそれ。僕も愛したクライバーのより自然な演奏ができたはず。
面倒な名前の付いたドミトリーの別の面を見せてくれる4曲も3階席までチャーミングにねじくれたワルツとポルカを届けられたと信じてます。

2日目の2月4日の演奏はさらに確信に満ちたものになってくれた。ショスタコのうらぶれた哀愁のワルツは場末感が深まり、ポルカでさえもどこか空虚感が聞こえたと思う。
13番はこの日も録音ができたのでこの最高の、物語コンサートのような作品をいつか録音などで聞いていただけると思う。

井上さんのブログ


最近、演奏会の感想を書く気力なのか熱意なのかが落ちている。。
それなら書かなければいいのだけど、このブログは自分用覚書として思いのほか有用なのでやめられず。。とりあえず一ヶ月以内のアップだけは頑張ろう。
プライベートで色々あり演奏会がストレスになっていたり、でもそれを超える大きなものを生の音楽からもらえていたり、なこの頃です。

【ヨハン・シュトラウスII世/ポルカ「クラップフェンの森で」作品336】
初めて聴いたけれど、美しく楽しい曲ですね!井上さんはこういう軽やかな曲もとてもいい。最後のカッコー♪で奏者さんが「吹いてるのは私じゃないですよ~」なパフォーマンスのときに楽器の一部?を落としてしまうハプニングがあって和やかな笑いが起きたけれど、それも含め素敵な演奏でした

【ショスタコーヴィチ/舞台管弦楽のための組曲第1番-「行進曲」「リリック・ワルツ」「小さなポルカ」「ワルツ第2番」】
井上さんってロシアで生活されてたことがあるのかな?と聴きながら感じてました。それくらい”ロシア”の音がしていた(私はロシア行ったことないけど)。
ご自身がブログでも書かれている”うらぶれた哀愁”のようなもの。曲自体もそうだけど、井上さんの音からそれが感じられて、ああ、ロシアだ・・・としみじみと感じながら聴いておりました。
後半のバビ・ヤール目当てでとったチケットだったけれど、前半でこんな演奏が聴けるとは嬉しい驚き。
そして改めて井上さんにはショスタコーヴィチの音楽がよく似合う。

(20分間の休憩)

【ショスタコーヴィチ/交響曲第13番変ロ短調作品113「バビ・ヤール」】
バス:アレクセイ・ティホミーロフ
男声合唱:オルフェイ・ドレンガル男声合唱団

字幕なしでもある程度ついていけるくらいには歌詞を頭にいれていったけれど、それでも所々迷子になってしまったので、やはり字幕は欲しかったなぁ・・・。井上さんのブログによると井上さんは字幕を希望したようだけれど、N響側が「音楽に集中したいお客さんもいるから」と主張したようで(実際、この後の大フィルでは字幕ありだったそうです)。
それはともかく、演奏は素晴らしかった。
これは井上さんの特徴でもあるように思うけれど、リアルなドキュメンタリーのようなバビ・ヤールというよりは、情熱的でありながら音楽的な美しさも兼ね備えたバビ・ヤール、という風に感じられました(ティホミーロフの独唱もオルフェイ・ドレンガル男声合唱団の合唱も)。そしてそれゆえの凄みといいますか、しばらく後を引いて消えない、そんな演奏だった。
この曲、個人的には第二楽章の「ユーモア」がとても好き。音の軽やかさに包まれた毒。
そして、第五楽章「出世」。ストーリーのようなこの曲を第一楽章からずっと聴いてきて、最後の最後の弦の響きのとてつもない美しさにやられました。。。あれはコンマスの郷古さんかな。
この曲って予習のときは独裁国家の恐怖のようなイメージが強かったけれど、今日の演奏を聴いて、最後の最後の言葉にできないほどのあの美しい弦の響きを聴いて(これはもちろん井上さんの指示によるものと思う)、まだ僅かに、でも確かに残っている人間という生き物に対する希望、信頼、救いをショスタコーヴィチが見せてくれているように感じられました。
こんな曲だったのか・・・、と。
それを今の世界情勢の中で聴く重み・・・。
忘れられない演奏となりました。

井上道義に聞く―2024年2月「最後のN響定期出演」でショスタコーヴィチを指揮

2024年末指揮者引退に向けてカウントダウン進行中(SPICE)

 



Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

札幌交響楽団 東京公演2024 @サントリーホール(1月31日)

2024-02-22 21:04:02 | クラシック音楽



マティアス・バーメルト(指揮)、イアン・ボストリッジ(テノール)、アレッシオ・アレグリーニ(ホルン)

【ブリテン:セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための】
これはもう、ボストリッジ&アレグリーニの素晴らしさに尽きる。。。
自然豊かな英国の田舎の風景と空気が見えるよう。。。
ホルンと人の声、たった二人だけであれだけの世界を作り出せちゃうんだねえ。。。
札幌交響楽団も、静かで涼しげで透明感のあるいい音してました。この曲にとてもよく合っていた

(20分間の休憩)

【ブルックナー:交響曲第6番】
冒頭から、その音にすっかり惹きつけられてしまった。
初めてハイティンク&ロンドン響でブルックナーを聴いて感動して以来いくつもブルックナーを聴いてきたけれど、こういう音のブルックナーを聴けたのはあの時以来で、とてもとても嬉しかった。。。
解放的で、自然で、素朴で、温かく、美しくて。
1楽章と4楽章のフィナーレも盛り上げ切ってくれて、素晴らしかった。
もう少し抑揚があってもいいかもとも思ったけど、そんなことは全く気にならないくらい好みな響きを聴かせてもらえて、心の底から嬉しく、感動しました。
そして4楽章!予習のときから思っていたけれど、私、この4楽章が大好きです。
6番って演奏機会が少ない曲とのことだけど、こんなに素晴らしい曲なのになぜだろう。2楽章だってあんなに美しいのに。
でも来年メナ&N響でも聴くことができるようなので、絶対に行きたいと思います!
こんな演奏を聴かせてくださったバーメルトさんに心からの感謝を。
最前列の席だったので、お顔もよく見えました
この3月で札響を去られるそうだけれど、またこの方のブルックナーを聴ける機会があるといいなあ。

会場を出たところでは、ホクレンから片栗粉と大豆ミートが配られていました。ありがたくいただきました


【1月定期演奏会・東京公演】マティアス・バーメルト メッセージ



Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノリサイタル @サントリーホール(1月27日)

2024-02-20 23:59:51 | クラシック音楽



ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 op.45
シューマン:交響的練習曲 op.13(遺作変奏付き)
(20分間の休憩)
シベリウス:悲しきワルツ op.44
シューベルト:楽興の時 D780 op.94
ショパン:ノクターン ホ長調 Op. 62-2(アンコール)


最近色々いっぱいいっぱいで、また感想をためてしまった。。書かなきゃいけない演奏会が6つもある。。

さて、今回のポゴさんの演奏会。どの曲も過去に聴いたことがある曲ばかりだし、楽興の時は1年前にも聴いてるし・・・と直前まで行くかどうか迷ったけれど、結局今年も行ってしまった。

今回いつもより良いRB席だったので、響きがとても美しかったです。そりゃぁそうよね、4000円も違うのだもの(RB席12000円、P席8000円)。

今回も本番前のポロポロあり。でも今回は具体的な曲ではなかったように聴こえました。

ポゴさんお得意のショパンOp.45はもちろんだけど、シューマンが素晴らしかったなぁ。どんなに強音でも音が透明なまま真っすぐに届いてきて、前回よりも一曲一曲に鮮やかな違いが感じられたような気がして、全ての曲に聴き入ってしまいました。
後半のシベリウスも、前回聴いたときよりもより美しく深みのある演奏に感じられて、とてもとても良かった。

、、、のだけれど。

昨年あれほど素晴らしい演奏を聴かせてくれたシューベルトが、1曲目から前回とだいぶ弾き方が違い、サラサラと速めに進んでいき。6曲目もまるでジャズのようで、少なくとも私は寂寥感のようなものは全く感じられなかったのでありました。
ポゴさんって演奏会毎に違う演奏をすると聞いたことがあったけど、こういうことかしら。。
まぁ、これも生演奏の面白さということで。。

アンコールで弾かれたショパンOp.62-2はシューベルトほどの違和感はなかったけれど、やはりこれまで聴いたときほどには心に響かなかったのが正直なところでありました。でも最後の一音は、相変わらずものすごく美しかった

来年は上岡さん&読響とプロコフィエフの協奏曲ですね。大好きなショスタコーヴィチ11番とセットだし、絶対に行くつもりです。来年のリサイタルは、ラヴェルが聴きたいなぁ(でも前回と全然違う演奏されたらどうしよう


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イアン・ボストリッジ シューベルト「白鳥の歌」 @神奈川県立音楽堂(1月19日)

2024-01-25 22:30:36 | クラシック音楽




youtubeで光子さんとの「美しき水車小屋の娘」を観て衝撃を受けてから、一度生で聴いてみたいと思っていたイアン・ボストリッジ
我が町に来てくれた~

このホールの客層は相変わらずプロっぽい人が多め
今回のプログラム構成はちょっと面白くて、まずシューベルトの「白鳥の歌」の第1~7曲(詩:レルシュタープ)が歌われ、休憩を挟んでベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄す」、続いて「白鳥の歌」の第8~13曲(詩:ハイネ)と14曲(詩:ザイドル)が歌われました。
とてもとても素晴らしい演奏会でした。

どちらの曲も、聴くのは初めて。
チケットを購入したのが直前だったため対訳レベルとまではいかなかったけれど、予習はしていったので各曲の大体の歌詞は頭に入って聴けました。

【シューベルト:白鳥の歌 第1曲「愛の使い」~第7曲「別れ」】
第4曲「セレナーデ」以降に引き込まれました。第7曲「別れ」の軽やかさもとてもよかった。
ボストリッジは高めの声、夢見る甘さ、暗さ、純粋さ(ストーカーぽさとも言う笑)、微かな狂気の具合が理想的!そして、リアルさ。
等身大で共感できる、そんなシューベルト。

(20分間の休憩)

【ベートーヴェン:遥かなる恋人に寄す】
一曲目から引き込まれました。うまく言えないのだけれど、ボストリッジの声にすごくピッタリで。
この曲って一見明るい音楽なのだけれど、とても美しく切ない曲のように感じられました。
第6曲のボストリッジの声を聴きながら、愛の憧れをそのまま音にしたらこういう音になるのだろうと、そんな風に感じました。
この歌の「恋人」は本当に存在しているのだろうか。
存在していたとして、その存在自体が手の届かない遠い「憧れ」なのではないか。
たとえ心は通じ合っていても、この世界では結ばれることが許されない相手なのではないか。
そんな風にも聴こえました。

【シューベルト:「白鳥の歌」第8曲「アトラス」~第14曲「鳩の便り」】
第12曲「海辺にて」の甘く柔らかな声、よかったな〜。
第13曲「ドッペルゲンガー」の青年らしい狂気も。
一転して第14曲「鳩の便り」で明るく軽やかに終了。・・・のはずなのだけど。この「鳩の便り」も、ただ明るく軽やかなのではなくて、その中にどこか悲しみのようなものがあるように今日の歌からは感じられました。シューベルトが作曲した最後の歌と思って聴いているからなのか。でもボストリッジの歌い方からもそういう感じを受けたような、そんな感じがしたのでした。

【シューベルト:さすらい人の月に寄せる歌 Op.80-4, D870(アンコール)】
冒頭のピアノがカッコイイ!
ボストリッジのことばかり書いてしまったけれど、今回の公演、同じくらいジュリアス・ドレイクのピアノの豊かな表現力にも魅了されました。ボストリッジとの相性抜群で、お互いに信頼して歌っている&弾いているのが伝わってきた。

【シューベルト:弔いの鐘 Op.80-2、D871(アンコール)】
ピアノの歌も、美しかったなぁ。ボストリッジの伸びやかな声、美しかった…。

【シューベルト:夕映えの中で D799(アンコール)】
この曲で最後なのだな、とわかる歌い方。聴かせてくださいました〜。ブラヴォー

本当に良い夜だったこの独特の後味は、オケの演奏会からはもらえない感覚。
地元でこんな演奏会が聴けるのは本当にありがたいです。
神奈川県立音楽堂、いつまでも頑張ってください。応援してます!!

で、31日のサントリーホールのバーメルト&札響の演奏会のチケットも急遽買い足してしまった。。。演奏会って本当に中毒だ。。。ボストリッジのブリテンと、バーメルトさんのブルックナー6番。楽しみ




イアン・ボストリッジ シューベルト「白鳥の歌」メッセージ!2024.1.19 音楽堂ヘリテージ・コンサート

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK交響楽団 第2001回定期公演 Aプロ @NHKホール(1月14日)

2024-01-25 20:03:59 | クラシック音楽




1年ぶりにソヒエフ&N響を聴いてきました。
昨年はドイツプロロシアプロを聴けたので、今年はフランスプロのAプロを。

【ビゼー(シチェドリン編):バレエ音楽「カルメン組曲」】
素晴らしかった
今まで聴いたソヒエフの演奏の中で一番感動しました。
冒頭から(鐘が鳴ってるあたり)、すっかり引き込まれてしまった。
このバレエはyoutubeでザハロワ&ロヂキンのボリショイコンビで観たことがあって、そのときに「ロシア人って意外とラテンが似合う!」と感じたのだけど、今回この作品が旧ソビエト連邦の作曲家シチェドリンによる編曲であることを知り、さもありなんと。確かに音楽にソビエト味も混じっているように感じる。

1967年に『カルメン』をモチーフにしたバレエが上演されることになり、主演のプリマドンナだったマイヤ・プリセツカヤは最初ショスタコーヴィチに、次いでハチャトゥリアンに編曲を依頼したが、両者とも「ビゼーの祟りが怖い」という理由で断り、仕方なくプリセツカヤの夫であったシチェドリンが編曲することになった。
(wikipedia)

そんなビゼー作曲のフランス味とシチェドリン編曲のソビエト味のミックスされたバレエ音楽が、ソヒエフの個性にピッタリ。
フランスの軽いお洒落感、ソビエトの冷いドライさ、ソヒエフお得意の色彩豊かな美しい音作りと繊細な情景描写、キレのいいリズム感。美しいだけじゃない、ちゃんとソビエトの音も出てて、完璧でした。
さすがボリショイ指揮者。
ブラボー
※あえて言うならちょっとだけ音が真面目に感じられたけど、それはN響だから半分、ソヒエフだから半分かも

(20分間の休憩)

【ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」】
マ・メール・ロワは以前ラトル&ロンドン響で聴いて、とても感動した曲。予習はデュトワ&モントリオール響でしました。
しかし演奏が始まると、、、ん・・・?なんか私が知ってる曲と違う・・・??
紡車の踊りも間奏曲もないような・・・。
ソヒエフがカットしてるのか・・・?
帰宅してからわかりました。
私が親しんでいたのは「バレエ版」で、今回演奏されたのは「組曲版」のマ・メール・ロワだったのでした。
ソヒエフのファンタジー味いっぱいな音作りはこの曲にピッタリで、美しかった
ただ妖精の園のフィナーレなどはもう少し突き抜け感があっても嬉しいかな、とはちょっと感じました。
ソヒエフの音楽は、丁寧すぎるというか音にもう一歩突き抜け感が欲しくなるときが時々ある(完全に個人的好みですが)

【ラヴェル:バレエ音楽「ラ・ヴァルス」】
この曲を聴くのは、デュトワ&新日フィルラトル&ロンドン響に続いて3回目。
私が感銘を受けたのは、計画性を感じさせずにワルツが崩れていくゾワゾワ感と美しさを感じさせてくれたデュトワ&新日フィルの演奏でした。
で、今回のソヒエフはというと。
ソヒエフは昨年の「ダフニスとクロエ」組曲の終演後に「フランスの作品、特にラヴェルは感覚的でフレキシブルな音楽と思われがちだが、実はまったく逆。ルバートの指示一つとっても、計算し尽くされ、構造的に書かれている。今日のN響のようにきっちり弾くことで、初めて曲の真価が伝わるのだ」と言っていたそうで、今回のラ・ヴァルスもその言葉どおりきっちり演奏された印象でした。つまり、あまり私の好みとはいえない
ラヴェルなので計画性はあって当然だけど、それが表に出ていない演奏が私は好きなのです。
ただ、ゾワゾワした不穏さ少なめの前向きなラ・ヴァルスと捉えるなら、思っていたより悪くはなかったかと(最初からあまり期待していなかったせいもあるけど…)。明るさと暗さが入り乱れる綺麗な色が舞台上に見えたのは、ソヒエフのおかげと思う。

Cプロのプロコフィエフのロメジュリ(ソヒエフ編)もとても興味があったのだけれど、きりがないので今回はこのAプロのみで。ソヒエフは今秋にミュンヘンフィルと来日とのことだけど、私はそれは見送る予定。なので次回ソヒエフを聴けるのは来年1月。ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」がプログラムにあるようなので、聴きに行けたらいいな(ソヒエフに合ってそう)

昨年の今年のソヒエフの公演を聴いて、改めてオケの音作りって指揮者の技術、職人芸なのだなと実感しました。ソヒエフが振るとN響がまるでウィーンフィルのような音になる。これはデュトワで初めて知ったことで、ソヒエフの音にも同じものを感じる。きっとソヒエフはどのオケからもあの「ソヒエフの音」を出せるのではないろうか。




Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プラハ交響楽団「わが祖国」 @サントリーホール(1月11日)

2024-01-13 21:05:08 | クラシック音楽




仲間たちオーケストラとの第九以来、二度目のコバケンさん指揮。
今回の演奏会に行こうと思ったのは、龍村監督が亡くなられてちょうど1年であるためと、「わが祖国」がコバケンさんも来られた監督を偲ぶ会で上演されたプラハの春音楽祭のドキュメンタリーと重なったため、でした。
15歳ではじめて監督の作品に出会ってから、32年。
今日でひと区切りにしようという思いもあり、やってきました。
ちなみに、私の2024年の演奏会初めでもあります。

「わが祖国」を聴くのは、アルトリヒテルさん&チェコフィルに続いて2回目。
亡くなった友人との思い出のある演奏会でもあります。
プラハ交響楽団を聴くのは初めてだけど、第一曲のヴィシェフラドから、The チェコの音
以前も書きましたが、私が好きなオケの音ツートップはウィーンフィルとチェコフィルで、今回のプラハ響はそれに並ぶレベルで好きな音でございました。
少し暗めの、ドイツのオケほど重厚じゃない、独特の翳りと素朴な温かみのあるローカルな音。その街の歴史や空気を感じさせてくれる音。
やっぱりこの曲はこういう音で聴きたいよねぇ、と改めて感じました。もっと上手なオケはあるだろうけれど、上手い下手じゃないんだよねぇ。
ブラニークの最後は、客席の上方に「チェコ」が見えた。20年前に一度だけ行った、あの国の空気を肌で感じさせてくれました。
どうやら私は中~東欧の音が好きなのだなぁ。
コバケンさんとプラハ響はあまり共演経験がないせいか意思の疎通が十分でないところや音がばらけ気味なところもあったけれど(Xの情報によると初客演で、リハも前日1日だけだったとか)、個人的にはそれを超えるに余りある心に響く演奏を聴かせてくださいました。
弦も管も私の好みにぴったりの良い音だったなぁ。ハープもティンパニも素晴らしかった。あと、カジュアル服で頭にバンダナのホルンさん!初めて聴く音だった。まるで人間の声のような。ホルンであんな音が出るんだねぇ。

第二曲「モルダウ」の最初に例のメロディーが登場するところ、コバケンさんは指揮棒を振らず、胸に片手をあてて客席の上方を斜めに向いておられて。これはいつものコバケンさんなのだけれど、なんとなくホールの客席で龍村監督が聴いていらっしゃるような気がして、胸がいっぱいになってしまいました。
前日にドキュメンタリーを見なおしていたので、なおさら胸に響きました。

プラハ響の皆さん、一人一人がP席にも笑みをくださって、温かな雰囲気のオーケストラだった
西欧のオーケストラと違って、舞台上の空気が東欧。プログラムのメンバー表を見ると、おそらく奏者さん達はチェコ人の方が殆どなのではないかな。

最後にコバケンさんがマイクを持ってご挨拶。概要はこんな感じ↓
「手が届きそうで届かなかったところもありましたが、この曲は彼らのアンセムのようなもの。本来海外のオーケストラ公演ではアンコールがあるものですが、これほどの演奏の後にアンコールはできません。代わりに、彼らに拍手を送ってください」。

13日にはコバケンさんの故郷いわき市でも、同プログラムが演奏されるそうです。
この曲を聴き終わったときの感覚って第九と似てるなと感じる。民族の勝利というゴールを超えて、人類の平和、幸福を目指している、そんな音楽に聴こえる。






Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル @サントリーホール(12月13日)

2023-12-31 01:36:30 | クラシック音楽




ショパン:
   ノクターン第2番 変ホ長調 Op. 9-2
   ノクターン第5番 嬰へ長調 Op. 15-2
   ノクターン第16番 変ホ長調 Op. 55-2
   ノクターン第18番 ホ長調 Op. 62-2
   ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 「葬送」 Op. 35


(休憩)

ドビュッシー:版画
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op. 10
ラフマニノフ:13の前奏曲 Op. 32-12(アンコール)
ラフマニノフ:10の前奏曲 Op. 23-4(アンコール)


同プログラムを弾いた4日のSNSの感想で「ショパンが陰翳に乏しく流しているように聴こえる」というものを見かけたので、そしてツィメさんは時々そういう演奏をすることがあるので(そう聴こえることがあるので)少し心配していたのだけど、とんでもない。
今日のショパンは、ノクターンもソナタも、最初から最後までとても丁寧に真摯に弾いてくださっていました。
確かにOp62-2などはポゴレリッチの演奏などに比べるとサラサラと弾いているように聴こえるところもあったけれど、確信をもって弾いている音に、これはこれでツィメルマンの解釈なのだろうと感じることができました。

「ツィメルマンの音」で弾かれるドビュッシーもとても素晴らしかったけれど(ツィメさんはこういう曲もお得意ですよね!)、演奏会後に印象に残ったのは、やはりポーランドの音楽であるショパンとシマノフスキでした。
ポーランドの血の音というか、魂の音というか、そういうものを強く感じた。
(録音で弾いていなかった終曲の星がキラキラ見えるような高音のフレーズ部分を今日は弾いていたように感じたのだけれど、気のせいかな

アンコールのラフマニノフも素晴らしかった。4日のアンコールはop.23-4の一曲のみだったそうなので、今日は二曲弾いてくれて嬉しかったな。Op.32-12はシマノフスキの曲?と思ったら、ラフマニノフだった。
「ツィメルマンの音」で弾かれるラフマニノフがこんなに素晴らしいとは、意外でした。
濃厚なコッテリさがあるわけではないのに、アッサリ軽いわけでもなくて。うまく言えないのだけど、正面からの真っすぐな美しさと深みが真っすぐに心の奥に届く。
唯一無二のピアニストだな、と改めて感じました。
一昨年に続いてこんな演奏を聴かせてくれて、心から感謝です。

このリサイタルでは、彼のヒューマニストとしての側面も改めて確認した。ピアノ・ソナタ(ショパンのピアノソナタ2番)の前、「武器で物事を解決することはできない。にもかかわらず、EUはこの不必要な戦争をさらなる武器をもって解決しようとしている」とドイツの聴取の前で語ったのである。この夜の最後には、「戦争で犠牲になった双方の側の息子たちに、ロシアの作曲家の作品を」と言って密やかな小品を弾いた。ラフマニノフの前奏曲作品23の第4番「アンダンテ・カンタービレ」だった。

 クリスチャン・ツィメルマンというひとりのピアニストのリサイタルを聴きながら、現実の喜びや悲しみも含めて、自分が何か大きな世界につながっていることを実感させてくれるような稀有な夕べだった。

(中村真人:【海外公演レポート】ニュルンベルクのクリスチャン・ツィメルマン







Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

NHK交響楽団 第1999回定期公演 Bプロ @サントリーホール(12月7日)

2023-12-31 01:36:11 | クラシック音楽



ハイドン:交響曲 第100番 ト長調 Hob.I-100 「軍隊」
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
アルヴォ・ペルト:アリーナのために(ソリストアンコール)

(20分間の休憩)

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132


私のハイドン好きを知っている音楽仲間がチケットを譲ってくださったので、有難く行ってまいりました。

改めて、ルイージは本当に良い指揮者ですね
ハイドンの「軍隊」はヤンソンス&BRSOで聴いて大感動した音楽なのでN響で感動できるかな?と実はちょっと心配だったのだけど、ルイージ&N響、素晴らしかった。
N響の音はもちろんBRSOのようなドイツ味たっぷりな音ではないけれど、ルイージの歌うハイドン、最初から最後まで引き込まれて聴いてしまいました。

リストの協奏曲を弾いたアリス・紗良・オットを聴くのは、昨年のパリ管以来。
彼女のピアノ、結構好きなんですよね、私。
あの軽やかな音の美しい響き、彼女の個性だと思う。
かつ低音もしっかり聴かせてくれるし、エキサイティングなライブの楽しさもしっかりくれる
ルイージ&N響の伴奏も、奥に引っ込むことなくしっかりピアノとの掛け合いを聴かせてくれて、大満足です。
ソリストアンコールの前にアリスが「音だけが音楽じゃない」のトークが始まったときに、アンコールはペルトだな、とわかりました笑(パリ管のときと同じトークだった)。

レーガーの「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」はルイージは初挑戦とのことだけど、素晴らしかった。モーツァルトの軽やかさと美しさから始まる、数々の変奏の楽しさ。構築的に歌い継がれていくそれに全く飽きる暇なく、最後のフーガまで連れて行ってくれました。ルイージって、美しいままドラマチックに突き抜けてくれるところがとても良い。そしてオケの音が開放的で自然。
これからまだまだこのコンビを沢山聴くことができるんですよね。幸せです


[Bプログラム]のレーガーは、今年生誕150年を迎えるドイツ後期ロマン派の作曲家。マーラーと親しく付き合い、《千人の交響曲》の初演にも立ち会ったという。
《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》は、有名な《ピアノ・ソナタ第11番》の第1楽章を主題に用いたもので、ブラームスの衣鉢を継ぎ、変奏曲を得意としたレーガーの真骨頂ともいえる作品である。おなじみの優美な主題とともに始まるが、それが途中で原形を留めないほどミニマムな単位に分解され、ついには耽美的な最後の変奏曲と、壮麗なフーガに行き着く。初演は第一次世界大戦の最中。“古きよきヨーロッパ”が失われることへの慨嘆と、旧世界へのノスタルジーが詰まっているかのようだ。記念イヤーにちなんで、ルイージはこの曲に初挑戦することを決意した。

レーガーが引用したモーツァルトの《ピアノ・ソナタ第11番》は、第3楽章のリズムから「トルコ行進曲つき」と呼ばれるが、前半の2曲では、トルコ軍楽隊ゆかりの打楽器が活躍する。
首都ウィーンがオスマン・トルコに包囲されたこともあるハプスブルク帝国。ハイドンが長く暮らしたハンガリーは、その領土の一部だった。トルコから伝わった大太鼓やシンバルは、常に身近に感じられる楽器だったに違いない。これらを使った《交響曲第100番「軍隊」》は、初演地ロンドンをはじめ、異国の文化を歓迎するヨーロッパの聴衆に大いに喜ばれた。
シンプルでごまかしの効かないハイドンの交響曲は、オーケストラにとっての試金石。昨シーズンは《第82番「くま」》を演奏したが、ルイージの在任中は、これからもコンスタントに取り上げるつもりである。

ハンガリー生まれのリストは、トルコ軍楽隊の楽器の模倣として使われ始めたトライアングルを、《ピアノ協奏曲第1番》で準主役に引き立てた。主題が巧みに変奏され、クライマックスに行き着く構造は、レーガー作品にも共通する。リストの《超絶技巧練習曲集》で華々しくデビューした人気ソリスト、アリス・紗良・オットが、久しぶりにこの曲に挑む。
N響HP





Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヴァレリー・アファナシエフ ピアノリサイタル @フィリアホール(12月1日)

2023-12-30 17:28:43 | クラシック音楽



・ポロネーズ第3番 イ長調 op.40-1「軍隊」

・ワルツ イ短調 op.34-2
・ワルツ 嬰ハ短調 o.64-2
・ワルツ ロ短調 op.69-2
・ポロネーズ 第2番 変ホ短調 op.26-2

(休憩)

・ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 op.26-1
・マズルカ ロ短調 op.24-4
・マズルカ 変イ長調 op.41-4
・マズルカ 変ニ長調 op.30-3
・マズルカ 嬰ハ短調 op.30-4
・マズルカ ハ長調 op.56-2
・マズルカ ヘ短調 op.63-2
・マズルカ 嬰ハ短調 op.63-3
・マズルカ イ短調 op.68-2

2021年11月のリサイタル以来、2年ぶりに聴くアファナシエフ。
今回初めて行った青葉台にあるフィリアホールは決して大きなホールではないけれど、それでも半分くらいの入り。

先に関西で聴いた方達のSNSの感想から不穏な気配はあったので、覚悟して聴きに行きました。
もともと独特な音のピアニストではあるけれど、正直なところ、最初のポロネーズ3番の冒頭から「うーん・・・・・・」と・・・。
2年前には独特な中にもアファナシエフにしか出せない魅力を強く感じることができたのだけれど、今回はそれを感じることも難しかった。
舞台に出てくるときに一人で歩くことも難しそうだったので、ご体調が悪そうなのは確か。
今回の来日を最後にするつもりとご本人は仰っているようだけれど、体調も関係しているのだろうか。
ただ前回は殆ど楽譜を見ながら弾いていたけれど、今回は全て暗譜。

3曲目辺りからは音楽が流れ始め、音に力強さが出てきました。
ワルツの暗みは、まさにアファナシエフ。
特に前半最後のポロネーズ2番は、音と音の間の存在感も含めて(”間”も音楽だよね!)、彼独自の世界を聴かせてくれました。

今日のプログラムで一番「アファナシエフ」を感じることができたのは、後半最後のイ短調のマズルカ。これは文句なしに素晴らしかった。これが聴けただけでも、今日来てよかったと心から思いました。アファナシエフもとても丁寧に弾いていて、アファナシエフでしか聴くことができないショパンだった。
アファナシエフはプログラムでショパンの音楽をダンテの煉獄編に喩えていたけれど、彼の弾くショパンは確かにそういう音楽だと私も感じる。

ただ前回のリサイタルでもそうだったけれど、アファナシエフって、一曲一曲の最後の音の処理をあまり大切にしないのよね・・・。前回も最後の音の響きが残っているうちに次の楽譜を捲っていたりしたけれど、今回もやはり音が残っているうちに腕まくりしたりしていた。まぁこれも彼の個性なのでしょう。

今日のピアノ、高いド?の音のときにいつも耳障りな細い金属音が小さく聞こえたたけれど、あれはなんだったのだろう。結構気になってしまった。アファナシエフにはあの音は聞こえなかったのだろうか(高音って年をとると聞こえなくなるというし・・・)。

アファナシエフ自身は今日の演奏会のことをどう思っているのだろう。
決して「弾けている」とは言えない今日の演奏。でも素晴らしかった最後のマズルカ。
アンコールがなかったのは、きっと最後のイ短調のマズルカの演奏に満足したからだろうと私は感じました(前回の茅ヶ崎でも、素晴らしいブラームスを弾いた後のアンコールはとてもやりたくなさそうに見えたもの)。
「ピアニストがピアノを弾くというのは、どういうことなのだろう」と、そんなことを考えさせられたリサイタルでした。
フレイレのことを思い出したり。
生の演奏会は本当に人生の色々なことを教えてくれますね。





Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レザール・フロリサン 《ヨハネ受難曲》 @東京オペラシティ(11月26日)

2023-12-30 16:41:29 | クラシック音楽



ウィリアム・クリスティ指揮

クリスティのもと開いたフランス古楽界の花。
美しくやわらかなハーモニーで描く「救済」のメッセージ。



古楽器オケによるバッハはフライブルク・バロック・オーケストラとバッハ・コレギウム・ジャパンでしか聴いたことがなかったけれど、このレザール・フロリサンもまた全く違った個性で素晴らしかった。
予習で聴いた重々しい迫力あるリヒターの音源に比べると、こちらは華やかな柔らかさがフランスフロリサンって感じ
なのに不思議と生々しくリアルなんですよね。それは古楽器オケの特徴でもあるけれど。

ソリストの人達の歌声も、とてもリアルに胸に迫ってきました。なのに、ちゃんと美しく音楽的。
特にエヴァンゲリストのバスティアン・ライモンディの若く繊細で、かつ包容力と温かみを感じさせる声に強く引き込まれました。
あと、ヴィオラ・ダ・ガンバの音色が雄弁で、人の声のようでとてもとても美しかった。

R側の席だったので、イエスの御姿は最後まで見えず
でも歌声はしっかり聴こえたので問題なしです。

クリスティはマケラと同じく赤いソックスをはいていて、お洒落でした♪
またぜひ来日していただきたいなぁ。


ウィリアム・クリスティ(指揮)
バスティアン・ライモンディ(テノール/エヴァンゲリスト)
アレックス・ローゼン(バス/イエス)
レイチェル・レドモンド(ソプラノ)
ヘレン・チャールストン(アルト)
モーリッツ・カレンベルク(テノール)
マチュー・ワレンジク(バス)
レザール・フロリサン(管弦楽&合唱)


結成から44年。熟成の高みにあるクリスティ&レザール・フロリサンの特別な一夜
いよいよその“季節”がやって来る。ウィリアム・クリスティとレザール・フロリサンによる“バッハの大宗教曲の季節”である。2016年9月に彼らはパリのフィルハーモニーでヨハン・ゼバスティアン・バッハの《ミサ曲ロ短調》を録音した。ルネサンス期からバロック期にかけての膨大なレパートリーを経験して来た両者だからこそ可能な、緻密にして壮大なバッハの宗教曲の世界。ありきたりに言えば彼らの「熟成」のレベルの高さに、しばし言葉が見つからなかった。
そしてこの晩秋に日本を再訪する彼らはバッハの《ヨハネ受難曲》を携えて来る。古楽界最高の実力を備えた奏者だけでなく、いまヨーロッパで注目を集める若手歌手を揃えた歌手陣は、クリスティの厳しい相馬眼にかなった人材。いずれもヘンデル、モーツァルトのオペラや宗教曲のソリストとして活躍中である。福音史家を担うバスティアン・ライモンディも宗教曲だけでなく、モーツァルト、オッフェンバック、ムソルグスキーなどのオペラでも活躍している。その幅広い可能性をクリスティは高く評価しているのだろう。
2016年の《ミサ曲ロ短調》の録音の際、クリスティ自身が幼い頃のバッハ体験についてコメントしている。クリスティの母親はニューヨークの教会の聖歌隊指揮者であり、その母親の指揮する《ミサ曲ロ短調》の合唱曲を聴いて以来、クリスティにとって特別な作品となったと言う。おそらく、バッハが残した「受難曲」もクリスティにとっては《ロ短調」に並ぶ特別な作品であったはずだ。1979年に結成されたレザール・フロリサンが21世紀のいま開こうとしているバッハの新しい扉。たった1日のみの日本公演は、まさに記念碑的なものとなるだろう。

片桐卓也(音楽ライター)




Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする