風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

シャルル・デュトワ指揮 新日本フィル 創立50周年特別演奏会 @東京芸術劇場(6月9日)

2022-06-13 11:47:37 | クラシック音楽




「音の魔術師」の異名をもつデュトワの指揮。一度聴いてみたいなあと思っているうちに#metooセクハラ問題で世界中のオケから締め出されてしまい。そんな元旦那にアルゲリッチが救いの手を差し伸べたという噂は耳に届いていたものの、日本では二度と聴けないのかしら?と思っていたら、大阪フィルが呼んでくれて。でも東京には来ないのかしら?(N響が無理なのはわかるが)と思っていたら、ようやく来てくれることになって。しかも大好きな『ラ・ヴァルス』!というわけで、行ってきました。

【フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」】
【ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調】
【武満徹:雨の樹 素描(ピアノ・アンコール)】
(20分間の休憩)

【ドビュッシー:交響詩「海」】
【ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」】

新日本フィルを聴くのは今回が初めて。私にとっては「新日本フィル=ジブリの音楽を演奏しているオケ」なので楽しみにしていたのですが。

うーん・・・・・・・

今年のムーティ&春祭オケのモーツァルトのとき、ブログに「たとえば柔らかな音の箇所も、『ムーティが柔らかな音を出すように指示していて、奏者はきちんと忠実に従っているのだな』ということが透けて見えてしまうような演奏」と書いたけれど、今日のデュトワ&新日本フィルにはその何倍もそういう感覚を感じてしまった・・・。もはや「指揮者に忠実に従っている」というより「指揮者の要求する音を出そうと必死に頑張っている(けど出しきれてはいない)のが透けて見えてしまうような演奏」というか・・・。
素人がエラそうに申し訳ない。でも今回払ったチケット代、2年前のサロネン&フィルハーモニアの来日公演と殆ど同じ席で殆ど同じ値段なのよ(結構な出費であった)。。。なのにこの差は一体・・・とどうしても感じずにはいられなかったんです。。。

休憩後の『海』ではそれはだいぶ改善され、自然な「音楽」が流れ始めました。
でも「いい感じだなあ」と音楽に入り込めそうになると、唐突に吃驚するような平坦な音が聴こえてきて現実に引き戻されてしまう、の繰り返し。特に管楽器(木管金管ともに)・・・。

でも最後の『ラ・ヴァルス』だけは、それがありませんでした。
正確にはこの曲でもオケの余裕のなさ(頑張ってる感、指示通りの音を出そうとしてる感)は皆無とはいえなかったし、もっと上手なオケなら更に上をゆく別世界を見せてもらえたのではと全く思わなかったといえば嘘になるけれど、それでも素晴らしかったとしか言いようのないラ・ヴァルスだった。心から感動しました。
おそらくデュトワとオケはリハーサルの殆どを後半の2曲、特に『ラ・ヴァルス』に使ったのでは…?
軽やかで優しく、美しく官能的で、物憂げで退廃的で、かつ明確に惰性を拒む刺激的で爆発的な音色。
第一次大戦を挟んでこの曲を完成させたラヴェルは、優雅なウィンナワルツの調べの裏で愛憎渦巻き享楽的でもあったウィーン宮廷に対して、すべてをひっくるめて愛情を感じていたのではなかろうか。その瞬間瞬間を生きていた人々と、そこに蠢くエネルギー。それは今日にも普遍的なもので。最後には全てが崩壊するような破滅的なラストを迎えても、だからこそ一層印象に残る人間達の生の煌めき。生の火花を目いっぱいに散らせて消える花火を見た後のような、そんな後味が残る音楽。今日のデュトワ&新日本フィルの演奏からは、そんなものを感じました。なんか泣きそうになってしまった。
ポゴレリッチのときにも、この曲にそういうものを感じたんですよね。悲劇だけではない、何ものか。
考えてみたら、ラヴェルはこの曲をあのバレエ・リュスのために書いたのだった(結局ディアギレフから却下されたけど)。この曲からそういう感覚を覚えるのは当然のことなのかも。そういえばデュトワの師のアンセルメって、バレエ・リュスの音楽監督だったんですね。
一番のお目当てだった『ラ・ヴァルス』をこんな胸に響く演奏で聴かせてくれて、本当に感動したし、大満足です。

ところで、これが「いわゆるデュトワの音」なのだろうなというものは、最初の『ペレアスとメリザンド』からちゃんと感じました。独特の色彩的に華麗な響き。濃厚でコテコテな極彩色ではなく、透明感のある色合い。オケが出す色彩的な音って作ろうと思って作れるものなのだな、というのも今日の演奏でよくわかった。終演後の帰り道で「最高の職人芸を聴かせてくれたね~!」という興奮気味の男性達の会話が聞こえてきたけれど、幸か不幸か一流オケではなかったためにそういうデュトワの「職人芸」をよりはっきりと感じることができたのだろうと思う。
今回twitterやブログを拝見していると、このオケ、以前はちゃんとした演奏ができるオケだったけれど、その後下向きになってしまったようで。そんな風になってしまったのには、何か理由があるのかな。

前半のラヴェルの協奏曲のピアノは、北村朋幹さん。
私は今回初めて名前を知ったピアニストでしたが、知的で軽やかだけど密度の濃い演奏、とてもよかったです。こんなピアノを聴けるとは思っていなかったので(今日の目的はラヴァルスだったので)、得した気分でした。特に休憩前のオケの音には全く満足できていなかったので、彼の演奏に救われた。ただ2楽章前半のピアノ独奏は、もう少し色合いを感じさせる音の方が個人的には好みかも。
アンコールの武満も、素晴らしかったです。武満は北村さんの音色に合っている気がする。

デュトワ夫妻は、5日のサントリーホールのアルゲリッチ&クレーメルの演奏会にいらしていたとのこと(twitter情報)。
アルゲリッチの『子供と魔法』には当然ながらデュトワとのエピソードも沢山出てきて、興味深く読みました。アルゲリッチに子供を堕胎させたり、かと思うとせっせと彼女を演奏会場まで車で送り迎えしてあげたり、彼女の気の進まない協奏曲(チャイコフスキー1番)を強引に弾かせたり、離婚後でも彼女のNYでの肺癌の手術費用を貸してあげたり(為替の到着が遅れたため)。この入院関連のエピソードでは、手術後の病室にバレンボイム&メータが深紅の巨大な花束を抱えて入ってきたり、アリシア・デ・ラローチャ等が見舞いに訪れたことなども書かれてありました。


ステージ上でのデュトワ、背中がすっと伸びていて、動きも颯爽としていて、とても85歳とは思えない!

Ivo Pogorelich plays Ravel La Valse - live 2018

通常12分程度で演奏される『ラ・ヴァルス』を20分かけて演奏するポゴレリッチ。これはウィーンでの演奏ですが、東京でも同じでした。パリでの演奏はこちら。やはり20分超え。
賛否がハッキリ分かれる演奏ですが、私はとても好きな演奏。こんな演奏なのにワルツの優雅さをちゃんと感じられるのもいい(ええ、私には感じられるんです…)。私は彼の弾くラヴェルが何故かとても好きで、『夜のガスパール』もアルゲリッチよりポゴレリッチの演奏の方が好きなんです。
ポゴさんがデュトワ&フィラデルフィア管と東京でショパンのピアノ協奏曲を演奏したときに、あまりにマイペースなピアノにデュトワ&オケがキレたという話を読んだことがあるけれど、どちらもアルゲリッチと仲がいいのに、彼ら同士は気が合わないのでしょうかね(というかデュトワ&オケが一方的にキレていたらしいが)


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