風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ロンドン交響楽団 @サントリーホール(9月29日)

2018-10-03 21:40:37 | クラシック音楽



いま気づいたけれど、このチラシわざわざ「Music Director」と書かれてあるんですね。ここ重要ということか?

コンサートホールってこの世の天国だなぁ、と改めて感じさせてもらえたラトル×LSO最終日のサントリーホールでした。あの世ではなく、この世の天国。そういえばハイティンク×LSOのブルックナーのときも同じように感じたのだった、ということも思い出した。神の世界の美しさではなく、この世界の美しさ。
前にも書いたようにLSOの音は決して本来の好みとは違うのだけれど、こういう音こそがこのオケの魅力なのかもしれないな、と3年前と今回の演奏会を通じて感じることができたのでした。
とても楽しくて、とても幸せな公演だった。


【ラヴェル:マ・メール・ロワ】
もう初っ端から素晴らしかった。
次から次へと音が移り変わっていく様が実に鮮やかで、自由自在で、でも決して乱暴にならず品があって、そしてなによりオケから出てくる音がとても楽し気。この曲の一つの演奏としてほぼ完璧じゃなかろうか、と思いながら聴いていました。
暗譜で指揮しているラトルはとっても楽しそうで、コンマス(LSOではリーダーですが)もこの曲を弾いているときが一番楽し気に見えた。二人ともこの曲が好きなのだろうなあと思うのと同時に、サントリーホールの音響でこの曲を演奏していることを心から楽しんでいるようにも見えたのでした。なぜなら時々本当にものすごくいい響きがしていたのだもの。そしてそういうはっとする音で演奏がキマる度に同時ににやっと笑うラトル&コンマス。コンマスのソロもいい音でした~。
そしてこれは初日のスラヴ舞曲やヤナーチェクでもちょっと驚いたことだけど、メロディアスなメロディで聴かれたオケの音の艶と深み。こういう音がこのオケから出るというのは素晴らしいことだなぁ、と。ラトルはLSOの音にベルリンのような深みを加えたいと言っていましたが、早速効果が出始めているのだろうか。
『親指小僧』の悲しみのところではオケを煽りまくるラトル。これは今回の全公演を通じてしばしば見られた光景だけど、BPhの音に慣れているこの人の耳には「もっとこい!」と感じるときがあるのかもしれないな~とも。
そして『妖精の園』のラスト!あの美しさ&高揚&キラッキラの音色のおもちゃ箱のような多幸感 息をとめてトランス状態で聴いてしまった。
いやあ鮮やか、お見事でした。
ブラヴォー\(^〇^)/

【シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番】
この作曲家の曲を聴くのは今回が2度目(前回はツィメルマンがブーレーズへの追悼のアンコールで弾いた『9つの前奏曲 op.1-1』。シマノフスキの音楽の魅力を全開で教えてもらえた演奏だった)。先日のフレイレのパデレフスキにしても、ポーランド旅行から帰ってきた途端にあの国の作曲家の曲を立て続けに聴くことができて本当に嬉しい。来年は国交樹立100周年とのことなので、色々ポーランド出身の作曲家の曲が聴けたらいいなぁ
ソリストは、ジャニーヌ・ヤンセン。オランダのヴァイオリニスト。以前youtubeでチャイコフスキーの協奏曲を聴いたときは私の好みより少々熱すぎる演奏をする人のように感じたのだけれど、実演を聴くといいねえ!彼女の音に耳が引きつけられるオーラのようなものがあって。演奏もなんていうか、大人な演奏でよかった。
ヤンセンの音はロンドン響の音とも不思議とよく合っていて。基本的にクールに聴こえがちなこのオケの音と情熱的なヤンセンの音がぶつかり合うことなくうまく溶け合って、これはこれでとても良い感じ(一方youtubeにあがっているゲルギエフ×LSO×ヤンセンの演奏はコッテリ系で、あれはあれで良い感じ)。
そしてツィメさんとの『不安の時代』でも感じましたが(あれは正確には協奏曲じゃないけど)、ラトルは協奏曲の指揮が上手いね。オケにもがっつり攻めさせるのにそれがソリストの個性を殺さないで、両者の間に温かみさえ感じさせるのだもの。温かみのある音を出すタイプのオケ&ソリストではなくてもそういう協奏曲が出来上がるのは、この人の人柄も関係あるのか。この曲だけは譜面ありで指揮していましたが、シマノフスキはラトルの好きな作曲家のようです。いっぱい録音しているそうな。

【ラヴェル:ハバネラ形式の小品(アンコール vn:ヤンセン、pf:ラトル)】
協奏曲の後に指揮者がソリストだけをカーテンコールに送り出すときの舞台袖でのやり取りが私は結構好きなんですが。ブロムシュテット&ピリスのときは「マエストロも一緒に…」なピリスにブロムさんが「次は一人で行っておいで」とめちゃくちゃお優しそうなジェントルマンぶりを発揮されていてほっこりさせていただいたものでしたが、今回はやはり「マエストロも一緒に…」なヤンセンに「Bye Bye」としてみせたラトルの姿がツボでした。その後再び一緒に登場した二人は徐にステージ後方へいき、ラトルが客席へ「Ravel!」と叫んでピアノに座るともう会場大喜び
アンコールでラトルがピアノを弾くことがあるのは海外の何かのレビューで読んで「聴けた人が羨ましいな~」と思ったことがあったので、今回聴けて嬉しかったな。
この二人の演奏、もうすんごい素敵でねぇ。。。憂いを帯びた音色のしっとりした大人の色気と、濃密だけど濃すぎない軽みと、お洒落感。こういう種類の空気は日本人にはなかなか作り出せないもののような気がする。ラトルはさり気ない魅せ方、聴かせ方が上手いね~。さすが指揮者。ヤンセンとの雰囲気もとてもよかったです。
そしてそんな二人の演奏をめっちゃガン見して聴く団員達の姿が楽しすぎる。皆さんとっても幸せそうな表情をされていました。ロンドン響、以前よりも雰囲気のいいオーケストラになりましたね。

(休憩20分)

【シベリウス:交響曲第5 変ホ長調 op.82
今日一番楽しみだったシベリウス。マ・メール・ロワが最高だったし、シマノフスキが超絶盛り上がってしまったので、どうなるんだろう?と思っていたところ、オケも最終日で少々お疲れなのか、ホルンがコケた冒頭からしばらくは音楽にのり切れていなかった印象。が、次第に回復し、それからの演奏といったらもう・・・!
そう、これこれ!オケから出る音に指揮者が心動かされているときに見せるあの最高に幸せそうな表情!
過去に聴いたmy上位の演奏会の全てで見られたそれ。
オケが指揮者の一つの楽器のように見えて、指揮者とオケが相乗効果で高まりあって、指揮者が「音楽そのもの」に見えるこの現象!
今回LSOの人達がtwitterで頻りにサントリーホールの音響を褒めていたけど、いいホールで演奏ができるのはオケにとっても嬉しいことなのでしょうね。てかバービカンの音響ってそんなによくないのだろうか。私の記憶ではサウスバンクも相当だったがなあ。。
やっぱりラトルもLSOもこういう曲が似合うなぁと思う。LSOの技術(特にホルン)には時々ン?と感じる箇所は皆無ではないものの、全体を聴き終えたときには殆ど気にならなくなってしまう。
またしてもラトルはこの曲が大好きなんだろうなあと感じた演奏でした。今回のツアーはラトルの好きな曲ばかりを持ってきたのだろうという推測は、たぶん本当だろうと思う。
ラトルは10歳でこの曲を初めて聴いたとき大きな感動を受けたそうで、彼自身の言葉を借りると“like a thunderbolt”(雷に打たれたよう)だったとのこと。
このエピソードってどこで読んだんだっけ?と今ネットで探してたら、代わりにこんな記事↓が見つかってしまった・・・。ベルリンフィルとのこの曲の演奏についてのラトルの言葉。

“Simon Rattle, discussing Sibelius, explains ‘difficulties’ with the Berlin Philharmonic”

In a fascinating hourlong interview with Sibelius expert Vesa Siren, the Berlin Phil conductor describes the symphony that is least suited to his orchestra.
‘To do an accelerando at all with Berlin Philharmonic is really quite hard! It is a very heavy, Germanic truck that has it’s feet on the ground and part of what is extraordinary is how the sound comes out off the ground. And often with Sibelius, you have to really move. It is not that we can’t rush, because we can rush like hell particularly when we don’t want to. When it is necessary to get faster in a controlled way it is very difficult. It requires the same kind of trust as when you stand up and someone says I will catch you when you fall. To actually do this accelerando without going off the rails requires an incredible amount of trust. I would say that fifth symphony this orchestra found the hardest, by far. The symphonies I found tremendously difficult with other orchestras – 4 and 6 – were absolutely no problem here at all. Berlin Phil knows about the sound and line and how to go through silences with the meaning. I look forward to work incredibly hard (with the fifth) — with enough time to work incredibly hard.’

February 4, 2015, Slipped Disk

要約すると、「ドイツ製重量級トラックのようなベルリンフィルはアッチェレランドをかけるのが非常にハードなオケである。シベリウスではアッチェレランドが特に重要だが、それをうまく行うには指揮者とオケの間に多大な信頼関係が必要で、(他のオケでは非常に困難を伴う4番や6番のような曲をベルリンフィルは難なく演奏する一方で)5番をベルリンフィルと演奏することは最も難しい仕事である」と(誤訳があったら失礼…)。
つまり「自分とベルリンフィルとの間には5番の演奏に絶対的に必要である信頼関係がない」と言っているも同然なわけで。
海外の音楽家って時々驚くほど率直に自分の意見を言いますよね。もっともこのインタビューについてはThe Telegraphで”brutally frank”と書かれているので、彼らの感覚でも率直すぎるものだったようですが。ラトルは25日のサントリーでのマーラーの演奏について"That's got to be one of my top 10 concerts, and one that I will never forget."と言ったそうで(フラ拍手はあったらしいが)、そういうことをBPhを辞めてまだ間もない時期にストレートに言ってしまうのか、とそのときもちょっと驚いたのであった。もちろん多少のリップサービスはあったろうとはいえ。
上記記事のコメント欄には賛否両論の意見が寄せられていて、「トラックを上手く動かせないのはドライバーが良くないからだ」という意見も。
私はクラシックの世界には詳しくないので今回の来日公演を聴いた限りの印象ではあるけれど、やはり相性としかいいようのないものはあるのではなかろうか、と感じる。指揮者とオケの相性だけじゃなく、指揮者と曲の相性、オケと曲の相性も含め。そしてラトルはロンドン響を「ピンを少し触るだけで作動する高性能のスポーツカーを運転しているよう」と例えていて、ラトルの好きなタイプの曲を好きな方法で演奏するにはやはりロンドン響が合っているのかな、と。もっとも、彼は昨年9月に音楽監督に就任したばかりで今はまだ新婚の蜜月のような状態といってもよく、彼らの関係はまだまだこれからなんですよね。今後コテコテの古典の演奏も当然避けては通れないでしょうし、これから色々あるかもしれないけれど乗り越えていってほしいなぁと心から思います。こういう素晴らしい演奏の恩恵にあずかることのできた一聴衆として。

話は戻って、このシベリウス。本当に素晴らしかった。自然の情景が次から次へステージ上に現れては姿を変えていく鮮やかさ、生き生きとした躍動感、そして草木の臭いや空気の透明感を感じさせる美しさ。先日のマーラー9番の終楽章で「ここにそこまでの弱音は必要だろうか?」と思ってしまったあの驚異的なピアニシモ(これはラトルの特徴なのだそうですね)も、この曲では非常に効果的。そしてあの16羽の白鳥が頭上を舞う場面のおおらかな幸福感。。。敢えて言うなら最後の最後の和音部分がより解放感があると嬉しかったけれど、今夜の演奏全体からもらえた満足感に比べたら些細なこと。

【ドヴォルザーク:スラヴ舞曲 Op.72-7(アンコール)】
24日の全曲通し演奏のときとは違うアンコールバージョン
全曲のときも痛快だったけど、今日は全体の中のバランスなど関係ない、F1スポーツカーが暴れまくっているような7番!
すっごく楽しかった~~~~

今日はソロカテコも思いきり参加しちゃうよ!
ラトルのソロカテコ待ちの拍手のときに目の前で退場中の奏者達に向けて拍手をしたら、皆さん嬉しげに笑い返してくれました(目と鼻の先で退場している奏者達をガン無視でラトルが出てくる扉の方をひたすら見て拍手していたお姉さま方、素晴しい演奏を聴かせてくれたオケに対してあれはちょっと失礼では・・・。どちらにしろオケがはけないとラトルは出てこないのにねぇ・・・)
今回も、残っていたパーカッションさんに声をかけるラトル。毎回このシチュエーションだったけど、このために敢えて一人残してるのでしょうかね。おお、ラトルが近い。
そしてP席にも「アリガトウゴザイマス」と。P席に会釈してくれた来日オケの指揮者は数いれど、声までかけられたのは初めてだわ(しかも日本語)。
最後まで「気持ちのいい演奏会」という言葉がピッタリで、そして今このときのこのコンビの演奏を聴くことができてよかったなあと心から思えた、ロンドン交響楽団2018年来日公演でした。

ラトルはLSOの音楽監督を人生最後の仕事にするつもりとのこと。
38年間ロンドン響に在籍され今回のツアーで引退されるサブリーダーのLennox Mackenzieさん(今日のカーテンコールでラトルから花束とプレゼントが贈られました)は、ラトルが音楽監督として就任して最初にオケと話した日に彼にこんな風に言ったそうです。”I hope and I'm sure the LSO will make you as happy in the next years as it has made me for my whole working life." 本当に、LSOとラトルの未来が幸多きものでありますように!そしてベルリンフィルとペトレンコの未来も!と願わずにいられません。これからはラトルも気楽にベルリンフィルを振れるようになるといいね

※ベルリン・フィル・ラウンジ第122号:ラトル、シベリウスを語る


フルート首席さんのtwitterより。二人の演奏をガン見しているオケメンバーズにご注目ください。
ラトルはベルリンフィルのときと同様にファーストネームで呼ばれているんですね。


ラトルとヤンセン


※ロンドン響というオケについてハイティンクが彼に言ったアドバイスのことをラトルは度々インタビューで語っていて、それは「(彼らはあまりに忙しすぎるから)良い演奏をさせたいなら、十分な休息とリハーサルの時間を与えてやれ。そうすれば、彼らは他のどんなオーケストラよりも素晴らしい演奏ができる」というものだったそうです。ラトルによるとロンドンのオケ、中でもロンドン響はスケジュールが殺人的なのだそうで。もしベルリンフィルが同じスケジュールを与えられたら、一ヶ月で全員が病院行きになるだろう、と。ラトルが音楽監督になってそういう状況も少しずつ改善されていくといいですね。
なおラトルはロンドンに引っ越すことはせず、一年のうち四ヶ月ほどをロンドンで過ごし、基本はベルリンに住み続ける予定だそうです。でもロンドン響の日常的な運営には積極的に関わっていきたい、とのこと。

His title at the LSO will be Music Director – which in itself signals a change from the role taken by his immediate predecessors, who were designated Chief Conductor. What is the difference? “I will be much more involved with the day to day, even though I won’t be living here permanently. This is a proudly independent orchestra, but it’s a matter of having someone taking care – it’s been a long time since they’ve had that.” Not every conductor wants to take on the nitty gritty of an orchestra’s long-term development. “Valery [Gergiev] wasn’t interested, nor Claudio [Abbado]. Colin [Davis] loved them to bits, but he made it very clear that he did not want anything to do with the running or the auditions or the personnel.”
So when did the LSO last have a real caretaker? ‘I suppose it was Andre”, he says – and Previn ended his tenure as principal conductor in 1979.

Rattle will be in London for about four months every year in total, when, he says, “I will absolutely work my ass off for the orchestra and for the arts. And then it will be good to escape. I think if I lived here I would be ‘on’ absolutely every day, and I’m not sure I would survive. Not in my 60s.” Home for the 62-year-old will remain Berlin, where his children are growing up. He and his wife, the Czech mezzo-soprano Magdalena Kožená, have two boys aged 12 and nine, and a three-year-old girl. (He has two grown-up sons from his first marriage.) They live half an hour from the city centre, five minutes from the Grunewald, where a forest walk offers the chance of an encounter with a wild boar, and next to a lake where the children can swim. Family life involves “an awful lot of football and table tennis and trampoline. Or we go down to the local playground, or we make sushi together – it’s really messy but not so difficult if you don’t want it to look gorgeous. And there’s a lot of making sure the tortoises don’t escape from the garden. All they do is sleep, eat and try to escape. We had three.” How many do they have now? He winces. “Two.”

(4 Aug 2017, The Guardian

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