風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ロンドン交響楽団 @サントリーホール(10月6日)

2022-10-08 04:41:28 | クラシック音楽




前日に続き、ロンドン響サントリー公演2日目に行ってきました。
ラトルらしさいっぱいのおもちゃ箱から取り出したようなプログラム、ラトルらしさいっぱいの演奏。
とてもとても楽しくて、ワクワクして、幸福でした。
ラトル&LSOの演奏会はいつも私に”この世の天国”を感じさせてくれる。
心からありがとう、ラトル&LSO。

昨日もだけど、ロンドン響は奏者達が拍手に迎えられながら一斉に入場ではなく、各々がぱらぱらと舞台に出てきて、気づけば揃っているという珍しいパターン。この気取りのない親しみやすい感じ、私はとてもいいと思いました。


【ベルリオーズ:序曲『海賊』 Op. 21】
これぞラトル&ロンドン響の音
この鮮やかさ、明るさ、躍動感。第一音から昨日とは別のオケのよう。やはり昨日はお疲れだった
まるでディズニーランドで10分間のアトラクションに乗ってるみたいで、楽しくて仕方がなかったです。ベルリオーズらしくはないのかもしれないが、大大大満足!
金管も昨日に増して輝かしい。

【武満徹:ファンタズマ・カントスⅡ(トロンボーン:ピーター・ムーア)】
「個人的に大好きなフランス音楽も取り入れたかった。フランス音楽から影響を受けた武満徹の作品を日本で演奏したいとずっと思っていたので、トロンボーン協奏曲(ファンタズマ/カントスII)を取り上げる。武満徹はジャズから非常に影響を受けている。父がジャック・ティーガーデンを好きで私も小さいころから聴いて育った。トロンボーンが歌手のように美しいアリアを奏でる」
来日前インタビューより。ontomo)

ラトルはこの曲だけ譜面あり。
トロンボーンと他の楽器が織りなす妙にうっとり
ロンドン響ってこういう大人な音色も自然に出しますよね。
トロンボーンの音色の柔らかで繊細な移り変わり。指揮者の隣で吹いたのでP席に音が飛んでくるか心配だったけど、ちゃんと聴こえた
ところで武満を海外の奏者が演奏するときに必ず「日本人が演奏する場合」との比較が議論に上がるけど、谷川俊太郎さんが(友人の)武満徹が海外で受け入れられたときに「詩と違って言葉の壁のない音楽が羨ましかった」と仰っていたことを考える。音楽に国境はあるのか、ないのか。私はあるとも言えるし、ないとも言えるように思う。ただ武満自身は、自分の曲を海外のオーケストラが演奏することを心から楽しんでいたのではないかなと思う。以下のKajimotoの連載記事はとても面白いのでオススメです。

・没後25年を思う──蔵出し連載「武満徹と〇〇〇の間」+ 雑感色々(その1) 、(その2)、(その3)、(その4)、(その5

《ノヴェンバー・ステップス》をヨーロッパで初演したのは、ハイティンク&RCOだったんですね。ハイティンク39歳のとき。上記連載には武満とLSO、ラトルについてのエピソードも書かれてます。

【(ソリスト・アンコール)ディヴィッド・ユーバー:ブルース エチュード(Clef Study No18)】
ジャズのようで素敵だ…。サントリーホールじゃないところで聴きたい(お酒飲むようなところ)
ムーアと一緒にステージに戻ったラトルは、空いてるハープの席に座ってすごく楽しそうな表情で聴いていた。演奏後は隣の奏者に興奮したように話しかけてて子供みたいだ。ラトル、こういう曲が好きそうですもんね。

【ラヴェル:ラ・ヴァルス】
このコンビのラヴァルスは、狂暴な響きは出てるけれど不穏さは皆無。いや、音自体はちゃんと不穏なんだけど、根本が不穏じゃないというか。音楽が崩れるところも整然と崩れていく。ロンドン響が巧すぎるのが仇になっているのではなく、ラトルの音楽作りがそうなのだと思う。指揮してるラトルの表情も全く不穏じゃなく、めっちゃ楽しそう
この曲に関しては、私は優しく甘くかつ刺激的なデュトワの方が好みで、ワルツの切なさもあちらの方が好きなのです。
実は今回の来日に先立って行われたベルリン公演(武満以外は今日と同じプログラム)でのラトル&LSOのこの曲の配信を聴いて、私、持っているロンドン響のチケットを全部手放そうかと思ったほどで。自分の好みと合わなすぎて。他の曲の演奏がよかったから思いとどまったのですけど。
でもいざ生で聴くと、思いのほか楽しめた
このロンドン響の音で思いっきり演奏されるラ・ヴァルスを聴くこと自体、凄く贅沢。それに音の狂暴さはしっかりあるから、聴いていて興奮するし楽しい。
好みじゃなくても、楽しかったから満足です。
それに、今の私は心が暗いので、ラトルの音楽の明るさに救われたのも正直なところ。

(20分間の休憩)

【シベリウス:交響曲第7番 ハ長調 Op. 105】
今日も前日同様、休憩時間にオーボエ&フルートが交代(もっとも今日は前半も問題なかったけど)。
この2日間の私的白眉はこの曲でした。4年前の5番も素晴らしかったけど、今回の7番の美しさといったら。。。。。。。。。
ラトルはラヴァルスのような「安定しているものが崩れていく美しさ」の音楽よりも、こういう「混濁しているようで実は安定している世界の美しさ」を表す音楽の方が合っているように感じる。LSOとのラストコンサートはトゥーランガリラとのことだけど、このコンビに合ってると思う。
そしてLSOの透明で清澄な音色はシベリウスに本当によく合う(5日の演奏は残念だったけど)。
以前はこの楽団の音の色の薄さに戸惑ったけど、今はこの楽団にしかできない音楽があることがわかる。
ラトルの、最後の和音のさりげない終わり方も凄くいい。とはいえここは難しいのか、ベルリン公演の演奏は僅かにアッサリしすぎで消化不良だったのです。でも、今日のは大変良かった。
予習で聴いたサロネンの膨らませるように響かせるラストも素敵だったけど、今日のように完璧にキマるならラトルのようなまっすぐな音色のままの終わらせ方は個人的に凄く好き(それにしてもサロネンとラトルは得意な曲が似てますね)。
暗く淀んだ心が洗われるような演奏でした。

【バルトーク:バレエ『中国の不思議な役人』組曲】
シベリウスが素晴らしすぎたので、もうあれで終わりでいいんじゃない?と思いかけたけど、ここでこの曲なのがまさにラトルだよね
最後のお祭り気分で、思いっきり楽しめました!
娘を表すクラリネット、色っぽくて大変よかった。ラトルもすごく満足そうに見てた。
ラトル&LSOなので全体的に不気味さは薄いけど、巧すぎて別の意味で怖い。ジェイソンに狙われてる気分で、ロックオンされたら最後、絶対に敵わない感じがする。
ただ大音響の時はサントリーホールの音響では音が混濁気味で、本来はミューザのようなホールが合っている曲なのだろうなとも。と同時に、ミューザだと解像度が良すぎて不思議っぽさ色っぽさは減退してしまうような気もする。それにしても音の飽和状態の中でもこれほど完璧に美しく思いきり演奏できるロンドン響は凄いものだ。
最後の追い上げ、いやあ、凄まじかった。楽しかった。
こんな風に最高に楽しい気分にさせてくれるのも、ラトルの魅力ですよね。
チェレスタは日本人だったのかな?演奏後にラトルが感謝を示していた。

【(アンコール)フォーレ:パヴァーヌ Op. 50】
ラトルの日本語での曲紹介に続いて、アンコール。
このコンビって、こういう雰囲気の音楽もほんとに上手い。
フルート、美しかった。。。。。。。。。
この曲はまさにサントリーホール向きの音楽。
幸福な2日間の最後の曲をしっとりと聴きながら、こうして彼らの音楽を聴けていることの貴重さを感じました。
以下は、先日の日経のニュース。
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クラシック音楽事業の老舗であるジャパン・アーツの二瓶純一社長は、今秋のような一流オケの来日ツアーが「今後、激減するのではないか」と予想する。「大きなスポンサーがつく公演は別として、中小の民間事業者が、今のようなコスト高の中で一流オケを呼び続けるのは無理」。最近の海外との交渉の中で「欧州の音楽関係者も、今後、アジアツアーを諦めざるを得ないと考え始めている」とも感じているという。
新型コロナによる入国制限は世界的には緩和されつつあるが、中国ツアーの再開にはまだ時間がかかりそうだ。「ジャパン・マネー」で音楽家を呼べたバブル景気の時代と違い、近年のアジアツアーは「チャイナ・マネー」を目当てに企画される傾向があった。それができないとなると、日本や韓国だけに来るメリットは小さい。実際今年も、中国ツアーが成立しないことを理由に中止になったオーケストラの来日がいくつかある。
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国力が弱まるというのは、こういうことなのだなあ…。
現実に起きて実感する。

奏者達のP席への一斉挨拶の笑顔。目の前のホルンやパーカッションの人達がニッコニコで振り返ってくれて嬉しい

ラトル&LSOの公演はいつも、終演後にホールを出た人達がみんな笑顔で幸福そうで。
そんなやっと戻り始めた日常の光景を眺めながら、この先どれくらい東京でこういう風景を当たり前のものとして見られるだろうか、と思ってしまった。特別なものではなく、当たり前のものとして。日本の未来と、世界と、美しい音楽と…。
でも今は、こんな美しい時間を人生の中でまた一つ持つことができたことに、ただただ感謝。

一夜明けて、7日は私の誕生日。
でも普通に仕事…(在宅だけど)。
まあ素晴らしかった演奏会の感想をこうして書けることも幸せなことです。

ラトルは次回はバイエルン放送響と来日かな。
ラトル&ロンドン響、私にとってはヤンソンス&バイエルン放送響と並んで相性完璧コンビだったのだがなあ。仕方がないとはいえコンビ解消は実に実に惜しい。。。。。。ヤンソンスさんの後任がラトルなのは嬉しいかもだけど。
とはいえロンドン響の後任のアントニオ・パッパーノを今回の予習で初めて聴いたけれど、LSOとの相性はとても良いように感じました。こちらのコンビも楽しみ


せっかくラトルが日本語で言ってくれたけど、肝心の「フォーレのパヴァーヌ」が聞き取れなかった。日本語発音を頑張ってくれたけど、イントネーションが「フォーレ⤵」じゃなく「フォーレ⤴」なんだもの(この曲がアンコールで演奏されることはベルリンと大阪の公演で知っていたので問題はない)。



武満の娘さんがツアーマネージャーだったのか
以下は、先ほどご紹介した連載記事より。

ところで、私が武満徹さんと会話したのはたった一度。
1992年、東京芸術劇場でサイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団がメシアン《トゥランガリラ交響曲》を演奏した際の、終演後のロビーです。私は上司に「武満さんはラトルと親しいから、楽屋に案内して」と指示され、武満さんをロビーからバックステージへとお連れしました。その時の武満さんは真赤な顔で興奮しておられ、こんなことを言っていました。

「僕はこんな《トゥランガリラ》聴いたことないよ!少し前、エサ=ペッカ・サロネンがN響を指揮した演奏で、これ以上のものはない、と感激したものだったけど、さらに上があったんだねえ!」と。
実は私もそのサロネン/N響の演奏を聴いており、この日のラトル/バーミンガム市響も客席で聴くことができたので、「私もまったくおんなじ思いです!!」とつい熱くなって返答しますと、「そうか君もか!いや~ホント凄かったよね」と、この後お互いよくわからない感嘆の言葉の応酬をしつつ、廊下を歩いて行きました。
Kajimoto News 没後25年を思う──蔵出し連載「武満徹と〇〇〇の間」+ 雑感色々(その5)

音楽プロデューサー 武満真樹さん 父・武満徹は猫がピアノの鍵盤を歩くと「なるほど」(東京すくすく)

そして帰宅してバレンさんのこのtweetを知ったのでした……。
バレンさん、大丈夫なのかな……。心配……。どうかお大事に……。
そして12月の来日はどうなるのだろう。もしキャンセルなら、テンポプリモさんも前回のリサイタルの一件に続いてお気の毒です…。


※追記


皆さん、飛行機使わず新幹線で小倉行くのか…!
私も全国割で新幹線で九州行くのを考えて(飛行機苦手なので)、5時間は耐えられないかも…と思ったのけど、意外とイケるのだろうか。考えてみたらロンドン→エジンバラの鉄道は4時間半、アンカレジ→デナリは7時間だったけど全然ノープロブレムだった。そもそも飛行機のエコノミー席に12時間座ってヨーロッパ行けたんだから、それより座席の広い新幹線で5時間なんて実はどうってことないのか…?


今回の来日公演でコンマスをされてたAndrej PowerはLSOの新しいLeaderなのかな?と思ったら、guest leaderとのこと。

※さらに追記


在日英国大使のJulia Longbottomさん、書道もされるんですね
ラトルが彼女に日本への思いを熱く語ってくれたという話も、嬉しかったな

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