シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ヤクザと憲法

2017-03-14 | シネマ や行

「ヤクザと憲法」ものすごい題名だ。題材もものすごい。こんなドキュメンタリー発表してるの、やっぱり東海テレビ。

大阪府にある指定暴力団に密着取材をしたドキュメンタリー。

暴力団対策法のきっかけともなったと言われる殺人事件で15年の服役から出所してきた会長を迎える組員たち。誤解を恐れずに言うが、この会長さんがすこぶるカッコいい。見た目が男前で若々しくて実際すぐにでもヤクザ映画の主役を張れそうなほど。このドキュメンタリーを撮らせることに何かしらのメリットを感じて応じたのだとは思うが、その面を考えてもきっと頭も良い人なのだろう。

この会長さんが大阪の西成区から飛田を抜けて新世界の居酒屋へ向かう。新世界というと最近では随分観光地化しているようでよくテレビの取材なんかも入っているが、会長さんが行く居酒屋辺りはおそらくそんな場所じゃないもっと本物の新世界。居酒屋のおばちゃんに撮影スタッフが聞く。「この人がヤクザの会長さんって知ってるんですか?」「知ってるよ」「怖くないですか?」「なんも怖いことなんかあるかいな。よう面倒みてくれるよ。あんた、警察が私らに何してくれる思う?」本物だ。おばちゃんも会長さんも。

会長さんは言う。暴力団対策法や暴力団排除条例で全国のヤクザが銀行口座を作れない、自動車保険に入れない。これわしら人権ないんとちゃうの?ヤクザが人権とは何を言うか。そんなものを守らない自分たち、そんなものを放棄したのがヤクザじゃないのか?という意見もあるだろう。ワタクシも正直どう考えたらいいか分からない。ただ犯罪者相手だからこっちも人権なんか守らなくていいというのは違う気はするんだよね。。。途中でガザ入れに来た警察の姿も映されるが、あれを見ているとどちらがヤクザだか…という感じもした。(まぁそれくらいじゃないと対抗できないのだろうけど)

山口組の顧問弁護士である山之内幸夫さんも登場する。自分も貧しい商売人の家に生まれ、ヤクザの組員たちの境遇に共感するという山之内さん。彼はとても正直に、ヤクザの世界への好奇心を語る。それがあったから彼らの顧問弁護士になったのだと。彼自身、山口組の顧問弁護士であるという立場のせいで、いちゃもんまがいの罪を検察にかぶせられて有罪判決を受け弁護士資格をはく奪されているし、それ以前に家族にも疎遠にされているけれど、それでも元をたどるとやはり自分の好奇心に勝てなかったというわけだろう。

西成区とその傘下にある堺市にあるヤクザの事務所が登場し、現役の本物のヤクザが何人も登場するのだが、なんかやたらと人当りは良くて少し拍子抜けしたりもする。しかし、その一方で「しのぎ」について行けば当然何をやったかは教えてもらえない。そりゃそうだ。一人の組員がお墓をピッカピカに掃除するシーンがあるのだけど、学校時代からこういうこと全部サボりたい人だったからヤクザになったようなもんなのになぁ、ヤクザになったら下っ端が掃除とか隅から隅までピッカピカにするんだから不思議だよね。

部屋住みと呼ばれる一番下っ端の男の子が登場するのだけど、およそヤクザのイメージからはほど遠い学校でいじめられていた青年だったのが印象的だった。戸塚ヨットスクールが昔は不良の集まりだったのがいまはひきこもりの子の受け入れ施設のようになっているのをなぜだか思い出した。普通じゃなくてつまはじきにされてきた彼はどこかでヤクザに共鳴したのだろう。

ワタクシはこの作品に登場する地域がまさにどこか分かる場所の出身なので、ヤクザの事務所の前の道を小学生が普通に通っていく光景もあまり違和感なく見ていたし、登場する組員たちの人当りの良さに少し拍子抜けすると書いたが、やはりこの映像にあるあのめちゃくちゃ重そうな鉄の扉の玄関を見ると、あぁやはりここはヤクザの事務所なんだなと実感させられる。

ヤクザの勝手な主張ばかり宣伝するプロパガンダ映画だと感じる人もいるだろうけど、ワタクシは山之内さんのように好奇心から見て、色々と考えさせらた作品でした。



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