劇場で予告編を見て興味が湧いたので行きました。
山陰のさびれた港町・上終(カミハテ)という自殺の名所で小さな商店を営む千代高橋惠子。彼女の焼くコッペパンと牛乳を自殺者は最後に口にして断崖絶壁へと向かう。千代は彼らが残した靴を持ち帰り、家に置いている。彼女の父親もまた彼女が幼いときに彼女の目の前で断崖に身を投げて自殺している。
千代を訪ねてくるのは牛乳屋の知的障害の奥田君深谷健人と役所の福祉課の須藤水上竜士くらいで、あとは自殺願望者だけだ。
千代の弟良雄寺島進は都会で会社を経営しているが、売り上げが回収できず支払いに困っている。そんなときホステスのさわ平岡美保に出会う。さわは連れ子を一人で育てていたが、貯金通帳と連れ子を良雄に託して姿を消してしまう。
千代の店の前に毎日バスが来る。おそらく数時間に1本。一日に数本といったところだろう。千代はバスが停まる度に身を固くして待っている。今日は自殺者が降りてくるのか、誰も降りてこないと分かると千代はまたコタツに寝転がり、自殺した父と病気で亡くなった母を想う。
自殺者が最後にパンを食べる店としてネットでウワサになってしまった千代の店に面白半分で訪ねてきた女の子たちを千代は酷く冷たく追い返した。自殺者が来たからといって止めるわけでもない千代だが、自殺者をあざ笑うような人間は許せないのだろう。
ある日、子供を置いて自殺しに断崖へ行こうとした母親を止めた千代は警察や役所からお手柄と言われるが、その親子は帰り道で線路に飛び込んで死んでしまった。自分が止めさえしなければせめて子供だけでも助かったものを。千代はそう思ったに違いない。それでも奥田君が断崖に立っていた時、それを止めずにはいられなかった。
またある時やってきた若い女性にはパンはないと言って追い返してしまう千代。その女性は「ここのパン食べて死のうと思っていたのに調子が狂った」とバスの運転手あがた森魚に言い残し帰って行った。人は何かにすがりついて何でもいいから理由をつけて死なないでおこうと思いたいのかもしれない。自殺者を送り届けることの多いバスの運転手が「連れてきた人を帰りも乗せるのは目覚めがいいもんだね」と言う。自分には直接関係がなくともやはり人の自殺というのは重く心にのしかかるものなのだろう。
弟の話と千代の話がどこで合流するのかと思っていたら、最後に行方をくらませたさわが千代の店にやってくる。彼女は無事もう一度帰ることができたのか。
おそらく病気を抱えていると思われる千代はただ淡々と日々を生きている。あまりに淡々としていて見ているのはちょっとツライ。セリフが非常に少ない中で高橋惠子の演技は素晴らしいんだけれど。
ただ、ワタクシはセリフの少ない映画というのが結構苦手なので。製作者側が言わんとしていることは受け止めてることはできていると思うんだけど、もう一度見たいかと言われればNOだし、人に薦めるかと言われても正直こういう映画が非常に好きという人にしか薦めないな。ごめんなさい。
自殺が愚かなことなのか、命は尊いものなのか、この作品はその答えを観客に押し付けはしない。ただもし自殺の名所まで行って自殺を思いとどまった人々が、現実に帰っていってまた生きようと思える世の中なのか。自殺大国と言われるこの国の受け皿というもの関して考えさせられた。
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