シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ホロコースト~救出された子供たち

2007-05-23 | シネマ は行
第二次世界大戦の直前、ナチスがユダヤ人を迫害し始めたことからイギリスはユダヤ人の子供たちを受け入れることを決めた。イギリスへ一時避難したことによって生き残ったユダヤ人の子供たち。現在、大人になった彼らがその時代を振り返る。

これはドキュメンタリー映画で、彼らへのインタビューと当時の映像や写真を組み合わせて作ってある。2000年のアカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞している作品。

幼い子供たちが両親と引き裂かれて外国に避難する。子供たちは一様に「自分たちは親に捨てられるんだ」という感覚でいたらしい。確かに、どんなに頭では危険が迫っているから自分たちを助けるために外国にやるんだとは分かっていても、幼い子供たちにとって両親からそんな形で離れることは理不尽極まりない出来事だっただろう。

ナチスドイツ領であの時代を過ごしたユダヤ人の運命を考えれば、あの虐殺が始まる前にイギリスに逃げられたなんて、なんてラッキーなことかと思ってしまうのだけど、彼らの話を聞くとそれだけでは済まされない心の葛藤や苦しみがあったことが分かる。そりゃ、もちろん、彼らがイギリスに受け入れられて命が助かったことを感謝していることは間違いないとは思うけど。

ここに出てくる人がみな印象深い話をしてくれるのだけど、まだ5、6歳の子供が受け入れ先のイギリスで近所をまわり、ドイツにいる両親を雇って受け入れてくれる先を探したり(そして、成功していたりもした)していたことに非常に驚いたし、それを子供に頼める両親もすごいなと思ったりもした。(悪い意味ではなく)

英語を早く覚えて、もう二度とドイツ語を話さないと決めた子や、戦争が終わって両親と再会できたけど、母国語が分からなくなっていた妹や弟のために通訳をしなくちゃいけなかったお姉ちゃんや、チェコ語でおしゃべりがしたくてもできなかったから、ひたすら日記を書いていた子。こういうことってとても悲しい。

一番印象に残ったのは、イギリスに向かう汽車に乗ったのに、娘を手放すのが直前でイヤになった父親に汽車の窓から引きずりおろされた女の子の話だった。彼女はドイツに残ったため、その後、収容所に送られるのだが、そのときの話もすごい。彼女は何度も収容所に向かうために駅に呼び出され、そこで何の手違いだか、手続きだか、何度も今日は帰れと言われた。収容所に向かうために呼び出され、また帰されるということが何度も続き、それに疲弊した彼女はある日、今回も帰れと言うナチスの隊員に「私を列車に乗せて」と言った。こんなふうに何度も呼び出されて怖い思いをするくらいなら、収容所に行ったほうがマシだと思ったのだろう。収容所の本当のおぞましさを知らなかったからできたのかもしれないが、人間の心理とは本当に不思議なものだ。彼女が収容所から解放されたときは体重が20何キロかしかなかったらしい。彼女の父親が汽車の窓から彼女を引きずりおろさなかったら、こんな目に遭うことはなかったという話は父親と一度もしなかったと言う。この女性の話にはとても複雑な要素が絡み合っているように思う。親が子供を子供の安全のためとは言え遠くへやる辛さ。それが分かっているようでいて、本当には分からない子供の辛さ。

そして、自分たちが親になって初めてその当時の両親の気持ちが分かったであろう彼らも、「もし、同じような状況になったら他人には預けないでおこう。自分たち、友達同士で預かりあおうと決めている」というセリフを聞くと、やはり幼い彼らにとってそれがどんなに辛いことだったのが分かる。

別の女性の言葉だったけど、「あのたった6年が私の人生のすべてを変えてしまった」と言っていたのが印象的だった。「戦争」というものが人に与える影響を考えさせられる。

ここに挙げた以外にも印象深い話をたくさん知ることができる作品です。興味のある方はぜひご覧になることをオススメします。重厚な声のナレーションはジュディディンチです。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-05-26 13:08:17
戦争を考えるために、小林よしのり著『戦争論』を読んでみてほしい。

ここが考えるスタートだと思う。
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