シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

フォッグオブウォー~マクナマラ元米国防長官の告白

2012-04-18 | シネマ は行

2003年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品です。

ハーバード大出身で、フォード社の社長、アメリカ国防長官、世界銀行の総裁を務めたロバートS.マクナマラの証言を基にアメリカの戦争史を振り返る作品。

ここでは主に第二次世界大戦、キューバ危機、米ソ冷戦、ベトナム戦争が語られる。

第二次世界大戦のとき、彼はどのようにしたら効率的に攻撃ができるかという報告書を出し、これに基づいて好戦派のルメイ少将は日本の各都市を無差別爆撃し、一般市民を殺しつくした。その延長線として広島・長崎に原爆を落とした。マクナマラもルメイもこの戦争に勝たなければ戦争犯罪人になるほどのことをしているという自覚があったようだ。戦争に勝つためにはどんなことでもするというルメイと、それにしても程度というものがあるというマクナマラは対立したようだったが、結局は原爆を落とすまでになってしまった。

戦争から帰還し、経営不振のフォード社を立て直すために迎えられたマクナマラは車の事故についてまた徹底的に分析し、原因を追究し、車のボディの素材を考えシートベルトをつけることを考案した。フォードの社長になってたった5週間でケネディ大統領から国防長官に迎えられる。

キューバ危機はマクナマラの尽力もあり回避されたが、米ソ冷戦時代を振り返り、彼は「あれはcold warなんかじゃなかった。hot warだった」と発言している。それだけ核戦争一歩手前まで行っていたということだろう。

ベトナムからの撤退をジョンソン大統領に退けられ、ベトナム戦争は一層泥沼化する。歴史に「もし」はないと言うけれど、もし、ケネディ大統領が生きていたらどうなっていたかと彼は言う。ケネディ大統領が亡くなったときの話をいまだに涙ながらに語る姿が印象的だった。

彼は2009年に亡くなられているが、このインタビューのときで85歳というのが信じられないほど矍鑠(カクシャク)としている。話しているだけで頭脳明晰な人なんだなぁということが伝わってくる。彼は国防長官在任中、「人間的判断より論理的判断を尊重する人間コンピュータ」と言われたそうだが、国防というセンシティブな問題を扱うにはふさわしいと思えるのだけど。ただ残念なことに彼は分析屋で、その分析をどのように扱うかというのはやはり扱う人間に大きく左右されるということなんだろう。だからこそ、日本への大空襲やベトナム戦争の泥沼化が起こったのだろう。

人類が戦争というものを完全にやめられると思うほど理想主義者ではないと自らも語るように、彼は非核派ではないし、反戦派でもないんだと思う。それでも、自分のできる限りの努力をしてなんとか避けれることは避けようとしてきたように感じた。ベトナム戦争で使用した枯葉剤について、ルールがないんだからしょうがないよと開き直ったように見えたのは残念だったけど、立場上なんとも言えないことも多いのだろう。ベトナム戦争の責任について問われたとき、「何かを言っても言わなくても騒ぎになる。それなら言わないほうを選ぶよ」と言っていた。懺悔の姿勢を見たいという人もいるだろうけど、あれはあれで彼なりの信念の貫き方のような気はした。

彼のインタビューに合わせた過去の資料映像や、大統領との会話も貴重なものが多い作品で、彼の主義主張に賛同するか嫌悪を覚えるかは別としてアメリカの近代史を知る上で非常に参考になる作品だと思う。



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