公開前から様々な賞を受賞して話題になっていた作品なので、楽しみにしていました。
サイレント映画の人気俳優ジョージヴァレンティンジャンデュジャルダンはトーキー映画の登場とともに落ち目になっていく。一方、トーキー映画の新星ペピーミラーベレニスベジョは飛ぶ鳥を落とす勢いの新人女優。彼女はジョージのファンで、デビューのきっかけをくれたジョージのことをずっと慕っていた。
ジョージを演じたジャンシュジャルダンが各主演男優賞を受賞しているが、彼の愛犬を演じたアギーもパルムドッグ賞を始めたくさんの賞を受賞しているようだ。ワタクシ自身が犬を飼うまではアギーのような犬を見ると「この犬すごいなぁ」と思ったものだったけど、犬を飼い始めてからは「これを教えた人間がすごい」と思うようになってしまった。もちろん、犬自身も賢い仔なんだと思うけど、あれだけの芸を教えるには相当の忍耐がいるだろうなぁと思いつつ見てしまいました。
ワタクシがこの作品で一番気にったキャラクターはそんなアギーではなく、ジョージの運転手クリフトンジェームズクロムウェルだった。ジェームズクロムウェルと言えば、どうしても堅物でなにがしかの陰謀に絡んでいる政府の高官とかそういうイメージがあるんだけど、今回のクリフトンは彼には珍しく雇い主に忠実な昔ながらの執事的な役だった。ジョージが給料を払えなくなっても1年以上ジョージのそばで身の回りの世話をし続け、ジョージがその状態にいたたまれなくなり仕方なくクビにしたあともジョージのことを見守り続けていた。
思えばジョージにはアギー、クリフトン、そしてペピーとまるでガーディアンエンジェルのような存在が3人もいたわけだ。なんと幸せな男か。
サイレント映画だからそんなに複雑な物語を語れるわけはなく、昔の映画ってこんな感じだったんだろうなぁと思う。今の時代にこれを作ることに何の意味があるのかっていうのは実際よく分からない。はっきり言ってこのタイプの映画を何本も見たいかと言われるとちょっともういいわって気にもなる。ここへ来てこういう1本を作ったもん勝ちと言ってしまうのはちょっと意地悪かな。ミシェルアザナヴィシウス監督の目の付け所が良かったということでしょうか。
それでも、当然目先を変えただけで内容が良くなければただの駄作になってしまったワケで。やはりそこには芸達者なジャンデュジャルダンとベレニスベジョの魅力とサイレントでもまったく飽きさせることのない監督の手腕があるのだろう。ベレニスベジョって監督の奥さんなんだね。全然35歳に見えない。ペピーのような新人女優を演じても全然違和感なかったな。
最後にトーキー映画に挑戦したジョージのラストのセリフ"With Preasure."がフランス語訛りだったのが、それまで“ザ・ハリウッド”な情景を見てきただけにちょっと残念な気がしたんだけど、まぁサイレントの役者さんだったんだから何人でも関係なかったわけですね。