シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

花と兵隊

2009-08-24 | シネマ は行
第二次世界大戦時、ビルマ(現ミャンマー)とタイの国境周辺で終戦を迎え、そのまま日本には帰らず現地に残って生活を続けた未帰還兵たちのインタビューを集めたドキュメンタリー。

彼らはなぜ日本に帰らなかったのか?その理由はそれぞれであったと思われる。その理由を語ったのは作品中一人だけだったように思う。インタビューをしている松林要樹監督も「どうして残ったんですか?」という質問はするものの、答えを得ようと無理強いはしない。現在80歳を越えた老人たちに、過去の辛い経験をほじくり返して聞くことができなかったのかもしれない。一人が語ったと書いたが、それも監督がなんとか誘導して、それに「No」という返事はしなかったという感じだった。彼は同じ日本兵として仲間がイヤになる事件があったと言った。インパール作戦で、日本兵が亡くなった日本兵を食べて飢えをしのいだことを指しているらしかった。

別の老人はそれを「仲間を自分の中に取り込む行為」と表現した。あれは天皇の命令だった。自分がやりたいと思ってやったわけではない。全部天皇からの命令でそれに従うしかない。そう自分に言い聞かせているように語る老人の姿が印象的だった。彼は戦地に残り、兵隊たちの遺骨を集めて慰霊碑を建立していた。

中には、戦後何十年も経ってから日本に帰り、実家の両親や親戚に再会した人もいた。「親孝行の真似事をしてきました」と語る彼の姿に涙があふれた。はからずもこのような運命になってしまった自分。自分の意思で残ったことは間違いないけれど、戦争さえ起こらなければこんなふうに離れ離れになることもなかったはず。

別になんとも思っているわけじゃないと言いながらも、現地の家に日本風の神棚を作り、毎日それに手を合わせる老人。なんとも思っているわけじゃないという言葉は嘘ではないだろうが、やはりその意味のない習慣が心を落ち着かせるのか。

自分たちはとても苦労をしたからと、今現在苦労している現地の若者たちの助けになってやっている老人。それは甘やかしというものではなく、半端じゃないの苦労を知っている人は、若い人たちに苦労なんてさせたくないと思うものなのだろう。

この作品の中で戦争の悲惨さを強く伝えようとしている老人は、そんなにはいなかったように感じた。どちらかというと、そのときのことは語りたくないといったスタンスの人が多いし、監督もあえて強くは突っ込んで聞かない。ただ、彼らが過去を語りながら、ふとかげりのある表情をすることがある。そこに観客たちは、語られない辛さを見るのかもしれない。このインタビューに登場した人の多くは、現地で重宝がられたり、戦後進出してきた日本企業の現地採用で働いたりと、比較的余裕のある暮らしをしている人が多かったように思えた。せめて、彼らの人生が戦後は安泰で幸せなものだったということを祈りたい。