電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

DNAの転写を制御する化合物を見つける――上杉志成さん

2007-09-23 | 09-生物・生命・自然
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遺伝子の働き 化合物で解く――京都大学科学研究所・上杉志成教授
【「かがくCafé」 2007.09.23 日経新聞(朝刊)】

化学物質を道具に、遺伝子の働きなど生命現象を解く化学遺伝学(ケミカルジェネティクス)が創薬などで注目されている。この分野に取り組む上杉志成・京都大学化学研究所教授は化合物の意外な働きを見つけ出す楽しさに魅せられている。

「小学生時代に見た手塚治虫原作のアニメ『ふしぎなメルモ』が忘れられません。主人公の女の子が二色のあめ玉をのみ分け、十歳若返ったり年老いたりする。人の寿命をも変える夢の薬を人の手で生み出せるなら、すごいと思いました」

「手塚治虫は現代の最前線の科学の発想を先取りしていたのかもしれない。遺伝子の働きや代謝など複雑な生命現象は突き詰めれば化学物質に左右される。化合物を操って生命現象に切り込むのがケミカルジェネティクスです」

「私自身はDNAの転写を制御する化合物を見つけました。DNAの遺伝情報はメッセンジャーRNA(リボ核酸)に写し取られますが、そこで働くたんぱく質の代わりをする化合物です。工具のレンチのような形なので『レンチロール』と名づけました。がん遺伝子の転写を邪魔する物質が見つかれば、治療薬につながります」

――有用物質をどのように見つけるのですか。

「研究室には約3万種の化合物とその情報を収めたライブラリーがあります。それらを一つ一つ細胞にかけて、不思議な現象を起こす物質を見つけます。細胞内のどのようなたんぱく質と結びつくのか分かれば、有用な化合物になります。構造式をながめていて、これは有用かも、とひらめくこともある」

「欧米の巨大製薬会社は百万種のライブラリーをもっています。製薬会社が安全性などの課題で薬にならないと見切りをつけるような化合物を、うちでは多く集めている。そうした中から有用物質が見つかるのだから、ガラクタの山から宝を見つける醍醐味(だいごみ)もあります」

「二年前まで約十年間、米国で研究しました。その間に国立衛生研究所(NIH)がロードマップ(工程表)を打ち出し、戦略的に強化しています。創薬で基礎研究の重要性が増すと同時に、化合物の成果は特許にしやすいという事情もあるようです。私自身は新薬に直結しなくても、面白いと感じた化合物をとことん追求していきたい」

(聞き手は 編集委員・久保田啓介)

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