団塊的“It's me”

コキロク(古稀+6歳)からコキシチ(古稀+7歳)への道草随筆 2週間ごとの月・水・金・火・木に更新。土日祭日休み

手錠と腰縄

2014年01月15日 | Weblog

  まだ長野県に住んでいた時のことだった。初めて検察支所と裁判所で外国人容疑者の通訳をやった時のことだった。検事と世間話をしていたところに看守に連れられた外国人女性容疑者が部屋に入ってきた。素足に草履、収監服。痩せた女性だった。気が小さい私は手錠と彼女の腰に巻かれたヒモ縄に大きな衝撃を受けた。尋問中、手錠は外されたが、腰縄は逃げられないように足首につながれていた。逃げる可能性はないに等しかった。やり過ぎではとも感じた。同じ人間なのに罪を犯して裁かれるということが人間の尊厳と自由を奪われる姿であった。私は法律を犯して外国人女性のような姿をさらさぬようにと生きてきた。

  横浜地検川崎支所から20歳の強姦強盗容疑で逮捕された杉本裕太容疑者が弁護士との接見中に逃走した。手錠は外され、腰縄だけになったスキをついて腰縄をくり抜けて逃げた。警察官が立ち会っていたが、部屋に鍵がかかっていなかったのでまんまと逃げられた。逃げてから47時間後に横浜市泉区の公園で逮捕された。2日間で延べ8000人の警察官と900台のパトカー、その上ヘリコプター、水上警察まで動員されて逃走犯を追跡した。いつもながらマスコミはこの追跡で費用がいくらかかったかは伝えなかった。川崎市の地検支所には逃走を防ぐ設備はまったくないという。この2日間の捜索費用を考えれば、そんな設備はいとも簡単にできたであろう。なぜ神奈川県警は異例なまでの大捜査網をしいたのだろうか。逃走容疑者の再犯でもし被害者が出たら警察の沽券に関わるとの思惑があったに違いない。

 私が通訳として付き添った容疑者は女性だったが、検察の警戒に手抜かりはなかった。私はバスの運転手が指差し点呼で「右よし左よし後よし前よし」などと確認するのを見ていつも感心する。警察や検察でも「手錠よし腰縄よし部屋の鍵よし」などと指差し点呼するぐらい緊張集中できないものだろうか。言い訳ばかりうまくなり、深く腰を折り曲げてはげかかった頭のてっぺんを見せて、謝ることばかり上手になってもしょうがない。

 テレビで『警察24時』などの特別番組が好きでよく観る。くだらないひな壇芸人たちの番組と違い現実の世相を知ることができる。いつも思うのは日本の警察官の優しさである。スピード違反で停車させたり、不審者の職務質問をする時の低姿勢と言葉遣いに虫唾が走る。病院で「患者様」と呼ばれるのと同じくらい嫌いである。警察官は拳銃を所持していても使うことはほとんどない。日本の警察は、人権尊重の見本である。

 アメリカのシアトルで知人の家に滞在していた時、隣家をSWATと呼ばれる警察の特殊部隊が隣家の住人を逮捕する一部始終を見たことがある。拳銃でなくてショットガンのような機銃を抱えて黒い防弾服を着用した10数人の警官がいた。アメリカ人の知人は私に床に伏せていなさいと顔色を失っていた。発砲することなく逮捕され連行されていった。アメリカのテレビドラマを観るたびに、あの時を思い出す。つまりドラマも実際の逮捕の様子も変わりないのである。パトカーでの追跡でも日本だと追跡をあきらめることが多い。アメリカだとパトカーで体当たりしてでも、発砲してでも犯人の逃走を食い止める。一番ふがいなく思うのは、警察の暴走族対策である。大勢の警察官、多数のパトカーがまるで暴走族を警護しているのではないかと目を疑う。

  真面目に法律を守り、納税、愛妻、墓参りを当然のように実践をする市民に優しく接してくれることは望むが、法に反する者には気を抜くことなく,厳しく接っし、罪を償わせてほしい。最後は警察に頼るにしても、私たちは自分でできる防犯対策を持ちたい。

  「髪型よし、ヒゲよし、社会の窓よし、IHよし、暖房切った、ベランダ異常なし、留守電入れた、玄関鍵かけた」点呼確認して家を出た。地下駐車場の車の前に立った。「あっ、いけない。車のカギ忘れた」

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