映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ウルフ・オブ・ウォールストリート

2014年02月25日 | 洋画(14年)
 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)本作は、レオナルド・ディカプリオが主演で、さらに今度のアカデミー賞において、作品賞、主演男優賞、脚色賞など5部門にノミネートされているとのことなので、映画館に出かけてみました(注1)。

 ディカプリオが演じるジョーダンは、ブローカーの免許を取得して証券会社のトレーダーになったものの、出勤したその日がブラック・マンデー(1987年)で、直ちに失業。
 ですが、田舎のしがない証券会社(注2)に再就職してから、持ち前のセールスの才能を縦横に発揮し、ついには、仲間のドニージョナ・ヒル)とともに株式仲介会社を設立するに至ります(注3)。



 ジョーダンのもとには莫大なお金が転がり込むようになりますが、私生活の方では、それまで一緒に暮らしてきたテレサと別れてナオミマーゴット・ロビー)と結婚。
 しかしながら、順調にいっているように見える彼の事業に対して、FBIの捜査の手が延び、そして、………?

 なんだか『華麗なるギャッツビー』におけるド派手な生活ぶりと、前々回取り上げた『アメリカン・ハッスル』における詐欺とが合わさった作品という印象を受けるものの、ディカプリオが3時間の長尺の映画に殆ど出ずっぱりの怪演を見せてくれるので、なかなか見応えがあります(注4)。



(2)映画の冒頭では、株を扱うブローカーたちはライオンのようだとして、ジョーダンらが設立したストラットン・オークモント社のフロアーをライオンが実際に闊歩しているCMが映し出されます。
 次いで、会社がどんどん大きくなって、社員たちが馬鹿騒ぎしている様子が映し出されます。会社の中で大勢のブローカーたちが、ヘルメットを被った小人を板に描かれた的に投げつけるゲームに興じていて、ジョーダンが、的に当てたら2万5千ドル与えると宣言します。
 また、月末に2870万ドルの手数料が入ったとしてお祭り騒ぎをしますが、一方で、楽隊やらストリップガールたちが乱入してくると思えば、他方で女性の従業員に、髪の毛を剃れば1万ドルやる彼がと言うと、彼女は豊胸手術にお金を使うと言って丸刈りに同意するのです。
 なにしろ、ジョーダンは26歳で4900万ドル稼ぐというのですから!

 ですが、いったいどのようにしてジョーダンらがこのような途方もないお金を稼いでいるのか、そしてそのやり方のどこに違法性があるのかについては、映画では余り十分に描かれていません(注5)。ですから、FBIが彼らの会社に乗り込んできてジョーダンらを逮捕しますが、ぼんやりした理由しかわかりませんでした。
 とはいえ、この映画はそれらの方面は余り焦点を当てずに、むしろ、ジョーダンらが稼いだお金をどのように使ったのかを描く方に焦点を当てているように見受けられます。
 上で申し上げたように、皆でド派手な馬鹿騒ぎをする一方で、私生活面では、大変な豪邸に住み、フェラーリを乗り回し、専用ヘリコプターや豪華クルーザーを持っています。

 加えて、本作では、ジョーダンらがドラッグを使うシーンがやたらと映し出されます(注6)。
 ただ、それによる精神・身体の荒廃が強調されるのではなく、むしろ強力なドラッグを使うことによって、気分が高揚し、まるで金儲けのツールとして酷く有用といっているような感じさえ見る者は受けます。

 本作はむろん道徳宣揚作品ではありませんから、これらはこれでかまわないとは思うものの(注7)、ドラッグに関してだけは、映画『フライト』で覚えた違和感(注8)をこの映画でも持ってしまいました。

(3)渡まち子氏は、「(主人公の)ジョーダン・ベルフォート以上に、70歳を超えたマーティン・スコセッシのバイタリティを感じる大作エンタテインメントだ」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「見所があるからダメ認定はしない。しかし、ウリである主人公のハチャメチャ人生が、私にいわせればまったく平凡でつまらない生き方であること。その興ざめ感が作品の魅力をそいでいるのは残念なところである」として60点をつけています。
 相木悟氏は、「負のエネルギーみなぎる3時間に終始圧倒される、異様な映画体験であった」と述べています。
 柳下毅一郎氏は、「一瞬たりとも休まず観客を笑わせつづけるブラック・コメディーは、我々の生のありかたを問いかける恐ろしいホラー映画でもある」と述べています。



(注1)本作は、実在する本作の主人公ジョーダン・ベルフォードが書いた回想録をもとに映画化された作品です。

(注2)その会社はペニー株を取り扱っていますが、手数料が50%という点にジョーダンは魅力を感じます。
 持ち前のセールスの才覚で、電話一本であっという間に4,000ドル売り上げてしまい、田舎の証券会社の同僚から喝采を受けます。

(注3)ドニーは、家具(Children's furniture)の会社に勤めていて、ジョーダンと同じマンションに住んでいましたが、あるときレストランの駐車場でジョーダンの乗るジャガーを見て驚き、ジョーダンに収入はどのくらいあるのかと尋ね、ジョーダンが「先月は7万2千ドルだ」と言って給与明細(pay stub)を見せると、直ちに勤務先を辞めてジョーダンの部下になることを決めてしまい、以来、ドニーはジョーダンの忠実な相棒となるわけです。

(注4)最近では、ディカプリオについては『華麗なるギャッツビー』で見ました。
 その他に、本作では、ジョーダンの相棒のドニーにジョナ・ヒルが扮しています(彼は『マネーボール』で見ました)。
 また、ジョーダンが最初に勤務した証券会社の上司マークマシュー・マコノヒーが演じています(彼は『ペーパーボーイ』で見ました)。
 ちなみに、マークは、出勤してきたジョーダン(その時22歳)をランチに誘って、昼間からマティーニを頼んだりドラッグを吸ったりしながら、「常にリラックスすること」と「コカイン」とがこの世界で成功するコツだとアドバイスします(前者については、血の巡りを良くするために、朝とランチ後に“jerk off”する必要があると強調します!)。



(注5)「Pump and Dump」といわれる株価操作の手法によっているのではないかと思われます。

(注6)特に、映画ではクエイルード(quaalude)といわれている鎮静催眠剤(向精神薬)が、なかなか手に入れ難いものとしてジョーダンらに愛用されています。
 映画の中でジョーダンが、クエイルードについて、「この薬は、最初は不眠症の主婦向けに処方されていたが、誰かが、最初の15分眠気を我慢するとハイになることを見つけ出すとすぐに広まり、しかし政府が禁止したために、残っている量には限りがある」などと説明します(さらに、この記事が参考になるかもしれません)。

(注7)逆に、4900万ドルもの大金を稼いでも、その使い道が本作で描かれているものくらいであれば、大したことはないな、あっと驚くようなものはなく、どれも程度問題にすぎないのでは、と思えてしまうのですが、あるいは、そんな風に思えてしまうのも、大金を得るどころか目にしたこともない細民のヒガミ根性がしからしめるものにすぎないのかもしれません!

(注8)このエントリの(2)を参照。『フライト』では、「コカインが自然の感じで登場する」のです。



★★★☆☆☆



象のロケット:ウルフ・オブ・ウォールストリート