映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

はじまりは5つ星ホテルから

2014年02月28日 | 洋画(14年)
 『はじまりは5つ星ホテルから』を渋谷ル・シネマで見ました。

(1)「Bunkamura25周年記念」と銘打たれ、かつまた予告編を見て良さそうだと思って、映画館に行ってきました。

 本作はイタリア映画で(注1)、世界各国にある5つ星ホテルについて覆面調査をしている女性(注2)を描いた作品です。

 主人公のイレーネマルゲリータ・ブイ)は40歳の独身ですが、職業柄絶えずアチコチ旅行をしていて、自分の家にいる時間が限られたものとなることもあり(注3)、懇ろな関係にある男性は、元恋人のアンドレアステファノ・アコルシ)くらい。
 ただ、今でも彼とは親友の付き合いがあり、もう一回やり直してもいいかなというところまで行きます。



 でもその一方で、アンドレアに、現在付き合っているファビアーナが妊娠したと言われます(注4)。さあイレーネはどうするでしょうか、………?

 独身でいることにそれほど問題を感じていないながらも、様々な出来事に遭い、このままでいいのかと動揺する中年の女性を描いており、登場する男性の影が薄いものの、まずまずの仕上がりの作品ではないかと思いました(注5)。

(2)本作には、イレーネとそれまで関係を持っていなかった2人の人物が登場します。ですが、2人とも、ちょっと物語にアクセントを付けるだけでいとも簡単に画面から消えてしまうのは、全体として盛り上がりが少ない本作ですから、少々残念な気がしました(とはいうものの、本作は、ちょっとしたイレーネの心の動揺を描くのに巧みであり、そんなにくっきりとしたストーリーは不要に思えるのもまた確かなことですが)。

 一人は人類学者のケイト。ベルリンの「ホテル・アドロン・ケンピンスキー」のスパで出会います。イレーネが「自分の人生の9割はこんなホテルで過ごしている」と言うと、ケイトは「ここには真の生活はない、苦労や面倒がないとダメ」と答えたりします。そこから話が弾み、お互いに独身でもあり意気投合し、ケイトが「仕事を終えたら街に出よう」というので待っていたところ、いつまでたっても現れないのでイレーネがフロントに尋ねると、彼女は心臓麻痺で急死したとのこと。



 何しろ、その晩のケイトの仕事というのは、TVに出演して、専門の「異常性欲文化」を語ることなのですから、急死させなくとも、いくらでも話を発展させることができたように思えるところです。

 さらにイレーネは、モロッコのマラケシュにあるホテル「パレ・ナマスカ」(注6)で、感じの良い中年男性の宿泊客と食事をとりますが、職業を訊かれ、正体を明かすわけにもいかずに「タイルのバイヤー」と偽るものの、すぐに嘘がバレ、その男性から「自分はベテランの愛妻家でね」と突き放されてしまいます。



 同じ頃、アンドレアは、ファビアーナの妊娠で産院に一緒に検診に行ったりしていますから、話としては、イレーネの方も、中年男性(もう少し中身のありそうな男の方がいいでしょう)との間で何か起こる方が、ストーリーに起伏ができて面白くなると思うのですが、どうでしょう?

(3)また、イレーネは覆面調査員ですから、調査対象のホテルに行くと、エントランスやフロントの対応から始まって、いろいろな点を密かにチェックします。
 映画の冒頭では、イレーネはパリの「オテル・ドゥ・クリヨン」に行きますが、案内されたホテルの部屋のあちこちで白い手袋をつけて埃の有無を調べたりします。その際には、持参したパソコンの画面に示されているチェック表の項目を一つ一つ確認していき、その上で当該ホテルのランクを判定するのです(注7)。

 とはいえ、世界のホテルを相手にするといっても、5つ星ホテルというのがそんなにたくさんありそうもないと思えることから(注8)、イレーネのように頻繁に調査に出かけていれば、すぐに調査先は尽きてしまうのではないかとか、最上級のホテルの最上級の客室(スイート)に女性一人で宿泊したら、直ちにホテル側に覆面調査員ではないかと怪しまれてしまうのではないかといった疑問点がわいてきます(注9)。

 でも、そんなことはどうでもいいことでしょう。
 なによりも、映画で次々と描かれる5つ星ホテル内の様子や、ホテルが設けられている場所の景観は、ため息が出るほど素晴らしいものがあります。
 まあ、この映画は、ストーリーもさることながら、ホテルも登場人物だとみなして(注10)、そういったゴージャスな映像を見るのも楽しみといえるでしょう。

(4)渡まち子氏は、「イタリアを代表する演技派女優マルゲリータ・ブイが、悩めるヒロインを時に華麗に時にコミカルに好演し、さわやかな後味が残る佳作となった」として65点をつけています。



(注1)原題は「Viaggio sola」(一人旅)。ちなみに、英題は「Five Star Life」。

(注2)劇場用パンフレットによれば、ザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールド(LHW)の覆面調査員という設定。

(注3)仕事がない時イレーネは、音楽家の夫を持つ妹の家に行っていることが多いようです。特に、その夫婦の二人の子供たちと仲がよく、妹のシルヴィアファブリツィア・サッキ)から「老後どうすんの?」と迫られた際には、「姪に面倒を見てもらう」などと答えたりします。
 でも、その子供たち二人を連れて南イタリアのホテル「ボルゴ・イグナシア」に行った時には、子供たちが「早く家に帰りたい、ママに会いたい」と行っているのを耳にして、イレーネはげんなりしますが。

 なお、この妹・シルヴィアについては様々に人物造形がなされており(会計士であり、また夫との関係がセックスレスであることも)、映画ではイレーネよりもむしろ活き活きとしている感じを受けます。

(注4)劇場用パンフレットに掲載の監督インタビューで、マリア・ソーレ・トニャッツィ監督は、ファビアーナについて、「アンドレアは、知らない女性と一夜を過ごし」云々と語っていますが、映画の中では、アンドレアは「3回会っただけで子どもなんて」と言いますし、彼女はギャラリーらしき店で働いており、そこにイレーネも様子をうかがいに行ったりしますから、「知らない女」ではないと思うのですが?
 他方、アンドレアですが、子どもを持ちたくないとしながらも、ファビアーノから「一人で産むから構わない」と言われると、産院に近い場所に家を探したりするなど(これにイレーネが付き合います)、どうもはっきりしない描き方です。

(注5)本作に出演するのはこれまで見たことがない俳優ばかりながら、主演のマルゲリータ・ブイは、覆面調査員という特殊な仕事に就いているさっそうとした女性をなかなかうまくこなしているように思います。

(注6)ここはなかなか豪華なホテルで、クマネズミも行ってみたいなと思いましたが、例えば、1ベッドルーム、プール付きのスイーツの部屋で1泊13,200MAD(およそ16万円でしょうか)といったところです!

(注7)スイスのホテル「グシュタード・パレス」に行った際、イレーネは、笑顔でフロントが対応するか、2分以内でチェックインの手続きが終わるか、などをチェックします。
 また、中部イタリアのホテル「フォンテヴェルデ・タスカン・リゾート&スパ」では、イレーネは、ルームサービスについて、部屋に届けられるまでの時間や、料理の温度などをチェックしたり(ワインの温度は2℃高く、スープは40℃に足りない!)、テラスのレストランで、テーブルの上に並べられているグラスがきちんと並べられているかどうかまでチェックしたりします。
 挙句は、若いカップルに対する応対がまずいとしてホテルのランクを下げる旨をイレーネが通告すると、支配人は「そんなことで格下げに?」と驚きます。

(注8)上記「注2」で触れた記事内容からすれば、400強あるグループ内のホテルの中の高水準のものと推測されます。
 実際には覆面調査員は、その調査結果を支配人に通告するのですから、ランクの下のホテルにも調査に行って、ランクを上げるための改善点を指摘するようにした方が、グループ全体の評価が高まるのではないかと思われます。

(注9)本作では、調査が終わると、イレーネは身分を明かしてホテルの支配人と面接し、調査結果を告げているようです。ただ、そんなことをすれば、密かに写真を撮られて、グループに加盟するホテルに送られてしまうのではないでしょうか?

(注10)本作には、このエントリで触れた6つのホテルの他に、最後に上海の「ザ・プリ・ホテル・アンド・スパ」も登場します(イレーネは、貯めたマイレージを使ってそのホテルを訪れます)。



★★★☆☆☆



象のロケット:はじまりは5つ星ホテルから