映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ソリタリー・マン

2011年06月15日 | 洋画(11年)
 『ソリタリー・マン』を渋谷のシアターNで見ました。

(1)この映画は、ハリウッド・スターのマイケル・ダグラスが嫌われ者の役を演じている点が、興味を引くところでしょう。

 以前は車のディーラーとして目覚ましい実績を上げたベン(マイケル・ダクラス)ですが、詐欺事件を起こし栄光の座から転落して、現在は一人ぼっちになっています。
 それでも、蓄えで食いつないでいられる間は、愛人のジョーダンメアリー=ルイーズ・パーカー)の娘(イモージェン・プーツ)にまで手を出してしまう奔放振りを示すこともできますが、蓄えが尽きてマンションから追い出されるとホームレスも同然。
 大学時代のクラスメイトで、今は大学のそばでレストランを経営している男(ダニー・デヴィート)のもとに転がり込むのがやっとの有様。ベンが羽振りのよかった時は、この男のことなど念頭にまるでなかったものの、現時点では、この男の方が着実に生きてきたことがわかります。



 彼は、落ちぶれてしまったベンに対しても実に暖かい態度を見せるのですが、娘がベンとベットをともにしたことを知った愛人・ジョーダンの怒りによって、ベンはそのレストランにもいられなくなります。
 その上、その愛人が手配した男に酷く殴られ、入院する破目にも。
このとき駆けつけてくれたのが、実の娘。彼女は、自分の友人にまでベンが手を出したために、縁を切ると宣告していたにもかかわらず。
 そして、最後には、別れた妻(スーザン・サランドン)も、なんとなく彼を支えてくれそうな雰囲気にもなって来るのですが、……。

 冒頭に「マイケル・ダグラスが嫌われ者の役を演じている」と申し上げましたが、ここで少しベンの行動について検討してみましょう。

イ)確かにベンは、様々の女性に手をつけますが、それはすべて相手との合意に基づいてのことであり、彼ばかりを一方的に攻めるのは酷な感じがします。
 ただ、付き合っている女性の娘とベッドインしてしまうのは仕方ないとしても、その後もベンがしつこくつきまとったがために、娘が真相を母親にバラしてしまい、結果として取り返しのつかない事態を招いてしまうのは、何度も修羅場を切り抜けてきたはずの色男ベンにしては、あるまじき行為でしょうが。

ロ)ベンが、実の娘の友人に手をつけたり、恋愛指南をした学生(ジェシー・アイゼンバーグ)の愛人にちょっかいをだしたりするのは、実にマメマメしい限りであり、ベンくらいの年の男では、普通、とても真似が出来ないのではないでしょうか?

ハ)元々、ベンは6年ほど前に心臓に問題があると診断され、以来精密検査を断って、むしろ残された時間を十分た楽しもうと生きてきたフシがあります。そうした点からも、彼の行動はそんなに非難されるべき筋合いのものではないように思えます。

ニ)ベンは、妻とは離婚していますが、彼女の部屋にベンが行くと、昔ベンと共に過ごしていた頃の調度品がそのまま使われていて、彼女は決してベンを憎んでなどいないことがわかります。

ホ)ラストでベンは、別れた妻の車に乗れば、暖かい棲み家が待っていることは十分に分かっていながらも、若い美貌の女が通るとどうしても目を向けてしまいます。雀百までといったところですが、また実に首尾一貫した行動ともいえるかもしれません。さあ彼はこの先いったいどうするのでしょうか、……。




 映画では、マイケル・ダグラスはもちろんのこと、そのほかの俳優もそれぞれ持ち味をいかんなく発揮していますが、やはり注目されるのがジェシー・アイゼンバーグでしょう。



 彼は、映画では、ベンの出身大学の後輩の学生を演じていますから、ハーバード大学を主な舞台とする『ソーシャル・ネットワーク』を引きずってしまっているのかしらと思いましたが、実際にはこの映画の方が先に制作されていて、日本での公開が逆になってしまったというところのようです。

 全体的にみると、ベンを演じるマイケル・ダグラスの存在感が突出してしまっているような感じながら、それでも脇を固める俳優陣は実に手堅く、まずまずの出来栄えの作品ではないか、と思いました。

(2)こうしてみると、なんだか『Somewhere』におけるジョニーの20年後の姿といった感じもしないではありません。
 その映画におけるジョニーの場合、賞を受け取りにイタリアに飛ぶくらい人気がある俳優ながら、付き合う女のどれとも心が通わず、別れた妻に連絡をとるも、色よい返事などもらえず、残るは娘だけといった状況でした。
 あるいはこれがこれから20年くらいたつと、ジョニーは人から忘れられてしまい、付き合う女に依然として事欠かないものの、やはり別れた妻がまだ忘れられず、また娘の存在が唯一の心の支えというように、本作品のベンと似たシチュエーションになっていないとも限らないのではないでしょうか?




★★★☆☆