goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イランとサウジアラビア 中国仲介で関係正常化へ 中東情勢に大きなインパクト

2023-03-11 22:52:09 | 中東情勢

(イラン、サウジアラビアの高官と共に記念撮影に臨む王毅氏(中央)=中国外務省のホームページより【3月11日 毎日】)

【中国仲介で中東対立軸が大きく動く 「歴史の転換点だ」との評価も】
多くの報道がなされているように、10日、イランとサウジアラビアが中国の仲介で外交関係を正常化させることで合意しました。

スンニ派湾岸諸国の盟主を自任するサウジアラビアとシリア・レバノン・イエメンなどにも勢力を広げるシーア派イランの対立は、かつての「イスラエル対アラブ」という対立軸に代わって、ここ数年の中東における主要な対立軸となっていました。それだけに両国の関係正常化が実現すれば、そのインパクトは大きなものがあります。

また、これまで中東に基地・軍を展開するなど大きな影響力を有してきたアメリカの中東における存在感が低下している、あるいは中国との競合を第一とする(最近ではウクライナ問題でのロシア対策も)アメリカの中東への関心が低下していると言われているなかで、そのアメリカの空白を埋めるような中国外交の成果も注目されます。

サウジ・イラクの交渉は以前から報じられており、このブログでも時折触れてはいましたが、「中国の仲介で」というのは驚きの感も。

****イランとサウジの関係正常化 仲介の中国、中東での影響力強まる****
イランとサウジアラビアは10日、中国の仲介で外交関係を正常化させることで合意した。中国外務省が発表し、両国の国営通信も報じた。

イスラム教シーア派大国のイランと、スンニ派の「盟主」を自任するサウジは2016年に断交し、中東情勢の悪化を招いてきた。両国の和解は地域の緊張緩和につながるとみられる。中国の中東での影響力は強まる見通しだ。

イランとサウジの断交は16年1月、イランのデモ隊によるサウジ大使館襲撃事件が発端となった。事件の原因は、サウジが国内のシーア派宗教指導者らを処刑したことだ。両国はシリアやイエメンの内戦で敵対勢力をそれぞれ支援してきた経緯もあり、対立は深まった。19年9月には、イランによる犯行とサウジ側が非難したサウジ石油施設への無人機攻撃もあった。

両国は21年4月に断交以来初の直接対話を実施し、その後もイラクなどの仲介で複数回の対話を重ねた。今月6日からは北京で秘密協議を開き、10日に安全保障担当の高官同士が合意に署名した。

01年の安保協力協定や経済・投資関連の取り決めの復活でも合意し、2カ月以内に双方の大使館が業務を再開するという。

中国を加えた3カ国の共同声明では「国家主権の尊重と内政不干渉の確約」が明記された。

ロイター通信によると、サウジのファイサル外相は「(我々は)地域における政治的解決と対話の定着を熱望してきた」と強調。イランのアブドラヒアン外相は「イランの近隣政策は正しい方向に力強く進んでいる」とツイッターに書き込んだ。

サウジに追随してイランと断交したバーレーンなど他のアラブ諸国も、和解に動く可能性が高いとみられる。【3月11日 毎日】
********************

両国が関係改善に動いた背景には、イランは孤立化の解消、サウジは地域の安定というメリットがあります。

****中東における覇権交代 三菱総研 中川浩一・主席研究員****
サウジアラビアとイランが10日、中国の仲介で外交関係の正常化に合意した。ライバルとされてきた中東地域の主要国同士の外交正常化について、中東情勢に詳しい三菱総合研究所の中川浩一・主席研究員は「歴史の転換点だ」との分析を示した。
サウジアラビアとイランの外交関係正常化は、近年の中東で政治的難問の一つだった。それを中国が仲介したことは、同国が巨大経済圏構想「一帯一路」実現に向けた経済的影響力のみならず、政治的影響力も有した証左。中東における事実上の覇権交代を意味し、歴史の転換点ともいえる。

米国は中東で圧倒的な軍事的・政治的影響力を持ってきた。それを中国に明け渡すことはバイデン政権にとり、米国の中東政策、ひいては外交政策全体に汚点を残すことになる。中国、サウジ、イランの共同声明から読み取れるのは、バイデン政権が掲げる「人権外交」への反感だ。

また、中東における米国の関与の低下を受け、アラブ諸国は近年、米国に依存しない安全保障のあり方を模索してきた。

サウジとしてはイランとの緊張緩和を図ることで隣国イエメン内戦の鎮静化など地域情勢の安定化と自国の安保態勢強化につなげる思惑があった。サウジにとって今回の決定は域内に「敵」を作らないことを最優先した結果だ。

イランは、イラン核合意の再建と制裁解除の実現が遠のく中、米国との関係改善より中国との関係強化による自国経済の回復を選択した。ウクライナに侵略したロシアへの支援を巡って米欧の非難を受ける中、孤立を回避する狙いもある。

イランの核開発が進展することに呼応してサウジなどが核武装を目指す「核ドミノ」が懸念されてきたが、今回の外交正常化でその可能性は低下したと思われる。

イランとイスラエルの対立は依然として残るが、実質的に同国との関係が進展しているサウジがパイプ役となれる可能性もある。

中東情勢は緊張緩和に向かうだろう。そんな中で湾岸諸国はすでに脱炭素社会実現に向けたビジネス面での動きも活発化していることも指摘しておきたい。(談)【3月11日 産経】
*****************

【今後、中東情勢が大きく変わることも】
冒頭【毎日】記事にもあるように、他のアラブ諸国とイランの関係も追随することが予想されます。

また、「サウジとイランの代理戦争」と言われているイエメン内戦(今年4月に国連の仲介で紛争当事者は停戦に合意した。2カ月の期限ごとに延長してきたが、昨年10月に更新されず交渉が継続)にも大きな影響があると思われます。

****イランとサウジアラビアが正常化、アラブ諸国は歓迎****
イランとサウジアラビアが発表した外交関係の正常化計画について、サウジと同じアラブ諸国は歓迎する姿勢を相次いで示した。地域の安定につながるとの期待が広がっている。仲介した中国の役割を評価する見方も浮上している。

アラブ首長国連邦(UAE)のガルガシュ大統領外交顧問は10日「UAEはサウジとイランの合意を温かく歓迎する」とツイートした。同時に「地域の安定と平和に向けた前向きな一歩を促す中国の役割を高く評価する」とも書き込んだ。(中略)

イラクも合意に好意的だ。同国外務省は「両国の外交関係の新たなページが始まることを歓迎する」とコメントした。イラクもイランとサウジの協議を仲立ちしていた。イラク通信によると、イランのアブドラヒアン外相は10日、イラクのフセイン外相に電話で謝意を伝えた。

オマーン外務省も「地域と世界に利益をもたらす建設的な協力関係の強化に期待する」との声明を発表した。エジプト外務省は「合意が地域の緊張を緩和し、アラブの安全保障の安定と維持に貢献することを望む」と表明した。

イランを後ろ盾とするイエメンのイスラム教シーア派武装勢力フーシの幹部は10日「この地域は失われた安全を取り戻すため、各国間の正常な関係の回復を必要としている」とツイートした。フーシはイエメン内戦でサウジ率いるアラブ有志連合と対立している。

イランが支援するレバノンのシーア派組織ヒズボラ幹部も「よい進展だ」と評価した。ロイター通信が伝えた。【3月11日 日経】
***************************

【アメリカ 否めない存在感低下 中国への強い警戒感】
「関係改善」ですからアメリカも表向きは“歓迎”の意向を示していますが、アメリカ抜きで、中国の仲介で・・・というところで内心は複雑。

****サウジ・イラン合意「歓迎」も行方注視=中国の影響力拡大に警戒感―米****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は10日、オンライン記者会見で、サウジアラビアとイランが外交関係修復で合意したことに対し「歓迎する」と語った。ただ、「イランが履行するかどうかは不明だ。イランは約束を守るような政権ではない」と述べ、合意の行方を注視する構えを示した。

カービー氏は、サウジとイランの協議について「サウジから報告を受けていた」と説明。一方で「米国は直接関与していなかった」と述べ、米国抜きで合意が成立したと明らかにした。

中国による協議仲介に関しては「中東地域における緊張緩和の取り組みは米国の利益だ」と話した上で、「中国が身勝手な利益の下に世界のどこかで影響力や足場を獲得しようとしていることは注視し続ける」と警戒感を表明した。【3月11日 時事】 
***************

米国家安全保障会議のカービー氏は「イランを交渉のテーブルに着かせるのに役立ったのは、イランが内外から受けている圧力であり、中国からの対話への招待だけではない」と述べ、アメリカのイランへの圧力が一定の役割を果たしたとも。

とは言うものの、アメリカの存在感低下の印象は否めないところ。

****バイデン米政権に痛手=中東での影響力低下警戒―サウジとイラン関係修復****
サウジアラビアとイランが中国の仲介で外交関係修復に乗り出したことは、中東における米国の影響力低下を示した形で、バイデン米政権にとっては大きな痛手だ。中東地域を舞台に米中の神経戦は激しさを増しており、バイデン政権は政策の修正を迫られる可能性もある。

「米国が中東から手を引いているという考えに断固反対する」。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は10日、オンラインでの記者会見で、米国が中東地域への関与を低下させているのではないかという質問に対し強く否定した。

バイデン大統領は昨年7月、サウジを訪問し、人権問題を巡り関係が冷え込んでいた実力者ムハンマド皇太子と会談。バイデン氏は訪問時「中国やロシア、イランが埋めてしまう空白を残したまま、立ち去ることはしない」と強調し、中東への関与を続ける姿勢を鮮明にしていた。

米国は2001年9月の米同時テロに端を発したアフガニスタン、イラクとの戦争から手を引き、中東への米軍の関与を縮小。特に21年8月のアフガンからの米軍撤収は中東における存在感の低下を印象付けた。

だが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うガソリン価格高騰に慌てたバイデン政権はサウジに増産を働き掛けた。中東への関与強化を打ち出したものの、サウジは減産を主導。米国が関係見直しに言及すると、互いの不信感は一層深まった。

トランプ前政権が離脱したイラン核合意の再建交渉が進展を見せない中、ウクライナ侵攻への対応や対中競争に追われるバイデン政権にとって中東の優先順位は低下した。

カービー氏はサウジとイランの協議について「サウジから報告を受けていた」と説明しつつも、「米国は直接関与していなかった」と述べ、米国が蚊帳の外だったことを認めた。

バイデン政権は、米国に優位な「戦略的環境」を形成し、中国に対抗していく戦略を打ち出している。だが、サウジとイランの関係修復を中国が仲介したことは米国の思惑とは逆行する動きだ。【3月11日 時事】 
*******************

もちろん、アメリカの影響力は依然として大きなものがありますが・・・
“カービー氏は10日、米国が中東で退潮しているとの指摘に「断固として反論する」と述べたが、イランとサウジの外交正常化が〝米国抜き〟で進んだのは、米国の外交的レバレッジ(てこ)が弱まっているからに他ならない。
他方、主要な兵器体系を米国に依存するサウジにとり、米国が最重要同盟国であることは変わらない。バイデン政権は今後、サウジの手綱を握りつつ、中国の伸長にも目を光らせる必要に迫られる。”【3月11日 産経】

【成果を誇示する中国】
一方、中国は成果を誇っています。

****「対話と平和の勝利」=中国が成果誇示―サウジ・イラン仲介****
中国外務省によると、外交トップの王毅・共産党政治局員は10日、サウジアラビアとイランが外交関係の修復で合意したことを受け、「対話と平和の勝利」だと述べた。仲介役を務めた中国を「信頼できる仲裁者」と自賛し、「サウジとイランの関係改善は中東地域の安定への道を開く」と成果を誇示した。

発表によると、サウジのアイバーン国務相、イランで国防、外交を統括する最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長が北京で6〜10日に協議を実施。3カ国による共同声明に署名した。

王氏は、3カ国の対話は習近平国家主席が後押ししたものだと強調。また、「世界にあるのはウクライナ問題だけではない」「中東諸国が戦略的自主性を堅持し、外部の干渉から脱却することを支持する」と述べ、ウクライナ情勢などを巡り、中国と対立する米国を暗にけん制した。【3月11日 時事】
*********************

アメリカは中国に対しては警戒感を露わにしています。

*******************
語気を強めた(米国家安全保障会議(NSC)の戦略広報調整官)カービー氏
(中略)
合意を仲介した中国の影響力拡大についての質問には「我々は、中国が自分たちの利己的な利益のために、世界中で影響力と足場を得ようとするのを見続けてきた。世界中の国々が、中国は自国の利己的な利益のために影響力を持とうとしている事実に気づき始めている」とした。【日系メディア】
********************

中国とイラン・サウジ両国は原油取引の拡大で接近していました。
また、アメリカへの不信感が中国への傾斜を加速させた側面も。

****中東諸国の多くが歓迎 目立つ中国への接近 サウジ・イラン外交正常化****
サウジアラビアとイランが外交関係の正常化で合意した10日、中東ではエジプトやトルコ、ペルシャ湾岸の親米諸国など多くの国が歓迎する意向を表明した。2つの地域大国の歩み寄りがもたらしたインパクトの大きさを示している。

サウジとイランはイエメン内戦などで互いに敵対勢力を支援し、その対立は中東の不安定要因となってきた。他方で双方ともに中国への接近が目立っている。

イランは2021年に中国と25年間の包括的な協力協定を締結した。協力範囲は経済からIT、安全保障まで及ぶとされる。米が連発する制裁で経済低迷が長引いているが、イランに動揺する様子はみられない。

「制裁慣れ」に加え、中国が原油購入を続けて支援していることも一因とみられる。ロイター通信によると、昨年12月の中国によるイラン産原油の購入量は過去最大を記録した。

一方のサウジは昨年12月、同国を訪問した中国の習近平国家主席を厚遇して蜜月を演出した。両国は原油取引で互いに不可欠な関係にある。ただ、サウジの対中傾斜は、安全保障の後ろ盾の米国に対する不信感の裏返しでもある。

サウジは近年、イランの核保有を強く警戒してきた。しかし、バイデン米政権が対話による解決を掲げたイランとの核開発問題をめぐる協議は暗礁に乗り上げたままだ。

米国は中東への影響力低下が指摘される半面、湾岸諸国に米軍基地を持つ地域の安定の要であることに変わりはない。エネルギーなど経済を通じて中東諸国の取り込みを図る中国が地域の情勢安定を担えるかには、懐疑的な見方もある。

ロイターは、サウジが懸念するイラン核問題をめぐる進展がなければ、中国が仲介した関係改善は「見せかけだけで終わるかもしれない」という在米の専門家の分析を伝えた。成果を見極めるには時期尚早だ。【3月11日 産経】
**********************

上記記事が指摘するように、イランの核開発がこのまま進むと、サウジとしても座視できないのでは・・・という今後の問題があります。

【イスラエル・ネタニヤフ政権にとってはイラン包囲網形成失敗】
一方、そのイランの核開発を強く警戒し、イラン包囲網を目指してきたイスラエル・ネタニヤフ政権にとっては、外交的に痛手となっています。

****イランと敵対するイスラエル「完全な失敗」 中東外交戦略見直し必至****
イランとサウジアラビアが外交関係の正常化で合意したことを受け、イランと敵対するイスラエルは中東外交の戦略見直しを迫られそうだ。ネタニヤフ政権は内政で混乱を抱えているほか、外交でも課題に直面することになる。

「(イスラエルにとって)完全な失敗だ」。最大野党党首のラピド前首相は10日夜、今回の合意をネタニヤフ氏の「ミス」だと主張し、強く非難した。

2016年にイランとサウジが断交し、アラブ諸国とイランの溝が深まる中、イスラエルは「対イランでの連帯」を掲げ、敵対していたアラブ諸国との関係構築を目指してきた。イスラエルは諜報(ちょうほう)情報などを各国に提供して懐柔。米国のトランプ前政権の仲介もあり、20年にはアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと国交を正常化することに成功した。

昨年末に発足したネタニヤフ政権は、イランの核兵器取得の阻止と、サウジとの国交正常化を目標に掲げていた。だが今回の合意で、「対イラン包囲網」を作ろうとしたネタニヤフ氏の戦略は、はしごを外された形となった。

野党側は、ネタニヤフ氏が「内政で混乱を引き起こし、対イラン外交を怠った」と非難する。極右を含むネタニヤフ政権は、ユダヤ人入植地の拡大などを実現するため、「法の支配」を弱める司法改革を推進しており、国内では毎週末に大規模デモが繰り広げられている。また、パレスチナ側への強硬策も展開し、アラブ諸国を含む国際社会から批判が相次ぐ。そのため、政権は内政の混乱収拾に力を注がざるを得ない状況だった。

今回の合意を巡り、ネタニヤフ政権は公式の見解を表明していない。だが、サウジ以外のアラブ諸国もイランとの和解に動いた場合、イランの「孤立」した状態は一定程度解消され、イスラエルの中東外交は推進力を失う可能性がある。

またイスラエルは、米国などが復活を目指している現行のイラン核合意について「イランが秘密裏に核開発を進める可能性がある」として強く反対している。サウジもイランの核開発を警戒しており、今回の合意が核合意協議にどんな影響を与えるかも注目される。

一方、水面下でイスラエルとサウジの国交正常化交渉も継続しているとみられる。
米ニューヨーク・タイムズ紙は9日、サウジがイスラエルとの国交正常化の条件として、仲介役の米国に対し、原子力発電所など民生用核計画の支援や、サウジへの武器売却の制限緩和などを求めたと報じた。

ただ、この条件はサウジの核開発につながる可能性もあり、米国にとってハードルが高い。また、イスラエル軍によるパレスチナ武装組織の摘発強化などを巡り、イスラエルとの国交正常化を巡るサウジ世論は冷え込んでおり、交渉は長期化が見込まれている。【3月11日 毎日】
*********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ・バイデン政権の安全保障重視・米の競争力復活の経済政策 同盟国との関係調整が課題に

2023-03-10 23:00:34 | アメリカ

(1980年~1990年代、共和党のレーガン大統領や民主党のクリントン大統領は党派を問わず「小さな政府」を掲げていた。それが今日は、対中政策や新型コロナウイルス対策などで「大きな政府」の時代に突入している。
バイデン政権下では、アメリカ救済計画法(ARP)、超党派インフラ法、半導体・科学法、インフレ削減法などの大型法案が成立。対GDP比2割近い総額3.8兆ドル規模の財政出動となり、ルーズベルト大統領のニューディール政策(8300億ドル、対GDP比13%)をも上回る。【2022年10月12日 東洋経済ONLINE】)

【米の経済安全保障政策 経済と安全保障の両立、同盟国との利害調整で課題も】
アメリカ・バイデン政権は昨年、、昨年8月にはCHIPS法(半導体支援法)とインフレ抑制法を成立させ、昨年10月には半導体輸出規制強化策を打ち出しています。

CHIPS法(半導体支援法)は当初、対中国競争法案とも呼ばれたように、中国との半導体並びに科学技術面での覇権争いを念頭に、米国の競争力を高める狙いがあります。

インフレ抑制法はその名称とはやや異なり、エネルギー安全保障、気候変動対策が歳出の8割超を占めるように、その目玉は電気自動車(EV)購入の税額控除を含むクリーンエネルギー推進など気候変動対策です。

派手な前政権とは異なり、バイデン政権は一般的には成果・実績であまり強い印象はありませんが、上記施策を政権の成果として高く評価する向きもあります。

ただ、アメリカのこうした政策には、先端技術において経済と安全保障をどのように両立させるか、或いは自国と同盟国との経済的利益をどのように調整するか、といった問題も付随します。

****米、中国対抗へ半導体新法 貿易『効率』より『安保』重視****
(中略)
10年ほど前まで、米国は自由、無差別で、しかも公平な世界貿易ルールを支持してきた。「無差別」を無視し、中国を名指しにして貿易、投資を制限する新方針は、世界貿易ルールを取り仕切る原則が「経済効率」から「安全保障」に転換したことを意味する。

半導体支援法の場合、中国は半導体企業の重要な顧客で、それを失うことはアジアの生産者にとり大きな損失だ。

「公平」を無視して、米国が国内生産に支援金を支払うことも同盟国にとって脅威となる。(後略)2022年11月4日 読売】
******************

****アメリカの経済安全保障政策に見える2つの課題****
日本企業にも課題解決のためのルール作りは重要
(中略)
アメリカの半導体輸出規制強化策
昨年10月7日、アメリカ商務省は中国を対象に先端半導体および先端半導体製造装置の輸出規制を大幅に強化する規制を施行した。

今回の措置は、対象の中国企業が先端半導体の開発を目的とするだけで原則輸出不許可とする点や、また通常設ける例外規定を今回は設けないこと、さらにアメリカ人による先端半導体製造ラインでの技術提供禁止など、過去の輸出規制と比較してもかなり革新的な手法が含まれ、突出して厳しい内容となっている。

アメリカとしては、中国のサプライチェーン上の弱みである先端半導体を押さえることで中国の軍事技術の開発スピードを遅らせる意図を持っているとされる。

アメリカ商務省の輸出規制はアメリカの技術が含まれる場合、第三国にも域外適用されるが、半導体製造装置市場を日米蘭企業が独占する中で、オランダASML(半導体製造装置市場2位)、東京エレクトロン(同3位)は、アメリカの技術なしに自社製品の多くを完成できると見られている。

そこでバイデン政権は、自国の輸出規制の手が及ばない部分を補完するため、日本政府、オランダ政府に歩調を合わせるように働きかけている。(中略)

産業界の視点から見ると、どの輸出品目を規制するかが各社の業績に直結し、業界勢力図を変えることにもなりかねない。今回の措置に留まらず、同志国間でのルール作りやすりあわせが今後の課題として残る。

アメリカのサプライチェーン強靭化策
アメリカは昨年8月にCHIPS法、インフレ抑制法の2つの法律を成立させた。

まず、CHIPS法は中国との競争を念頭にアメリカの競争力を強化するために総額2800億ドル(約37兆円)を先端技術の研究開発に投資するものでこの中に半導体生産支援として527億ドル(約7兆円)の施策が含まれている。

CHIPS法を念頭に、アメリカのインテル、マイクロン、韓国・サムスンなどの企業は相次いでアメリカで新たに先端半導体工場の設立を表明しているほか、台湾TSMCはすでにアリゾナ州でアップル向けなどに先端半導体工場を建設中で、各社ともアメリカ政府の補助金に期待を寄せている。

一方で、補助金受給企業は今後10年間、中国を含む「懸念国」での工場建設を禁じられる条項も盛り込まれている。

もう1つはインフレ抑制法で、歳出合計4990億ドル(約66兆円)の内、気候変動対策・エネルギー安全保障に3910億ドル(約52兆円)を充てる法律である。

この法律には、電気自動車(EV)の購入者に、最大7500ドル(約100万円)の税控除を適用する条項が含まれるが、電池部材の北米原産率や重要鉱物がアメリカと自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で生産される比率などで、厳しい条件が課されるほか、中国を含む「懸念される外国の事業体」が関与する部品や重要鉱物が含まれないことなどの条件も課されている。

上記2つの法律は、台頭する中国を念頭にカーター政権以来の本格的な産業政策を復活させることで、先端技術を通じてアメリカの経済競争力を向上させようとする意図と、先端技術の流出を防ぐ意図を持った法律である。

一方で特にインフレ抑制法については、EUが独自の優遇政策でアメリカに対抗する可能性に言及し、韓国もWTO提訴の可能性に触れながら、ともにアメリカに条件を見直すように強く求めている。同様にアメリカとFTAを締結していない日本も条件を見直すようアメリカに強く働きかけている。(後略)【1月16日 東洋経済ONLINE】
***********************

中国はアメリカのこうした施策に反発しています。

****米の半導体・インフレ関連法、各国の権利と国益損なう=中国外相****
中国の王毅外相が韓国の朴振外相とオンラインで会談し、米国で成立した国内半導体産業支援法とインフレ抑制法は中韓を含む各国の正当な権利と国益を損なうと伝えた。中国外務省が12日に発表した。

王外相はまた、全ての国が反グローバル化や一方的な脅しを含む時代遅れの考え方にともに対抗し、真の多国間主義を維持し実践するべきだと述べたという。【2022年12月12日 ロイター】
****************

【オランダ 半導体規制で米と協調 韓国は反発】
対中国を想定した半導体規制法については、【東洋経済】記事にもあるように、半導体製造装置メーカーである日本・オランダ企業の協力が必要になります。

日本の東京エレクトロンはまだ対応を明確にしていません。ただ、アメリカ主導の対中国安全保障政策に従わないというのは難しい選択でしょう。

****半導体製造装置 輸出規制 東京エレクトロン社長“適切に対応”****
中国を念頭にした半導体製造装置の輸出規制をめぐり、世界大手の東京エレクトロンの河合利樹社長は決算説明会で「新しい情報が入れば適切に対応したいと考えている」と述べ、今の時点で会社としての判断は難しいという姿勢を示しました。

中国を念頭にした半導体製造装置の輸出規制をめぐっては、先月までにアメリカが日本とオランダにも協力するよう要請し、日本政府としても中国などを念頭に検討を進めています。(後略)【2月9日 NHK】
*********************

オランダ政府はアメリカに足並みをそろえることを明らかにしています。

****オランダが半導体技術の新たな輸出規制計画、米の対中措置に呼応****
 オランダ政府は8日、国家安全保障の観点から先端的な半導体技術の新たな輸出規制を計画していると明らかにした。米国の中国に対する半導体輸出規制に呼応する形だ。

米政府は昨年10月、米国製半導体製造装置の中国向け輸出を巡る包括的な規制措置を導入した。ただこれが効果を発揮するには、オランダと日本の主要サプライヤーの協力が不可欠となる。

こうした中でオランダのスフライネマッハー貿易相は議会宛て書簡で、夏の前には新たな輸出規制を実施する意向を表明した。書簡は規制相手として中国、また規制対象となる半導体製造装置のメーカーである同国のASMLホールディングには直接言及していないが、ASMLが半導体メーカーに販売している遠紫外線(DUV)露光装置に関する技術が影響を受けると説明している。

スフライネマッハー氏は「オランダはこの技術を最大限迅速に監視することが国家安全保障上必要と考えているので、内閣は国家管理リストを導入する」と述べた。

ASMLによると、DUV露光装置の最も先端的な部分について今後は輸出許可を申請しなければならなくなるだろうが、今年の業績見通しには影響ないという。【3月9日 ロイター】
******************

オランダのこの決定に中国は反発しています。

****中国「断固反対」 オランダによる半導体製造装置の輸出規制受け****
オランダ政府が半導体製造装置の輸出を規制すると発表したことについて、中国政府は9日、「断固反対する」と強く批判しました。

オランダ政府は8日、先端半導体を製造する装置の輸出を規制すると発表しました。名指しはしていませんが、中国を念頭に置いた措置とみられていて、中国政府は強く批判しています。

中国外務省 毛寧報道官
「私たちは、オランダ側が行政手段で中国とオランダ企業の正常な経済貿易往来を制限することに断固反対する」

中国外務省の毛寧報道官は9日の記者会見でこのように述べ、オランダ政府に申し入れを行ったことを明らかにしました。

さらに、オランダに輸出規制を働きかけたアメリカを念頭に、「個別国家に追随して輸出規制措置を乱用しない」よう求めたうえで、「サプライチェーンの安定と自由解放の国際貿易秩序を共同で維持し、両国や企業の共通利益を維持するよう希望する」と述べました。【3月9日 TBS NEWS DIG】
*******************

半導体工場建設への支援基準が明らかになると、韓国でも反発が。

****米国、今度は半導体で韓国を裏切る?=韓国ネット「技術が全て盗まれる」「韓国内に工場建設を」***
2023年3月6日、韓国・ヘラルド経済は「インフレ抑制法(IRA)で韓国を裏切った米国が半導体でも韓国を裏切った」と伝えた。

米商務省は先週、米国内に半導体工場を建設する企業に支給する補助金の基準を発表した。記事はこれを「韓国の半導体作業には青天のへきれきと言える知らせだった」と評している。

米国は昨年、自国内の半導体生産基盤の構築に向け総額520億ドル(約7兆円)の支援を決めた。このうち390億ドルは半導体工場を建設する企業に投じるとしている。

しかし、条件は厳しいという。記事は「超過収益の共有」「先端チップ工程に対するアクセス」「中国または関連国における10年間の半導体生産能力拡大禁止」を毒素条項だとしている。一〜二つ目は「補助金を出してやるから、たくさん稼いだ分は米国で吐き出せ」「基幹工程を公開しろ」ということで、「手持ちのカードを全て見せろと言うのに等しい」と指摘している。

また、三つ目の中国への投資制限は、サムスン電子やSKハイニックスという中国にメモリ生産基地を持つ韓国企業に対し、「中国での事業をやめろ」とメッセージを送ったも同然だとしている。

サムスン電子は中国・西安でNAND型フラッシュメモリの40%を、SKハイニックスは無錫でDRAMの50%を生産している。今後、工場のアップグレードができなければ、半導体工場は閉鎖への道を進まざるを得なくなる。

半導体が韓国輸出の20%を占める韓国にとって、こうした条件は「メガトン級の悪材料」だと記事は強調し、「米国が条件を先に提示していたら、韓国企業は米国に投資しようとしなかっただろう」と伝えている。業界では「これなら米国から補助金などもらわないほうがまし」だとの声も上がっているという。

韓国政府は米国関係当局に対し、韓国の立場を可能な限り伝えていく考えを示しているが、「大きな流れを変えるのは容易ではない」と、記事は指摘している。(中略)

この記事に、韓国のネットユーザーからは「中国への対処を言い訳に数十年前、日本の半導体を潰したのと同様に、韓国の半導体もこれを機に滅ぼそうとしているんだろう」「米国はあれこれ利用するばかり。こんな国を信頼できるはずがない」「危険を甘受してでも強い態度で対応していくべきだ」(中略)「これでは技術を全て盗まれる。米国から撤退して韓国内に工場を建設すべきだ」(中略)などの声が寄せられている。【3月9日 レコードチャイナ】
*********************

【インフレ抑制法 EUも独自対応検討 関係調整の動き】
インフレ抑制法についても、“EUが独自の優遇政策でアメリカに対抗する可能性に言及し、韓国もWTO提訴の可能性に触れながら、ともにアメリカに条件を見直すように強く求めている”というように、こちらも同盟国との関係調整が問題になります。

EVについて、完成車の組立場所とバッテリーを構成する主要鉱物の生産地などにより税額控除に差をつけるの「差別だ」ということで、韓国はWTOに提訴するか検討すると発表、また、二国間の自由貿易協定(FTA)に違反している可能性があるとも指摘しています。

一方、これまで「脱炭素」「クリーンエネルギー」の面で戦略的に世界をリードしてきたEUは、インフレ抑制法によって流れがアメリカに向けて変わることを懸念しています。

****米インフレ抑制法、欧州から脱炭素化の資金や人材奪う恐れ=業界幹部****
米国のインフレ抑制法(IRA)に盛り込まれたクリーンエネルギー推進向けの巨額のインセンティブによって米国で投資が加速する一方、欧州連合(EU)はエネルギー移行に必要な資金や人材の確保で後手に回りかねない――。今週のエネルギー業界の国際会議「CERAウィーク」で、集まった業界幹部からはこうした見方が示された。

バイデン政権が昨年IRAを成立させて以来、脱化石燃料の取り組みや気候変動対策を巡って欧米双方が民間資金と人材を奪い合う様相を呈しつつある。欧州側は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した天然ガスと電力の価格高騰に見舞われているだけに、エネルギー移行の遅れは許されない状況だ。

IRAの下では、太陽光、力といった再生可能エネルギーや電気自動車(EV)、二酸化炭素(CO2)貯留・回収といった分野における米国での技術開発投資に約3700億ドルの優遇措置が適用される。

グランホルム米エネルギー長官は8日、バイデン政権としてIRAについて何もやましい部分はないとの見方を示した一方で「われわれは貿易戦争ないしそれに類する事態を望んではいない。われわれは、あなた方も同じことをするべきだと言い続けている。だがわれわれはサプライチェーン(供給網)を米国に戻すことに真剣だ」と語った。

欧州企業の間からも、EUに独自の新たなインセンティブを打ち出すよう求める声が聞かれた。(中略)

米国三菱重工業の石川隆次郎社長も、IRAは投資を引き寄せる磁石だと表現し、「先進国はもとより途上国の全ての資金がIRAに由来する投資に加わろうと米国に流れ込んでいる」と述べた。

石川氏は、IRAの税制優遇で米政府から外資系企業に直接支払いがあるという部分はまさに「驚天動地」だと高く評価している。【3月9日 ロイター】
******************

EUの懸念に対し、アメリカは軋轢が大きくならないように協調も検討しているとか。

****米国とEU、クリーン技術で貿易協定議論=FT****
米エネルギー省のグランホルム長官は、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、米国と欧州連合(EU)がクリーンエネルギーについて自由貿易協定(FTA)型の協定を議論していることを明らかにした。

長官は「貿易で争いたくない。全てを持ち上げる方向でどのようにこれを実現できるかEUと協議している」と発言。米国は脱製造業化の流れを反転させ、中国依存を断ち切るため、製造業の「屋台骨」を構築したいと述べた。

欧州連合(EU)欧州委員会は9日、グリーン産業に手厚い補助金を打ち出した米インフレ抑制法に対抗するため、EU加盟国に米国と同額の補助金を企業に支給することを認めるルールを発表した。【3月10日 ロイター】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パレスチナ  「歴史的な会議」も実効なく、止まらない暴力の連鎖

2023-03-09 23:18:22 | パレスチナ

(7日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンで、イスラエル軍の急襲作戦から逃れる人々【3月8日 時事】 パレスチナの現実を改めて感じる写真です)

【「歴史的な会議を招集した」ものの、当日にも暴力の応酬】
中東パレスチナ情勢については、2月25日ブログ“パレスチナ・イスラエル 止まらない報復の応酬 アメリカの自制要請も効果見られず”でもとりあげたように、イスラエルとパレスチナ側との間で暴力の応酬が続いています。

前回ブログの記事をアップした直後に、事態鎮静化に向けた動きも試みられ、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の双方が暴力の激化を抑制することで合意したとのことでした。

****イスラエルとパレスチナ、暴力激化抑制で合意 ヨルダンで協議****
イスラエル政府とパレスチナ自治政府の当局者は26日、ヨルダン南部のアカバで会談し、暴力の激化を抑制することで合意した。会談には米国、ヨルダン、エジプトの高官も参加した。

イスラエル、パレスチナ双方は「一方的な措置の3─6カ月間停止に向け、直ちに取り組む用意と決意を確認した」とする共同声明を発表。「これには(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸での)新たな入植地に関して協議を4カ月間停止し、承認を6カ月間停止するイスラエルのコミットメントが含まれる」とした。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、声明で「歴史的な会議を招集した」ヨルダンのアブドラ国王に対するバイデン米大統領からの謝意を伝えた。

「この会談は出発点で、イスラエルとパレスチナ双方の人々の安定かつ繁栄した未来構築のために今後数週間や数カ月にやるべきことが多くあると認識している。実行が非常に重要になる」と述べた。

参加者は、3月にエジプトのシャルムエルシェイクで再び会談を行う。

イスラエル当局によると、26日には武装したパレスチナ人がヨルダン川西岸でイスラエル人入植者2人を殺害する銃撃事件が発生した。【2月27日 ロイター】
***********************

暴力を抑制し、入植地拡大も停止する・・・実行されれば「歴史的な会議」にもなったでしょうが、現実は会議当日の26日(共同声明発表との時間的な前後関係は知りませんが)には、“武装したパレスチナ人がヨルダン川西岸でイスラエル人入植者2人を殺害する銃撃事件が発生”とのこと。

これに対し、ユダヤ人入植者も報復・・・・ということで、「歴史的な会議」の実効性は全く見られせん。

****西岸で衝突激化****
(中略)26日には(ヨルダン川)西岸北部の町フワラをユダヤ人入植者数十人が襲撃して、家屋や自動車に放火した。

フワラへの襲撃は、ユダヤ人入植者2人が撃たれて死亡したのを受けて発生した。フワラの当局者によると、30軒の民家が焼かれたり、破壊されたりしたほか、100台以上の自動車に火が放たれた。

イスラエル軍当局者は、300〜400人が「報復」のために現地に入ったと説明した。イスラエル警察の広報担当者はAFPに対し、8人のイスラエル人が逮捕されたが、大半が釈放されたと明らかにした。

ヨルダン川西岸にはパレスチナ人約290万人が居住しているほか、国際法では違法と見なされているイスラエル政府公認のユダヤ人入植地に入植者約47万5000人が住んでいる。

ベンヤミン・ネタニヤフ右派政権で財務相を務め、自身も入植者のベザレル・スモトリッチ氏は西岸の入植地に関連して、「われわれの土地に新たな地域や町を建設していく」と入植地拡大を示唆した。(後略)【2月28日 AFP】
*****************

更に27日には、イスラエル人の車が銃撃を受け、1人が死亡する事件も。

****銃撃でイスラエル人死亡 暴力連鎖、各地で抗議デモ****
イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸東部エリコ近くで27日、イスラエル人の車が銃撃を受け、1人が死亡した。軍が発表した。

西岸では26日にユダヤ人入植者数百人が北部ハワラのパレスチナ人集落を襲撃、多数の建物や車を放火する事件が発生したばかり。暴力が続いており、沈静化の兆しは見えない。

イスラエルでは27日、各地で入植者によるパレスチナ人集落襲撃に対する抗議デモがあった。参加者は主にイスラエル政府のパレスチナ占領政策に反対するユダヤ人。

エルサレムでは数百人が「パレスチナ人の自由がなければ、われわれの安全もない」「入植者よ、恥を知れ」と訴えた。【2月28日 共同】
******************

【イスラエル 史上パレスチナに対して最も強硬な政権】
“暴力の連鎖”が止まないのは、基本的にはパレスチナ問題が全く進展していないことによりますが、最近の事情も。

イスラエル側の事情としては、ネタニヤフ氏(彼自身も保守強硬派とされていますが)が極右政党・宗教政党と連立することで、イスラエル史上、パレスチナに対して最も強硬、右寄りな政権となっています。

ヨルダンでの「歴史的な会議」も、イスラエル強硬派の意見を反映したものでもありませんし、パレスチナ側もハマスなども関与していません。

声明にはイスラエル・パレスチナ(ハマス)双方から批判の声が上がっています。

****イスラエル財務相がパレスチナの村「せん滅」発言、国連非難****
国連難民高等弁務官事務所のボルカ―・ターク高等弁務官は4日、イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の村フワラの「せん滅」を求めたことを「理解し難い」と非難し、イスラエル人とパレスチナ人の衝突の終結を呼び掛けた。

イスラエル人入植者2人がフワラで撃たれて死亡したことへの報復として数十人が同村を襲撃したのを受け、スモトリッチ氏は1日、「フワラ村をせん滅する必要がある」「イスラエルが国家としてやるべきだと思う」と述べた。

スモトリッチ氏はその後、ツイッターで「フワラ村を消し去るという意味ではなく、テロリストを一掃すべきという意味だった」と釈明した。 【3月4日 AFP】
**********************

【パレスチナ れまでの組織を超えた若者らの新たな過激組織「ライオンの巣」が拡大】
一方で、パレスチナ側でも、これまでの組織を超えて若者らの新たな過激組織「ライオンの巣」が拡大しています。

****パレスチナに生まれた武装組織「ライオンの巣」 武器を取る若者たち****
パレスチナ自治区があるヨルダン川西岸で、10~30代の若者が新たな武装組織を作り、イスラエル軍との戦闘を繰り広げている。

ヨルダン川西岸で起きた衝突による死者は今年、双方で130人以上に達し、第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)が終わった2005年以来の水準となる見込みだ。一体、何が起こっているのか。

高い若者の支持
10月25日、ヨルダン川西岸の都市ナブルス。イスラエル軍に殺害された武装組織の男性(31)の葬儀が営まれ、市中心部に数千人が集まった。「殉教者は神の祝福を受ける」「復讐(ふくしゅう)を!」。市民は遺体とともに街中を練り歩き、大声で叫んだ。

男性は、ナブルス周辺の若者で結成された新たな武装組織「ライオンズ・デン(ライオンの巣)」の幹部の一人だった。同日、弾薬庫として使っていた自宅で、イスラエル軍のミサイル攻撃を受けて殺害された。

ライオンズ・デンは今年8月以降、姿を現した。国際法違反とされるユダヤ人入植地付近で、イスラエル軍兵士を殺害したり、入植者を銃撃したりしてきた。グループに対する若者の支持は高い。

ナブルスに住む内装業、ムハンマドさん(19)は言う。「ライオンズ・デンは、イスラエルの侵略から我々を守ってくれる存在だ。友人は皆、彼らを支持している」。無職のジャワドさん(27)は「こちらが和平を望んでも、イスラエルは拒否するだけだ。勝てなくても、戦うしかないんだ」と強調する。

相次ぐテロ事件
第3次中東戦争があった1967年以降、パレスチナ人が多く住むヨルダン川西岸はイスラエルによる占領が続く。国際社会もパレスチナへの支援を減らしており、西岸では大学を卒業した20代の失業率は36%に達する。未来の見えない若者の閉塞(へいそく)感は強い。

イスラエルでは今年に入り、パレスチナ人らによるテロ事件が相次いだ。3月末には商都テルアビブでヨルダン川西岸ジェニン近郊のパレスチナ人が銃撃事件を起こし、5人が死亡。イスラエル軍はテロ撲滅のため、ジェニンやナブルスで大々的な掃討作戦を開始した。双方の衝突が続く中、ライオンズ・デンなど新たな武装組織が誕生し、戦闘は激化している。

シンクタンク「パレスチナ政策調査研究センター」のハリル・シカキ代表は、ライオンズ・デンを「これまでに例のない組織」と指摘する。

パレスチナには、パレスチナ自治政府の主流派ファタハの傘下にある軍事組織やガザ地区を支配するイスラム組織ハマス、過激派「イスラム聖戦」などの武装組織があるが、ライオンズ・デンは旧来の組織に所属していた若者らが、組織を超えて立ち上げた。

一方で、ハマスやイスラム聖戦も彼らを支援し、武器や資金を提供している。メンバーの中心は10~30代で、00~05年、双方の死者が4000人以上に達した第2次インティファーダをほとんど知らない世代だ。

パレスチナ当局への不信感
ではなぜ今、新たな組織が生まれたのか。殺害されたライオンズ・デン幹部の父、サビフさん(62)はこう語る。「パレスチナの武装組織は互いの方針が異なり、連携ができていない。息子は対イスラエルで団結できる組織を作ろうと思ったようだ」

背景には、和平交渉に消極的で、ヨルダン川西岸でユダヤ人入植地を拡大するイスラエルへの敵意と、状況を改善できないパレスチナ当局への強い不信感がある。

イスラエルは、右派が長い間実権を握っており、14年からパレスチナとの和平交渉を実施していない。パレスチナはヨルダン川西岸を統治する自治政府と、ガザ地区を支配するハマスに分裂し、双方の歩み寄りはみられない。自治政府は06年以降、選挙も実施しておらず、若者たちは政府に民意を反映する機会すら与えられていない。

中高年は、多くの犠牲を出しながら、イスラエルによる占領を変えられなかった第2次インティファーダを経験し、武装闘争に否定的な人も多い。だが当時の記憶が少なく、自治政府に絶望した若者たちは、再び武力に頼ろうとしている。

インティファーダ再びか
イスラエルのシンクタンク「メイル・アミット諜報(ちょうほう)テロリズム情報センター」のシュロモ・モファズ理事長は、戦闘激化の理由について「自治政府の弱体化にも原因がある」と指摘する。

イスラエルはヨルダン川西岸を占領しているが、ナブルスなどの都市部は自治政府の統治下にあり、自治政府がイスラエルと連携して治安を担う。だが、自治政府のアッバス議長(87)は高齢で健康問題を抱え、求心力が著しく低下。治安部隊は一部都市で職務を放棄しているほか、隊員が武装組織側に加わるケースもある。そのため、イスラエル軍がテロを防ぐために都市部に侵入、武装組織が対抗する形になっている。

またモファズ氏は、21年5月の戦闘で被害を受け、復興途上にあるガザを攻撃されるのを嫌うハマスが、西岸での戦闘を「あおっている」とも指摘する。

西岸の治安悪化などを受け、イスラエルでは、今月の総選挙でパレスチナに強硬姿勢を示す右派陣営が勝利した。政権入りが予想される極右政治家はパレスチナ人の「追放」を主張しており、西岸での戦闘がさらに激しくなる可能性がある。

シカキ氏は今後について強い懸念を示す。「未来のない若者が武器を手に取るのは、社会的な現象だ。現在はヨルダン川西岸の(北部にある)ジェニン、ナブルスで戦闘が起きているが、次第に西岸全体、そしてエルサレムにも広がるだろう。新たなインティファーダが起きる可能性も否定できない」【2022年11月22日 毎日】
*****************

****パレスチナで武装集団「ライオンの巣」が台頭****
(中略)
■台頭する「ライオンの巣」
西岸北部の都市ナブルスでは22日、イスラエル軍部隊が中心部にある旧市街を急襲し、パレスチナ人11人が死亡、80人以上が負傷。ここ20年近くで最大規模の犠牲者が出た。軍は、パレスチナ武装勢力による差し迫った脅威があるとの情報に基づいた作戦だったとしている。

この作戦が展開されたナブルス旧市街は、新たな武装グループ「ライオンの巣」が台頭する今回の衝突激化の焦点となっている。

イスラエル側は、同グループが昨年10月のイスラエル軍兵士殺害を含めた複数の襲撃事件に関与していると非難している。

ライオンの巣は、テレグラムに投稿した23日の声明で、22日の襲撃以降に「50人近く」が新たにグループに加わったと主張した。

ライオンの巣は、パレスチナ解放機構内の最大組織ファタハやイスラム組織ハマス、イスラム聖戦に関連する若い戦闘員による緩やかな連合体として昨年夏に結成された。グループは、テレグラムでの情報発信を通じてパレスチナ人の間で爆発的に人気が拡大した。 【2月28日 AFP】
********************

【7日、イスラエル軍の難民キャンプ急襲 8日にはガザからロケット弾】
EUは入植活動を止めないイスラエルにかねてより批判的です。
“EU、ユダヤ人入植者の暴力非難 パレスチナ襲撃で現地視察”【3月4日 共同】

アメリカ・バイデン政権も「2国家共存」を支持し、入植活動拡大には賛成していませんが、基本的にイスラエルを支持する立場ということで、イスラエルに対する抑止力とはなっていません。
“パレスチナ情勢、緊張緩和を協議 ヨルダン国王と米長官”【3月6日 共同】

上記会談でヨルダン・アブドラ国王は、イスラエル、パレスチナの「2国家共存」に向けた和平交渉再開のため政治的機運を高める必要があると強調。パレスチナの独立国家はヨルダン川西岸とガザを主要領土とし、首都は東エルサレムだと語ったとのことですが、オースティン米国防長官の反応は伝えられていません。

こうした情勢のもとで、再び暴力が。

****イスラエル軍、難民キャンプ急襲 ハマスメンバー含む6人殺害****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニン地区で7日、イスラエル軍が難民キャンプを急襲し、フワラ村近くのユダヤ人入植地の兄弟2人を射殺した疑いのあるイスラム原理主義組織ハマスのメンバーなど少なくとも6人を殺害した。

8日未明には、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が発射されたことが確認された。

目撃者情報によると、難民キャンプ中心部を見下ろす丘の上でイスラエル兵が家具運搬車から降りると、間もなく戦闘員が発砲し銃撃戦が始まった。

イスラエル軍によると、軍は銃撃犯と思われる人物らが立てこもっていた家を包囲し、携帯式ミサイルで攻撃。イスラエル人を銃撃したとするハマスのメンバーを特定したとしている。

パレスチナ保健当局によると、パレスチナ人6人が死亡し、少なくとも16人が負傷した。イスラエル警察隊員1人が負傷し、3人が軽傷を負った。

ハマスとイスラム聖戦の声明によると、殺害されたのは全てハマス、イスラム聖戦、ファタハのメンバー。

ハマスは「占領に対する武力抵抗をエスカレートさせ、占領された故郷の土地のあらゆる場所で彼らと戦うよう、あらゆる場所のわが民族の戦士に呼びかける」と表明した。【3月8日 ロイター】
***********************

毎回、同じ文言の繰り返しですが、イスラエルとパレスチナ双方で暴力の連鎖が続き、情勢悪化に歯止めがかかりません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カナダ  中国の選挙介入疑惑で、冷え込んでいた中国との関係が更に悪化

2023-03-08 23:39:08 | 国際情勢

(【2022年11月18日 YAHOO!ニュース】昨年11月 インドネシア・バリ島で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で習近平主席がカナダ・トルドー首相を“叱責”“説教”と報じられた場面)

【「中国vs.西側諸国」の構図 各国の事情で差異も】
中国に対する欧米諸国、いわゆる西側の対応ということでは、当然ながら国によってそれぞれ事情もあるので、そうした事情を反映した差異はありますが、大きな流れとしてはアメリカが主導する対立・警戒の枠組みの中にあります。

そのアメリカは、中国のロシアへの武器支援、台湾・南シナ海問題、貿易・関税の経済問題といったメインの問題はありますが、そこで大きく動くとのっぴきならない事態にもなりかねませんので、周辺部の気球とか、新型コロナ武漢研究所流出説とかが前面に出ているようにも。そして今ホットなところでは中国系動画投稿アプリ「TikTok」の法規制。そのあたりはまた別機会で。

欧州も基本的にはアメリカと足並みをそろえる形になっていますが、中国側は2月の中国外交トップの王毅氏の欧州歴訪にみるように、欧州の一部を中国の側に引き込めないかアプローチしています。

******************
米シンクタンク「ジャーマン・マーシャル財団」で欧中関係を専門するアンドリュー・スモール上級研究員は、「王氏の欧州歴訪には、明確なメッセージがあった。『中国と欧州の間には、特になんの問題もない。中国とアメリカの間には、問題がある。中国は欧州の皆さんと一緒に問題を解決できる。皆さんは、アメリカが欧州を連れて危険な道を突き進んでいると理解するべきだ』と、欧州に向けて強調していた」と話した。
「だが、このメッセージは欧州のほとんどの場所で、あまり支持されなかったと思う」と、スモール氏は指摘した。【2月26日 BBC】
*******************

ただ、欧州委員会のフォンデアライエン委員長とEUのミシェル大統領が2023年上期に中国を訪問する可能性があるとか、マクロン仏大統領が4月初旬に中国を訪問すると明らかにしたとか・・・欧州側にも中国との関係を維持したい思惑があるようにも見えます。

一時期、中国の政治介入などで中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアでは、最近は関係改善の動きがあります。

今日取り上げるのはカナダ。カナダは中国との対立が先鋭化しています。

【ファーウェイの孟晩舟氏拘束などで冷え込む中国・カナダ関係】
アメリカから詐欺罪などで起訴された華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟最高財務責任者(CFO)が2018年12月にカナダで拘束されたこと、そのことへの報復と推測されるカナダ人2名の中国でのスパイ容疑での拘束など、ここ数年のカナダ・中国関係は冷え込んでいます。

人権を重視するカナダ・トルドー政権はウイグル族の問題でもアメリカ・欧州と足並みをそろえて中国への制裁を課しています。

昨年11月にも
“カナダの公共放送局が北京支局を閉鎖 中国政府からのビザが発行されず、“事実上の追放”と認識”【11月4日 ABEMA TIMES】
“カナダ政府が中国資本にレアアース企業からの撤退を要求―独メディア”【11月4日 レコードチャイナ】
“経済貿易問題の政治化をやめるようカナダ側に要請―中国商務部”【11月6日 レコードチャイナ】
といった状況。

そうした冷え込んでいる両国関係を象徴したのが昨年11月にインドネシアで開催された20か国・地域首脳会議(G20サミット)での習近平国家主席のカナダ・トルドー首相への“説教”の様子でした。

****習氏、カナダ首相に説教? 異例の振る舞い****
インドネシアで開催された20か国・地域首脳会議国家主席がカナダのジャスティン・トルドー首相を叱責する様子がカメラに捉えられた。首脳間のこうした言動が公になることはまれで、すでに冷え込んでいる両国関係が悪化する恐れもある。

G20サミット会場で16日に撮影された1分ほどの動画では、会談の詳細がメディアにリークされたことについて、習氏がトルドー氏に対して説教していたように見えた。

トルドー氏は15日の会談で、カナダ国民に対する中国の「干渉」があるとして議題にした。カナダ政府は先に、中国政府がカナダの民主主義や司法システムに介入していると非難していた。この日は両氏にとって2019年以来の直接会談だった。

16日の動画では、習氏は通訳を介してトルドー氏に「われわれが話したことは全て新聞にリークされている。不適切だ」と言い、「そうした形で議論がなされたわけではない」と続けた。

習氏はさらに「誠意があるなら、お互いを尊重する姿勢に基づいた対話ができる。さもなければ、予測不能な結果となるだろう」と警告した。

こう言って立ち去ろうとした習氏に、トルドー氏は「カナダでは、自由で開かれた、率直な対話が重んじられる。これからもそうした対話をしていく」と返し、「建設的に協力することを目指すが、相いれないこともある」と述べた。

習氏は手を上げて話を遮り、「条件を整えよう」と繰り返し、笑顔をつくると、トルドー氏とほとんど目を合わせずに握手をしてその場を立ち去った。

会話が撮影されていることに、習氏が気付いていたのか、またはいつ気付いたのかは分かっていない。

中国外務省は17日、両国首脳にとってこうした会話は「通常の」ものであり、「習近平(国家主席)が誰かを批判したり責めたりしていると解釈されるべきではない」として、火消しを図った。 【2022年11月17日 AFP】
*****************

【2019年と21年のカナダ総選挙に中国が干渉した疑惑】
問題は、“説教”云々(「大国」中国に逆らう「小国」カナダごときへの習近平氏の苛立ちがあらわれた形にも見えますが)ではなく、そのもとになった両者の会談で議論された“中国政府がカナダの民主主義や司法システムに介入している”という件です。

今、カナダメディアが2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑を報じていることで、この問題が改めてクローズアップされています。

****カナダ外相、内政干渉を「決して容認せず」 中国外相に言明***
カナダのジョリー外相は3日、ニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)外相会合に合わせて中国の秦剛外相と会談し、カナダはいかなる形の内政干渉も決して容認しないと言明した。

声明によると、ジョリー外相は秦外相に対し「直接的で断固かつ明白な」態度を示し、「カナダは中国による民主主義および内政へのいかなる形での干渉も決して容認しない」と述べたという。

また「われわれはカナダの領土保全および主権に対するいかなる侵害も決して受け入れない。中国の外交官によるカナダ国内でのウィーン条約違反も決して受け入れない」とした。

カナダ議会の委員会は2日、外国による選挙への干渉を巡る疑惑について正式に調査を開始するよう政府に求める決議案を可決。中国などが2019年と21年の総選挙に干渉しようとしたとの疑惑が浮上しているものの、中国の秦外相は「完全に虚偽でナンセンスだ」と否定した。【3月4日 ロイター】
******************

****カナダ首相、中国の選挙干渉疑惑で特別調査官任命へ****
カナダのトルドー首相は6日、中国による選挙干渉疑惑を調べる独立した特別調査官を任命する方針を明らかにした。外国による選挙干渉疑惑を巡る別の調査も発表した。

カナダメディアは2019年と21年の総選挙に中国が干渉した疑惑を報じている。

トルドー氏は特別調査官について、幅広い権限を持ち、干渉防止や民主主義強化について勧告を行うことになると述べた。

議会の安全保障委員会に外国の選挙干渉疑惑について調査を要請したことも明らかにした。

さらに、国内の安全保障機関が外国による干渉の脅威にどう対応したか調査するよう国家安全保障情報審査局(NSIRA)に要請する考えを示した。

トルドー氏は「これらの措置により、過去2回の選挙で何が起きたのか、外国政府がどのように干渉を試み、カナダの安全保障機関がどう対応し、政府内で情報がどのように流れたのか、理解を深めることができる」と述べた。【3月7日 ロイター】
**********************

中国が標的にしたのは関係が悪化している現政権与党の自由党ではなく、より対中国強硬派の野党保守党だったとのこと。しかも、国内政治バランスへの微妙なさじ加減も。

カナダ紙グローブ・アンド・メールは、中国は野党・保守党を嫌い、自由党政権が続くことを望む一方、カナダ国内で対立が続くことを重視し、自由党が少数与党にとどまることを目指したとする内容の記事を報じています。

****中国が選挙介入? 揺れるカナダ政界 デマや現金で工作か****
カナダで過去2回の総選挙に中国が介入し、中国に敵対的な政治家を落選させようとしたとの疑惑が浮上し、カナダ政界が揺れている。与

党・自由党政権のトルドー首相は6日、独立して疑惑を調べる特別調査官を近く任命すると表明した。ただ、対中強硬姿勢の野党はより広範な調査を求め、政権への批判を強めている。

トルドー氏は6日、「我々の民主主義を弱体化させようとする外国の試みを真剣に受け止めている」と表明。一方で、「これらは新たな問題ではない」と述べ、以前から中国だけでなくロシアやイランによる選挙への干渉の試みを認識し、政府として対策をとってきたことを強調した。

カナダ紙グローブ・アンド・メールなどは、カナダの情報機関の機密文書などをもとに、2019年と21年の総選挙で、中国が自国に敵対的な候補が落選するように働きかけをしたと報道。同紙は、中国本土からの移民が多い選挙区をターゲットにした偽情報キャンペーンや特定の候補への現金寄付があったなどと伝えた。

カナダ政府は、中国による選挙への介入の試みがあったことは認めているが、選挙結果を覆すような影響はなかったと強調している。

ただ、21年の総選挙で政権奪取に失敗した野党・保守党のポワリエーブル党首は特別調査官の任命について「真相解明のために真に独立した調査が必要だ」と述べ、より広範な調査を求めた。

グローブ・アンド・メールによると、中国は保守党など中国に敵対的な党の政治家が当選するのを阻止しようとしたが、同時に与党・自由党が大勝するのは望まず、中国外交関係者は「議会の政党が互いに争っているのが良い」と語ったという。21年の選挙では自由党は第1党は維持したものの単独過半数は確保できなかった。【3月8日 毎日】
*******************

カナダ世論も中国への厳しい対応を求めています。

****カナダ人の多くが対中強硬姿勢を支持、「経済至上」が弱体化―カナダメディア****
カナダで行われた世論調査で、トルドー政権は中国に対してより強硬になるべきと考えている人が多いことが分かった。カナダ・グローバルニュースが1日付で伝えた。

2021年に行われたカナダ総選挙の投票結果を審査する独立グループが2月28日に発表した報告書では、「外国の干渉は自由で公正な選挙を行うカナダの能力を脅かすものではない」と結論付けられた一方、報告するレベルではないものの選挙に干渉しようとする者がいたと警告した。こうした指摘が相次いでいるものの、トルドー首相は政府としての調査を求める質問に対し明言を避けている。

そうした中、カナダの調査会社アンガス・リード・インスティテュートのShachi Kurl所長は「カナダ政府の過去数週間の反応は、大多数のカナダ人の見解とは異なるようだ」と指摘。同社が1日に発表した世論調査によると、「中国による干渉は選挙結果に影響を与えるほどではない」と報じられているにもかかわらず、それでもなお25%近く(保守党では42%)のカナダ人が21年の総選挙で自由党が政権を奪ったのは中国の介入によるものだと考えているという。

また、トルドー政権の対中政策について、特に国家安全保障や国防については自由党支持者も懸念しており、「自由党政権は中国に対抗することを恐れている」との回答は、自由党支持者で46%、新民主党支持者で62%、保守党支持者では91%に達し、全体では69%に上った。

中国に対抗することによる経済への影響を懸念する人の割合も46%と依然として高いが、Kurl氏によると1年前と比べて12ポイント低下しているという。

カナダは中国との貿易関係が良好で、昨年の中国からの輸入は初めて1000億ドルを超え、過去最高となった。ただ、カナダ政府は昨年発表した新しいインド太平洋戦略で、中国に対抗するために地域の他のパートナーを支持し中国との貿易や投資をさらに減らすとの方針を示唆した。

Kurl氏はカナダ人の中国での拘束や気球騒動が「経済至上」を主張する人々をさらに弱体化させており、「経済も重要だが主権、安全保障、国防も重要」と考える人が増えていると分析した。【3月2日 レコードチャイナ】
*******************

【カナダの中国系議員】
「移民大国」カナダでは中国系カナダ人は2016年調査で約177万人、全人口の4.6%ほどですが、地域・都市によっては濃厚な中国系コミュニティを形成しています。

そうした中国系コミュニティを背景に、中国系議員も複数名当選しています。そのこと自体は問題ないのですが・・・

****カナダでなぜ中国系議員が増えているのか…北米で展開される「中国vs.民主主義」の構図****
(中略)
カナダ連邦下院選で8人の中国系候補が当選
中国からの移民が増えていること自体は、カナダだけの限った話ではない。カナダと他国の違いは、事態がさらに「先」に進んでいたことである。

多様性を重視する民主主義国家であるカナダにおいて、近年になり華人議員が増加していることだ。人口の5%近くを占める華人票を得ることで選出された議員たちは、カナダの各都市や各州、さらには連邦議会でも存在感を増しつつある。

2019年のカナダ連邦下院選に立候補した華人候補者は過去最多の41人にのぼり、そのうち8人が当選した(なお、2011年の選挙は華人候補者23人のうち7人当選、2015年の選挙では27人立候補のうち6人当選)。(中略)

なお、こうした華人議員たちの所属政党は、中道左派の与党・自由党が4人で、二大政党の一角をなす中道右派の野党・保守党が3人、左派の社会民主主義政党である新民主党が1人となっており、意外にも政治的立場はかなりバラバラだ。

だが、彼らの選挙区は、中国系住民が多いトロントがある東海岸のオンタリオ州と、バンクーバーやリッチモンドがある西海岸のブリティッシュコロンビア州に偏っている。

選挙を用いた浸透工作
マイノリティである中国系住民から多数の議員が誕生している現象それ自体は、カナダ社会の寛容性を示すものだ。

日本が100万人近い中国人人口を抱えているにもかかわらず、華人の議員がほぼいないことを考えれば(例外は立憲民主党の蓮舫氏くらいだ)、カナダのありかたは民主主義社会としては非常に健全だ。本来は称賛するべき話である。

しかし、他方で近年になり明白になりつつある「残念な真実」も存在する。カナダの華人議員の一部に、北京の中国政府と近い人物や、中国人のナショナリズムを煽り立てる人物が少なからず含まれていることだ。

たとえば、新民主党の下院議員で香港出身のジェニー・クワンをはじめ、オンタリオ州やブリティッシュコロンビア州の一部の中国系地方議員は、カナダの社会で南京大虐殺や慰安婦の問題を過剰に持ち出し、対日歴史問題に強硬なポーズを示すことで華人票を固める戦略を取っている。

同じカナダ華人といっても、移住時期や言語が大きく異なる人たちを、最大公約数的にまとめあげて票につなげるのに、「日本の中国侵略」や「祖籍国(中国)への愛」は、非常に使いやすいテーマとなるわけだ。

いっそう深刻なのは、2015年に中華人民共和国の出身者として史上初の下院議員に当選したゲン・タン(譚耕)のケースである。北京生まれ湖南省育ちの彼は、湖南大学を卒業後に中国で高級エンジニアとして働いてからトロントに留学、カナダで博士号を取得してそのまま定住した経歴を持つ。

ところが2018年1月、複数の現地メディアは、ゲンが中国人ビジネスマンの資金供与を受ける形で中国渡航をおこなったことや、中国大使館への口利きをおこなっていたこと、さらには下院議員当選後にしばしば中国に赴いて中国共産党員の政府関係者らと接触していたことなどを次々と報じた。

つまり、過去起こったオーストラリアの事例と似た問題が持ち上がったのだ。ゲンはこれらの報道を否定したものの、その後に別の個人的なスキャンダルが伝えられたこともあって、まだ50代後半と議員としては脂が乗った時期にもかかわらず、2019年の下院選には不出馬を表明している。

アメリカの緊密な同盟国かつ隣国にもかかわらず、アメリカよりもはるかに「ゆるい」カナダは、中国から見れば非常に貴重な浸透工作の対象だった。多様性を重んじる民主主義国家ゆえに、自分たちの手駒を国家の内部に送り込むことも容易だったのである。

とはいえ、近年はさすがに風向きが変わってきた。2018年12月に中国企業ファーウェイの孟晩舟副会長がバンクーバーで拘束されて以来、中国とカナダの関係は悪化している。(後略)【2021年5月25日 安田峰俊氏 WEB Voice】
****************

“過去起こったオーストラリアの事例と似た問題”ということで、一時期中国と険悪な関係に陥ったオーストラリアの方は、最近、オーストラリア・アルバニージー首相が訪中意欲を示すなど経済を中心に関係改善の兆しが見えています。

カナダの話が長くなってしまったので、オーストラリアの話は別機会に。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

児童婚  新型コロナパンデミックで増加 インド・アッサム州で一斉摘発 新たな悲劇も 背景は?

2023-03-07 23:07:14 | 人権 児童

(2023年2月5日/インド、北東部アッサム州、児童婚で逮捕された男性と警察官(ロイター通信)【2月7日 KWP News】)

【アメリカ 児童労働増加 取締り強化】
児童に関する問題は、主にアフリカ・アジアなどの途上国やイスラム世界、インドなどの問題のようにも思われますが、アメリカでも児童労働が増加しているとのこと。

****米政府が児童労働取り締まり強化へ、実態調査や罰金引き上げなど****
バイデン米政権は27日、児童労働の取り締まり強化に向け、一連の措置を講じていることを明らかにした。

複数の政府高官によると、労働省が2018年以降に把握した児童労働を巡る違反行為は70%近くも増加。昨年度だけでも835社で法律違反が見つかった。

こうした中で政権は個別のケースとして、有名スナック菓子などのパッケージ製造を手がけるハースサイド・フード・ソリューションズと、現代自動車のサプライヤーなどでの児童雇用の実態調査を進めている。

また既に児童労働問題に関する省庁横断型作業チームを立ち上げ、今後は最も違反が起こりやすそうな業界への調査を計画中。さらに児童労働関連法違反に対する罰金引き上げや、法執行・監視向け予算増額も目指す。

ある高官は「これは19世紀でも20世紀でもなく、現在発生している問題だ。われわれは米国中でそもそも雇うべきではない状況で児童が働かされている状況を目にしている」と強調した。

米国の法律では、16歳未満はほとんどの工場施設で働くことが禁じられている。18歳未満も工場内での危険な作業の大半に従事させてはならない。【2月28日 ロイター】
*******************

【新型コロナパンデミックで増加した児童婚】
児童労働と並んで問題になるのが児童婚

****パキスタンは児童婚の廃絶を 国連専門家****
国連の人権問題の専門家は16日、パキスタンの宗教的少数派の間で、女児の拉致や強制結婚、改宗が横行しているとの報告を非難するとともに、政府に対しこうした慣行を直ちに廃絶し、徹底的な調査を行うよう求めた。

専門家らは「13歳の少女が家族から引き離され、遠く離れた場所で売られ、時には2倍も年が離れた男性と結婚させられ、イスラム教に改宗するよう強制されていると知り、心を痛めている」としている。

人権問題の専門家である特別報告者は国連人権理事会によって任命されるが、同理事会を代表する立場にはない。

専門家らは、パキスタンの司法当局も警察も「まともな捜査を行わず、偽りの証拠を受け入れる」ことで宗教的少数派の少女や若い女性への違法行為を野放しにしていると指摘。

「家族によれば、被害を訴えても警察はほとんど取り合わず、被害届を受理しないか、拉致され結婚を強制されているにもかかわらず、『恋愛結婚』と決め付け犯罪と見なしていない」と非難した。

さらに、実態調査は「客観的に国内法および国際的な人権問題への取り組みに沿って」行われるべきだと強調した。 【1月17日 AFP】AFPBB News
********************

もちろん、こうした問題はパキスタンに限った話ではありません。(と言うか、国連がなぜパキスタンを取り上げたのか・・・そこが不思議でもありますが)

児童婚は多くの国で法律上は禁じられていますが、実際には伝統的風習によって・・・という世界です。
加えて、近年は新型コロナの影響で少女・若者が学校に通えなくなったことによって増加しているとも。

下記はアフリカ・ケニアの事例

*****新型コロナで学校閉鎖、「意図しない妊娠」・・・結婚へ ケニアの事例*****
ケニア南部カジアド郡にあるNGO「ナイス・プレイス財団」の保護施設の一室で、少女が赤子を抱いていた。チャリティと名乗るマサイ族の少女は赤子の姉にしか見えなかった。

チャリティさんが16歳で男児を出産したのは2021年末のこと。問題はその後に起きた。児童婚(18歳未満での結婚)は違法だが、伝統的な価値観に生きる父親が、知らない男に嫁がせようとしたのだ。

チャリティさんの実母は彼女がまだ10歳のころに亡くなり、その後は一夫多妻制に生きるマサイの父と、3人の義理の母のもとで暮らした。

生活が大きく変わったのは、20年に始まった新型コロナウイルスの感染拡大だった。ケニアでは同年3月~翌21年1月、ほとんどの学校が閉鎖された。

ケニア大統領政策・戦略ユニットの報告書によると、学校再開時に復学できなかった少女は推計約25万人。最大の要因は保護者が学費を支払えなくなったこと、続く要因は意図しない妊娠だった。パンデミックが始まった1年で計32万8千人超の少女が妊娠した。

この報告書によると、ケニアでは15~19歳の女性の2~4%が結婚しており、妊娠をきっかけとするケースが4割以上を占める。結婚時期は約3割が新型コロナの発生以降だった。学校閉鎖中、時間をもてあました若者が性交渉をする機会が増えたことなどで妊娠が増えたとみられる。

チャリティさんも、近所に住む年上の少年に求められ、断れずに一度だけ性交渉に応じてしまった。そして、妊娠した。「初めての経験で、妊娠するなんて思いもよらなかった」

妊娠を知った父は、夫探しを始めた。一夫多妻のマサイの文化では、年配である程度経済的余裕がある人が若い女性を新たに妻に迎えることは珍しくない。父親が見つけてきた夫候補も初老の男性だった。(後略)【2月27日 日系メディア】
**********************

新型コロナの児童婚への影響は、学校へ通えず、時間を持て余し、結果的に「意図せざる妊娠」に至る上記のようなケースの他、学校に行けないのであれば結婚を・・・と、親によって強制的・人身売買的に結婚を迫られるケースもあるでしょう。

【インド・アッサム州 一斉摘発 残された女児の悲劇も イスラム教徒狙い撃ちとの批判も】
インドでも法律上は結婚年齢は18歳以上ですが、昔から児童婚の「悪習」が続いています。

****インドで児童婚取り締まり開始、初日に2044人逮捕****
インド北東部アッサム州で3日、児童婚の取り締まりが開始され、2044人が逮捕された。警察が明らかにした。
ヒマンタ・ビスワ・サルマ州首相は、児童婚を「悪習」と呼び、州民に廃絶への協力を呼び掛けている。

サルマ氏によると、アッサム州の女性のおよそ8人に1人は18歳未満での出産を強いられており、乳児および妊産婦の死亡率を押し上げている。

同州のGP・シン警察長官は、初日に逮捕した2044人のうち52人は結婚を取り仕切った聖職者や司法当局者だったと説明。州内では、12歳で今も婚姻状態にある子もおり、4074件について捜査するという。

インドでは18歳にならなければ結婚できないが、貧しい農村部を中心に大勢の子どもがそれよりも幼い年齢で結婚させられている。

多くの親は経済的な安定を確保するために子どもを結婚させ、その結果、少女が夫に尽くして家事をするために学校を中退し、幼すぎる出産で健康を害するといった悲惨な事態を招いている。

国連の統計によると、インドでは2億2000万人の女児が結婚させられているが、児童婚の件数は今世紀に入って急減している。

インド最高裁は2017年、未成年の妻との性行為はレイプに当たるとする画期的な判決を下した。 【2月4日 AFP】****************

インド・アッサム州が摘発・取締りに乗り出した理由は知りませんが、この問題は女児と結婚した男性を逮捕すればいいというものでもありません。

適切なケア・フォローがなければ、子供を抱えた女児が収入も途絶し世間に放り出されるという新たな悲劇にもなりかねません。

****違法児童婚の摘発進めるインド、新たな貧困生む悲劇も****
インド北東部アッサム州ナガオン県の村、ラダナガーに暮らすピンク・ダス・サーカーさんは、まだ15歳。だが、既に赤ちゃんを身ごもっている。それなのに、一家の稼ぎ手である26歳の夫が2月2日に児童婚の容疑で逮捕され、途方に暮れる毎日だ。

今年2月にアッサム州で行われた当局の一斉摘発では、男性や宗教関係者ら3000人余りが児童婚を禁止する法律に違反した容疑で身柄を拘束された。

「夜の11時でした。寝ようとしていたら警官4人がやって来て、夫を引っ立てていきました。何が起きたのは分からなかった。夜通し泣いていました」とサーカーさん。家計は夫が荷車で売るサトウキビジュースからのわずかな収入が頼み。「どうしたらいいのか全く分からない」と述べていた。

インドでは、18歳未満の結婚が法律で禁止されている。しかし、実際にはこの年齢に達しない児童婚が珍しくない。

2019―21年のデータによると、18歳未満で結婚した女性は全体の約4分の1に上る。ただ、この比率は05―06年の47%から低下しており、近年は児童婚を減らす取り組みが大きく進展している。

女性の権利保護を訴える団体によると、未成年の女性の教育機会の改善や、早婚の慣習が文化的に受け入れられているコミュニティーでの意識向上に向けた取り組みが効果を上げた。

警察が児童婚の摘発に動くことは少なく、最新の公式統計によると、21年にインド全土で児童婚を手配、あるいは児童婚を行ったとして逮捕されたのは2000人弱に過ぎない。

一方、アッサム州の児童婚摘発は、女性保護や反貧困に取り組む団体から非難も受けている。経済的な理由から未成年の娘を結婚させた貧しい家庭を不当に罰し、多くの家庭が重要な稼ぎ手を失うというのが理由だ。

非営利団体HAQセンター・フォー・チャイルト・ライツの共同創設者であるエナクシ・ガングリー氏は「元々貧しい人々を犯罪者にしてしまい、社会的な問題への最善の対処方法ではない。若い妊娠中の少女たちは稼ぎ頭を失い、寄る辺ないまま放置されている」と訴える。

女性の権利保護に取り組む活動家らは、州都グワーハーティーの高等裁判所に嘆願書を提出。取り締まりを行う代わりに未成年女性の性と生殖に関する情報や教育へのアクセスを改善し、児童婚の防止を支援するよう求めた。

<無一文>
サーカーさんの自宅からほど近くに住むグルソナ・ベグムさんは結婚からわずか2週間後の2月7日、警備員として働いていた夫が警察に身柄を拘束された。一家は無一文の状態に陥り、先の見通しが立たなくなった。

「義父は体に障害があり、夫が刑務所にいる今、どこからも収入がない」という。

ベグムさんは、自分は18歳だと主張した。しかし、警察によると彼女は18歳未満で、年齢を証明する文書はない。

「夫は逮捕されたのだから、職を失うでしょう。今は近所の人や親戚の助けでなんとか食べているけれど、先のことは分からない」と不安な気持ちを隠さない。

村の住民によると、逮捕を恐れた男性数人が、10代の妻を残して近隣の州へ逃亡した。

アッサム州のヒマンタ・ビスワ・サルマ州首相は2月28日の記者会見で、警察による摘発開始以来、児童婚の報告はないと述べ、取り締まりを擁護する姿勢を示した。これまでに3047人が拘束され、そのうち251人は保釈が認められたという。

一方、今回の摘発では州人口3400万人の約3分の1を占めるイスラム教徒が狙い撃ちされているのではないか、との疑惑も浮上している。弁護士のタニヤ・スルタナ・ラスカール氏によると、イスラム教徒が多く住む地区で多数の逮捕者が出ている。

サルマ氏はヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権与党、インド人民党の有力者だが、摘発において対象者の信仰は関係なかったと主張した。

<複数の家族の支えに>
ラダナガー村に住むサーカーさんの義父は息子が逮捕され、両家双方のためになると思って結婚を勧めた判断に疑問を感じざるを得なくなった。「サーカーの母親は家事手伝いをしていて、若くして夫を亡くした。私が妻を失ってから、家には女性がいなくなった。だから(自分の息子とサーカーさんの)結婚が2つの家の問題を解決する方法だと思った」と言う。

「児童婚が良くないことは分かっているし、サーカーが一日中悲しんでいるのを見ると、今は無力感に襲われている。この年になれば、なかなか仕事はもらえない。子どもが生まれたらどうなるのか心配だ」と嘆く。

サーカーさんは、今は病院通いなどで近所の人の手助けを受けている。しかし、夫がいない寂しさはどうしもうようない。「夫の存在は私の支えでした。彼は私の力(の源)です」と言い切った。【3月5日 ロイター】
*******************

“イスラム教徒が狙い撃ちされている”・・・ヒンドゥー至上主義を掲げ、イスラム教徒の人口増加を懸念するモディ政権のもとでは“あり得る”話でようにも思えます。

****印アッサム州で児童婚一斉取り締まりに抗議するデモ****
インド北東部アッサム州で児童婚の一斉取り締まりに反対するデモが行われ、夫を逮捕された女性数百人が参加した。

州警察は3日以降の取り締まりで2400人以上を逮捕。4000件以上の刑事事件を捜査し、その対象は8000人以上にのぼる。逮捕者の中には児童婚を取り仕切ったとされるヒンズーおよびイスラム教の司祭も含まれている。

野党議員はこの取り締まりを「茶番」と呼び、イスラム教徒が不当に狙われていると主張した。
ンドの結婚可能年齢は女性が18歳、男性は21歳である。しかし、多くの女性がそれ以下での結婚を強いられ、妊産婦の事故率を押し上げている。

アッサム州政府は児童婚を犯罪と糾弾し、法律に基づいて取り締まりを行っていると反論した。
連邦政府の統計によると、既婚女性の2割以上が18歳未満で結婚している。国会は現在、女性の結婚可能年齢を21歳に引き上げる法案を検討している。

しかし、シャリア(イスラム法)は「少女は思春期になれば結婚できる」と定めている。国会の女性委員会はイスラム教徒を含むすべてのインド国民に法律に従うよう求め、最高裁に提訴している。

3日に取り締まりが始まって以来、州警察本部の前では抗議デモが続いている。
地元メディアは抗議に参加した女性の話を引用し、「稼ぎ頭が逮捕され、多くの女性と子供が路頭に迷っている」と報じた。

州政府は影響を受けた女性に支援を提供すると約束したが、不満解消には至っていない。
ある女性は現地紙インディアン・エクスプレスに、「これからどうやって生活していけと?」と憤慨した様子で語った。「私は夫に完全に依存しています...」

別の女性は初等教育しか受けておらず、法的支援を受ける方法がわからないと訴えた。

タイムズ・オブ・インディア紙によると、警察は4日、州警察本部前に集まったデモ隊に催涙ガス弾を撃ち込み、解散させたという。

州警察は「14歳以下の少女と結婚した容疑者は児童性犯罪防止法で起訴される」と警告している。
14~18歳の少女と結婚した者は児童婚禁止法に基づいて逮捕・起訴される。有罪判決を受けた者は2年以下の禁固刑と罰金刑に処される。児童性犯罪防止法はこれよりさらに厳しい刑罰を規定している。

州政府は声明の中で、「児童婚を取り仕切った司祭を含む8100人以上が捜査対象となり、警察に手加減無用で捜査に当たるよう求めた」と述べている。また州政府は「児童婚は犯罪であり、いかなる理由があろうと容認されない」と強調した。

しかし、野党議員はモディ首相率いるインド人民党(BJP)が気まぐれで児童婚を取り締まり、多くの女性と子供を窮地に追いやっていると非難した。
ある野党議員はツイッターに、「アッサム州のBLPは気まぐれで何年も前に結婚した男性を逮捕し、女性と子供を苦しめている」と投稿した。

別の議員は地元メディアのインタビューでこの取り締まりを「広報活動」と呼び、「警察は適切な捜査や手続きなしに、何十年も前に結婚した男性を逮捕し、成果をアピールしている」と非難した。

しかし、州政府は少なくとも2026年の州議会選までは取り締まりを続け、児童婚ゼロを達成すると約束した。【2月7日 KWP News】
**********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン  鎮圧された反政府デモ 高濃縮ウラン問題、露イラン軍事協力、女子校有毒ガス事件

2023-03-06 23:18:27 | イラン

(イラン・コム 市庁舎前に集まり「有毒ガス」事件の説明を求める生徒の家族【2月28日 ARAB NEWS】
コムは体制を支える宗教関係者が集まる特殊な都市 その聖地の女子校が主に狙われたというのは興味深いところ)

【“力”で封じ込まれた反政府デモ 政権は更に保守強硬姿勢を強める】
イランでは2022年9月、女性が着用を義務づけられている“ヒジャブ”と呼ばれるスカーフをめぐって22歳の女性が拘束され死亡、この女性の死をきっかけに反政府デモが激化しました。

抗議行動の拡散のなかで、単に“ヒジャブ”の問題にとどまらず、「(最高指導者の)ハメネイに死を!」「自由に万歳!自由に万歳!」といったスローガンが叫ばれるように、現在の宗教支配を否定し、自由を求める声も出てきました。

数か月に及んだ抗議行動でしたが、上記のような現行体制の否定にもつながる動きに警戒感を強めた体制側の“力”による封じ込めによって、ほぼ終焉したような状況のようです。

この抗議行動鎮圧を通して、イラン体制の保守強硬姿勢は更に強まったようにも思われます。

****反政府デモに勝利したイラン保守強硬派 強まるロシアとの協力****
米ジョンズ・ホプキンス大学のヴァリ・ナスル教授が、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」ウェブサイトに2月6日付で掲載された論説‘Iran’s Hard-Liners Are Winning’で、反政府デモを鎮圧したイランの保守強硬派は強硬さを増しており、西側は核問題のみならずウクライナ問題へのイランの関与等、重要課題を包括的に交渉するべきであると論じている。主要点は以下の通り。

・過去5カ月の反政府デモにおいて、イスラム革命体制が倒れるとの観測が広まったが、治安部隊による苛烈な弾圧、反政府デモ側の指導者と組織力の欠如から革命体制が主導権を取り戻している。反政府デモを通じて保守強硬派は過去にないほど強硬となっている。

・反政府デモは、2015年のイラン核合意の再開の見込みをおぼつかないものにした。

・イラン側の核合意に反する行動は国際原子力機関(IAEA)を警戒させている。最近、IAEAの事務局長は、イランは数個分の核爆弾に相当する濃縮ウランを備蓄しているとして、イランを非難し国連制裁を再開する可能性について安保理に報告する見込みだ。イラン側は、そのような場合、核拡散防止条約(NPT)から脱退し、核兵器保有宣言をすると脅かしている。

・イランは国際的な孤立の深まりに比例してロシアに接近、最新鋭のドローンを供与している。ロシア側にとってもイラン製武器が必要な限りイランとの関係が戦略的な支えとなっている。

・ロシアは新型の戦闘機や防空システムのような重要な武器をイランに渡すであろう。西側はロシアとイランという個々の脅威に加えて両国の共同の脅威にどう対応するかという問題を抱えることになる。

・米国とその同盟諸国は、少なくともイランの強硬姿勢を和らげる戦略を考えるべきだ。そのような戦略は、ロシアのウクライナ侵攻へのイランの関与とイランの核開発を含む最も緊急な課題についての対話と圧力及びペナルティーの組み合わせである必要があろう。

欧米は、中断している核合意再開交渉のみならずウクライナ問題や地域問題を含んだより広汎な外交努力を開始するべきである。さもなければ、イランの保守強硬派は、イランをより危険な方向に向かわせるだろう。(後略)【3月3日 WEDGE】
************************

【高濃縮ウラン問題 IAEA事務局長のイラン訪問で一応の結着か】
核合意再建交渉は行き詰まっていますが、反政府デモ鎮圧を批判する欧米に対抗するように、イラン側の核合意違反の行為が目立つようになっています。

****イランの高濃縮ウラン確認=兵器級に近い83.7%―IAEA****
国際原子力機関(IAEA)が最新の報告書で、イラン中部フォルドゥの地下核施設で濃縮度83.7%の高濃縮ウランを特定したと説明していることが28日、明らかになった。AFP通信などが報告書の内容を報じた。イラン側はIAEAに「(60%への)濃縮過程で意図しない変動が起きたかもしれない」と釈明しているという。

イランは核合意の上限である3.67%を大きく逸脱する濃縮度60%のウラン製造を続けている。濃縮度が90%に達すると核兵器に転用可能とされる。

IAEAは原因を巡り、イラン側と協議を続けているという。イランのアブドラヒアン外相は27日、IAEAのグロッシ事務局長が「近日中」にテヘランを訪問すると述べており、突っ込んだやりとりが交わされる可能性がある。【3月1日 時事】 
*******************

イランは核兵器の保有意思を否定しており、イラン高官は濃縮過程で60%を超えるウラン粒子が検出されることもあると説明した上で「決して隠そうとはしていない」と強調、イラン原子力庁報道官も「報道は事実の歪曲だ」「濃縮過程で60%を超える粒子が存在しても、濃縮度が60%を超えたことにはならない」と反論しています。

いずれにしても、イランの核保有の技術的可能性は非常に高いレベルに達しています。

****イラン、核爆弾1発分の核分裂物質を約12日間で生産可能=米高官****
米国のコリン・カール国防次官は28日、下院公聴会で、イランは現在、核爆弾1発に必要な核分裂性物質を約12日間で生産できるとの見方を示した。生産所要期間は、米国がイラン核合意から離脱した2018年時点で推定されていた約1年間から大きく短縮されたことになる。

カール氏は「米国がイラン核合意から離脱して以降、イランの核開発の進展は著しい」と強調した。

その上で同氏は「この問題を外交的に解決してイランの核プログラムを抑制できれば、他の選択肢よりも好ましいという見方が依然としてあると私は思う。だが現時点では、核合意は凍結されている」と述べた。

米高官はこれまで、イランが核爆弾1発分の核分裂性物質の生産に数週間程度かかると推定してきたが、これほど具体的に述べたのはカール氏が初めて。【3月1日 ロイター】
**********************

こうした状況で国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長がイランを訪問し、一応、80%超の濃縮ウランは蓄積されていないというイラン側主張を受入れ、イラン核施設への監視を強化することで合意したことが発表されています。

****80%超濃縮ウラン「蓄積なし」=イランと監視強化で合意―IAEA****
イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。また、イラン原子力庁との共同声明を発表し、核施設への監視を強化することで合意したと明らかにした。

グロッシ氏は高濃縮のウラン粒子が意図的に作られたものかどうかに言及せず、「この種の施設では偶発的に起こり得る」と解説した。「濃縮過程で起きた意図しない変動の可能性」とするイラン側の説明をおおむね受け入れた形だ。

一方、イランが手掛ける濃縮度60%のウラン製造に関し「既に相当に高い水準だ」と懸念を示した。【3月5日 時事】 
*********************

****IAEA事務局長がイラン訪問 原子力庁のトップらと会談、核施設監視カメラなど再設置で合意****
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長がイランを訪問し、核開発をめぐり原子力庁のトップらと会談しました。イラン側が撤去した核施設を監視するカメラを再び作動させることなどで合意したということです。

IAEAのグロッシ事務局長は3日から、イランの首都テヘランを訪問していて、ライシ大統領のほか、エスラミ原子力庁長官らと会談しました。

会談後、イランとIAEAは共同声明を発表。声明では、イランはIAEAの監視活動に自発的に協力するなどとしています。

4日、オーストリアに戻ったグロッシ事務局長は、去年6月以降撤去されていた核施設を監視するカメラを再び作動させることなどで、イラン側と合意したと明らかにしました。

IAEA グロッシ事務局長 「ご存じの通り、ここ数か月間は核施設の監視活動の一部が縮小していた。今回それらを再開することで合意した」

グロッシ氏は合意について「言葉だけでなく、極めて具体的なものだ」とし、成果を強調していますが、現時点ではどの核施設でどの機器を再び作動させるかなどは明らかにしていません。(後略)【3月5日 TBS NEWS DIG】
******************

なんとかかんとか、欧米との合意形成に向けた枠組み内にとどまった・・・というところでしょうか。合意形成は相当にハードルが高くなっていますが。

【強化されるロシアとの軍事協力体制 イスラエル・アラブ諸国の反発も】
そうしたなか、国際的孤立を深めるイランとロシアが軍事協力するという関係が深まっています。

****露イランが軍事協力深化 ウクライナ侵略支援、中東の不安定化にも影響****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は24日、ロシアがイランからさらなる武器支援を得る代わりに、同国に戦闘機や防空システムなどの供与を含む「かつてないレベルの軍事協力」を提案しているとの情報があると明らかにした。

バイデン政権は、高性能なロシア製兵器がイランに流れれば中東地域の不安定化を招く恐れもあるとして警戒を強めている。

カービー氏が記者団とのオンライン会見で説明したところでは、イランは昨年11月、ロシアがウクライナで使用する大砲や戦車の砲弾を供給。

ロシアは、イランがこうした軍事支援を拡大するのと引き換えに、戦闘機や防空システム、ミサイル、電子機器などをイランに供与することを提案した。

供与が検討されている兵器の名称や数量は明らかにされていない。イランはこれらに加え、攻撃ヘリやレーダー、高等練習機YAK130を含む数十億ドル相当の供与を求めているとみられるという。

カービー氏によるとロシアは昨年8月以降、イランからドローン(無人機)数百機を調達し、ウクライナのインフラ施設への攻撃などに利用。イランとミサイル開発などで協力関係にある北朝鮮も、ウクライナ侵攻を支える露民間軍事会社「ワグネル」に武器・弾薬を供与しているとみられている。

ロシアがイランや北朝鮮からドローンや弾薬の供与を受けるのは、戦闘が長期化する中で、自前の砲弾やロケット弾が枯渇しつつあるためだとの見方が強い。

その一方でロシアは防空システムなどの高性能兵器では依然として優位性を保っている。イランなどにとって、ロシアが大砲などローテクノロジー兵器の不足に苦慮する現状は、同国に恩を売り、その技術を自国に導入する絶好の機会だ。

核関連技術やミサイルの開発を続けるイランは、中東地域における米国の重要同盟国であるイスラエルやサウジアラビアにとって最大の脅威。イランの軍事力増大は、中東の緊張を高める要因となる。【2月25日 産経】
********************

“イランは07〜20年の間、核兵器開発疑惑を巡って、国連安全保障理事会決議に基づく武器禁輸の制裁を受けた。制裁下では過去に導入した米国製やロシア製の戦闘機の整備や部品調達に苦慮してきたが、ロシアが新型の戦闘機の供与に踏み切れば、軍事力を強化できる。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など周辺のアラブ諸国や、イランが敵視するイスラエルにとっては、安全保障上の懸念が強まることになる。”【2月25日 毎日】

すでに1月29日にはイスラエルによるイラン・イスファハンの軍需工場と思われる施設へのドローン攻撃が実施されています。

****軍事報復が続くイスラエル・イラン関係 米国は関与できるか****
(中略)1月29日に行われたイスラエルによるイランに対するドローン攻撃は、イスラエルのモサド(対外情報部)がイラン中央部イスファファンにあるイラン国防省の施設を狙ったものであり、4カ所に対して正確な攻撃を行った。

この攻撃に詳しい関係者は、攻撃された国防省の施設は軍需工場だとしており、道路をはさんで宇宙研究センターに所属する施設があるとしている。

この宇宙研究センターは、物質・エネルギー研究所を含むが、イスラエルの研究者によれば、物質・エネルギー研究所は、ドローン、ミサイル、人工衛星の研究開発や核開発のための資材のテストを行っている可能性がある。同研究所の研究は新兵器の生産に用いられている可能性もある。

宇宙研究センターのウェブサイトでは、リバース・エンジニアリング(第三者の機材を分解して模倣すること)を行っているとしていることから、宇宙研究センターは、ロシア側が提供した軍事技術をコピーしていると見られ、国防省のために最新兵器の生産ラインを製造していると考えられる。(後略)【2月24日 WEDGE】
*******************

このイスラエルの攻撃は米国務長官とCIA長官がイスラエルを訪問するタイミングで起きており、イランに対する攻撃だけでなく、対イランで腰が重いアメリカを牽制する狙いがあるとのこと。

イスラエルはイラン核開発が進むことを座視することはないので、今後もこうした攻撃が繰り返され、それに対するイラン側の報復もまた繰り返される・・・という形で、緊張関係が高まっていくと推測されます。

【女子学生を狙った有毒ガス? 「女性の教育に反対する宗教団体」やイスラム過激派による犯行?】
上記のようなイランの国内・国外情勢のなかで、ある「事件」が注目されています。

****イランで女子学生を狙った毒物事件相次ぐ 被害者は数百人 当局も調査****
イランのイスラム教シーア派の聖地などで女子校を中心に有毒ガスとみられる化学物質がまかれる事件が相次いでいます。これまでに数百人の被害者が出ていて、イラン当局が調査に乗り出しました。

イランメディアによりますと、シーア派の聖地コムの学校で去年11月、20人近くが病院に運ばれる被害が初めて確認されて以降、周辺都市の女子校でも同様の被害が続発。イギリスBBCは首都テヘラン近郊の女子校で2月末、37人の女子生徒が被害を訴えたと伝えていて、有毒ガスがまかれたとみられます。

被害を訴える女子生徒
「胸が痛くて歩こうとすると足が少し震える」
「立ち上がると、めまいがし、まひした感じがして歩けない」

ロイター通信によりますと、イラン当局は複数の学校で数百人に及ぶ被害が確認されたとしています。

また、事件には兵器用の化学物質ではなく一般に入手できるものが使われたとの見方を示していますが、何が使われたかは毒物の専門家が調査しているということです。

犯人の特定には至っておらず、イラン指導部の中では過激な主張を繰り返すイスラム過激派の関与の可能性も指摘されています。

イランでは女性のスカーフ着用をめぐるデモが反政府デモに広がるなど混乱が起きていますが、デモと事件の関連は分かっていません。【3月4日 TBS NEWS DIG】
********************

イランのバヒディ内相は3月1日、国営メディアに「一部はストレスや不安によるもので、イランの敵や外国の報道機関が不安をあおっている」と語り、西側の“過度”の反応を牽制しています。

確かに、この種の事件ではストレスや不安によって連鎖反応的に混乱が拡散されることが多々あります。本当に有毒物質のために体調が悪くなった者は限定的かも。

いずれにしても。ライシ大統領は1日、バヒディ氏に調査の監督を命じたとのこと。

イラン国会の教育委員長は「30人の毒物学者が学校で見つかった毒物を窒素ガスだと判断した」と述べいるようです。委員長や副保健相は、女子の通学を妨げることが動機だとして、イスラム過激派が関与した可能性に言及したとのこと。

生徒の被害は中部コムなど少なくとも4都市の30以上の学校で確認されており、ユニセフは「女子の教育率に悪影響を及ぼしかねない」との声明を出し、支援を提供する用意があると述べています。【3月4日 共同より】

「女性の教育に反対する宗教団体」やイスラム過激派による犯行でしょうか? 真相解明が待たれます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

台湾  軍幹部の9割ほどは退役後中国に渡る 中国への情報提供が常態化・・・との日本メディア報道も

2023-03-05 23:21:40 | 東アジア

(蔡総統は中国がルーツの台湾軍と距離を縮められず、有事に向け不安が募る(22年8月、台湾西部の離島・澎湖島)【2月28日 日経】)

【中国 「戦争準備強化」の一方で、融和的表現も】
中国・習近平政権の台湾侵攻をも睨んだ強硬な姿勢が続いていることは、今日5日に開幕した全人代で明らかにされた国防予算の数字や政府活動報告にも示されています。

****中国、台湾にらみ「戦争準備強化」 軍拡止まらず****
中国の習近平政権は5日開幕の全国人民代表大会(全人代)に、前年比7・2%増の1兆5537億元(約30兆5600億円)の国防予算を提出した。

政府活動報告の書面では、台湾侵攻を念頭に置いた軍の「重大任務」の準備強化や、核戦力を含むとみられる「国家戦略体系」の能力向上を目標に掲げるなど軍拡路線の継続を示した。

一方、李克強首相はこうした各国の警戒感を招く部分を読み飛ばした。

国防予算の伸び率は前年より0・1ポイント増え、今年の経済成長目標(5%前後)や中央政府支出全体の対前年伸び率(6・5%)を上回った。国防予算の伸び率が7%を超えるのは2年連続。米国に次ぐ世界第2位の規模を維持し、日本の令和5年度防衛関係予算案の約4・5倍、台湾の今年度「国防」関連予算の約12倍となった。

軍に対する国務院(政府)の権限は限られており、政府活動報告は昨年10月の中国共産党大会で習近平総書記(国家主席)が行った政治報告を簡略化し踏襲。2027年の「建軍100年奮闘目標」に触れ、「訓練と戦争準備を全面的に強化し、軍事訓練の実戦化を重視する」とした。

また、「重大任務」の「闘争・建設・戦争準備の統合を強化する」として、台湾侵攻に向けた態勢の整備加速を示唆した。さらに、核戦力を含むとみられる「一体的な国家戦略体系」の能力向上も明記した。

米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は2月上旬の講演で、習氏が27年までに台湾侵攻の準備を整えるよう軍部に指示しているとの見方を表明。昨年12月の米国防総省の報告書は、中国が「国防と軍隊の近代化」の目標とする35年までに、核弾頭の保有数を21年の400発超から1500発まで拡充する可能性があるとして中国の核軍拡に警戒感を示している。

ただ、李氏は5日の政府活動報告の読み上げで「戦争準備の強化」などに触れた部分を読み飛ばした。さらに、過去5年の成果を報告する場面でも、軍の「近代化の水準と実戦能力が著しく向上した」との部分を読まなかった。対台湾政策と同様、米国をはじめとする国際社会を刺激しかねない表現への言及を避けたとみられる。

一方、国内の治安維持に充てる「公共安全保障支出」は前年比6・4%増の2089億元(約4兆1090億円)で、前年(4・7%増)よりも高い伸び率となった。習政権の軍や武装警察を重視する姿勢が改めて浮き彫りになった。【3月5日 産経】
************************

退任する李克強首相がアメリカなどを過度に刺激するような部分を読み飛ばす・・・中国も随分芸が細かいことをやります。

なお、李克強首相が読み上げた政府活動報告には、台湾政策の基本方針として「両岸(中台)関係の平和的発展と、祖国の平和統一への道を歩む」と記されており、昨年と異なり、「統一」の前に「平和」の文字の復活しました。

この「平和」の文字は20年から削除されていたもので、習近平政権の台湾に対する強い姿勢を示すものとされていました。

また、今回の活動報告では、台湾の独立に反対するとしたうえで、昨年の報告にあった「外部勢力の干渉に断固反対する」といった強硬な表現はなくなり、「両岸の同胞は血がつながっており、経済と文化の交流、協力を促進する」との言葉が付け加えられています。

こうした「融和的」とも解釈できる文言の変更に関しては、“台湾では来年、4年に1度の総統選があり、中国との協力を重視する野党の国民党が政権奪還を目指している。習近平指導部は民進党を「独立勢力」とみて、国民党との連携強化を平和統一に向けた大前提とする。今回の報告が融和的な表現となったのは、中国との関係強化を進めたい国民党を後押しする意味も込めた可能性がある。”【日系メディア】とも。

【警戒感を強める台湾】
台湾側はウクライナ以降の情勢やペロシ米下院議長の訪台への中国の反応などを踏まえて、中国に対する警戒感が強まっています。

****中国の侵攻、51%が「心配」 台湾、昨年4月より増加****
台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が21日発表した世論調査結果によると「中国による台湾武力侵攻を心配しているか」との問いに51.6%が「心配している」と回答した。昨年4月の調査より13ポイント増えた。「心配していない」は43.6%だった。

ロシアのウクライナ侵攻に加え、ペロシ米下院議長(当時)が昨年8月に訪台した際に中国は台湾周辺で大規模軍事演習を実施。その後も連日、台湾海峡で軍事活動を行っていることが影響しているとみられる。

侵攻に対する台湾軍の防衛力については「自信がない」が47.2%で「自信がある」の45.3%を上回った。【2月21日 共同】
**********************

実際に中国の台湾侵攻が起きた場合、台湾が持ちこたえられるかどうかは(在日米軍を含め)米軍の関与度次第でしょう。そのあたりは、2月11日ブログ“台湾有事はいつ、どのような形で? 与党トップは対中国強硬派 野党は訪中で関係強化”でも取り上げたところです。

【中国 台湾側の分断を狙った揺さぶりも】
中国としても(米軍動向など不確定要素が強く、制裁を含む国際的批判にさらされることになる)強引な武力侵攻の「賭け」に出るよりは、台湾が親中国路線に変わってくれることが望ましいところで、夏立言副主席の訪中を厚遇するなど野党・国民党への働きかけを行っています。

更には与党・民進党にも訪中の呼びかけを。台湾社会を分断し、揺さぶる狙いがあるように見えます。

****中国幹部「民進党の訪中歓迎」 台湾社会の分断図る狙い****
12日付の台湾紙、聯合報は、中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室トップの宋濤主任が台湾野党、国民党の夏立言副主席(副党首)と会談した際、台湾独立志向の与党、民主進歩党(民進党)の訪中を歓迎すると述べたと伝えた。中国は融和イメージをアピール、来年1月に予定される総統選に向けて台湾社会の分断を図る狙いだ。

宋氏は「一つの中国」原則に基づく「1992年合意」と台湾独立反対を受け入れることを訪中の条件とした。一方、蔡英文政権は「(中台は)互いに隷属しない」として「一つの中国」を認めていない。【2月12日 共同】
****************

これを受けて、与党、民進党側も、中国で台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室トップの宋濤主任に対し「われわれの自由と民主主義の社会制度を尊重して頂けるなら、台湾訪問を歓迎します」との声明を発表しています。

ともに、「とりあえず言ってみた」といった感じで、具体性はなさそう。

具体性・実効性があるのが、中国側の対台湾の経済政策。経済的に中国依存度が高い台湾を揺さぶるには効果的です。ミサイルを見せつけるより、パイナップルの方が台湾を揺さぶります。

****中国が停止中の台湾産パイナップル輸入 再開に向け支援へ****
中国政府は現在、輸入を停止している台湾産のパイナップルなどについて、「輸入再開に向けた支援を行う」と表明しました。

中国は現在、台湾産のパイナップルや高級魚のハタなどについて、検疫での害虫や禁止薬物の検出などを理由に輸入を禁止しています。

禁輸措置については、中国に強硬な姿勢をとる台湾の蔡英文政権への圧力との指摘もありましたが、最大野党「国民党」副主席が9日に北京を訪問し、禁輸措置の緩和を要求。

国営の中央テレビによりますと、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は13日、「輸入再開に向けた支援を行う」と表明したということです。

台湾では来年、総統選挙が控えていて、中国としては国民党の訪問成果のように演出することで現政権に揺さぶりをかけたい狙いもあるとみられます。【2月14日 TBS NEWS DIG】
*******************

【圧力をかける中国 侵攻阻止姿勢を示すアメリカ】
中国側にはこうした“アメ”の一方で、台湾に対する圧力とも思われる行動も見られます。

****海底ケーブル切断で電話やネット遮断、中国船関与か…台湾本島で同様の事態懸念****
台湾が実効支配する馬祖列島と台湾本島を結ぶ通信用の海底ケーブル2本が2月上旬に相次いで切断され、島民の生活に支障が出た。中国の船舶が関与したとみられ、台湾有事となれば本島が同様の事態に陥る懸念が強まっている。

「島外の情報が入らず、本当の『孤島』になった」。馬祖列島の南竿島で民宿を営む男性(33)は発生時、SNSを利用できず、不安が募った。3月に入ってもスマートフォンのデータ通信はつながりにくい。有線のネット回線は不通が続く。

ケーブルは2月2日に1本目が切断され、8日に2本目が切れた。馬祖列島にはケーブルが2本しかなく、8日の切断直後に島外との電話やネットが遮断された。航空券の予約やネットバンキングができなくなり、買い物などで混乱が生じた。

通信会社は発生後、本島からマイクロ波を送信して通信を確保したが、病院や行政機関などの利用が優先される。ケーブルの修理は4月20日に始まる予定だ。

台湾当局は切断時に海上を航行した船舶の記録から、中国の漁船と貨物船が関与したと見ている。武力攻撃とは判断できない侵害行為「グレーゾーン事態」に該当するとの声が与党・民進党関係者らから上がる。

台湾当局によると2020年以降、ケーブルの人為的な切断は30件あった。世界のケーブル損傷は年100〜200件程度とされ、台湾の頻度は比較的高い。

本島と馬祖列島や金門島、澎湖諸島などの離島や、離島同士を結ぶケーブルが被害に遭った。30件のうち漁船や海砂採取船が切断したケースは21件に及ぶ。離島周辺では、以前から中国の漁船や海砂採取船の強引な作業が問題となっていた。(後略)【3月3日 読売】
**********************

アメリカは、中国の台湾侵攻を阻止する姿勢を強めています。

****台湾軍の訓練強化へ、米軍が最大200人規模の部隊派遣…中国の侵攻抑止狙う****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは23日、米当局者の話として、米軍が台湾軍の訓練を強化するため、今後数か月の間に部隊100〜200人を派遣すると報じた。昨年3月時点では30人で、4倍以上に拡大することになる。中国による台湾侵攻を抑止する狙いがあるとみられる。

報道によると、追加部隊は、米国が提供している兵器の訓練や、中国の攻撃を防ぐための訓練に参加する。これまで米軍は台湾での訓練支援の詳細を公表していないが、米軍の特殊部隊と支援部隊による台湾陸軍の訓練や、海兵隊による台湾海軍への訓練支援などを行ってきたと報じられていた。

国防総省の報道担当者は23日、取材に対し、報道内容には直接コメントせず、「米国の台湾への関与は揺るぎなく、台湾海峡と地域の平和と安定の維持に寄与するものだ」と述べた。【2月24日 読売】
*****************

【台湾軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡り中国へ情報提供・・・との日本メディア報道 台湾国防相「根拠がない」】
日本など外部の人間からすると、台湾が中国を警戒し、できれば独立も・・・・と考えるのは比較的理解もしやすいところですが、統一を迫る中国になびくような動きも台湾内部にあることは、なかなか理解しづらいとことです。

もちろん経済的なメリットはあるでしょうが、それに加えて「外省人」という言葉がしめす中国と台湾の歴史的経緯もあるようです。

そのあたりを示す、ちょっと驚く記事がありました。

****「それでも中国が好きだ」 台湾軍に潜む死角****
台湾、知られざる素顔①

「おかげで中国での商売が駄目になった。レストランは閉め、台湾に帰って出直しだ」
台湾人の50代男性、鄭宗賢(仮名)は最近まで中国に脅されていた。2010年代、台湾軍で幹部を務めた鄭。退役後は「軍幹部OBのお決まりのルート」(軍関係者)に乗り、中国で商売を得た。台湾軍の情報を中国側に提供できるうちは商売は順調だった。

だが次第に行き詰まる。軍を離れ、中国に提供できる情報が減ったからだ。同じ台湾軍に入隊した息子に情報を頼ったが、息子は応じなかった。

「用無し」となった鄭に、中国は容赦しない。レストランは当局の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた。だが鄭は「それでも中国が好きだ。恨みはない」と振り返る。

台湾統一を掲げる中国が実際に軍事侵攻したら――。向き合う台湾軍の事情は複雑だ。
もともと中国がルーツ。49年、国民党軍は共産党軍に敗れ、台湾に逃れた。中国大陸の奪還を誓ったが、夢に終わる。国民党軍は結局、台湾を守る「台湾軍」として衣替えを余儀なくされた。

その屈辱が軍内に強く残る。「我々こそ中国だと、今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ」(軍事専門家)
17万人を抱える台湾軍では将校などの幹部も依然、中国人を親などに持つ中国ルーツの「外省人」が牛耳る旧習が続く。歴代国防部長(大臣)も外省人がほぼ独占する。

「そんな軍が有事で中国と戦えるはずがない。軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」(関係者)。鄭もそんな一人だった。

1月初旬。台湾高等検察署(高検)高雄分署は台湾軍の機密情報を中国側に漏らしたとして、元上校(大佐)と現役将校の計4人を拘束した。

2週間後には元立法委員(国会議員)の羅志明と海軍元少将が、台湾高雄地方検察署(地検)に取り調べを受けたことが判明。中国の統一工作などに便宜を図ったとされた。2021年には国防部ナンバー3の副部長(国防次官)の張哲平まで捜査対象となった。

「いまだに中国に協力するスパイが軍に多いことが台湾最大の問題だ」。ある陸軍OBはこう明かす。米国が長年、台湾への武器売却や支援に慎重だったのも中国への情報流出を恐れたためだ。

「私は今日、台湾軍がいかに優れているかを台湾の人にも見せたく、ここに来ました。台湾のみなさん、安心ください」
軍による中国への情報漏洩発覚が続いたさなかの1月13日。総統の蔡英文(ツァイ・インウェン)は、軍事基地がある北部・新竹を視察し、報道陣を前に軍を持ち上げた。

「新たな軍をつくろう」。7年前。蔡は就任早々、軍改革を訴えた。中国の圧力が強まるなかメスを入れなければ、いずれ台湾のアキレス腱(けん)になると踏んだ。この1年間で30回近く軍の現場に足を運んだ。寄り添う姿勢をアピールしたが「軍は終始、中国に強硬な蔡の改革案に抵抗し続けた」(専門家)。蔡は軍を掌握できていない。

「釣魚台(日本名・尖閣諸島)は台湾固有の領土だ」
1月下旬、東部・宜蘭県蘇澳(スーアオ)の漁港を訪れると、こんな標語が目に飛び込んだ。「釣魚台は台湾の領土で、政府の一貫した立場だ」と蔡も語る台湾。マグロの好漁場でもある尖閣まで蘇澳から13時間。「今でも200隻近い船が漁に向かう」と地元漁協の蘇澳区漁会総幹事、陳春生は明かす。

08年、そんな台湾の漁船が尖閣近くで日本の海上保安庁の船と衝突、沈没した。抗議に出た別の台湾漁船は尖閣の領海に侵入、当時の行政院長(首相)の劉兆玄は「開戦も排除しない」と発言した。以来、尖閣では「中台で連携を望む声が絶えない」(関係者)。

かつて台湾軍は国民党軍として中国で日本と戦った。有事を見据え今後、日台連携で中国対抗の絵を描いても「日本と距離を置くあの台湾軍が、いまさら日本と領土防衛で本当に協力できるのか」(軍事専門家)。多くの課題を残す台湾。緊張は日に日に高まっている。(敬称略)【2月28日 日経】
******************

“軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る・・・”・・・・日頃報じられている中台の緊張関係とは全く異なる実態です。
これが実態なら、中国の侵攻阻止なんて絵空事にもなってしまいます。

この日経報道に台湾軍関係者は激怒しているとか。事実でなければ激怒するのが当然でしょう。

****日経報道「台湾軍OBの多くが中国に情報提供」に台湾軍関係者ら“激怒”*****
日本経済新聞が2月28日付で発表した記事「『それでも中国が好きだ』 台湾軍に潜む死角 台湾、知られざる素顔(1)」に、台湾軍関係者が激怒した。(中略)

台湾で退役軍人関連の行政を所管する国軍退除役官兵輔導委員会の馮世寛主任委員は2日、業務の概況などの説明を求められて立法院(台湾議会)外交及び国防委員会を訪れた。すると詰めかけた記者が馮主任委員を取り囲んで、「日本の媒体が国軍(台湾軍)の退役将校の9割が中国に情報を提供していると報じた。どう思うか」と質問した。記者らが同様の質問を繰り返すと馮主任委員は「でたらめだ」と述べた。

台湾メディアの自由時報は、この時の馮主任委員の様子を「(日本メディアによる)汚い言い方に対して、怒りをもって『でたらめだ』と吐き捨てた」と紹介した。馮主任委員は、さらに露骨なスラングを使って日経新聞記事を罵倒したという。

日経新聞記事は、台湾軍人の多くが退役後は中国関連のビジネスをしており、また、退役軍人や現役軍人が中国側に情報を漏らしたとして取り調べの対象になった事例があると指摘した。また関係者による証言として「軍幹部の9割ほどは退役後に中国に渡る」と紹介した。

中華民国国防部(台湾国防省)は1日夜、日本経済新聞の記事について「この度の報道については根拠がなく、事実関係も検証していない。これは、(台湾)国軍軍人の士気を損なうものであり、部隊の団結を分断し、いたずらに味方を傷つけ敵を喜ばせるだけであり、台湾海峡およびインド太平洋地域の平和と安定にプラスにならない」などと表明した。

台湾国防省はさらに、「スパイ事件についてはパターンを分析しており、関連する予防策をすでに策定している」、「近年ではスパイ検挙事例のほとんどが、将校や兵士が自発的に検挙したものであり、敵の浸透に対する国軍の阻止対策が草の根レベルで根付き、効果を発揮していることが明らかになっている」と紹介した。(後略)【3月4日 レコードチャイナ】
**********************

台湾有事も視野に防衛体制を強化しようとしている日本としても、ことの真相を明らかにして欲しい問題です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

AI技術の進化で変わる社会 中国は対話型AIの使用停止 AIを政治に利用する国も 現実先行の軍事面

2023-03-04 23:38:10 | IT AI

(チャットGPT アメリカ社会では様々な分野で議論が始まっている【3月1日 Newsweek「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」】)

【急速に拡大する対話型AIサービス】
最近、対話型人工知能「チャットGPT」に関するニュースを頻繁に目にします。

チャットGPT、まるで人間の文章 脚本づくり・新薬開発・半導体設計も視野【2月14日 日系メディア】
人工知能を使った自動応答ソフト「チャットGPT」 トランプ前大統領に関する回答を拒否【2月14日 ABEMA TIMES】
SF雑誌にAIチャットボット作品殺到、500人以上を投稿禁止に【2月23日 AFP】
「あなたを愛している」 ChatGPT搭載ビングとの奇妙な会話【2月26日 日系メディア】

「チャットGPT」とは、米国の新興企業オープンAIが開発した人工知能型チャットボット(自動応答システム)です。

これまでのチャットボットと異なるのは、自然な受け答えで、まるで人と話しているような感じになることだとのこと。

詩やエッセイ、小説、コンピュータープログラムまで書いてもらうことがで、。2022年11月に公開され、2か月間で全世界のアクティブユーザー数が1億人を突破し、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとのこと。

例えば、「東京の3日間の食べ歩き旅行の日程をつくって」と入力すると、「1日目は、浅草で観光スポットを巡りましょう……」と詳細な旅程が返ってくるとか。

**************
膨大な情報をもとに訓練した言語モデルを、人間が評価を加えて修正、さらに学習させて精度を高めている。

オープンAIは2015年、サンフランシスコでAIの研究機関として設立。起業家イーロン・マスク氏らが共同で出資した。あらゆる分野で人間の能力を上回る「汎用(はんよう)型AI」の開発を使命に掲げる。

AIの性能向上の背景にあるのが、言語モデルとデータ量の巨大化と、その計算処理を担う半導体の高性能化だ。画像や音声認識で使われてきたAIが、文章や画像をつくりだす「生成」の分野に広がっている。【日系メディア】
****************

ただ、英語では自然な受け答えが可能でも、日本語対応にはまだ問題が多いとの指摘も。

論理的な文章などはお手の物でしょう。大学教授が学生に課したレポートで、あまりにもよく出来過ぎて不審に思うような論文も書いてくれます。
ただし、当然のように偽情報も入り混じってきます。

****8割に偽情報含む例も****
一方で、生成AIをめぐっては偽情報が含まれるなどの課題もある。

「いかにチャットGPTが有害な偽情報を前例のない規模で拡散しうるか」 ネット上の偽情報を調査する米企業「ニュースガード」は先月、そう題する報告書を公表した。

新型コロナや乱射事件に関する偽情報をもとにチャットGPTに文章を作成させたところ、100件のうち8割で偽情報を含んだ文章が返ってきたという。
 
AIを訓練する膨大なデータはネット上から集められるが、そもそもそのデータは事実とは限らない。間違いや偏りがあるデータでAIが訓練されれば、出力される情報もゆがめられる。人間にも見極めがつかない偽情報が文書や画像、動画などで拡散すれば、民主主義を脅かしかねない。【日系メディア】
******************

トランプ元大統領を称賛するポエムを書くことは拒否し、バイデン大統領やブッシュ元大統領に関する同様なテーマのポエムを書いたということで、「政治的な好みがプログラミングされているのではないか」との批判もあります。

“深層学習する人工知能には、入力と結果の因果関係を説明できない「ブラックボックス問題」が指摘されていて、社会に広がるにつれて懸念が増えてくる可能性があります。”【2月14日 ABEMA TIMES】

問題は多々あるにしても、使い始めるとこんな便利なものもないので、おそらく今後急速に普及するのでは・・・と想像されます。開発競争も激しくなっています。

****米メタ、対話型AIの新サービスを発表 IT大手の開発競争激化****
アメリカのIT大手による対話型AIの開発競争が激化しています。フェイスブックを運営する「メタ」も24日、対話型サービスを始めると発表しました。

メタの新たなサービス「LLaMA」は、対話や文章の作成ができるAIです。ザッカーバーグCEOは「数学の法則を解いたり、タンパク質の構造予測といった複雑な課題でも可能性を示してきた」などとコメントしています。

20か国語に対応するということですが、研究目的での提供に限るとしていて、政府や研究機関のほか、市民団体などでの利用を受け付けるということです。

AIを使った対話型サービスでは、今月に入り、グーグルが「Bard」を公開したほか、マイクロソフトも「チャットGPT」を搭載した検索エンジン「Bing」を公開するなど、開発競争が激化しています。【2月25日 日テレNEWS】
*******************

“グーグルやメタなどの米IT大手は、AIの導入に慎重な姿勢を示してきた。倫理面などで問題が起きれば、企業イメージへの打撃が大きいからだ。アマゾンなどのAIの顔認識技術はかつて、人種によって精度に偏りがあると批判を受け販売停止に追い込まれた。”【日系メディア】とのことでしたが、流れは変わったようです。

【政府見解と異なる回答 中国は使用停止】
一方、情報を統制している国家では、こうした対話型AIが“勝手に”政治的評価を含むいろんな見解を示すことははなはだ困ります。当然、規制が入ります。

****中国が対話型AIを警戒、「ChatGPT」は使用停止に…政府見解と異なる回答で****
中国政府が、高度化する対話型の人工知能(AI)サービスに警戒感を強めている。中国新興企業のサービスや、米新興企業「オープンAI」が運営する「Chat(チャット)GPT」が相次いで使用停止に追い込まれており、政府の見解と異なる回答をする場合があることが原因とみられている。

中国メディアなどによると、中国初の対話型AIサービス「ChatYuan(元語智能)」が2月上旬、法規に違反したとして、公開から3日後に使用できなくなった。ウクライナ問題について「ロシアによる侵略戦争」と回答したり、「中国経済には構造的な問題がある。例えば、深刻な環境汚染や不動産バブルだ」と応じたりしたことが影響したとみられる。

チャットGPTについては、政府は2月下旬までに、国内企業に対し、使用を停止するよう指示した。国営の中国中央テレビは「チャットGPTは極端な言説や虚偽情報をまき散らすリスクがある」と報じた。

政府は新疆ウイグル自治区での人権侵害は存在しないとの立場だが、チャットGPTは強制労働などを指摘する回答を示していた。

国政助言機関・人民政治協商会議の郭衛民報道官は3日の記者会見で、AIなどのデジタル経済について、「監視を法治に取り入れ、安全なシステムの構築を強化しなければならない」と述べ、政府による管理が必要との考えを示した。【3月4日 読売】
************************

【ルーマニア 「AIアシスタント」を政府顧問に やがては近未来SFの世界か】
一方で、ここまでAI技術が進化してくれば、積極的に政治に活用しようとの動きも。

****ルーマニア、「AIアシスタント」を政府顧問に 世界初****
ルーマニアのニコラエ・チウカ首相は1日、国内で開発された人工知能アシスタント「ION」を政府の「名誉顧問」に任命したと発表した。「AIを搭載した世界初の政府顧問」だとしている。

IONは鏡のような形状で、音声で対話できる。チウカ氏はIONの主な任務について、ソーシャルネットワークから「国民の提案や要望をリアルタイムに」拾い上げ、政府に伝えることだと説明。政府文書によると、IONは「ソーシャルネットワーク上の情報」を用いて「テクノロジーとAIで世論を把握する」仕組み。

この日公開されたIONは「こんにちは。私は命を与えられました。鏡のように皆さんの声を代弁するのが役目です。ルーマニアについて知っておくべきことは何ですか」と、穏やかにあいさつした。

国民もウェブサイト上でIONとチャットできるようになる。

チウカ氏は「情報に基づきより良い意思決定をするためにAIを活用するのは選択肢の一つではなく、(政府の)義務だと確信している」と語った。 【3月2日 AFP】AFPBB News
**********************

鏡のような形状というのが面白い。「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは・・・」

国民もウェブサイト上でIONとチャットできるようになる・・・当然、政府にとって都合のいいような答えをするフィルターがかかっているのでしょう。

やがては重要な政治判断をAIが行う・・・となれば、近未来SFの定番ネタですが、「感情に左右される愚かな人間にまかせるよりは、AIの方が理性的に判断できる」というのも一概に否定できないところで悩ましい。

【軍事面で進むAI活用 核兵器等に関して米主導の合意形成の動きはあるものの現実先行か】
価値判断なく瞬間的・客観的に判断できるというAI技術は軍事面に好都合。ドローンのような無人兵器と人工知能(AI)を組み合わせ、人間の意思を介さない「自律型致死兵器システム(LAWS)」も登場するなどいろんな面ですでに活用されていますが、AI技術が大好きなお隣韓国でも。

****北朝鮮の核ミサイルを発射前に破壊へ 韓国国防革新計画****
韓国国防部は3日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の承認を受けた「国防革新4.0基本計画」を発表し、北朝鮮が核ミサイルを発射する前にこれをかく乱・破壊するという軍の作戦概念を明らかにした。(中略)

計画によると、軍当局は「キルウェブ」という概念を導入し、北朝鮮の核ミサイルを発射前後にかく乱・破壊する方向へ作戦概念を発展させる。サイバー作戦などにより北朝鮮の核ミサイル発射手段と指揮体系を攻撃し、無力化する考えだ。

国防部は、北朝鮮の核・ミサイル使用の兆候が明白に捉えられた場合に自衛権を行使し断固として対応できるよう、韓国型3軸体系の運用概念と作戦遂行体系を発展させていくと説明している。

韓国型3軸体系は、有事の際に北朝鮮を先制攻撃するキルチェーン、北朝鮮の核・ミサイルからの防衛を担う韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、北朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃を行う大量反撃報復(KMPR)からなる。

人工知能(AI)技術を用いたロボットなどの無人戦闘体系を北朝鮮に近い最前線に配備し、監視所の警戒を担わせる体制も構築する。これに向け、最前線の監視所、海岸・海上、後方の主要基地を対象にAIベースの有人・無人複合体系を活用した警戒作戦概念を発展させる。

AIベースの先端戦力を遠隔操作型、半自律型、自律型と段階的に確保していく計画も提示した。無人戦闘体系を効率的に戦力化するためネットワーク規格やセキュリティーシステム、ドローン(小型無人機)統合管制システムを構築し、必要な周波数を確保するなど基盤システムを整えると国防部は説明している。

作戦司令部級以下の部隊構造はAIベースの有人・無人複合戦闘体系を中心に再設計する。

国防部は、韓国型3軸体系とAIベースの警戒体系の運用能力を考慮して部隊再編の時期を検討し、さまざまな任務遂行が可能なドローン作戦司令部を創設して無人機など北朝鮮の非対称脅威に備えるとしている。【3月3日 聯合ニュース】
***********************

北朝鮮の核攻撃に備えて先制攻撃する・・・そういった面でもAIによる判断が組み込まれていくのでしょう。
一方で、核保有国は核使用について、同様にAI判断を活用することもあるでしょう。

そうなってくると、AIの判断で人類滅亡にもつながりかねない核戦争が始まる・・・という局面も想定されます。
「それはまずいのでは・・・」ということで・・・

****核使用は「人間が完全な関与を」…AI軍事利用で国際ルール、米が各国に承認要請****
米国が、人工知能(AI)の軍事利用を巡る国際的な規範作りに乗り出した。ロシアが侵略したウクライナでは無人機(ドローン)の攻撃などでAIの活用が進んでおり、人間が関与しない無秩序な攻撃によるリスクを抑える必要があると判断した。

AIの軍事技術の多くは侵略開始前、研究開発段階だった。しかし、ウクライナの戦場が「実験場」となって学習を重ねることで飛躍的に技術が進展している。紛争が長期化し、両軍兵が消耗すれば、無人機に頼る場面が増えるとも見込まれている。

人間が関与せずAIが自ら標的を選択して殺傷力の高い攻撃をする「自律型致死兵器システム(LAWS)」が使用される恐れもあると指摘される。AIの一方的な判断で民間人を巻き込む誤爆などがあれば、紛争が一段と深刻化する恐れがあるが、現在はAI兵器を規制する条約などはない。

こうした中、米国は2月16日、中国を含む約60か国が参加してオランダで開かれたAIの軍事利用に関する国際会議で、規範案となる「AIと自律性の責任ある軍事的利用に関する政治宣言」を示した。

宣言では、〈1〉国際法に合致した形で軍事用AIを使用する〈2〉核兵器の使用は人間が完全な関与を維持する〈3〉自国軍のAI開発や使用に関する原則を公表する――などと規定し、各国に承認を呼びかけている。

ただ、LAWSの規制を巡っては、以前から全面禁止を求める途上国や条約の規制は不要とするロシアなど、各国で主張が異なり、議論は前進してこなかった。

米中両国はAIの軍事技術を巡り激しい競争を繰り広げており、米国主導で中国を含めた合意形成が進むかどうかは不透明だ。【2月28日 読売】
*****************

中国・ロシアを含めた合意形成というのは難しいようにも。
他国より優れた兵器を開発したいということで、現実先行で事態はどんどん進んでいくようにも思えます。

日本は・・・いつの頃からか、社会全体に新しい技術・変化への対応が非常に消極的になっていますので、気が付けば一人蚊帳の外といったことになるのかも。

【試しに「チャットGPT」に登録して質問してみました。】

******************
問い)政治的な判断をAIにゆだねることは適切でしょうか

答え)政治的な判断は、社会や個人の生活に大きな影響を与えるため、人間の専門知識と判断力が必要とされます。AIは、データとアルゴリズムに基づく決定を行うことができますが、人間の判断力や倫理的な観点から見た判断を行うことはできません。

したがって、AIに政治的な判断を完全にゆだねることは適切ではありません。AIを使用する場合でも、人間の専門家がAIの判断を検証し、その判断が倫理的で、社会的に適切であることを確認する必要があります。また、AIによる判断は、個人のプライバシーや人権を保護するための適切な法的枠組みの下で行われる必要があります。

AIは、政治的な決定を支援するために役立つことがありますが、最終的な判断は常に人間の専門家に委ねられるべきです。
********************

・・・・だそうです。まあ、「正論」ですね。

ついでに、5月にアジア方面を観光旅行するけど、あまり知られていない「穴場」を5か所教えて欲しいと訊ねると(「穴場」という言葉のニュアンスにどこまで対応できる知るため)、ウズベキスタンのヒヴァ、ミャンマーのマウラミャイン、モンゴルのフラミンゴ湖、ネパールのポカラ、ベトナムのフーコック島を、それぞれ理由を添えて回答してきました。

ネパールのポカラなどは「穴場」というよりメイン観光地ですが、ミャンマーのマウラミャインなどは「いい線」をいっています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー軍事政権  民兵武装で民主派弾圧を強化 その国軍司令官から麻生副総裁へ「血まみれの勲章」

2023-03-03 23:28:11 | ミャンマー

(2月20日、記念撮影するミンアウンフライン国軍総司令官(中央)と麻生氏とともに勲章を授与された渡辺秀央氏(左から2番目)ら=ミャンマー国軍報道官室提供【2月22日 日経】)

【国軍、「国家に忠誠を誓う」人々に銃器と弾薬の所持を認める 民兵武装化で暴力拡大の懸念】
ミャンマーでは軍事政権・国軍と民主派及び少数民族武装勢力の戦いが続いており、国軍は2月1日、非常事態宣言の期間の半年間延長を発表。2日には国内37郡区に戒厳令を発令し、抵抗する人々への弾圧を強化する構えを見せています。

更に国軍は「国家に忠誠を誓う」民間人の銃所持を認め、武装民兵を動員することで対応を強化するようです。

銃所持が認められるのは“国家への忠誠心があり、善良な人格者であることなどが条件”とされていますが、要するに国軍の命令に従い、その手足となって民主派狩りに参戦する支持者のことで、反軍デモに参加する可能性もある一般市民が許可を申請しても認められないと推測されます。

****「国家への忠誠」あれば民間人に銃の所持認める布告 ミャンマー国軍、民主派と戦う民兵に武装させる狙いか****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍が、「国家に忠誠を誓う」人々に銃器と弾薬の所持を認める原則を1月31日に布告したことが分かった。民主派の抵抗勢力と戦う親国軍の民兵組織などを合法的に武装させる狙いがあるとみられる。

国軍傘下の内務省が作成したとされる文書によると、ネウィン政権時代の1977年に制定された武器の所持に関する原則に修正を加え、復活させた。昨年12月に開かれた「閣議」で承認されたという。

38口径以下の拳銃やレボルバーなど5種類は免許で所持が可能。民兵組織などは許可を得れば、自動小銃や短機関銃も所持できるようになる。サイレンサーや望遠鏡機能を持つ照準器の使用は認められていない。

許可証の申請者は18歳以上で、国家への忠誠心があり、善良な人格者であることなどが条件。また、当局から地域の治安維持や犯罪の抑止などへの参加を要請された場合、従わなければならないという。

最大都市ヤンゴンの関係者は「(親国軍の民兵組織)ピューソーティーや武器を持ちたい退役軍人らを合法的に武装させる狙いだ」と指摘。「一般市民が許可証を申請しても『不適』と判断されるだろう。国軍への抗議デモでは、スリングショット(ゴム銃)ですら没収されている」と語った。【2月14日 東京】
*********************

軍事クーデター以降、民主派市民が親軍派の行政幹部らを襲撃する事件が相次ぎ、国軍側も民兵組織を結成していますが、その「武装」強化を図るもののようです。

ミャンマー国軍の非人道的・無慈悲な暴力はかねてより批判されているところですが、規律も何もない武装民兵となるとそうした一方的暴力が更に拡大しそうです。

【国外に逃れた人々の悲惨な結末 一方で海外で遊ぶ司令官家族】
国軍の弾圧・暴力から逃れる人々はタイなどに逃げていますが、国外に逃げても苦難は終わりません。その一方で国軍司令官の家族は・・・

****シンガポールで遊ぶミャンマー国軍トップの家族写真が拡散… 国民は「なぜこんなことが許されるのか」と激怒****
国軍の弾圧を逃れ、タイに密入国。その後、自殺したものと思われるミャンマー人の遺書が、ミャンマー内で拡散されている。そこには「ご飯をください」「水をください」という悲痛な叫びが書き連ねられていた。

昨年、ミャンマーとタイの国境にあるタイ側のメーソートを訪ねた。街の人の話では、国境の山を歩いて越え、タイに密入国するミャンマー人は1日100人をくだらないという。国軍に追われた人たちだ。タイ側に逃げれば身は安全だが、密入国の身では働くことはできない。自殺したのはそんなミャンマー人なのか。

2年前のクーデターでミャンマーの人たちの生活は一変した。仕事がなくなり、将来への夢も消えた。貯えもなくなりつつある人が多い。しかし生きなくてはならない。国軍に対抗する民主派の軍隊、国民防衛軍(PDF)で銃をもつか、国外脱出の道を選ぶか。

それを見すかすかのように、1月1日、国軍はパスポートの発給を停止した。システムの更新が対外的な理由だが、
「軍事政権になると多くの若者が国外へ逃げようとする。それは国軍も織り込みずみ。パスポート発給のための賄賂で国軍幹部が儲けようとしている前兆」 そう考える市民は多い。(中略)

流出した「国軍トップ」家族の写真
そんなミャンマーで国軍トップのミンアウンラインの家族の写真がSNSで拡散された。妻や息子や娘、家族たちの楽しそうな姿。場所はユニバーサル・スタジオ・シンガポールだった。ミャンマーからチャーター機で向かったという。

ミンアウンラインだけでなく、息子や娘も経済制裁を受けている。シンガポールは経済面の制裁には加わっているが、彼らの入国まで制限していない可能性は高い。

しかしシンガポールで撮られた写真は、パスポートすら手にするのが難しい国民感情を逆なでする。国軍の武器調達にかかわるミャンマー人がタイで逮捕されたが、その取り調べから、ミンアウンラインの隠し財産も発覚してきているという。

「経済制裁を受けた国軍関係者は何種類ものパスポートをもっています。私たちはなかなかパスポートがつくれないのに、彼らは簡単につくることができる」 船員になって国外に出ようと考えているRさん(24)はいう。

2月24日にパスポートをつくるためのQRコードの申請は再開された。しかし申し込みが殺到しているのか、なかなかつながらないという。

ミンアウンラインのシンガポールでの写真が掲載されたSNSには、こんな文章が添えられたいた。
「どうしてこんなことが許されるのだろう? この一家はミャンマー人のすべての苦しみに責任があります。 何百万もの人々がホームレスになっているのは、この一族の権力と富に対する欲のせいだ。 どうして彼らが贅沢を楽しむことが許されるのだろうか?」【3月3日 下川裕治氏 デイリー新潮】
*********************

【麻生自民党副総裁に「血まみれの勲章」 中露要人、テロリスト仏教僧と同列】
アメリカ・EUはミャンマー国軍支配の軍事政権への制裁を課していますが、EUは2月20日、ブリュッセルで開かれた外相理事会でイランへの追加制裁に加えて、国軍によるクーデターから2年が経過したミャンマーに対する追加制裁も決めています。

EUの発表によると、人権侵害が続くミャンマーへの追加制裁では、閣僚を含む9個人と7団体が対象に加わったとのことです。

一方、周知のように日本は上記のような欧米の制裁とは一線を画し、既存のODA事業を継続するなど軍事政権との関係も一定に維持する独自の対応をとっています。

そうした日本の対応は軍事政権に“高く評価”されているようで、自民党の麻生太郎副総裁と日本ミャンマー協会会長の渡辺秀央・元郵政相に名誉称号と勲章が授与されました。

****麻生太郎氏、クーデター首謀者から勲章 ミャンマー国軍の後ろ盾のロシア、中国要人と同列に****
クーデターを主導したミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官から、麻生太郎元首相と日本ミャンマー協会長の渡辺秀央元郵政相が名誉称号と勲章を贈られた。

有権者に選ばれた政権を武力で転覆させ、抗議する市民を多数殺害している人物からの表彰を受け入れるとは、常識的感覚からして信じ難い。苦境にあるミャンマー市民に理解される振る舞いだろうか。

◆国軍擁護の発言重ねる渡辺秀央元郵政相にも勲章
ミャンマーの国営紙によると、ミンアウンフライン氏は20日、麻生氏と渡辺氏に名誉称号と勲章を贈った。首都ネピドーでの授与式に出席した渡辺氏に「両国と両国民、両国の軍隊が友好関係と協力を強化することができた」と謝意を表明。渡辺氏は「生涯、ミャンマーの発展と国軍の地位のために努力する」と約束した。麻生氏は欠席したが、渡辺氏を通して謝意を伝えたという。

渡辺氏が会長の日本ミャンマー協会は、ミャンマーが民政移管した2011年、交流促進の目的で設立された。麻生氏を最高顧問に据え、ミャンマーに進出する日系企業が会員に名を連ねる。

渡辺氏は11〜16年の国軍出身のテインセイン大統領時代、大規模な経済特区を日本が開発する話を取り付け、存在感を示した。一方で、国軍系企業と共同で商業施設を建設する計画を進めるなど、国軍との関係を深めた。21年2月のクーデター後もミャンマーに度々渡航し、国軍擁護の発言を重ねている。

ミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は昨年11月と今年1月、それぞれ渡辺氏と麻生氏への表彰の話を報じた。イラワジによると、ロシアのショイグ国防相、中国の孫国祥特使、仏教僧ウィラトゥ師らも表彰対象とされた。

ロシアと中国はクーデター後の国軍の後ろ盾。ウィラトゥ師も国軍に近く、イスラム教徒少数民族ロヒンギャへの差別発言を繰り返してきた。麻生氏らは人権面で問題のある国や人物と同列視された格好だ。

◆林芳正外相「政府としてコメントする立場にない」
日本政府はクーデター後、民主的な政治体制への復帰を求め、国軍支配を認めていない。受章はその立場と反する。取材に対し、麻生氏の事務所は「ミャンマーがいかなる状況で顕彰したのかなど詳細を知らず、答えられない」と回答。渡辺氏が会長を務める日本ミャンマー協会も「本人が不在」としてコメントを出さなかった。

22日、衆院予算委で立憲民主党の源馬謙太郎議員が表彰について質問。林芳正外相は「個人として勲章を受章したと承知しており、政府としてコメントする立場にない」と述べるにとどめた。

◆「国民の苦難を顧みない日和見主義者として歴史に残る」
ミャンマーの人権団体によると、クーデター後の国軍の弾圧で死亡した人は3000人を超え、拘束された人は約2万人に上る。

ミャンマー出身のナンミャケーカイン京都精華大特任准教授は「蛮行に走る国軍が与えた称号に名誉などあると思うか。両氏はミャンマーで(第2次世界大戦のミャンマー占領時の首相)東条英機と肩を並べて伝えられていくだろう」と非難する。

クーデター前、与党「国民民主連盟(NLD)」政権下で経済開発を担当し、渡辺氏とも交流したチョーワンナ氏は「彼は両国の友好関係を壊した。ミャンマー国民の苦難を顧みない日和見主義者として歴史に残るのは間違いない」と切り捨てる。

民主派が作った「挙国一致政府(NUG)」のチョーゾー大統領府報道官は「戦争犯罪と人道に対する罪をはたらいた犯罪者」とミンアウンフライン氏を糾弾。「ミャンマー人は日本に対し、ロシア軍へのウクライナ人の抵抗を支援するように、国軍への抵抗を支援するように望んでいる」と訴え、「血まみれの勲章」を拒むように求めた。
【2月25日 東京】
**********************

日本政府は欧米の課す制裁には参加せず、軍事政権とも一定の関係を維持することで、平和的解決に向けた働きかけを続けることを目指していたはずですが、そうした独自外交の成果として何が得られたのか、国民への武力弾圧を続ける軍事政権から“勲章を授与される”ような関係にあることをどのように考えているのか・・・「政府としてコメントする立場にない」では済まない問題だと思いますが、アジアのことなど関心がない日本で大きな問題になることはないようです。

【マレーシアのアンワル首相 ミャンマー問題で機能不全のASEANに苦言 「正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」】
ミャンマー軍事政権に対しては内政不干渉を原則とするASEANも内部に温度差を抱えており、有効な対応をとれない機能不全を示していますが、マレーシアのアンワル首相はこうした現状に苦言を呈しています。

****マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言****
<中国をめぐり機能不全に陥ったASEANの進む道は>
マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、3月1日に訪問先のフィリピンのマルコス大統領と会談し、両国が直面する南シナ海での中国の一方的な海洋権益主張に共同で対処することで意見を交わした。(中略)

ミャンマー問題も背景には中国が......
一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の抱えるもう一つの問題、ミャンマーについても中国が大きな影を落としている。

それというのも中国がミャンマー軍政の最大の後ろ盾になっており、中国へ配慮するASENAの一部加盟国が、ミャンマー軍政への強硬策に反対しているからだ。

こうしたなか、アンワル首相は、マニラ首都圏ケソン市にあるフィリピン大学で3月2日に講演し、ASEANに対して「不干渉は無関心ではない」とミャンマー問題で一致団結できない現在の状況に苦言を呈した。

マレーシアはフィリピン、シンガポール、インドネシア、ブルネイと並んでミャンマー軍事政権に強硬な姿勢を取り続けている。これが、軍政に融和的なタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムとの間で溝が生じており、域内の連合体であるASEANとしてまとまりを欠く状況が続いている。

ASEANは2023年の議長国が対ミャンマー強硬派のインドネシアになったことから、強力な指導力でミャンマー軍政に現状打開を迫る好機とみられていたが、完全に膠着状態に陥っているミャンマー問題の解決にインドネシアが苦慮。

このためアンワル首相率いるマレーシアがイニシアチブを発揮することへの期待が高まり、これを受けて同じ強硬派のフィリピンとの連携強化を模索するため今回のフィリピン訪問となった。

原則違反に沈黙すべきではない
アンワル首相はフィリピン大学から名誉博士号を授与されたことを受けて同大で講演し、最近のASEANの対ミャンマー強硬派と融和派による分断の危機に触れて「不干渉と無関心は違うものである」と述べた。

これはASEANの掲げる原則である「満場一致」と「内政不干渉」を盾にミャンマー問題への積極的関わりに二の足を踏んでいる融和派各国に対し「内政不干渉という原則があるが、そのコンセンサスに基づく意思決定は民主的価値、人権、基本的自由の尊重というASEANの基本的価値観に反する違反については沈黙すべきではない」として、何らかの行動が急務となっているとの立場を改めて示した。

マレーシアは反軍政勢力招待も模索
またアンワル首相は「ASEANは現在一連の会議や首脳会議から軍政代表を排除することぐらいしか具体的対策を講じていない」と述べて、手をこまねいている状態の強硬派にも苦言を呈した。

マレーシアは2021年2月のミン・アウン・フライン国軍司令官によるクーデター直後から軍政に厳しい姿勢を表明し、ASEANの会議に軍政代表ではなく、民主主義復活を求めて抵抗を続けるアウン・サン・スー・チーが率いた民主政府や少数民族関係者などからなる「国民民主連盟(NLD)」の関係者を招請するべきだとの強硬策を提示した。さらに実際にマレーシアのサイフディン外相(当時)がNLD関係者と接触したこともあったという。

このNLD関係者のASEAN会議への参加というマレーシアの提案は融和派などの反発でコンセンサスを得ることができず現在に至るまで陽の目をみていない。

つまりASEANは軍政であれNLDであれ「ミャンマー代表」の不参加が続いており、当事者を欠いた場での対応協議が続いており、それが事態の膠着状態の一因となっているとの見方もある。

新しいアプローチ模索の動き
アンワル首相はマルコス大統領との会談でミャンマー問題について「危機打開のため新しいアプローチを模索するべきだ」と述べたとしているが、この「新しいアプローチ」が具体的になにを示しているのかは明らかになっていない。

インドネシアが現在進めている打開策は、2021年4月にミャンマー軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官も参加したASEAN緊急首脳会議(インドネシア・ジャカルタで開催)で合意した議長声明「5項目の合意」に基づき、その履行を軍政に迫るというものだ。

しかしこのうち「武力行使の即時停止」と「全関係者とASEAN特使の面会」に2項目に関して軍政が強硬に反対しており今日に至るまでなんら進展をみせていないのが現状だ。

マレーシアのサイフディン前外相はASEAN外相として初めて「5項目の合意」の破棄を含めた見直しを提案したこともある。

このためアンワル首相の「新しいアプローチ」は、インドネシアがこだわる「5項目の合意」にはもはや依拠せずにミャンマーとの打開策を模索する方法を指している可能性もある。

アンワル首相はフィリピン大学での講演をフィリピン独立運動の英雄ホセ・リサールの言葉を引用して締めくくった。
「正義は文明的人間の最も大切な美徳である。正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」【3月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
***********

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  人口減少という現実に危機感 「あの手この手」の対応も

2023-03-02 23:45:22 | 中国

(【2月4日 WEDGE】)

【予想されていたことではあるものの、中国人口減少の衝撃】
中国政府は1979年から2015年まで、夫婦が産める子どもを1人に制限する「一人っ子政策」を導入。政策の影響で少子高齢化が進むようになると、今度は16年からは2人目、21年から3人目を解禁しました。

しかし、少子化はとまっておらず、当局公式予測より8年早く2022年度末で人口減少に転じています。また、高齢化も進行しています。

広く予想されていたことではありますが、やはりインパクトのある現実です。

****中国本土の総人口、61年ぶり減少…昨年末時点で14.1億人****
中国の国家統計局は17日、香港、マカオを除く中国本土の総人口が2022年末時点で14億1175万人となり、前年から85万人減少したと発表した。

毛沢東が進めた大増産運動「大躍進」の失敗で多くの餓死者を出した1961年以来、61年ぶりの人口減少となった。今後も人口減が続けば、習近平シージンピン政権が進める強国路線に影響する可能性もある。

出生数は956万人で、前年比106万人の減少となり、6年連続で前年を下回った。死亡数は1041万人だった。人口1000人当たりの出生率は6・77人となり、過去最低を更新した可能性が高い。

中国政府は、人口が増えすぎないように調整する「一人っ子政策」を2015年末で廃止した。21年には第3子の出産も解禁したものの、出生数の回復にはつながっておらず、少子高齢化が加速している。

発表によると、22年末時点で、65歳以上の人口は2億978万人で、総人口に占める割合は21年の14・2%から14・9%に拡大。男女別では、男性が女性より約3200万人多かった。

中国政府系調査研究機関の中国社会科学院は19年、中国の人口が29年にピークを迎えて30年から減少するとの予測を発表していたが、8年早まった。

女性1人が生涯に産む子供の推計数を示す合計特殊出生率は現在の1・3から大幅に向上する公算は小さく、今後も人口減少が続く可能性がある。

国連が昨年7月に公表した人口推計によると、1990年に約8億6100万人だったインドの人口は2022年に1・6倍の14億1200万人に増加。23年のうちに中国を超え、50年に16億6800万人に達すると予測されている。【1月17日 読売】
*********************

農村部からの大量の安い労働力“農民工”によって支えられた「世界の工場」という経済モデルがもはや過去のものとなり、新たな経済モデルを求められています。

しかも、「世界の工場」を支えた大量の農民工は急速に高齢化が進み、国民が十分に豊かになる前に、高齢化社会の負担が増していくという「未富先老」が現実味を増しています。

そうした基本構造以外にも、早すぎる人口減少は「就職難」「結婚難」といった問題も惹起し、社会の不安定化につながります。

****中国で始まった人口減少 その裏側にある、2つの切実な「大問題」****
中国国内事情に詳しい講談社編集次長・近藤大介氏が(中略)中国の人口が61年ぶりに減少に転じた背景について解説した。

近藤氏は人口減少の背景について、「中国は1980年代から2015年までおよそ35年間一人っ子政策を続け、その結果、急激に子供が減る反面、高齢化が進み、人口ピラミッドがいびつな形となった」と指摘した。

また一人っ子政策を推進した鄧小平氏の政策について、「“大事な子供を全員、大学に入れよう”と、大学の数を急速に増やした。経済発展をするためには高学歴の若者を増やす必要があるという側面もあった。ところが、去年大学を卒業した中国人は1076万人、今年は1100万人以上。中国経済は減速しており、大卒の全員が就職するのは到底難しく、就職難に陥っている。これを『卒業即失業』と呼び、流行語になっている。」と述べた。

中国の人口減少の裏側で問題となっているのはこうした『若者の就職難だけではない』という。近藤氏は、「中国では結婚適齢期の男性が女性より3000万人多い。3000万人という数は日本の人口の4分の1に匹敵し、大変な男女比となっている。よって男性が結婚できないという深刻な問題が起こり、さらに人口減に拍車をかけている」と解説。

その一方で、「そもそも中国が発表する人口統計は信用できるのか」という問いに対して、近藤氏は「中国は10年に1度人口統計調査を行っているが、2010年の調査時、私は調査員に“中国人”としてカウントされた。調査員は調査費がもらえるのだが、彼は2元(40円)欲しさに私を中国人にした。」と統計のずさんさも指摘した。

「ただ、人口減少の裏側で起こっている切実な就職難と結婚難は肌感覚で確認している」との認識を明らかにした。【1月25日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
******************

【背景に生き方多様化】
上記の「結婚難」ということとは一見逆の現象のようでもありますが、価値観の面で言うと、敢えて結婚を急がない若者も増えており、そうした結婚や出産に対する価値観の変化が少子化の背景にあるとも指摘されています。
また、結婚が伴う経済的負担も重圧となっています。

そのあたりは、やはり深刻な少子化問題を抱える韓国や日本と共通したところでしょう。

****「恐婚」「おひとりさま」生き方多様化****
中国で急速に少子化が進む背景には、中国社会において結婚や出産に対する考え方が多様化してきている点がある。

結婚を恐れる考え方の「恐婚」や、独身が「おひとりさま」を楽しむ「単身経済」といった言葉が中国で流行し、結婚を急がない人が増えている。中国民政省によると、21年の婚姻件数は764万3千組で、前年から6%減った。減少は8年連続だ。

中国共産党は人々に自由に産む権利を与えてこなかった。人々が原則として産める人数は今も「人口・計画出産法」で定めている。だが、経済発展や女性の社会進出、教育水準の向上が出生率の低下を招くことは必然だったにもかかわらず、つい8年前まで一人っ子政策を維持し続けたことによって少子化の加速を招いたとの指摘は根強い。

中国の社会習慣も影響している。北京市の会社員女性(37)は夫と2歳の息子の3人暮らし。夫婦とも収入があり生活が苦しいわけではない。ただ、中国の習慣では子どもが結婚する際に男性側が車と住居を用意する必要があり、「次がもし男の子だったら2人分を工面しなければならず、さすがに無理だ」と話す。【1月18日 日系メディア】
********************

儒教文化の影響でしょうか、婚外子が極端に少ないことも韓国・日本と同じです。

【中央・地方政府もあの手この手 危機感のあらわれ】
もちろん中国も、あの手この手の対策をとってはいますが、大勢を変えるまでには至っていません。

****出産奨励策、効果は未知数****
中国共産党は少子高齢化と人口減少が国の経済力の衰退を招くとして、対策を講じてきた。

21年に3人目の出産を解禁するとともに、小中学生向けの学習塾を規制。家計の教育負担を和らげ、出生率向上につなげようとした。

地方政府は出産奨励策を次々打ち出し、深セン市は3人目を産むと最大で3万7500元(約75万円)を補助する制度を導入。浙江省杭州市では23年から体外受精の費用を公的医療保険の対象にする方針だ。

労働力が減ることへの危機感も強まっている。中国では定年を原則男性60歳、女性50歳(幹部職は55歳)と規定。だが、35年には60歳以上が4億人を超え、全人口の3割超を占める見込み。このため、定年を延長する方向で検討を進めている。

ただ、こうした対応が少子化に歯止めをかけるかは未知数だ。【同上】
**************************

****中国の一部省政府、結婚に30日の有給休暇 出生率向上を期待****
中国共産党機関紙、人民日報健康号は21日、国内のいくつかの省政府は結婚するカップルが増え、低迷する出生率が上昇するのを期待して、若い新婚夫婦に30日間の有給休暇を与えていると報じた。

中国では結婚の有給休暇は最低3日だが、2月以降、各省がより長期の休暇を独自に設定することが可能になった。甘粛省と山西省は30日間の有給休暇を出すようになったが、上海は10日間で、四川省はまだ3日間だという。

西南財経大学社会発展研究院のヤン・ハイヤン所長は、結婚休暇の延長は出生率を引き上げる有効な手だての1つだと指摘。結婚有給休暇の延長は主に経済の発展が比較的遅い一部の省や都市で行われており、労働力の拡大と消費の活性化が急務だとの認識を示した。

中国の2022年の出生率(人口1000人当たりの出生数)は6.77で過去最低を記録した。【2月22日 ロイター】
********************

****中国で急激な少子化…精子バンク登録で10万円も 名門大学で「頭に脱毛がない人」「身長165cm以上」が精子提供者の条件に****
最新の統計で人口減少局面に入った中国。急速に進む少子化を食い止めようと、「精子バンク」への登録が奨励されるなど、さまざまな対策が取られています。 

未婚で長女を出産した女性 「ぽっちゃりしているでしょう。この4か月が10年で一番幸せ」 中国西部の四川省に住む女性(37)。去年、結婚せずに長女を出産しました。

決断のきっかけは、父親になるはずだった男性の言葉でした。 未婚で長女を出産した女性 「『もし男の子なら結婚を考えるけれど、女の子なら結婚しない』と言われました。価値観が合う人と家庭を作るのが一番ですが、『未婚の母』を選ぶのも悪いことではないと思います」 

いまは子育てに専念していますが、ゆくゆくは仕事を再開し、自分の力で育てていくつもりです。 

去年、人口が61年ぶりに減少に転じた中国。政府はきのう、前の年と比べて人口が85万人減ったとあらためて発表しました。 

少子化対策が喫緊の課題となる中、四川省では先月からこれまで結婚している夫婦にしか認められていなかった子どもの戸籍登録が未婚者でもできるようになりました。これにより、出産時に医療保険が適用されるようになったほか、身元確認書類も発行されます。 

未婚で長女を出産した女性 「いろいろな意見はありますが、政府が支援するからこそ、(未婚での出産も)世間が受け入れやすくなります」 

シングルマザーを支援してきた弁護士は… 
シングルマザーを支援する弁護士 「これまで(出産時の)医療保険がもらえなかったので、制度改正はいいことです」 

さらに、いま中国で呼びかけられているのが… 
「精子を提供するボランティアに5000元(約10万円)を支払います」 「精子バンク」への協力です。精子を不妊で悩む夫婦に提供することで、子どもを産んでもらおうというのです。 

東部の山東省政府は先月、精子を提供した20歳から45歳の中国人男性に対し、日本円でおよそ10万円を支払うとSNSで呼びかけました。 さらに、上海の名門大学では精子を提供する人に対してこんな条件も… 「頭に明らかな脱毛がない人」 「身長は165センチ以上」 

当の男性たちはどう受け止めているのでしょうか? 「正常なことだと思います。これもある意味で良い精子を選ぶためです」 「応援します。国に貢献できるから」 

ただ、少子化の原因は晩婚化のほか、教育費などの経済的負担とみられています。 

「経済が良くなって、物価もずっと上がっています。今の給料では、自分一人しか生活できません」 「世話をしてくれる人がいなくて、子どもを産んだ後に仕事ができない」 

矢継ぎ早に打ち出される中国の少子化対策は、政府の危機感の裏返しともいえそうです。【3月1日 TBS NEWS DIG】
****************

四川省が婚外子の出生登録を認めることにした措置については、“同省の保健当局者は地元メディアとのインタビューで、シングルマザーの権利を守ることが目的だと述べ、未婚のカップルが親になることを推奨するわけではないと強調した。当局は、長期的にバランスの取れた人口開発を推進するための政策だと説明している。”【1月31日 CNN】とのこと。

中央でも議論が盛んになっています。

****中国、重要会議控え少子化対策提言相次ぐ 未婚女性の権利向上など****
中国の国政助言機関、人民政治協商会議(政協)が4日から会議を開くのを前に、メンバーから少子化対策の提言が相次いでいる。昨年、中国は60年ぶりに人口が減少し、出生率が過去最低を記録した。

あるメンバーは今週、新生児登録に関わる婚姻規定を排し、未婚女性も既婚女性と同様に不妊治療サービスを受けられるようにすべきと述べた。

政府の規則では、法的に出産が認められているのは既婚女性のみ。ただ四川省など、一部地方政府は2月から未婚者の出産を認めた。

子育ての負担を分担するために父親の育児休暇も増やすことや、2024年以降に3人目の子供が生まれた世帯の高等教育無償化、さらには独身女性の卵子凍結案も出された。【3月2日 ロイター】
*********************

上記のような案が実際に施策として行われるのか、行われたとして効果が期待できるのか、実施に伴う問題はないのか・・・等々の疑問はありますが、少なくとも危機感を持って対応しようとしているようにも見えます。

もとより中国は共産党による一党支配の国家ですが、各地の地方政府がいろんなことをやってみて、効果があれば中央でとりあげて全国展開するという点では、イメージよりはかなり弾力性のある国家なのかも。

日本も些末なところの議論に時間を使うより、混乱・トラブルは覚悟、問題があればあとから対応するといった発想で、いろいろと試行錯誤した方がいいように思います。婚外子やシングルマザー対応など「社会を変える」覚悟で。社会が変わらないかぎり、小手先の対応だけではおそらく改善も期待できないでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする