(2023年3月20日、モスクワで会談した、中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領。【3月27日 BUSINESS INSIDER】)
【中ロ首脳 戦略協力強化で合意 中国がロシアにとって最も重要な経済パートナー】
ウクライナ戦争をめぐる欧米の経済制裁を課されたロシアが、中国やインドへの石油・ガス輸出などでなんとか経済を維持していることは常々指摘されるところで、特にロシアは国際政治においてアメリカへの対抗力を有する中国との連携強化への傾斜を強めています。
中国・習近平主席も、ウクライナ和平案を提示するなど、ロシアへの寄り添いを見せつつ、一方で慎重にバランスもとりながら、アメリカに対抗する国際的影響力強化など中国の利益の最大化に腐心しています。
****プーチン氏、中国の仲裁案「解決の基礎」 中ロ戦略協力強化で合意****
ロシアのプーチン大統領は21日、同国を公式訪問中の中国の習近平国家主席と2日目の会談を行い、両国の戦略的協力に関する合意書に署名した。両首脳はウクライナ停戦に向けた中国の仲介案についても協議し、プーチン氏は平和的解決の基礎とすることができるとの認識を示した。(中略)
プーチン大統領は会談後、今回の首脳会談は「成功し、建設的」だったとし、今後も習主席と定期的に連絡を取り続けることに期待を表明。(中略)
習氏はプーチン氏との会談は「オープンで友好的」だったと表現。ウクライナに対する中国の「中立的な立場」を改めて強調し、対話を呼びかけた。ロシア通信(RIA)によると、習主席は中国はウクライナ紛争について「公平な立場」を持ち、平和と対話を支持すると述べた。
<連携強化>
習主席とプーチン大統領は、昨年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する約3週間前に両国の「無制限」のパートナーシップを表明。今回の首脳会談は、こうした関係の強化を目的に行われた。
両首脳は「戦略的協力」に関する一連の文書に署名。プーチン氏は「われわれの多面的な協力関係は、両国の国民のために発展し続けると確信している」とテレビで発言し、中国がロシアにとって最も重要な経済パートナーであることを明確に示した。
会談で、プーチン氏はウクライナでの戦争を受けてロシアから撤退した西側諸国の企業の代わりに中国企業を支援する用意があるという認識を示した。
共同声明で、米国に対し「世界的な戦略的安全保障の弱体化」を止め、世界的なミサイル防衛システムの開発を中止するよう呼びかけた。
また、より定期的な合同軍事演習の実施を確約する一方、より緊密な二国間関係は第三国に対して向けられるものではなく、「軍事的・政治的同盟」を構成するものでもないとした。(後略)【3月22日 ロイター】
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【両国関係強化を示すカネ・モノの流れ】
ロシアの経済面での中国との関係強化を示すカネの流れ、モノの流れが報じられています。
****ウクライナ侵攻後に中国人民元への依存が一気に進んだロシア経済****
人民元での輸出決済の割合が大幅上昇
ロシアでは、貿易決済、企業の資金調達、個人の外貨建て資産運用など多くの面で、中国人民元の存在感が高まっている。
きっかけとなったのは、ウクライナ侵攻後に先進国が実施した、ロシアに対する経済・金融制裁措置である。ロシアの外貨準備のうち主要国通貨については凍結され、ロシアの主要銀行がドル、ユーロを中心とした国際的な銀行間決済システムSWIFTから排除された。
主要な外貨の調達が困難となる中、中国人民元を用いた貿易決済が広がっていったのである。それは、経済関係においてロシアの中国依存度を高める流れと一体であった。
ロシア中央銀行のデータによると、人民元で代金が支払われた輸出の割合は、ウクライナ侵攻以前は、全体のわずか0.4%だったが、昨年9月には14%にまで上昇した。ルーブル建ては33%程度まで上昇したと推測され、逆にドル、ユーロなど主要通貨の割合が大きく低下した。
ロシアの貿易決済で人民元の利用が拡大するのを支えているのは、中国独自の国際的銀行間決済システムCIPSの存在だ。中国は2015年に、ドル、ユーロといった主要通貨での国際銀行間決済をほぼ支配するSWIFTに対抗する目的でCIPSを立ち上げた。
長らくその利用は広がりを欠いていたが、先進国による対ロシア金融制裁をきっかけに、流れが変わってきたのである。CIPSの今年1月の取引件数は、1日平均で2万1,000件と、侵攻前の約1.5倍になったという(日本経済新聞)。対ロシア金融制裁は、人民元の国際化を促し、国際決済における人民元の存在感を高める役割を果たしているのである。
ロシア政府は人民元の売却で戦争継続の資金を捻出
人民元は、戦争継続でひっ迫するロシア政府の財政を支える役割も果たしている。(中略)さらに今年1月には、政府の財源ねん出のため、同基金が保有する金約3.6トンや中国の人民元を売却した。同基金からの金の売却は初めてのことだという(コラム「年明け後一気に苦境が強まるロシアの経済・財政環境」、2023年2月15日)。
人民元建て社債の発行を増やすロシア企業
ロシア企業の間でも、人民元による資金調達が広がってきている。昨年は人民元建ての社債の発行額が70億ドル余りに達した(リフィニティブ)。(中略)
中国にとっては人民元国際化の足掛かりに
(中略)他方、中国にとっては、ロシアでの人民元利用の拡大は、人民元の利用を新興国に広げていく際の足掛かりとなる。それは、国際金融、通貨におけるドルの覇権に対する中国の挑戦を後押しするものだ。
ロシアと中国は一蓮托生の構図を強めるか
先進国による強い制裁措置のもと、中国への依存を高める以外に、ロシアにとっては経済成長を維持する術はないというのが実情だろう。ただし、経済、通貨の面で中国依存度を高めることは、その分野では中国に次第に支配されていくことを意味する。(後略)【3月3日 木内 登英氏 NRI】
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****ロシアの中国依存浮き彫り…中ロ国境トラック大行列****
習近平国家主席のロシア訪問が20日に迫るなか、中ロ国境の街では貨物トラックが大行列を作るなどロシアが中国への依存を強める姿が浮き彫りになっています。
中ロ貿易のうち、陸上輸送で取引される製品のおよそ65%が内モンゴル自治区の満州里で国境を通過します。
貿易関係者によりますと、最近はロシア向けに建設用の機械や自動車などの輸出が増え、これまでになく通関手続きに時間がかかっているということです。(中略)
中国政府が発表した貿易統計では、1月と2月のロシアとの輸出入総額は前年同期比で25.9%増加しています。
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアが中国への依存を強めるなか、習主席とプーチン大統領の会談でも経済の関係強化について議論される見通しです。【3月19日 テレ朝news】
中ロ貿易のうち、陸上輸送で取引される製品のおよそ65%が内モンゴル自治区の満州里で国境を通過します。
貿易関係者によりますと、最近はロシア向けに建設用の機械や自動車などの輸出が増え、これまでになく通関手続きに時間がかかっているということです。(中略)
中国政府が発表した貿易統計では、1月と2月のロシアとの輸出入総額は前年同期比で25.9%増加しています。
ウクライナ侵攻を巡り、ロシアが中国への依存を強めるなか、習主席とプーチン大統領の会談でも経済の関係強化について議論される見通しです。【3月19日 テレ朝news】
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こうした流れを受けて、ロシアでは中国語を学ぶ人が急増しているとか。
****ロシアで高まる中国語人気、深まる経済依存*****
ロシアで中国語のオンラインレッスンをして生計を立てているキリル・ブロビンさんは、毎日曜日は早朝から夜中まで働きづめだ。生徒数はこの1年で3倍に増えた。日曜日は一番忙しく、「休憩をほとんど取らずに16時間レッスンをしている」と話す。
中国語人気は、ロシアがアジアに軸足を移していることを示している。(中略)
ロシアのオンライン人材派遣会社大手ヘッドハンターのナタリア・ダニナ氏によると、中国語を必要とする求人は昨年は1万1000件近くと、前年に比べ44%増加した
。
■力を合わせれば「どこにも負けない」
ロシアでの中国語人気は、英語と肩を並べる勢いだ。(中略)欧州の大学への留学がかなわなくなった今は、中国への留学希望者も増えているという。
教育部門を統括するロシアの国営機関によると、外国語で最も人気があるのは依然として英語だが、高校修了時の外国語試験で中国語を選択する生徒の数は1万7000人と1年で倍増した。(後略)【3月29日 AFP】AFPBB News
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【かつては中国を警戒したロシア 今は中国依存を進めるしかない状況】
かつてロシアは極東経済の中国経済との一体化については、人口で圧倒的に上回る中国に呑み込まれることを警戒する面が強くありましたが、今は、もはや中国に頼るしかない・・・という状況になっています。
****かつて嫌った「友情のパイプ」 中国依存、進めるしかないロシア****
(中略)中国は建前の上ではロシアとウクライナの間で「中立」を装うが、実際には原油や天然ガスなどロシアの資源を大量に輸入し、米国などによる先端兵器の対ウクライナ供与を激しく非難するなど、政治、経済の両面でロシアを下支えする。
中露国境の街(黒竜江(ロシア名・アムール川)を挟んでロシア極東と接する国境の街・中国東北部・黒竜江省黒河市)を訪ねると、この1年で急速に進んだ両国の協力の深まりが可視化されていた。(中略)
(「中露天然ガスパイプライン東ルート」の)黒河中継所が中国のエネルギー政策上、極めて重要なのは、ロシアのパイプライン「シベリアの力」と地下を通じて直結しているためだ。ここを起点にロシア産天然ガスが3000キロを超えるパイプラインを通じて中国全土へと送られている。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州はロシアからのエネルギー輸入を急激に減らしており、ロシアは輸出先を中国などに必死で振り向けている。黒河中継所を通じた東ルートの天然ガスの輸送量は2022年、開通当初の19年の3倍以上に急増。23年は19年の5倍を超える見通しだ。
中露間のパイプラインはこのほかにモンゴル経由のルートが近く着工を予定している。さらに2月には、日本海沿いを走る極東ルートから中国東北部にパイプを延伸する計画についても合意した。欧州への輸出の道を閉ざされたロシアは、今後より一層、中国市場への依存を高める可能性が高い。
黒河がロシア側とつながるのはパイプラインだけではない。22年6月には黒竜江の対岸の都市、ブラゴベシチェンスクと結ぶ長さ19・9キロの自動車専用の道路も開通した。(中略)
対米・経済的実利 中国が得るうまみ
中国は歴史的にはソ連時代も含めてロシアと対立した時期もある。日米欧などとロシアが激しく対立するなかで、中国はなぜ、米欧との関係が悪化するリスクを負ってまで、対露の経済関係を強化し、ロシアを支えるのか。
一つは政治的な側面だ。(中略)米中対立が激しさを増す現状を見据えると、共に米国と対峙(たいじ)するロシアは、一定の距離を置きつつも支えざるを得ないというのが王氏(北京のシンクタンク「CCG」の王輝耀理事長)の解説だ。中国の外交政策に詳しい北京の政治学者も「プーチン大統領のロシアが崩れれば、中国は単独で米国と向き合わなければならない。それを中国が避けたいと思うのは当然だ」と指摘した。
もう一つは、中国側が経済的な実利を狙っているとの見方だ。中国の石油業界関係者は「率直に言ってウクライナを支援しても返ってくるものは少ないが、ロシアを支えればそれだけの見返りはある」と明かす。
実際にウクライナ侵攻後、中露の経済関係は深まった。2022年の貿易総額は1902億ドルと前年より約3割も増加した。(中略)
特に目立つのが中国へのロシアからの輸入で、前年より43%増えた。制裁で買い手がつきにくくなり割安となったロシア産原油と液化天然ガス(LNG)の輸入量は、前年よりそれぞれ8%、43%も増えている。(中略)
世界第2の経済大国に急成長した中国と、伸び悩むロシアの間の格差が広がる中で、ロシアの対中依存の傾向は以前から進んでおり、10年にはロシアにとって中国は国別で最大の貿易相手国となっていた。ロシアが14年にウクライナ南部クリミアを併合した後、米欧からの経済制裁を受け、中国の重要性は更に増した。
一方で、ロシアが中国などへの依存を深めたとしても、政治と経済の両面で今後の難局を乗り切れるのかは定かでない。
日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は22年の試算で、欧州諸国がロシア産天然ガスの購入を打ち切った場合、中国やインドがロシアからの輸入を増やしても、その損失を賄いきれないと指摘している。(後略)
【3月1日 毎日】
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【ロシアは「中国にとっての資源の倉庫」「中国の資源植民地」になる・・・・ 逆転した力関係】
中ロ関係の強化とは言いつつも、これまで見てきたように実態はロシアの中国依存強化であり、上記記事にある天然ガスパイプラインに関しても両国の温度差があるように見えます。
****パイプライン「シベリアの力2」****
(習近平主席のロシア訪問で)両首脳は、ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」構想についても協議。
****パイプライン「シベリアの力2」****
(習近平主席のロシア訪問で)両首脳は、ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」構想についても協議。
プーチン大統領はロシア、中国、モンゴルは、同パイプライン計画について「全ての合意」を完了したと述べ、ロシアは中国向け石油輸出を増やす用意があるとした。習主席に対し、ロシアが中国にとり石油やガス、石炭の「戦略的供給国」との認識を示した。
だが共同声明では、パイプラインの当事者が「調査と承認を進める」と述べるにとどまった。会談後に発表された習氏の2つの声明の英語版ではパイプラインへの言及がなかった。
ロシアのノバク副首相は記者団に対し、パイプラインプロジェクトの詳細を詰める作業がまだ残っていると語った。
シベリアの力2は中国に年間500億立方メートルのロシア産天然ガスを供給するもの。ロシアは何年も前に同計画を立ち上げたが、中国が欧州に代わる主要なガス供給先になっているため、計画の遂行が急務になっている。【3月22日 ロイター】
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だが共同声明では、パイプラインの当事者が「調査と承認を進める」と述べるにとどまった。会談後に発表された習氏の2つの声明の英語版ではパイプラインへの言及がなかった。
ロシアのノバク副首相は記者団に対し、パイプラインプロジェクトの詳細を詰める作業がまだ残っていると語った。
シベリアの力2は中国に年間500億立方メートルのロシア産天然ガスを供給するもの。ロシアは何年も前に同計画を立ち上げたが、中国が欧州に代わる主要なガス供給先になっているため、計画の遂行が急務になっている。【3月22日 ロイター】
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こうした流れに、ロシアが経済的に中国に依存するようになり、中国にとっての「資源の倉庫」「中国の資源植民地になる」になるとの警戒がロシア国内にもあります。
****ロシアは中国の「資源植民地」になる…高まる中国への依存に政府関係者が懸念****
ロシアは「中国の資源植民地になる」と、ロシア政府に近い関係者がフィナンシャルタイムズに語った。
習近平国家主席のモスクワ訪問は、ロシア経済が厳しい制裁の中で中国に依存していることを示した。
だが、中国はガスパイプライン「パワーオブシベリア2」にゴーサインを出すことはしなかった。
ロシアが経済的に中国に依存するようになり、中国にとっての「資源の倉庫」になると、ロシア政府に近い情報筋はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。
先日、中国の習近平国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を訪問し、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来初めての首脳会談を行ったことで、この不平等なパートナーシップが明らかになった。(中略)
実際、中国のロシア産エネルギーの購入量は2022年に813億ドル(約10兆6000億円)と前年比で54%も増加し、ロシアの収入の40%を占めた。さらに、FTが引用したデータによると、ロシアは2023年1月、270億立方メートルの天然ガスを中国に輸出し、中国に対する最大の供給者になった。
「これは我々が完全に中国の資源植民地になることを示唆している」と、その情報筋はFTに語った。(中略)
ロシアは中国との経済的な連携をウクライナとの戦争に勝つための鍵と考えていると情報筋は語った。また、ロシアは中国との関係が欧米の制裁を乗り切るのに不可欠で、天然資源が中国の支援を得るのに役立と考えていると付け加えた。
だが、習主席とプーチン大統領の会談では、ロシアは最優先事項の達成に失敗した。それは、新しい天然ガスのパイプライン建設に関する最終合意だ。(後略)【3月27日 BUSINESS INSIDER】
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ロシアと中国の力関係は完全に逆転したようです。
****習近平とプーチンの「兄弟関係」が逆転...兄が頼りの弟分は付き従うのみ****
<戦争で疲弊したロシアがかつての弟分に支援を仰ぐ。社会主義時代の兄貴分を今も支える中国の狙い>
時は1949年12月半ばのこと。ソ連の国営ラジオ局が新しい曲を流した。題して「モスクワ・北京」。建国まもない中国から初めてモスクワにやって来た毛沢東主席を歓迎する勇ましい歌で、「ロシア人と中国人は永遠に兄弟」という詞で始まっていた。
社会主義国同士の熱き連帯というわけで、もちろんソ連が兄貴分。生まれたばかりの中華人民共和国は、長きにわたる抗日戦とその後の国共内戦で疲弊し切っていた。だからソ連の援助にすがりたかった。しかし「弟分」とされたことには怒りを覚えた。そのせいもあって、両国は後に別々の道を歩むことになる。
あれから約75年、この3月20日には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がモスクワを訪れ、翌21日にロシア(旧ソ連)のウラジーミル・プーチン大統領と会談したが、既に両国の力関係は逆転していた。今は中国こそが「大兄」で、ロシアは中国にすがる側だ。(中略)
そして関係の逆転した2023年の春、国際政治の舞台を堂々と歩む中国に、兄が頼りの弟分は付き従うのみだ。おぼつかない足取りで。【3月29日 Newsweek】
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