孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・バイデン政権の安全保障重視・米の競争力復活の経済政策 同盟国との関係調整が課題に

2023-03-10 23:00:34 | アメリカ

(1980年~1990年代、共和党のレーガン大統領や民主党のクリントン大統領は党派を問わず「小さな政府」を掲げていた。それが今日は、対中政策や新型コロナウイルス対策などで「大きな政府」の時代に突入している。
バイデン政権下では、アメリカ救済計画法(ARP)、超党派インフラ法、半導体・科学法、インフレ削減法などの大型法案が成立。対GDP比2割近い総額3.8兆ドル規模の財政出動となり、ルーズベルト大統領のニューディール政策(8300億ドル、対GDP比13%)をも上回る。【2022年10月12日 東洋経済ONLINE】)

【米の経済安全保障政策 経済と安全保障の両立、同盟国との利害調整で課題も】
アメリカ・バイデン政権は昨年、、昨年8月にはCHIPS法(半導体支援法)とインフレ抑制法を成立させ、昨年10月には半導体輸出規制強化策を打ち出しています。

CHIPS法(半導体支援法)は当初、対中国競争法案とも呼ばれたように、中国との半導体並びに科学技術面での覇権争いを念頭に、米国の競争力を高める狙いがあります。

インフレ抑制法はその名称とはやや異なり、エネルギー安全保障、気候変動対策が歳出の8割超を占めるように、その目玉は電気自動車(EV)購入の税額控除を含むクリーンエネルギー推進など気候変動対策です。

派手な前政権とは異なり、バイデン政権は一般的には成果・実績であまり強い印象はありませんが、上記施策を政権の成果として高く評価する向きもあります。

ただ、アメリカのこうした政策には、先端技術において経済と安全保障をどのように両立させるか、或いは自国と同盟国との経済的利益をどのように調整するか、といった問題も付随します。

****米、中国対抗へ半導体新法 貿易『効率』より『安保』重視****
(中略)
10年ほど前まで、米国は自由、無差別で、しかも公平な世界貿易ルールを支持してきた。「無差別」を無視し、中国を名指しにして貿易、投資を制限する新方針は、世界貿易ルールを取り仕切る原則が「経済効率」から「安全保障」に転換したことを意味する。

半導体支援法の場合、中国は半導体企業の重要な顧客で、それを失うことはアジアの生産者にとり大きな損失だ。

「公平」を無視して、米国が国内生産に支援金を支払うことも同盟国にとって脅威となる。(後略)2022年11月4日 読売】
******************

****アメリカの経済安全保障政策に見える2つの課題****
日本企業にも課題解決のためのルール作りは重要
(中略)
アメリカの半導体輸出規制強化策
昨年10月7日、アメリカ商務省は中国を対象に先端半導体および先端半導体製造装置の輸出規制を大幅に強化する規制を施行した。

今回の措置は、対象の中国企業が先端半導体の開発を目的とするだけで原則輸出不許可とする点や、また通常設ける例外規定を今回は設けないこと、さらにアメリカ人による先端半導体製造ラインでの技術提供禁止など、過去の輸出規制と比較してもかなり革新的な手法が含まれ、突出して厳しい内容となっている。

アメリカとしては、中国のサプライチェーン上の弱みである先端半導体を押さえることで中国の軍事技術の開発スピードを遅らせる意図を持っているとされる。

アメリカ商務省の輸出規制はアメリカの技術が含まれる場合、第三国にも域外適用されるが、半導体製造装置市場を日米蘭企業が独占する中で、オランダASML(半導体製造装置市場2位)、東京エレクトロン(同3位)は、アメリカの技術なしに自社製品の多くを完成できると見られている。

そこでバイデン政権は、自国の輸出規制の手が及ばない部分を補完するため、日本政府、オランダ政府に歩調を合わせるように働きかけている。(中略)

産業界の視点から見ると、どの輸出品目を規制するかが各社の業績に直結し、業界勢力図を変えることにもなりかねない。今回の措置に留まらず、同志国間でのルール作りやすりあわせが今後の課題として残る。

アメリカのサプライチェーン強靭化策
アメリカは昨年8月にCHIPS法、インフレ抑制法の2つの法律を成立させた。

まず、CHIPS法は中国との競争を念頭にアメリカの競争力を強化するために総額2800億ドル(約37兆円)を先端技術の研究開発に投資するものでこの中に半導体生産支援として527億ドル(約7兆円)の施策が含まれている。

CHIPS法を念頭に、アメリカのインテル、マイクロン、韓国・サムスンなどの企業は相次いでアメリカで新たに先端半導体工場の設立を表明しているほか、台湾TSMCはすでにアリゾナ州でアップル向けなどに先端半導体工場を建設中で、各社ともアメリカ政府の補助金に期待を寄せている。

一方で、補助金受給企業は今後10年間、中国を含む「懸念国」での工場建設を禁じられる条項も盛り込まれている。

もう1つはインフレ抑制法で、歳出合計4990億ドル(約66兆円)の内、気候変動対策・エネルギー安全保障に3910億ドル(約52兆円)を充てる法律である。

この法律には、電気自動車(EV)の購入者に、最大7500ドル(約100万円)の税控除を適用する条項が含まれるが、電池部材の北米原産率や重要鉱物がアメリカと自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で生産される比率などで、厳しい条件が課されるほか、中国を含む「懸念される外国の事業体」が関与する部品や重要鉱物が含まれないことなどの条件も課されている。

上記2つの法律は、台頭する中国を念頭にカーター政権以来の本格的な産業政策を復活させることで、先端技術を通じてアメリカの経済競争力を向上させようとする意図と、先端技術の流出を防ぐ意図を持った法律である。

一方で特にインフレ抑制法については、EUが独自の優遇政策でアメリカに対抗する可能性に言及し、韓国もWTO提訴の可能性に触れながら、ともにアメリカに条件を見直すように強く求めている。同様にアメリカとFTAを締結していない日本も条件を見直すようアメリカに強く働きかけている。(後略)【1月16日 東洋経済ONLINE】
***********************

中国はアメリカのこうした施策に反発しています。

****米の半導体・インフレ関連法、各国の権利と国益損なう=中国外相****
中国の王毅外相が韓国の朴振外相とオンラインで会談し、米国で成立した国内半導体産業支援法とインフレ抑制法は中韓を含む各国の正当な権利と国益を損なうと伝えた。中国外務省が12日に発表した。

王外相はまた、全ての国が反グローバル化や一方的な脅しを含む時代遅れの考え方にともに対抗し、真の多国間主義を維持し実践するべきだと述べたという。【2022年12月12日 ロイター】
****************

【オランダ 半導体規制で米と協調 韓国は反発】
対中国を想定した半導体規制法については、【東洋経済】記事にもあるように、半導体製造装置メーカーである日本・オランダ企業の協力が必要になります。

日本の東京エレクトロンはまだ対応を明確にしていません。ただ、アメリカ主導の対中国安全保障政策に従わないというのは難しい選択でしょう。

****半導体製造装置 輸出規制 東京エレクトロン社長“適切に対応”****
中国を念頭にした半導体製造装置の輸出規制をめぐり、世界大手の東京エレクトロンの河合利樹社長は決算説明会で「新しい情報が入れば適切に対応したいと考えている」と述べ、今の時点で会社としての判断は難しいという姿勢を示しました。

中国を念頭にした半導体製造装置の輸出規制をめぐっては、先月までにアメリカが日本とオランダにも協力するよう要請し、日本政府としても中国などを念頭に検討を進めています。(後略)【2月9日 NHK】
*********************

オランダ政府はアメリカに足並みをそろえることを明らかにしています。

****オランダが半導体技術の新たな輸出規制計画、米の対中措置に呼応****
 オランダ政府は8日、国家安全保障の観点から先端的な半導体技術の新たな輸出規制を計画していると明らかにした。米国の中国に対する半導体輸出規制に呼応する形だ。

米政府は昨年10月、米国製半導体製造装置の中国向け輸出を巡る包括的な規制措置を導入した。ただこれが効果を発揮するには、オランダと日本の主要サプライヤーの協力が不可欠となる。

こうした中でオランダのスフライネマッハー貿易相は議会宛て書簡で、夏の前には新たな輸出規制を実施する意向を表明した。書簡は規制相手として中国、また規制対象となる半導体製造装置のメーカーである同国のASMLホールディングには直接言及していないが、ASMLが半導体メーカーに販売している遠紫外線(DUV)露光装置に関する技術が影響を受けると説明している。

スフライネマッハー氏は「オランダはこの技術を最大限迅速に監視することが国家安全保障上必要と考えているので、内閣は国家管理リストを導入する」と述べた。

ASMLによると、DUV露光装置の最も先端的な部分について今後は輸出許可を申請しなければならなくなるだろうが、今年の業績見通しには影響ないという。【3月9日 ロイター】
******************

オランダのこの決定に中国は反発しています。

****中国「断固反対」 オランダによる半導体製造装置の輸出規制受け****
オランダ政府が半導体製造装置の輸出を規制すると発表したことについて、中国政府は9日、「断固反対する」と強く批判しました。

オランダ政府は8日、先端半導体を製造する装置の輸出を規制すると発表しました。名指しはしていませんが、中国を念頭に置いた措置とみられていて、中国政府は強く批判しています。

中国外務省 毛寧報道官
「私たちは、オランダ側が行政手段で中国とオランダ企業の正常な経済貿易往来を制限することに断固反対する」

中国外務省の毛寧報道官は9日の記者会見でこのように述べ、オランダ政府に申し入れを行ったことを明らかにしました。

さらに、オランダに輸出規制を働きかけたアメリカを念頭に、「個別国家に追随して輸出規制措置を乱用しない」よう求めたうえで、「サプライチェーンの安定と自由解放の国際貿易秩序を共同で維持し、両国や企業の共通利益を維持するよう希望する」と述べました。【3月9日 TBS NEWS DIG】
*******************

半導体工場建設への支援基準が明らかになると、韓国でも反発が。

****米国、今度は半導体で韓国を裏切る?=韓国ネット「技術が全て盗まれる」「韓国内に工場建設を」***
2023年3月6日、韓国・ヘラルド経済は「インフレ抑制法(IRA)で韓国を裏切った米国が半導体でも韓国を裏切った」と伝えた。

米商務省は先週、米国内に半導体工場を建設する企業に支給する補助金の基準を発表した。記事はこれを「韓国の半導体作業には青天のへきれきと言える知らせだった」と評している。

米国は昨年、自国内の半導体生産基盤の構築に向け総額520億ドル(約7兆円)の支援を決めた。このうち390億ドルは半導体工場を建設する企業に投じるとしている。

しかし、条件は厳しいという。記事は「超過収益の共有」「先端チップ工程に対するアクセス」「中国または関連国における10年間の半導体生産能力拡大禁止」を毒素条項だとしている。一〜二つ目は「補助金を出してやるから、たくさん稼いだ分は米国で吐き出せ」「基幹工程を公開しろ」ということで、「手持ちのカードを全て見せろと言うのに等しい」と指摘している。

また、三つ目の中国への投資制限は、サムスン電子やSKハイニックスという中国にメモリ生産基地を持つ韓国企業に対し、「中国での事業をやめろ」とメッセージを送ったも同然だとしている。

サムスン電子は中国・西安でNAND型フラッシュメモリの40%を、SKハイニックスは無錫でDRAMの50%を生産している。今後、工場のアップグレードができなければ、半導体工場は閉鎖への道を進まざるを得なくなる。

半導体が韓国輸出の20%を占める韓国にとって、こうした条件は「メガトン級の悪材料」だと記事は強調し、「米国が条件を先に提示していたら、韓国企業は米国に投資しようとしなかっただろう」と伝えている。業界では「これなら米国から補助金などもらわないほうがまし」だとの声も上がっているという。

韓国政府は米国関係当局に対し、韓国の立場を可能な限り伝えていく考えを示しているが、「大きな流れを変えるのは容易ではない」と、記事は指摘している。(中略)

この記事に、韓国のネットユーザーからは「中国への対処を言い訳に数十年前、日本の半導体を潰したのと同様に、韓国の半導体もこれを機に滅ぼそうとしているんだろう」「米国はあれこれ利用するばかり。こんな国を信頼できるはずがない」「危険を甘受してでも強い態度で対応していくべきだ」(中略)「これでは技術を全て盗まれる。米国から撤退して韓国内に工場を建設すべきだ」(中略)などの声が寄せられている。【3月9日 レコードチャイナ】
*********************

【インフレ抑制法 EUも独自対応検討 関係調整の動き】
インフレ抑制法についても、“EUが独自の優遇政策でアメリカに対抗する可能性に言及し、韓国もWTO提訴の可能性に触れながら、ともにアメリカに条件を見直すように強く求めている”というように、こちらも同盟国との関係調整が問題になります。

EVについて、完成車の組立場所とバッテリーを構成する主要鉱物の生産地などにより税額控除に差をつけるの「差別だ」ということで、韓国はWTOに提訴するか検討すると発表、また、二国間の自由貿易協定(FTA)に違反している可能性があるとも指摘しています。

一方、これまで「脱炭素」「クリーンエネルギー」の面で戦略的に世界をリードしてきたEUは、インフレ抑制法によって流れがアメリカに向けて変わることを懸念しています。

****米インフレ抑制法、欧州から脱炭素化の資金や人材奪う恐れ=業界幹部****
米国のインフレ抑制法(IRA)に盛り込まれたクリーンエネルギー推進向けの巨額のインセンティブによって米国で投資が加速する一方、欧州連合(EU)はエネルギー移行に必要な資金や人材の確保で後手に回りかねない――。今週のエネルギー業界の国際会議「CERAウィーク」で、集まった業界幹部からはこうした見方が示された。

バイデン政権が昨年IRAを成立させて以来、脱化石燃料の取り組みや気候変動対策を巡って欧米双方が民間資金と人材を奪い合う様相を呈しつつある。欧州側は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した天然ガスと電力の価格高騰に見舞われているだけに、エネルギー移行の遅れは許されない状況だ。

IRAの下では、太陽光、力といった再生可能エネルギーや電気自動車(EV)、二酸化炭素(CO2)貯留・回収といった分野における米国での技術開発投資に約3700億ドルの優遇措置が適用される。

グランホルム米エネルギー長官は8日、バイデン政権としてIRAについて何もやましい部分はないとの見方を示した一方で「われわれは貿易戦争ないしそれに類する事態を望んではいない。われわれは、あなた方も同じことをするべきだと言い続けている。だがわれわれはサプライチェーン(供給網)を米国に戻すことに真剣だ」と語った。

欧州企業の間からも、EUに独自の新たなインセンティブを打ち出すよう求める声が聞かれた。(中略)

米国三菱重工業の石川隆次郎社長も、IRAは投資を引き寄せる磁石だと表現し、「先進国はもとより途上国の全ての資金がIRAに由来する投資に加わろうと米国に流れ込んでいる」と述べた。

石川氏は、IRAの税制優遇で米政府から外資系企業に直接支払いがあるという部分はまさに「驚天動地」だと高く評価している。【3月9日 ロイター】
******************

EUの懸念に対し、アメリカは軋轢が大きくならないように協調も検討しているとか。

****米国とEU、クリーン技術で貿易協定議論=FT****
米エネルギー省のグランホルム長官は、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、米国と欧州連合(EU)がクリーンエネルギーについて自由貿易協定(FTA)型の協定を議論していることを明らかにした。

長官は「貿易で争いたくない。全てを持ち上げる方向でどのようにこれを実現できるかEUと協議している」と発言。米国は脱製造業化の流れを反転させ、中国依存を断ち切るため、製造業の「屋台骨」を構築したいと述べた。

欧州連合(EU)欧州委員会は9日、グリーン産業に手厚い補助金を打ち出した米インフレ抑制法に対抗するため、EU加盟国に米国と同額の補助金を企業に支給することを認めるルールを発表した。【3月10日 ロイター】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする