孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハンガリー・オルバン首相  EUは「法の支配違反」適用の手続きに着手 EU内外で孤立化も

2022-05-08 22:00:32 | 欧州情勢
(ハンガリーのオルバン・ビクトル首相(左)とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長(2021年4月23日撮影)【5月6日 AFP】)

【オルバン政権、総選挙で圧勝 EUはハンガリーへの「法の支配違反」適用手続き着手】
ハンガリー・オルバン政権が、EU・NATOに加盟しながらも、民主主義や人権への配慮を重視するいわゆる西欧的民主主義とは異なる「非自由主義的民主主義」とも言われる価値観を有し、国内反対派、政府に批判的なメディア、移民・性的マイノリティーといった少数派への攻撃・不寛容姿勢を露わにしていること、そのことでEU内部で根深い対立を惹起していることは、これまでも再三取り上げてきました。


一時は接戦の予想もあった4月3日の総選挙は、オルバン首相率いる与党フィデスが圧勝しました。
“開票率98%の段階で、フィデスの得票率は53.1%で、マルキザイ氏率いる6党による野党連合は35%。106ある1人区では88でフィデスが優勢となった。
選挙管理委員会によると、現時点の結果からフィデスが議席数の3分の2に当たる135議席、野党連合は56議席を獲得すると予想。また極右政党も7議席を獲得するとみられる。”【4月4日 ロイター】

EUは今後、この“異端児”オルバン政権にどのように対応するのかが問われています

****「ハンガリーのプーチン」の勝利:「異端児」をめぐる米中「包容力の競争」時代が始まる****
EUで唯一の独裁国家を率いるオルバーン首相の総選挙圧勝は、米バイデン政権が掲げる「権威主義陣営との対決」に完全には追従しない国の強かな地政学を浮き彫りにした。ロシアのウクライナ侵攻について曖昧戦略をとる国は、インドをはじめ少なくない。民主主義陣営が対中国「競争的共存」を進める上で、こうした「異端児」国家も疎外せずに連携を築く度量と包容力が問われてくる。
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「月から見えるほどの大勝利を収めた。(EU[欧州連合]本部がある)ブリュッセルからも確実に見える」
4月3日に実施されたハンガリー議会選挙でオルバーン・ヴィクトル首相率いる右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が勝利し、オルバーン首相は4選(通算は5選)された。同日夜、オルバーンはブダペストでの支持者向けの演説でそんな風に吠えた。ブリュッセルにその勝利宣言を聞かせてやろうとでも言うように。
 
野党は、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、ロシアと親しい関係を築いてきたオルバーン首相を「ハンガリーのプーチン」と呼んで批判したが、結果はオルバーンの圧勝だった。与党は、憲法改正が可能となる3分の2を超える議席を獲得した。
 
オルバーン首相が続投することが明らかになった今、ウクライナ戦争におけるハンガリーの対応が注目される。ウクライナ戦争の中でハンガリーは曖昧戦略をとっており、専制政治と民主主義の体制間競争という構図に当てはまらない。ハンガリーを含めたそのような「異端児」を包容することができるのかが、日欧米を始めとする民主主義陣営に問われている。

専制政治vs.民主主義の構図に当てはまらない存在
ウクライナ戦争のさなかに、オルバーンは勝利した。それはウクライナにとっても米国とEUにとってもいささか「不都合な真実」であるに違いない。(中略)(バイデン大統領は)ウクライナ戦争は民主主義国と専制主義国との戦争であるとするのである。そうだとするとハンガリーはこの構図にうまくあてはまらない「異端児」のような存在となる。

ハンガリーはEUに加盟し、NATOに所属していながらも、民主主義の価値観は十分に共有していないからである。
 
民主主義の度合いを自由主義、選挙制度、平等、参加、熟議の5つの観点から測定しているV-Demの指標において、ハンガリーはEUで唯一の独裁国家(選挙独裁主義)と認定されている。また、国際NGOフリーダムハウスによる自由度評価の指標においても、ハンガリーは「自由(free)」な国とはみなされておらず、EU唯一、「一部自由(partly free)」とランク分けされている。
 
実際、先に述べたハンガリーの選挙は公正な選挙制度とはなっていない。与党のゲリマンダリング(gerrymandering)により野党を支持する層が多い地域は少数の選挙区にまとめられてしまっている。

メディアについても、2020年に有力な独立系ニュースサイトであった「インデックス」が政府に近い実業家に実質的に買収され、オルバーンや与党を支持するように編集方針が変更されるなど、独立系のメディアへの統制は厳しさを増している。
 
また、政敵への「攻撃」も激しい。(中略)EUやNATOに加盟しているハンガリーであるが、オルバーンが政権に返り咲いた2010年から10年ほどの間に、学問の自由や表現の自由といった様々な自由が次々に脅かされている。

ハンガリー外交の「曖昧性」
ウクライナ戦争のなかで、オルバーン首相率いるハンガリーはどのような対応をしているのか。
 
ハンガリー政府はロシアによるウクライナ侵略に対して反対の意を表明している。また、ウクライナからの難民についても40万人を超える難民を受け入れている(UNHCR[国連難民高等弁務官事務所]の統計によるとポーランド、ルーマニアに次ぐ第3位)。

2015年の難民危機に対しても、2020年からの新型コロナウイルス感染症対策においても、反移民・反難民の姿勢を貫いてきたことを踏まえると特別な対応と言える。

また、先日、ブチャ虐殺を受けてEUが決定したロシア産石炭の輸入禁止措置を含む経済制裁の第5弾には賛成の立場を表明している。
 
一方で、政府系メディアはロシアによる侵略を正面からは否定せず、オルバーン首相とプーチン露大統領の関係についても報じていない。

オルバーン首相は石油と天然ガスについては輸入禁止案に対して反対の姿勢である。このこと自体はドイツやイタリアと変わらないが、ロシア産天然ガスをルーブル建てで支払う用意があると踏み込み、ウクライナから「ウクライナ侵略を支援」していると非難された。

ウクライナへの武器供与や、ハンガリーを経由した他国からウクライナへの武器供与にも「対立にかかわるべきではない」と反対している。
 
ハンガリーの対応は、ロシアを刺激せず、かつEUとの関係も維持したいという曖昧戦略といってよいだろう。
過去にもオルバーン政権のそのような曖昧戦略が垣間見られたことがある。2020年の第一波の新型コロナウイルス感染症対策がその一例である。

欧州医薬品庁(EMA)はファイザー、モデルナ、アストラゼネカワクチンの認可を行ったが、ハンガリーはこれらに加えて独自にロシア製のスプートニクV及び中国製のシノファーム社ワクチンの緊急使用も承認した。

中国と親密な関係を築くことでマスクの調達を行う一方で、日本からは緊急無償資金協力の一環として「アビガン」を受け取った。

親プーチン路線を歩んできたオルバーンだが、何から何までロシア一辺倒というのでもない。2019年にソ連崩壊30周年を記念してジョージ・W・ブッシュ米元大統領の像を建てると発表してロシアの反感を買ったこともある。
 
ハンガリー外交の曖昧性は、EU、ロシア、その他の大国のいずれにも飲み込まれることなく、独立性を維持したいがための便法でもある。

ただ、ここには歴史的に大国の被害者であり続けてきたとの被害者意識が濃密に宿っている。この感情は別にオルバーンの独占物ではなく、それ以前から右派知識人の思想に脈打っている。オルバーンが過去の演説で何度も叫んだ「ハンガリー・ファースト」はまさにこの被害者意識のマグマの噴出でもあるのだ。(後略)【4月15日 Fpresight】
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上記記事は“民主主義陣営が対中国「競争的共存」を進める上で、こうした「異端児」国家も疎外せずに連携を築く度量と包容力が問われてくる”というように、異端児ハンガリーを「包容」すべしとの立場ですが、EUにとっては、これ以上オルバン政権を放置してはEUの価値観が揺らぐとの強硬姿勢が強まっています。

EUの欧州委員会は4月27日、「法の支配」の原則に違反した加盟国へのEU予算配分を停止できる新ルールを、ハンガリーに発動する手続きに着手しました。昨年のルール導入後、発動は初めてとなります。

****「法の支配違反」ハンガリーへのEUの対応****
(中略)あたかもハンガリーの選挙が終わるのを待っていたかの如く、4月5日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、欧州連合(EU)資金に関する「法の支配」のコンディショナリティの仕組み(新型コロナウイルスによるパンデミックからの復興基金の設立に合わせて2020年12月に導入が合意されたもの)をハンガリーに対して近く発動することを表明した。
 
コンディショナリティの仕組みは「加盟国における法の支配の原則の違反がEU予算の健全な財政管理あるいはEUの財政上の利益の保護に十分直接的に影響を与えあるいは与える深刻なリスクがある」場合にEUが適切な措置を取ることを規定している。
 
欧州委員会が以上の要件が満たされる事態を認定した場合には理事会に適切と認める措置を提案し、理事会は特定多数決(加盟国数の55%、人口比で65%以上の賛成)で提案を採択出来る。適切な措置の対象は復興基金を含むEUの全ての資金であり、措置としては資金援助の支払い停止や削減などが列挙されている。

オルバンとの共生はできない
これまでオルバンに対抗する上で有効な手段を持たなかったEUにとって、コンディショナリティの仕組みは強力な武器に違いない。しかし、この仕組みを働かせるのは容易でないように思われる。
 
「法の支配」の原則の違反を理由に財政的な制裁を課すにはEUの予算と復興基金の資金が詐欺、腐敗、あるいは利益相反の故に適正に使われないことを具体的に証明せねばならない。それは骨の折れる作業であるに違いない。手続きに時間もかかる。
 
しかし、当面、手続きが継続中にハンガリーに復興基金からパンデミックからの復興支援のための資金が提供されることにはならない。それは痛手であろう。

また、ウクライナ戦争へのハンガリーの対応は他のEU加盟国とは際立って違っており、仲間を失うリスクを冒している。殊に、ポーランドを失うことになれば、オルバンは孤立感を深めるであろう。
 
オルバンが容易に白旗を上げるとは予想されない。しかし、この機会を逃せば、EUがオルバンに規律を強いる機会は彼の在任期間の今後4年の間ないであろう。新型コロナウイルスと違って、オルバンと共生する訳には行かないように思われる。【4月27日 WEDGE】
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【オルバン首相 ロシア制裁の石油禁輸でRU方針に反対】
ハンガリーに関しては上記のような、そもそもの価値観の問題、統治の在り方の問題に加えて、ウクライナ対応での足並みの乱れが表面化しています。

EUは5月4日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアに対する追加の制裁として、年内に石油の輸入を禁止する方針を明らかにしました。フォンデアライエン委員長は「一部の加盟国はロシアの石油に大きく依存しており容易なことではないが、やらないわけにはいかない。EUはきょう、ロシアからのすべての石油の輸入を禁じることを提案する」と述べています。【5月4日 NHKより】

ハンガリー・オルバン政権はこれに強く反対しています。

****ハンガリー、ロシア原油禁輸案に反対 ウクライナは「共犯」と警告****
ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易相は4日、対ロシア制裁の一環として欧州連合が提案したロシア産原油の禁輸措置について、現在の形では支持できないと表明した。ウクライナは、禁輸措置を妨害するEU加盟国はロシアの「共犯」となると警告した。
 
EUの提案では、原油は半年以内、石油精製品は年末までに輸入が段階的に廃止される。ロシア産の石油に大きく依存しているハンガリーとスロバキアは来年末までの猶予が与えられた。発動には全加盟国の合意が必要となる。
 
シーヤールトー氏はフェイスブックに投稿した動画で、提案された禁輸措置はハンガリーのエネルギー供給を「完全に破壊するもの」だと指摘。パイプライン経由で運ばれる原油が除外されるのであれば、ハンガリーは禁輸を支持すると述べた。
 
ハンガリー政府によると、同国の石油の65%、ガスの85%はロシアから供給されている。近年ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と緊密な関係を築いてきたハンガリーのオルバン・ビクトル政権は、同国のロシア産エネルギーへの依存を理由に、ロシアに対する禁輸措置に反対する立場を長く取ってきた。
 
一方、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は4日、ロシア産原油の禁輸措置を妨害するEU加盟国は「ロシアがウクライナ領土で働いた犯罪の共犯と言えるだけの理由がある」と、ソーシャルメディアに投稿した。 【5月5日 AFP】
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****ハンガリー首相、EUのロシア産石油禁輸案を非難 「一線越えた」****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は6日、欧州連合欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長が発表した、ロシアへの追加制裁としての同国産石油禁輸案について、「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えるものであり、EUの結束に対する「攻撃」だと非難した。(中略)
 
オルバン首相は国営ラジオで、「欧州委員長は、意図的かどうかは別にしても、これまで培われてきた欧州の結束を攻撃した」と指摘。「われわれは当初から、レッドラインがあると明確に伝えていた。それはつまりエネルギー資源の禁輸であり、このレッドラインを越えてしまった」と述べた。
 
さらにオルバン氏は、措置は「ハンガリー経済に落とされた核爆弾」に等しいと形容。「ハンガリーのエネルギー輸送・供給システムを刷新するには5年を要する可能性がある」と述べ、来年末までの猶予では不十分との見方を示した。
 
ハンガリー政府によると、同国が輸入する原油の65%と天然ガスの85%がロシア産だという。 【5月6日 AFP】
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ハンガリーのエネルギー事情を考えると、オルバン首相の言うことはわかりますが、ただ、これまでのオルバン政権による性的マイノリティへの抑圧など、「一線を越えた」と言いたいのはEU諸国の方でしょう。

お互いに相手を「一線を超えた」と考えているなら、この際別れてしまえば・・・と思うのは部外者ですが。

【EU内外で孤立化するオルバン首相】
なお、これまで“異端児”オルバン政権と同様に、その統治のあり方が問題視されてきたポーランドは、ウクライナ問題に関してはウクライナ支援の先頭に位置する形で、ハンガリー・オルバン政権との違いが鮮明になっています。

****ポーランド首相「頭に拳銃突きつけられる脅迫にも対処する」 ロシアが天然ガス供給停止****
ロシアがポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止したことを受け、ポーランドの首相は27日、「国民が影響を感じないように、拳銃を頭に突きつけられる脅迫にも対処する」と強調しました。

ロシアの国営ガス会社「ガスプロム」は、ポーランドとブルガリアがガス代をロシアの自国通貨ルーブルで支払わなかったとして、天然ガスの供給を完全に停止したと発表しました。

これについてポーランドの首相は、「ポーランドへの直接の攻撃だ」と強く非難した上で、「国民が影響を感じないように、拳銃を頭に突きつけられる脅迫にも対処する」と強調しました。

ポーランドは天然ガスの輸入のおよそ5割をロシアに頼っていますが、備蓄は十分で代わりの供給源もあるため、「家庭でガスが不足することはない」としています。(後略)【日テレNEWS24】
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武器供与に関しても、ポーランドは、同国が保有する旧ソ連開発のT72型戦車200両以上をウクライナに供与したと報じられています。このほか、ドローン(無人機)や砲弾なども含め、軍事支援額は16億ドル(約2070億円)規模になるとのこと。【4月30日 毎日より】

ウクライナ対応でポーランドとの連携も崩れ、オルバン政権は孤立しているようにも見えます。

資金的に支援もしていたフランス極右・ルペン氏は大統領選挙で健闘したものの敗退。
オルバン政権同様に、メディアへの圧力などをめぐりEUと摩擦を深めていたほか、トランプ前米大統領を強く支持していたことでも知られるスロベニアのヤンシャ首相率いる中道右派与党「スロベニア民主党」も4月24日の総選挙で敗退しました。


“オルバン氏はEU内では孤立気味だが、プーチン氏や米国のトランプ前大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、イタリアのサルビー二前副首相らから支持を得ていた。しかし、プーチン氏を除いてほとんど第一線から退いてしまった。これにルペン氏とヤンシャ氏の敗北が加わった。”【5月4日 Japan In-depth「欧州ポピュリスト勢力が後退」】

EU指導部としては、この機にオルバン首相に強い圧力をかけたいところでしょう。
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