孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  独自の思考を市民に強制するタリバン 女性には顔を隠す服装命令

2022-05-27 23:18:11 | アフガン・パキスタン
(【2019年9月14日 GNV】 タリバンが推奨するブルカ姿の女性 これでは誰が誰かもわかりません。
なお、この写真はタリバン再支配以前の2019年当時のもので、女性が示す指先のインクは投票済みの印。今後はタリバン支配のもとで選挙も行われなくなり、こういう光景も見ることもなくなるのでしょう)

【日本の憂うべき「マスク依存症」】
落ち着く傾向の新型コロナ感染状況、あるいは、感染被害を一定に抑制できる状況になってきたことを受けて海外では各種規制の撤廃、“普通の生活”への回帰が進んでいますが、日本でも5月20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスク着用について、人との距離が2メートル以上あれば、屋内でも屋外でも、多くの場合はマスクを外せるとする基準を公表しました。

欧米ではマスクで顔を隠すことへの違和感が強く、コロナ禍の間もマスク着用義務をめぐる議論・抗議が多くありましたが、日本人はマスクへの抵抗感があまりなく、むしろ顔を隠せることで安心感が得られ、マスク着用が必要になってもマスクを外せない「マスク依存症」的な傾向があるようです。

****マスクなしの素顔が恥ずかしい? 長引くコロナ、子どもに「依存」広がる懸念 専門家「発育妨げる」弊害訴え****
長期の新型コロナウイルス流行でマスク着用が常態化し、素顔を見せることを恥ずかしがる子どもが増えている。専門家は「コミュニケーションの発達や不登校に影響しかねない」と懸念し、子どものマスク着用の弊害を訴える。

◆オンライン授業なのにマスク着用
3月、東京都内の母親(29)は自宅でオンライン授業を受ける小学4年の娘(10)を見て不思議に思った。自宅ではふだんマスクを外し、以前はオンライン授業も素顔で参加していたが、この時はマスクを着けていた。理由を聞くと「みんな着けているから何となく」。画面の子どもの半数がマスク姿だった。
 
母親は「外でマスクを外していいと伝えた時も娘は恥ずかしがった。以前より素顔をさらすのが不安になっている」と心配する。
 
調査会社「日本インフォメーション」が2月、10~60代の会員約1000人を対象にインターネット調査を実施したところ、「コロナ収束後もマスクを使用するか」との質問に対し、10代は男女ともに約5割が「いつも必ず使用」か「できるだけ使用」と答えた。
 
理由は、10代女性では「かわいい、きれい、かっこよく見える」が最も多く、感染対策と関係がなかった。実際、東京・原宿で尋ねると、女子高校生(17)は「素顔を見せられるクラスメートは5人くらい。今さら外せない」と苦笑した。

◆「マスク依存」はコロナ前からある
「マスク依存の子どもが増えている可能性がある」と警告するのは、赤坂診療所(東京都港区)でマスク依存の患者を診てきた精神科医の渡辺登さんだ。従来のマスク依存について「人前に立つことを極度におそれる『社会不安障害』のある方らが、表情を隠すために着用していた」と説明する。依存に陥ると意思疎通が難しく、孤立して不登校や引きこもりになるリスクが増えるという。
 
広島県の男子大学院生(23)はコロナ禍前にマスク依存を経験した。「高校入学時に花粉症対策で着用したら、表情を隠せる安心感で外せなくなった」と振り返る。「コミュニケーションに困る」と悩んだ末、大学進学を機に自力で脱却した。国民のほとんどがマスク姿の現状には「望まずに依存する人が増えないでほしい」と願う。
 
渡辺さんは「子どもは顔にコンプレックスを抱えている場合も多い。感染対策のはずが、素顔を隠すことに利点を持つと、将来マスクを外せなくなりかねない」と強調。「感染リスクがない時はできるだけ外させた方がいい」と指摘した上で、「着用をやめるタイミングを政府が示してほしい」と求める。【5月10日 東京】
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他人の視線を遮断できて安心感が得られる「匿名性」への依存は、子供や女子学生、若者だけでなく会社でも「プレゼンテーションをする際に、マスクを装着していると視線が気にならずに落ち着く」 「苦手な上司と仕事をする時も、マスク越しであれば気持ちが楽になる」などの理由で広がっているようです。

前出【東京】にもあるように、「マスク依存症」的傾向は新型コロナ以前からあり、特に若い女性に“マスク女子”が目立っていました。

話は飛躍するようですが、欧米社会でイスラム教徒女性の顔を覆う服装が問題になる件を取り上げる際に、「匿名性」に隠れず、個人が面と向き合って接触するのが市民社会におけるコミュニケーションの基礎であり、日本の「マスク女子」の傾向は好ましくない風潮だと思っている旨をこれまでも述べてきました。

新型コロナによって、日本人のこの風潮が拡大し強固になったようで案じられます。

「マスク依存症」は市民社会のコミュニケーションを阻害するだけでなく、こういう他人の評価を恐れる「内向きベクトル」は、これまた話が飛躍しますが、日本の「失われた30年」をもたらしたものにも通じるもので、おそらく今後の「失われた数十年」、「沈下する日本」をもたらすメンタリティーだと思っています。

そんなにマスクが好きなら、イスラム教に改宗してニカブかブルカでも被れば?」と言いたくもなりますが・・・。

【タリバン 女性に顔を隠す服装命令 欧米は批判】
そんな日本の話はさておき、イスラム原理主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンでは、タリバンがその本来の主張を徐々に露わにしつつあります。

****アフガンのタリバン、女性に顔を隠す服装命令 全身覆うブルカが「最善」****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。従わなければ父親などの近親男性が投獄されたり、男性が公務員であれば解職されたりする場合があるとしている。

同省は、最も良いのは全身を覆う青い「ブルカ」だとした。アフガンの女性の大半は髪を隠すスカーフをつけているが、首都カブールなどの都市部では顔は隠していない女性が多い。

公共の場でのブルカの着用はタリバンが1996年から2001年まで政権を掌握した際に女性に強制された。

発表を受けて国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は同日、「タリバンが表明してきた女性の人権の尊重と保護と矛盾していることを深く懸念している」との声明を出し、タリバンに即刻協議を求めるほか、他の国際組織と相談するとした。

米国などは既にアフガン開発援助を打ち切り、同国の銀行システムに制裁を科している。【5月9日 ロイター】
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日本の女性(一部男性も)なんかは、こうしたタリバン命令を大歓迎するのでしょうが、欧米基準では女性の人権の尊重に反するものとみなされます。

****米、タリバンが方針転換しなければ圧力拡大 女性の権利巡り****
米国務省のプライス報道官は9日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が最近決定した女性の権利を制限する方針を転換しなければ、圧力を強める用意があると表明した。

ブリーフィングで「われわれには複数の手段があり、方針が転換されないと感じれば、講じる用意がある」と述べた。具体的な措置の詳細や、タリバンがどのように方針を転換する可能性があるのかには言及しなかった。(中略)

タリバンは女性の就労や女子の通学なども制限している。【5月10日 ロイター】
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****タリバンの女性の権利制限でアフガン孤立化、G7外相が人権尊重訴え**** 
主要7カ国(G7)の外相は12日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性や少女の権利の制限がアフガンを国際社会から孤立化させているという見解を示した。

G7外相と欧州連合(EU)の外交政策トップは、フランスが公表した共同声明で、女性と少女に対する制限を解除し、人権尊重に向けた緊急行動を取るようタリバンに要請した。

タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表。従わなければ父親などの近親男性が投獄される場合があるとした。【5月13日 ロイター】
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【TV女性司会者に対しても同様指示】
一部女性は街で抗議の声をあげています。(タリバン支配の状況でのこの種の抗議は多大な危険を伴います)

****全身覆う衣装着用に抗議=アフガン女性「正義を」と訴え****
アフガニスタンの首都カブールで10日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が女性に公共の場で全身を覆う衣装の着用を義務付けたことに対し、十数人の女性が抗議活動を行った。多くが顔を隠さずに、「正義を」とシュプレヒコールを上げた。
 
タリバンは全身を覆うブルカの着用が最適としているが、女性らは「ブルカは私たちのヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)ではない」と叫んだ。

女性の一人は「私たちは家の片隅に閉じ込められた動物としてではなく、人間として生きたい」と訴えた。タリバンは外に重要な仕事のない女性に「家にいるよう」命じている。【5月10日 時事】 
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ブルカの問題は単に服装の問題ではなく、女性の就労・教育を否定して「家にいるよう」命じるようなタリバンの歪んだ女性観を示すものでもあります。

更にタリバンは、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めています。

****アフガンのタリバン、女性TV司会者に顔を覆う服装指示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めた。勧善懲悪省の報道官が19日明らかにした。

同省は今月、女性が公共の場で目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。

報道官は、メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れたとロイターに述べ、国民もこの措置を歓迎するとの見方を示した。今月21日までに順守する必要があるとも述べた。

従わなかった場合の措置は明らかにしなかった。【5月20日 ロイター】
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“メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れた”とのことですが、この指示に抵抗する女性司会者も。

****女性司会者、顔覆う命令を拒否 タリバンに「抵抗続ける」*****
アフガニスタンのテレビ局「カブール・ニュース」の報道番組の女性司会者が出演中に目の部分以外の顔を布で覆うよう命じたイスラム主義組織タリバン暫定政権に抵抗し、覆わずにニュースを伝え続けている。タリバン独自のイスラム法解釈で女性抑圧を強めていると批判、「カメラの前で闘い続ける」と語る。
 
この司会者はロマ・アディルさん(26)。暫定政権は7日、女性は公共の場で顔を覆うよう命令した。19日には各テレビ局へ女性司会者に従わせるよう指導したが、アディルさんは取材に「イスラムの教えやアフガンの慣習ではなく、従う理由がない」と指摘した。【5月24日 共同】
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アディルさんは放送中も髪を覆うスカーフは使用しています。

私が観光した国の経験で言えば、同じイスラム教の国であるインドネシアやマレーシアでは、あるいはイランでも、髪を覆うスカーフは一般的ですが、それ以上のニカブ(目だけを出すもの)を見かけるのはまれで、ブルカ(目の部分が網目になっており、顔全体を隠すもの)を見かけることはありません。ブルカはアフガニスタン特有の服装です。

ただ、現実問題としては、こうした抵抗を続けるのは困難でしょう。その後多くの女性司会者はヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演しているようです。

そうしたなか、タリバン指示に抗議する男性司会者もいるようです。

****女性キャスターの顔覆うよう命じたタリバンに抗議、男性司会者がマスク着用****
アフガニスタンの報道専門チャンネル「トロニュース」の総合司会者、ニサール・ナビル氏は、放送が始まる直前に黒いマスクを着用する。イスラム主義組織タリバンの暫定政権が、女性キャスターにテレビ出演の際は顔を覆うよう命じたことへの抗議だ。

「私たちは女性の同僚を支持している。生放送のニュースや政治番組では、抗議としてマスクをしている」とナビル氏は、首都カブールにあるスタジオでAFPに語った。
 
タリバンは昨年8月の実権掌握以来、さまざまな女性の権利を制限してきた。最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月、女性に公共の場では顔まで完全に覆うよう義務付け、ブルカの着用が望ましいとした。
勧善懲悪省は、女性キャスターも21日以降は番組出演の際に顔を隠すよう命じた。
 
女性キャスターらは当初この命令に反発したが、22日からはトロニュースのほか、1TV、シャムシャドテレビ、アリアナ・テレビなど各局で、ヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演している。
 
一方、男性キャスターは命令への抗議運動を開始。黒いマスクを着用してニュース番組に出演するようになった。女性キャスターと共演することもある。
「タリバンは、こうした制限を課すことで報道機関に圧力をかけようとしている。メディアを意のままに操りたいのだ」とナビル氏は指摘する。
 
主要民放局である1TVの編集責任者、イドリース・ファロキ氏は、女性キャスターが顔を覆ったまま3時間も4時間も収録を行うのは難しいとして、「われわれはタリバンが決定を見直し、制限を撤回することを望んでいる」と述べた。
 
だが、タリバンのイナムラ・サマンガニ副報道官は今週、ツイッターへの投稿で、「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」と主張した。
 
1TVのキャスター、モヒブ・ユースフィ氏は、当局が男性キャスターの服装にも規制をかけるのは時間の問題だとし、「多くの男性キャスターが心配している。私もだ」と述べた。 【5月26日 AFP】
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「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」とのことですが、タリバンのブルカへのこだわりが単なる服装の問題ではないことは前述のとおりです。

【次第に広がるタリバン的施策】
そうしたタリバンの思考を表す動きも広がっています。

****タリバン、男女一緒の外食・公園利用禁止 西部ヘラート****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは西部ヘラートで、男女が一緒に外食したり公園を訪れたりすることを禁止した。当局者が12日、明らかにした。
 
アフガンは極めて保守的で家父長制の根強い国だが、男女が一緒に外食をする光景はよく見られる。特にヘラートは長年、比較的リベラルな都市と考えられていた。
 
だがタリバンは昨年8月の復権以来、イスラム教の厳格な解釈に従って、男女を隔離する規制を強めている。
 
ヘラート勧善懲悪省のリアズーラ・シーラット氏は「飲食店で男女を分けるよう指示している」と語った。この規則は「たとえ夫婦でも」適用される旨を店主らに口頭で伝えているという。
 
匿名でAFPの取材に応じたある女性は、11日にヘラートの飲食店で店長から夫と別々に座るよう告げられたと語った。
 
飲食店経営のサフィウラ氏(アフガンに多い1語のみの名前)は「命令には従わなければならないが、商売には非常にマイナスだ」と言い、男女同席の禁止が続けば従業員を解雇せざるを得なくなると付け加えた。
 
シーラット氏は、ヘラートでは公園の利用についても、曜日ごとに男女別に分ける法令を定めたと明らかにした。女性は木曜、金曜、土曜で、残りが男性だという。
 
指定の曜日以外に運動をしたい女性は「安全な場所を見つけるか、自宅で行うべき」だと語った。 【5月14日 AFP】
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****タリバン、人権委を廃止 「必要ない」、懸念深まる****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、昨年8月に崩壊した民主政権下で女性や子どもの権利擁護を監視していた独立人権委員会を廃止した。ロイター通信が17日までに伝えた。暫定政権は女性の権利抑圧を強めており、国際社会の懸念を一層深めそうだ。
 
暫定政権のサマンガニ副報道官は「必要性がないとみなされ、予算も計上されなかったため廃止した」と説明。必要とされれば再開するとした。
 
民主政権下の2020年に設立され、タリバンとの直接交渉に当たった国家和解高等評議会や、憲法の履行状況を監督する委員会も同様の理由で廃止された。【5月17日 共同】
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【危機的食料事情】
アフガニスタンは世界でも最悪レベルの食料事情で、本来は大規模な国際支援が必要ですが、タリバンの人権侵害を強める姿勢が障害となって国際支援も滞りがちです。

****アフガン、食料危機続く WFP「かつてない飢餓」****
世界食糧計画(WFP)などは10日までに、イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立したアフガニスタンで6月から11月にかけ、人口の45%に当たる1890万人が深刻な食料危機に陥るとの予測を発表した。

小麦の収穫期を迎え3〜5月の1970万人と比べ若干改善するが、「かつてない水準の飢餓が継続する」とみている。
 
アフガンでは5〜8月に小麦の収穫期を迎え、人道支援の拡大も状況改善に寄与した。ただ、降水量の少なさから収穫量は平年を下回る見込み。ロシアによるウクライナ侵攻で国際的な食料や燃料価格も高騰。状況改善の妨げとなった。【5月10日 共同】
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