孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  ロシア産石油禁輸のため代替調達先を模索するも、サウジ、ベネズエラ、イランと“厄介な国”

2022-05-18 23:09:35 | 資源・エネルギー
(【3月9日 日経】)

【欧州で難航するロシア産石油の禁輸】
ウクライナ情勢は穀物輸出国ウクライナ・ロシアからの供給がストップすることで世界の食料事情に影響する一方で、制裁措置としてのロシア産石油禁輸をめぐって世界の石油事情にも大きく影響します。

欧州でも、ロシア産石油に大きく依存するハンガリーが禁輸に反対しており、なかなか足並みが揃わない現実があります。

****EU、ハンガリー支援を協議 ロシア産原油禁輸で翻意促す=関係筋****
欧州連合(EU)はロシア産原油の禁輸方針に反対するハンガリーに翻意を促すため、同国への金融支援について協議しているが、製油所向けの支援を巡り意見の隔たりがあることが関係筋の話で17日に分かった。

ハンガリーのシーヤールトー外相は16日、同国がロシア産エネルギーへの依存から脱却するには最大180億ユーロの資金が必要だと発言。

ただ、ハンガリー政府はEUとの協議で、短期的にはこれよりもはるかに小さい額で懸案事項に十分対応できるとの考えを示したという。

具体的には、同国とクロアチアを結ぶ石油パイプラインを延伸し、ロシア産原油を処理する製油所を異なる油種に適応させるために約7億5000万ユーロ(7億9040万ドル)の資金を要求したことが、外相や関係筋の話で分かった。

このうち、ハンガリーのエネルギー大手MOLが同国およびスロバキアで運営する、ロシア産原油のみを処理する2つの製油所を更新するのに最大5億5000万ユーロ(5億7960万ドル)が必要になるという。

当局者によると、EUはパイプラインの延伸に支持を重ねて示しているが、民間の製油所の原料転換を全面的に支援することは競争ルールに抵触する可能性があるため消極的だ。実際にどれだけの資金が供与可能かについて話し合いが続いているとした。【5月18日 ロイター】
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こうした状況をロシア・プーチン大統領は「禁輸は経済的自殺行為」と揶揄しています。

****プーチン氏、石油禁輸は「経済的自殺」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、同国のウクライナ侵攻を受けて欧州がロシア産石油の禁輸を検討していることについて、「経済的な自殺」行為だとの見方を示した。
 
プーチン氏はエネルギー関連の会合で、ロシア産エネルギーの調達を段階的に減らしたとしても、欧州自身が打撃を被るだけだと主張。西側諸国の動きは「生煮え」だとし、政府当局者らに対し、有利な展開につなげるよう促した。
 
プーチン氏は具体的に、制裁を発動すれば欧州はエネルギー価格の高騰とインフレ高進に直面するだろうとし、「当然ながらそうした経済的自殺行為は欧州諸国では国内問題として跳ね返ってくる」と指摘。一方で、欧州の「支離滅裂な行動」のおかげで、ロシアの石油・ガス収入は増大することになると述べた。
 
その上で「石油市場の変化は地殻変動のようなものだ。従来通りのビジネスが続いていく見込みはない」と強調した。 【5月18日 AFP】
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【バイデン政権 石油増産のためにはサウジアラビアとの関係改善が重要】
アメリカとしても、対ロシア制裁で西側の足並みをそろえていくためにも、また、アメリカ国内のガソリン価格高騰(バイデン政権にとって、選挙対策としてはウクライナ問題より直接的に票に影響します)を抑制するためにも、ロシアに変わる石油調達先を探し、石油価格・供給を安定させる必要があります。

そうなると、一番に頼るのはやはり中東、その中でも最大の石油産出国のサウジアラビアですが、“同盟国”とは言いつつも、アメリカとサウジアラビアの関係はサウジアラビア皇太子が関与したと思われるカショギ氏暗殺事件以来、もっと言えば、9.11にサウジアラビア出身者が多数関与していたことなどもあって、あまり良好とは言えません。

サウジアラビアも“現在はOPECプラスで協力関係を構築してきたロシアと、今や最大の石油輸出先である中国へとパートナーを変えつつあると言って良いと思います。”【5月18日 MAG2NEWS】とも。

まあ、そこまでアメリカとの距離が開いているとも思いませんが、関係がギクシャクしているのは事実で、バイデン政権としては石油増産のためにサウジアラビアとの関係改善が課題となります。

****ロシア制裁に必要な米国とサウジの関係修復****
米国とサウジアラビアおよびUAEとの関係は現在ぎくしゃくしている。これは極めて望ましくない。米国のブリンケン国務長官が未だ両国を訪問していない(あるいは相手国が訪問を歓迎しようとしない)のは正常ではない。ブリンケンは3月末に中東を訪問したが、湾岸諸国は抜け落ちていた。

ロシアに対抗する西側の結束は、原油価格の高騰により直ちに砕けるほど脆弱であるとは思われない。しかし、欧州連合(EU)がロシア原油の禁輸に動き出した事情もあるので、サウジアラビアに増産させる努力は重要である。
 
バイデンは、トランプがサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)を甘やかし過ぎたと感じていたに違いない。バイデンは大統領選挙戦で、反体制派のカショギ記者殺害事件に関して、サウジアラビアを「パーリア(のけ者)」と呼んだことがある。
 バイデン政権発足の初期(2021年3月)には、「カショギ・バン(Khashoggi Ban)」と称する新政策を発動し、海外の反体制派抑圧に従事したとして76人のサウジ人に入国制限の制裁を課した。

酷い人権侵害が起きているイエメンの戦争を止めさせるべくサウジアラビアの空爆に対する米国の軍事援助を停止した。加えて、バイデンは国王と最初の電話会談を行い、自身のカウンターパートは国王であることを明確にした。
 
こうしたバイデンの言動がMBSの不興を買い、関係がこじれる端緒となったようである。一部報道によれば(真偽のほどは不明)、バイデンは原油の増産をMBSに電話で要請することとしたが、MBSはバイデンのカウンターパートは国王のはずだとして電話を断ったとされている――バイデンの電話を受けた国王は振り付け通りに増産を断った。

米国は積極的な行動を示すしかない
こういう関係は不健全であり、修復する必要がある。しかし、関係修復のための妙手がある訳ではない。

バイデンは人権を重視する立場から、サウジアラビアとの関係の基調を変えようと決心した様子であるから、軌道を修正するのは難しい。結局のところ、サウジアラビアとUAEの安全保障は米国の重大な関心事であることを、積極的な行動で示すしかないように思われる。
 
イエメンのホーシー派によるミサイル・ドローン攻撃には、サウジアラビアにはパトリオット防空システムを追加配備し、またUAEにはF-22/F-35戦闘機を展開するなど、米国が何もしていない訳ではないが、両国は未だ納得していない。こういう情勢では両国の更なる不興を買うイラン核合意の復活には米国として踏み切りにくいのかも知れない。
 
なお、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報ずるところによれば、バーンズ米中央情報局(CIA)長官が4月中旬に隠密裏にサウジアラビアを訪問し、ジェッダでMBSと会談した。その内容は明らかでないが、良好な会談だったとされている。【5月17日 WEDGE】
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アメリカからのアプローチがあったのかどうかは知りませんが、サウジアラビアは一応増産の方向を明らかにしています。

****サウジ、石油生産能力を日量1300万バレル強に拡大へ 27年までに****
5月16日、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、2026年末または27年初頭までに石油生産能力を日量100万バレル以上引き上げ、日量1300万バレル強にする予定だとした上で、市場の需要が必要とするなら、その水準で維持する可能性があると述べた。(後略)【5月17日 ロイター】
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【制裁対象国ベネズエラ・マドゥロ政権にも石油輸入再開をにらんでアプローチ】
中東以外で供給増が可能な国が、強権支配で制裁対象になっているベネズエラ。後述イランを含めて、石油というのはどうも人権・民主主義の観点からは問題の多い国で産出されるようで、アメリカとしても悩ましいところです。
バイデン政権はベネズエラ・マドゥロ政権とも交渉しているようです。

****米はベネズエラ原油輸入探る ロシア産代替****
ロシア産原油を禁輸したバイデン米政権が、代替調達先として南米の産油国ベネズエラからの輸入再開を模索している。反米左派マドゥロ政権に科してきた制裁を緩和することになるため国内外から批判が高まるが、石油業界は「決定」を見越して前のめりだ。

バイデン政権高官が今月5日、突然ベネズエラを訪問し、同国のマドゥロ大統領と会談した。目的はベネズエラ産原油の輸入再開を協議するためだったとされ、ホワイトハウスのサキ報道官は「訪問目的はエネルギー安全保障を含むさまざまな問題を協議することだった」と大筋で認めた。

独裁を強めたマドゥロ氏を退陣に追い込むため、米政府はトランプ政権時代の2019年に「国営ベネズエラ石油」(PDVSA)に制裁を発動。ベネズエラの主要な外貨獲得手段である原油の輸入を制限した。

米政府の〝方針転換〟にマドゥロ氏は7日、協議が「敬意にあふれて友好的、非常に外交的だった」と評価。8日には、ベネズエラ当局に拘束されていたPDVSAの米国子会社元幹部ら米国民2人が釈放され、ベネズエラ政府の協議進展への期待をうかがわせた。

一方で、バイデン政権には批判が相次いだ。米議会上院のメネンデス外交委員長(民主党)は声明で「(ベネズエラの)政権支配層が原油の利益で私腹を肥やす行為に強く反対する」と非難。野党・共和党のルビオ上院議員は「取るに足りない量の原油と引き換えに、ホワイトハウスはベネズエラで自由を求める人々を見捨てる提案をした」とツイッターに書き込んだ。

米政府がベネズエラの暫定大統領として認定するグアイド氏も「制裁解除は、ベネズエラにおける民主主義と自由への移行に向けた進展を条件としなければならない」と不快感を示す。

批判を受けてバイデン政権は軌道修正に入り、サキ氏は「現時点では積極的に対話していない」とトーンダウン。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、ベネズエラ当局が拘束を続けている他の米国人に言及し、制裁緩和は「マドゥロ氏による具体的な措置」次第だとした。

政権の躊躇(ちゅうちょ)をよそに石油業界は動き出した。ロイター通信によると、米石油大手シェブロンは禁輸緩和に向け現地合弁企業での準備をスタート。4月にも自社製油所にベネズエラ産原油を出荷する目算だという。
ただ、低迷するベネズエラの原油生産の急速な回復は見込めない。国民の国外脱出が相次いだことで技術者が不足し、制裁の影響で設備の老朽化に整備が追いついていないからだ。

米メディアなどによると、ベネズエラの原油生産量は1990年代には日量約320万バレルだったが、今年2月は日量約75万5千バレルにとどまる。米政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員、ライアン・バーグ氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)に対し、「PDVSAが簡単に(原油の)栓を開けられると思うのはひどい間違いだ」と指摘している。【3月27日 産経】
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その後もアメリカ・バイデン政権のアプローチは続いていたようです。

****ベネズエラ大統領、野党と対話再開へ 米の制裁緩和受け=関係筋****
ベネズエラのマドゥロ大統領が、米国が支持する野党側との協議再開を発表する見通しであることが分かった。米政府が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いたことが背景にある。米政府当局者やその他の関係者が明らかにした。

バイデン米政権は、ベネズエラで操業を続ける唯一の米石油会社シェブロンがマドゥロ政権と協議を再開することを一時的に認めた。ただ、同社に対する限定的な操業許可の更新の是非はまだ最終判断していない。

当局者の1人によると、米政府はさらに、国営ベネズエラ石油(PDVSA)の元幹部でシリア・フロレス大統領夫人のおいであるエリック・マルピカ氏を制裁対象リストから外す構え。

米政府は3月にここ数年で最も高位の代表団をベネズエラの首都カラカスに派遣し、マドゥロ大統領らと会談したばかり。ベネズエラ側は拘束していた米国人2人を釈放した。その後、米政府はベネズエラの野党陣営と協議した上で一連の措置を決めたという。

マドゥロ氏は昨年10月に停止したメキシコでの野党側との対話の再開にも前向きな姿勢を示した。両陣営は早ければ17日にも協議日程を設定するとみられる。野党指導者のグアイド氏を暫定大統領として承認した米国は、対ベネズエラ制裁を大幅に解除する可能性について、両陣営による交渉の進展次第との立場を示している。【5月18日 ロイター】
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こうした動きを受けて、原油市場も反応しています。

****原油先物2%安、ベネズエラ産原油供給の観測で****
17日の取引で、原油先物が約2%下落。一時7週間ぶりの高値を付ける場面もあったものの、米国が対ベネズエラ制裁を一部解除する可能性があるというニュースが材料視され、下げに転じた。

米国は経済制裁の一環として、ベネズエラ産原油の輸入を禁止している。ロイターは関係筋の情報として、バイデン米政権が早ければ17日にも、石油大手シェブロンによるベネズエラ政府との協議を認可する見通しと報じた。(後略)【5月18日 ロイター】
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【停滞するイラン核合意再建協議も石油供給の観点が促進材料に】
中東以外でロシア産石油の代替調達先となりうるのが、核合意再建で協議が停滞しているイラン。こちらもベネズエラ・マドゥロ政権同様、アメリカにとっては関係が難しい国です。

核合意再建協議が停滞していることは一昨日ブログ“イラン 核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大”で取り上げたばかりですが(gooブログでは、某メディア記事引用が知的財産権侵害に当たるとして公開が中止されています)、さはさりながら・・・といったところのようです。

****米バイデン政権、「イラン核合意」復活へ動き出す=ウクライナ危機で―イスラエル説得へ****
米バイデン政権は欧州の主要国と協力して、トランプ政権が破棄したイラン核合意の復活を目指してきた。しかしその最終段階で、イラン側が、イラン革命防衛隊(IRGC)の「テロ組織指定」を米国が取り消さない限り、核合意の復活に同意しないと主張したため、交渉が中断しているが、ロシアのウクラナイ侵攻が様相を一変させた。

ウクライナに侵攻したロシアへの石油依存からの脱却を目指している西側諸国にとって石油市場へのイランの石油供給は極めて重要である。

中東外交に詳しい専門家によると、この問題の解決に向けた動きが活発化してきた。欧州連合(EU)側の交渉責任者が最近イランの責任者と2日間協議した。EUの外相に相当するボレル氏は「イランとの会談は予想以上にうまくいっている」と指摘している。

さらに、カタールのタミーム首長がイランに行き最高指導者ハメネイ氏とライシ大統領と面談している。

同首長は中東地域の緊張緩和との観点から、米国、イランの和解と核合意の復活を待望しており、来週、ドイツ、英国その他を訪問する際もその線で熱心に動くことが期待される。

実際にはバイデン大統領が「テロ組織指定」を破棄するか修正しない限り、イランは譲歩しないとみられる。これについては米国内で上院の共和、民主両党から強い反対が予想されるため、容易ではない。

しかしイランの核開発に歯止めをかける協定の実現のためにはバイデン政権が一歩踏み込む必要があるが、その可能性も浮上している。

また、イラン核合意の復活に反対するイスラエルについては、6月後半に予定されているバイデン大統領のイスラエル訪問の際に、同大統領がが説得することになる、という。

イラン核合意の再建交渉について、欧州ではイラン革命防衛隊をめぐる対立により「こう着状態に陥っている」と見る向きが多いが、ウクライナ危機が促進材料となっている。【5月18日 レコードチャイナ】
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サウジアラビアにしても、ベネズエラ、イランにしても、アメリカ国内的には関係改善が素直に喜べない国ばかりですが、石油増産・供給増のためには背に腹は・・・といったところでしょう。
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