孤帆の遠影碧空に尽き

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エジプト  “my favorite dictator”に対する「恐怖と沈黙の壁」を破る異例の抗議デモ

2019-09-23 22:50:15 | 北アフリカ

(エジプトのシシ大統領の退陣を求めるデモ参加者=カイロで21日、ロイター【9月23日 毎日】)

 

【「安定」の対価としての「強権支配」】

エジプトでは2011年、チュニジアのジャスミン革命に触発される形で当時のムバラク大統領に対する抗議活動がタフリール広場などで広がり、ムバラク政権が崩壊するという「アラブの春」が展開されました。

 

しかし、このムバラク政権崩壊、その後のムスリム同胞団ムルシ大統領と反対派の確執など、政治・社会・経済の混乱に対する国民不満を背景に2013年にシシ氏が軍事クーデターで実権を掌握し、その後選挙で大統領に選出され現在に至っています。

 

シシ大統領の統治については、ジャーナリズムの制約、徹底したムスリム同胞団弾圧など、強権支配と言えますが、2018年の大統領選ではシシ氏が97%の得票で再選されたように、国民は「混乱を伴う自由」より「強権支配による安定」を選択したとも言えます。

 

そのシシ大統領は今年4月には憲法改正で2030年までの任期延長を可能としています。

 

****強権で「盟主」目指すエジプト シシ大統領2030年まで任期延長****

(中略)「エジプトは再びアラブのリーダー国家を目指している。シシ氏はそのために権力を自身に集中させ、改革を一気に進めたいと考えている」。中東政治に詳しいヨルダン大学戦略研究所のムーサ・シュテイウィー所長はそう分析する。

 

エジプトは20世紀の中東戦争でイスラエルと何度も戦火を交え、「アラブの盟主」として君臨した。だが資源大国サウジアラビアの影響力拡大、非アラブのトルコやイランの台頭もあり、近年は中東での存在感が相対的に低下。

 

11年の中東民主化要求運動「アラブの春」では約30年続いたムバラク政権が崩壊し、その後モルシ政権もクーデターで倒され、混乱が続いた。

 

14年に発足したシシ政権は「治安維持」を理由に反政府活動家らを次々に拘束し、強権で国民の不満を抑えてきた。東部シナイ半島や砂漠地帯ではイスラム過激派によるテロも起きるが、シシ政権は過激派掃討作戦を強化。

 

11〜12年に1〜2%台だった経済成長率は15年以降、4%台に回復した。シシ氏は首都機能移転などの大型事業も進め、ある国会議員は「強権で息苦しいが、経済改革には手腕を発揮している」と話す。

 

近隣国では今月に入り、強権的な指導者が国民の抗議デモを受けて相次いで失脚し、「アラブの春第2幕」などと評されている。アルジェリアでは20年間政権を維持したブーテフリカ大統領が辞任。スーダンでも30年にわたる圧政を続けたバシル大統領が軍に解任された。

 

こうした中、今回の改憲案ではエジプト軍の義務について「憲法と民主主義の擁護」との項目が加えられ、軍による政治介入強化の懸念も浮上。近隣国の動きの「飛び火」を防ぐため、国民への締め付けが強まる可能性もある。

 

改憲案では、司法当局者の任命権限も大統領に大幅に付与されるため、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「軍が強化され、司法の独立も脅かされている」と警告した。(後略)【4月19日 毎日】

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経済面で見ると、上記記事にもあるように政治的安定を背景に、経済も回復基調にあるようです。

ただ、一方で強権支配による“閉塞感”があるのも否めません。

 

****エジプトに広がる異論許さぬ閉塞感 抵抗の火種まく****

シーシー氏が大統領に就任した2014年以降、エジプトでは反体制派やメディアの弾圧が強化されてきた。

 

今回の憲法改正で同氏の出身母体である軍の政治介入が進み、司法にも大統領の意向が強く反映される公算が大きい。「シーシー時代」の長期化で、異論を許さない閉塞(へいそく)感が拡大するのは確実な情勢だ。

 

「2期8年(の任期)を守る」。シーシー氏は17年、米メディアのインタビューでこう確約していた。国民投票で示された「民意」に従うとの立場を示すとみられるが、正当性をめぐる疑問は少なくない。

 

国会は16日、531対22の圧倒的多数で改憲案を可決し、その4日後には投票が始まった。内容を理解せず賛成票を投じた人もおり、ネット上には投票後に食べ物などが配られたとする写真も出た。

 

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどによると、政権は2、3月、160人以上の反体制派を拘束または訴追。改憲反対を呼びかけたネットのサイトは開設の数時間後、アクセス不能になった。

 

有力メディアはほぼ国家の統制下にあるとされ、野党議員のタンタウィ氏(39)は「人権状況はムバラク政権時代(1981〜2011年)より劣悪だ」と話す。

 

シーシー氏は歴史的に政権と緊張関係にあるイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」や、スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の制圧を進め、世俗派の支持を得てきた。

 

ただ、「治安に対する脅威」という大義名分は反体制派の摘発にも使われているとの見方がある。首都カイロのある大学教授は「政権は同胞団の脅威を誇張しすぎだ。政権浮揚に利用しているようにみえる」と話した。

 

軍は幅広く経済分野に進出し、カイロ郊外で建設が進む首都機能移転やスエズ運河拡張など、国の威信をかけた巨大プロジェクトを手がける。改憲を機に軍の肥大化がさらに顕著になり、民間の成長や競争を妨げることになりそうだ。

 

政治的な締め付けや経済低迷が長引けば、「アラブの春」でムバラク政権が崩壊したように、いずれ民衆の大規模な抗議デモとなって政権を揺るがしかねない危うさをはらんでいる。(カイロ 佐藤貴生)

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ちなみに、最近トランプ大領の「my favorite dictator」(私のお気に入りの独裁者)という発言が話題にもなりました。

 

****トランプ氏発言物議、エジプト大統領は「好きな独裁者」****

トランプ米大統領が先月、エジプトのシシ大統領との首脳会談を待つ間に「私のお気に入りの独裁者はどこだ?」と冗談交じりに発言していたことが、現場に居合わせた複数の関係者の話で分かった。

 

首脳会談は、仏ビアリッツ主要7カ国(G7)首脳会議に合わせ、高級ホテルの一室で行われた。トランプ氏の発言を聞いた米、エジプトの当局者らは、トランプ氏は冗談のつもりだと考えていたものの、その場の空気は一瞬凍り付いたという。

 

その場にシシ氏が居合わせたか、または発言を聞いたかは不明。

ホワイトハウスはコメントを控えた。エジプト当局者のコメントは得られていない。

 

発言が軽い冗談であったとしても、両国関係を巡り、居心地の悪い側面に注目が集まりそうだ。

 

国連の報告書や国務省などによると、シシ氏は2013年のクーデター後に権力の座について以降、数千人の政敵を拘束したり、拘束者を拷問・殺害したりしている疑いが持たれている。

 

米政府はエジプト政府の人権侵害疑惑について公の場で非難していない。エジプトは過激派との戦いだとして、その立場を擁護する姿勢を示している。

 

トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、中国の習近平国家主席など、独裁者として知られる世界の指導者との個人的な関係を誇示している。(後略)【9月14日 WSJ】

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「my favorite dictator」・・・・たとえ建前にせよ、なんにせよ、アメリカが自由主義の守護者の立場にあった数年前は考えられない発言ですが、トランプ大統領の本音・姿勢、時代の変化がよくわかるジョークです。

 

【「恐怖と沈黙の壁」を破る異例の抗議デモ】

その「dictator」が力で封じ込めようとしてきたテロの方は、相変わらず頻発しています。

 

****カイロで車爆発、20人死亡 エジプト大統領「テロ」と非難****

エジプトの首都カイロ中心部で4日深夜、爆発物を載せた自動車が猛スピードで他の自動車に衝突し、大規模な爆発が起きて20人が死亡した。エジプト当局が5日、明らかにした。同国のアブデルファタハ・シシ大統領は「テロ事件」と非難した。(中略)

 

内務省と警察はいずれも、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」の関連武装組織「ハスム」による犯行が疑われるとしている。 【8月6日 AFP】

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一方、「dictator」に対する不満の方は、これまで強権支配で封じ込まれていましたが、ここにきて抗議行動が表面化する異例の事態ともなっています。

 

****エジプト、カイロなどで異例のデモ 若者たちが「シシは去れ」と気勢****

エジプトの首都カイロなど複数の都市で20〜21日、シシ大統領の退陣を求める抗議デモがあった。

 

参加者は数百人と小規模だったが、街頭でのデモが事実上禁じられているエジプトでは異例。AFP通信などによると、治安当局は70人超を拘束したという。

 

2011年の中東民主化要求運動「アラブの春」の中心地となったカイロのタハリール広場では、若者たちが「シシは去れ」などと気勢を上げた。アレクサンドリア、スエズなどの主要都市でもデモがあったという。

 

デモを呼びかけたのは、スペイン在住のエジプト人実業家。シシ氏について「公費で豪華な大統領宮殿を建てている」などと告発する映像をSNSで最近発信していた。

 

一方、シシ氏は「中傷だ。私は国民に誠実だ」と反論。デモは、シシ氏が国連総会出席のため渡米中のタイミングで起きた。

 

エジプト情報省は毎日新聞を含む外国メディア向けに声明を出し、デモには直接言及せずに「ソーシャルメディアは捏造(ねつぞう)が多く、信用すべきでない」などと主張した。

 

エジプトでは約30年続いたムバラク政権が11年に崩壊し、12年の大統領選でイスラム組織「ムスリム同胞団」主体のモルシ政権が発足。だが13年に当時国防相だったシシ氏がクーデターで実権を握り、14年の大統領選で初当選した。

 

イスラム過激派の掃討作戦を強化し、治安改善を進めるシシ政権には一定の評価がある一方、同胞団関係者やジャーナリストを次々に拘束する強権姿勢を懸念する声も根強い。今年4月には憲法が改正され、シシ氏が最長で2030年まで大統領にとどまることが可能となった。【9月23日 AFP】

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“北東部の港湾都市スエズでは、大勢のデモ隊と治安部隊が衝突。デモ参加者らによると治安部隊はデモ隊に向けて催涙弾や実弾を使用した。”【9月22日 AFP】と治安部隊による「実弾使用」の報道も。

 

al jazeera net は、今回の抗議が2011年の抗議活動を想起させるとしつつ、“消息筋は、今回の抗議が2011年の様な規模と熱意は見せていなくとも、政権が強制してきた「恐怖と沈黙の壁」を破り、エジプト人が街頭に出たことが重要である。”とも報じているとか【9月21日 「中東の窓」より】

 

もっとも、ムスリム同胞団に一定に共鳴するカタールのal jazeera(アルジャジーラ)ですから、ムスリム同普段を弾圧するエジプト・シシ政権に対しては批判的になることも念頭に置く必要があります。

 

今回の異例の抗議行動が広がるのどうかは、もう少し様子を見る必要がありそうです。

この時期、シシ大統領は国連総会で演説するためニューヨークを訪問中で、エジプトにはいません。

 

なお、今年6月に拘束されていたムルシ元大統領が死亡したことで、ムスリム同胞団側の反発も懸念されていました。

 

****ムルシ元大統領は「獄死」と反発 エジプト情勢不安定に****

中東に広がった民主化運動アラブの春」を受けて、2012年にエジプト初の文民大統領に就任したものの、軍に拘束されて失脚したムハンマド・ムルシ元大統領(67)が17日、開廷中の刑事裁判所で倒れ、死去した。

 

勾留中のムルシ氏の処遇については人権団体が懸念を示していた。ムルシ氏を支持するムスリム同胞団は事実上の獄死と見なしてデモを呼びかけており、治安当局との衝突が懸念されている。(後略)【6月18日 朝日】

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【近隣諸国の「アラブの春第2幕」】

エジプトの「恐怖と沈黙の壁」を破る“異例の抗議行動”が注目される背景には、近隣諸国に広がる政治的な変化が存在するためでもあります。

 

アルジェリアでは20年間政権を維持したブーテフリカ大統領が辞任。スーダンでも30年にわたる圧政を続けたバシル大統領が軍に解任され、強権的な指導者が国民の抗議デモを受けて相次いで失脚する「アラブの春第2幕」などと評されています。

 

スーダンでは軍と抗議デモ勢力との間で合意が成立し、民政移管に向けて新政権が動き始めています。

 

****スーダン首相、新内閣の陣容発表 民政移管へ大きく前進****

スーダンのアブダラ・ハムドク新首相は5日、新内閣の陣容を発表した。同国では、長年にわたり独裁体制を敷いていたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚し、新内閣の発足により民政移管に向けて大きく前進した。

 

ハムドク氏は、バシル氏と同氏を失脚させた軍人らの退陣を求めて何か月も抗議活動を行ったデモ隊指導部が推薦した候補者らを検討し、予定より数日遅れて新内閣の陣容を発表した。

 

ハムドク氏は記者会見で、18人の閣僚には同国初の女性外務大臣となるアスマ・モハメド・アブダラ氏を含め、女性4人を起用したと明らかにした。また「暫定政権の最優先課題は、内戦を終結させ、持続可能な平和を実現することだ」と述べた。

 

新内閣は民政移行期間の3年3か月の間、日常的な行政に当たる。

 

アフリカや国際的な機関でキャリアを積み、最近までエチオピアの首都アディスアベバで国連アフリカ経済委員会の副事務総長を務めていたハムドク氏は3日、組閣の陣容発表が遅れた理由について、「ジェンダーバランス」の達成のためだったと述べた。また、新内閣には国内の全地域の代表を参加させることを望んだと説明した。【9月6日 AFP】

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アルジェリアの方は、やや不穏な情勢になっています。

 

****政治空白続くアルジェリア、デモ隊の首都立ち入りを禁止****

アルジェリアのアハメド・ガイドサラハ軍参謀総長は18日、政治改革を求めて各地から集まってきたデモ隊の首都アルジェへの立ち入りを阻止するよう警察に命じた。

 

アルジェリアは今年4月、長期政権を維持してきたアブデルアジズ・ブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っている。

 

前大統領の辞任後も数か月にわたって大規模デモが続いているが、暫定政府は12月に大統領選を実施すると発表した。

 

デモ隊は、選挙の前にまず政治改革と前大統領派の排除を行うよう求めている。一方、ガイドサラハ氏は何としても年内に大統領選を実施する構えだ。

 

アルジェでは昨年2月以降、毎週火曜日と金曜日にデモ隊が結集している。

 

ガイドサラハ氏によると首都立ち入り禁止令は、デモ隊を首都に輸送する「車やバス」を食い止めるのが目的。車両を押収し「所有者に罰金を科す」としており、移動の自由を悪用して「市民の平和を害する」「悪意ある複数の集団」への対策として必要だとしている。 【9月19日 AFP】AFPBB News

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