孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海  中国の進出に対するフィリピン・ベトナムの対応 アメリカは強い懸念を表明するも・・・

2019-09-11 22:50:41 | 中国

(2日、タイ中部サタヒープの海軍基地で行われた米・ASEAN合同軍事演習の開会式【9月2日 時事】)

 

【中国の南シナ海進出にASEANも「複数国が懸念」】

南シナ海をめぐる情勢については、(ほかに多くの問題があることもあって)ひと頃ほどは多くは取り上げられていませんが、進出を強める中国、これをけん制するアメリカ、中国との距離感が異なる国々があつまることもあって中国に対する強い対応が難しいASEAN・・・・という基本構図は変わっていません。

 

そういうなかにあって、7月末のASEAN外相会議では、最近のベトナムやフィリピンの中国との緊張関係の高まりを背景に、幾分強い表現も使用された・・・・とのことですが、素人目には“さほど変わっていない”ようにも。

 

****南シナ海「複数国が懸念」 ASEAN外相会議 *****

中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が領有権を争う南シナ海を巡って緊張が高まっている。

 

フィリピンは北部海域の警戒を強める方針を表明し、ベトナムと中国の艦船はにらみ合いを続ける。

 

ASEANは31日の外相会議の共同声明で複数の外相が「懸念」を示したと明記。中国との会議では紛争防止へ行動規範をまとめる作業を進展させたが、緊張の緩和は見通せないままだ。

 

ASEAN加盟10カ国の外相は31日、タイ・バンコクで会談した。終了後に出した共同声明では中国を念頭に「複数の外相から埋め立てや深刻な事案に対して懸念が示された」との文言を盛り込み、草案段階の「幾つかの懸念に留意する」から表現をやや強めた。ベトナムが主張したとみられる。背景には南シナ海を巡る中国との緊張関係の高まりがある。(中略)

 

一方で、ASEANは中国との南シナ海を巡る紛争回避のための協議も進めた。ASEAN加盟国の外相は31日、中国の王毅外相とも会談。紛争抑止に向けて策定を進める行動規範について議論し、各国の要望を列記する第1段階の作業が終了したことを確認した。10月にベトナムで開く事務レベル協議で一本化する作業に入る。

 

意見対立が避けられないのが、行動規範に法的拘束力を持たせるかどうかだ。ベトナムが法的拘束力を求めているとみられるのに対し、中国は反対する。中国から経済支援を受けるカンボジアやラオスは中国寄りの立場をとるもようで協議はもつれるとの見方がある。

 

中国は行動規範の骨抜きを狙い、ASEANの取り込みを急ぐ。「天然ガスの共同開発に向けた作業を加速したい」。王氏はフィリピンのロクシン外相と会い、こう呼びかけた。同国が求める天然ガス共同開発をちらつかせ、融和政策を維持させたい思惑だ。親中国のカンボジアや中立的立場のインドネシアの外相とも立て続けに会談した。

 

中国は行動規範に、域外国の関与を制限する条項を盛り込むよう提案したもよう。南シナ海への関与を狙う米国を排除する狙いだ。

 

王氏は31日の会議終了後に記者会見を開き、「域外国は中国とASEANの仲を引き裂くべきではない」と強調。「規範策定作業が想定より早く進んでおり、目標とする21年より前に決着する可能性がある」と自信を示した。

 

中国は6月末から7月初旬にかけ、南シナ海で弾道ミサイルを6発発射する実験を実施した。同海域で中国のミサイル実験が確認されたのは初めてとみられ、西太平洋への米軍接近を阻む戦略の着実な進展を印象づけた。経済面でASEANと連携する姿勢を見せる一方、「力の支配」も着実に進めている。

 

米国は中国が埋め立てた南シナ海の人工島の12カイリ(約22キロメートル)以内に艦船を派遣する「航行の自由」作戦を展開してきた。だが、中国による実効支配の進展を止められず、戦略の練り直しを迫られている。

 

5月には日本、インド、フィリピンと初の共同訓練を実施し、多国間の協力枠組みの拡大に動いている。中国は反発しており、南シナ海を巡る情勢が緊迫する可能性も否定できない。【7月31日 日経】

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【仲裁裁定を利用して中国から協力を引き出すフィリピン・ドゥテルテ大統領】

今現在も上記記事が指摘する状況は変わっていません。

 

フィリピンについては、親中国姿勢を隠さないドゥテルテ大統領ですが、中国に厳しい国民世論にも配慮する必要もあって、中国への対応はわかりにくいところもあります。

 

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「我々の領有権を明確にすべきだ。象徴すべきものを建ててもいい」。フィリピンのドゥテルテ大統領は7月28日、南シナ海に浮かぶ同国最北部バタン諸島を訪れ、沿岸警備隊による周辺海域の警備を強化するよう指示した。

 

フィリピンは台湾寄りの同諸島を支配しており、中国と係争は起きていないが、主権の主張を強める構えだ。

 

ドゥテルテ氏は経済支援を得るため、中国と争う島や岩礁の領有権の主張を抑え、融和的な外交を進めている。だが、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)で6月、同国の漁船が中国の漁船に衝突されて沈没。国内では中国や政府に対する批判の声が広がった。

 

ドゥテルテ氏は7月8日には「我々には中国を南シナ海から追い出すことはできない。米海軍第七艦隊に中国の前に立ちはだかってもらいたい」と発言。中国をけん制した。【同上】

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「我々の領有権を明確にすべきだ」「米海軍第七艦隊に中国の前に立ちはだかってもらいたい」・・・親中国のドゥテルテ大統領らしからぬ発言ですが、その真意は・・・。

 

訪中したドゥテルテ大統領は、厳しい国内世論も意識して、普段は封印している南シナ海仲裁裁定を持ち出したようですが、つなぎとめに躍起となる中国からそれなりのものを引き出し、“双方はフィリピンが望む海洋資源の共同開発や経済支援の推進で合意し、関係悪化を避けて事態の収拾を図った形だ。”【8月30日 毎日】とも。

 

****ドゥテルテ氏、南シナ海仲裁裁定を提起 中比首脳会談****

中国の習近平国家主席は29日、北京の釣魚台迎賓館でフィリピンのドゥテルテ大統領と会談した。

 

ドゥテルテ氏は南シナ海問題をめぐり、ハーグの仲裁裁判所が2016年の裁定で中国の主権主張を全面否定したことを提起したが、習氏は同裁定を認めない従来の立場を繰り返した。パネロ大統領報道官が30日発表した声明で明らかにした。

 

ドゥテルテ氏が習氏に対し、仲裁裁定を直接提起したことが明らかになったのは、今年4月の首脳会談に続いて2回目。

 

ドゥテルテ氏は16年の大統領就任後、中国との蜜月関係を演出し、中国からの経済支援と引き換えに同裁定を持ち出すことを封印してきた。

 

ただ、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島でフィリピンが実効支配する地域に中国船が多数出没するようになり、今年6月にはリード堆(礼楽灘)周辺で中国漁船と衝突したフィリピン漁船が沈没する事件が発生。中国が約束した経済支援を実行していないとの不満も高まるなどフィリピンの対中世論は厳しさを増している。中国当局はドゥテルテ氏をつなぎとめるのに躍起だ。

 

中国外務省の発表によると、習氏は会談で「双方は争いを棚上げし、外部の干渉を排除し、協力と実務、発展の計画に集中しなければならない」と指摘。

 

両国は、南シナ海での石油と天然ガスの共同開発に向けて政府間と企業間の組織をそれぞれ創設することで一致した。ドゥテルテ氏が仲裁裁定を提起したことには触れなかった。

 

習氏は30日、北京でのバスケットボールのワールドカップ(W杯)開幕式にドゥテルテ氏と出席。同氏が後日、広東省広州で試合を観戦する際には王岐山国家副主席が付き添う予定で、異例の手厚いもてなしで懐柔を図っている。【8月30日 産経】

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ドゥテルテ大統領は中国と厳しく対峙する考えはなく、大統領にとって仲裁裁定は、中国から協力を引き出す打ち出の小槌みたいなものでしょう。

 

中国側の海洋資源の共同開発提案は、フィリピンが仲裁裁定を“無視する”ことが条件とか。

 

****中国が南シナ海開発で提案、仲裁裁判断無視が条件=フィリピン大統領****

フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国の習近平国家主席との最近の会談で、南シナ海での中国の主張を退けた仲裁裁判所の判断をフィリピン側が無視することを条件に、同海でのガス共同開発の権益の過半数をフィリピンに譲渡するとの提案を受けたことを明らかにした。

大統領府によると、ドゥテルテ氏は10日遅くに記者団に、仲裁裁判断とフィリピンの領有権の主張を「脇に置く」ことができれば、中国側はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)にあるリードバンクの共同ガス開発事業の権益の60%をフィリピンに譲渡し、残る40%を維持すると習主席が提案したと紹介した。

中国外務省と在フィリピン中国大使館からドゥテルテ氏の発言についてコメントは得られていない。

オランダ・ハーグにある仲裁裁判所は2016年に中国の主権の主張を全面的に退け、フィリピン沖約85キロにあるリードバンクのガス田を開発するフィリピンの権利を明確化する判断を下している。中国はこの判断を認めていない。

ドゥテルテ氏はこれまで、南シナ海での中国による人工島造成などの活動について対立を避けてきた。フィリピンが仲裁裁判断を無視し、中国と協力することに合意すれば、同海の資源を巡り中国と領有権を争ってきたベトナムやマレーシアなどの諸国が不利な立場に置かれることになる。

ドゥテルテ氏は習氏の提案に同意したかどうかは明らかにしていない。ただ、仲裁裁判断のEEZに関する部分については「経済活動を確保するために無視する」と言明した。【9月11日 ロイター】

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“ドゥテルテ氏は習氏の提案に同意したかどうかは明らかにしていない”とのことですが、北京での“蜜月ぶり”からすれば、実質的に中国側の意向に沿う形を了解したのでしょう。

 

【中国の海洋調査船をめぐり対立を強めるベトナム】

一方、対中国強硬姿勢という点ではわかりやすいのがベトナム。

 

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 南沙(英語名スプラトリー)諸島の領有権を中国と争うベトナムでも、EEZ内で中国の海洋調査船が活動。中国海警局の艦船も同行し、ベトナムの艦船と数週間にらみ合った。

 

同国政府は19日、中国に抗議する談話を発表し、「ベトナムの主権を侵害する行為には断固反対する」と表明した。【7月31日 日経】

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中国の海洋調査船「海洋地質8号」が、7月に続き8月にも再び南シナ海のベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で活動しているとして、中国側に退去を要求したことを明らかにしています。

 

****中越、南シナ海で対立激化 中国海洋調査船航行にベトナム猛反発 「14年以来最悪の状況」****

南シナ海をめぐり、中国とベトナムの対立が激化している。埋蔵資源を狙う中国の地質調査船がベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で繰り返し確認され、ベトナム政府が抗議。中国との摩擦が続く米国も中国批判に乗り出すなど、事態は混迷の度を増している。

 

両国間の緊張が急速に高まったのは、7月以降だ。複数の報道によると、7月3〜14日、中国の海洋調査船「海洋地質8号」が、ベトナムのEEZ内に進入し、スプラトリー(中国名・南沙)諸島西側のバンガード堆(同・万安灘)近くを航行。ベトナム海軍の船舶とにらみ合った。

 

その後、海洋地質8号は海域を離れたが、8月にも現場周辺での航行が確認されている。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は海洋地質8号が海底約3万5千平方キロを調査したと報じた。

 

ベトナムは現地でロシア企業とともにガス田開発に乗り出しており、中国の動きは看過できない。

 

ベトナム外務省は「中国の度重なる違法行為に抗議する」と反発。米国も中国がベトナムの資源開発を妨害しているとし、2度に渡って「いじめ同様の戦術では隣国の信頼も国際社会の尊敬も勝ち取れない」などと批判する声明を発表した。

 

中国は「中国船は中国が管轄する海域で作業している」(耿爽報道官)などと反論している。中国船のベトナム近海での活動は止まらず、今月3日には、中国の国有石油・天然ガス企業「中国海洋石油」の大型クレーン船「藍鯨」がベトナムのEEZ内で航行しているのが確認された。

 

両国は2014年5月、ともに領有権を主張するパラセル(同・西沙)諸島そばで中国が油田掘削を行ったことで対立が先鋭化。両国の船舶同士の衝突が発生し、ベトナム国内では反中デモも展開された。

 

SCMPは今回の事態を「14年以来最悪の対立」と表現。「ベトナム政府はこの問題について国連に提起するなど、国際化させる可能性がある」と報じており、事態の沈静化は見通せない状況だ。【9月10日 産経】

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もちろん、“事態の沈静化は見通せない”とは言いつつも、ベトナムはバランス感覚に優れた現実主義の国ですので、かつて戦火を交えたこともある陸続きの中国との緊張が限度を超えて高まらないようにコントロールはするでしょう。

 

【アメリカは国防総省が緊急声明 ただし、今後は米中貿易戦争の行方次第】

中国の南シナ海における準軍事組織「人民武装海上民兵」を使った“嫌がらせ”には、アメリカも強い反発を見せています。

 

****進行する中国の南シナ海での「嫌がらせ戦術」****

中国は、南シナ海で領有権を争っている国々の石油・ガス探査への嫌がらせを強めている。

 

5月以降、中国の海警局の艦船が、ベトナム、マレーシアのEEZ内での掘削活動に威圧的な妨害を加えている。さらに、7月以降、中国の海洋調査船がベトナムのEEZ内で調査を続けている。

 

調査船は、海警の艦船、準軍事組織「人民武装海上民兵」が乗り組む漁船に護衛されているという。ベトナム側は沿岸警備艇を派遣し、衝突のリスクが高まっている。

 

この問題について米国は、8月22日に国務省が、8月26日には国防総省が強い懸念を表明する声明を相次いで発表している。このうち、国防総省の緊急声明の要旨は次の通り。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

国防総省は、中国によるインド太平洋におけるルールに基づく国際社会を破壊する努力が続いていることを強く懸念している。最近、中国はベトナムの石油・ガス探査活動への威圧的干渉を再開した。これは、シャングリラ会議での魏鳳和・中国国防部長の「平和的な発展の道を堅持する」との発言と全く矛盾する。

 

中国の行動は、『受け入れられている国際的ルールと規範に沿ってすべての国が大小を問わず主権を保障され、威圧されず経済的成長を追求し得るとする自由で開かれたインド太平洋地域』という米国のビジョンとは対照的である。

 

中国が「嫌がらせ戦術」を続けることで、近隣諸国の信頼も国際社会の尊敬も勝ち得ることはないだろう。ASEANの領有権主張国を威圧する行動、攻撃的武器の配備、海洋についての違法な主張の執行は、中国の信頼性への深刻な疑いを提起している。

 

米国は、同盟国、パートナー国による、インド太平洋全体における航行の自由と経済的機会を確かなものとする努力を支援し続ける。

・・・・・・・・・・・・・・・

 

中国の「嫌がらせ戦術」に対して、関係諸国は連携を密にしようとしている。

 

例えば、8月23日にはベトナムのハノイで豪越首脳会談が行われたが、その際の共同声明で、南シナ海の資源に関する「妨害的活動」に懸念が示された。豪州とベトナムは、5月にベトナムのカムラン湾に豪海軍の艦船2隻が寄港するなど、関係を緊密化させている。

 

また、8月27日のベトナム・マレーシア首脳会談でも、中国の調査船による活動について話し合われたと見られる。

 

ただ、関係諸国、ひいては国際社会の連携のカギとなるのは、やはり何と言っても米国の動向である。この点、米国が上述の通り相次いで2つの声明を発表したことは、南シナ海における中国の傍若無人な振る舞いを米国が深刻に受け止めているというメッセージを強く発するものであり、歓迎される。

 

上記の国防総省の声明の内容は、米国の立場、国際秩序の原則を明確に示している。定期的に繰り返されている米国主導の「航行の自由作戦」(8月末にも実施)も、本件への直接の対応ではないとしても、米国の南シナ海におけるプレゼンス維持が本気であることを示すものである。

 

今後の注目点は、まず第一には、国際社会の連携をどれだけ拡大できるかである。それには、中国に対し、ルールに基づいた国際秩序の原則を繰り返し言っていくということであろう。

 

その次に、さらに実効的な措置が模索される必要があると思われる。しかし、準軍事組織を用いた中国の「嫌がらせ戦術」に対抗するのは、言うは易く行うは難し、である。

 

潜在的には、米議会に提出されている「南シナ海・東シナ海制裁法案」などが対抗手段となり得るかもしれない。同法は、ASEAN加盟国が領有権を主張する海域において、平和、安全保障、安定を脅かす行為をした個人に対して制裁を科すとしている。実現性は全く不透明ではあるが、興味深い試みであると言えよう。【9月11日 WEDGE】

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アメリカはASEANとの海軍合同訓練も実施しています。

 

****米ASEAN、南シナ海などで初の海軍合同訓練*****

米国と東南アジア諸国連合の海軍による初の合同訓練が2日、タイのサッタヒープ海軍基地で始まる。日程は6日までの5日間で、訓練は中国が領有権を主張する南シナ海でも行われる。

 

南シナ海の領有権をめぐってはブルネイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンといった東南アジアの国々と中国との緊張が続いており、米国も東南アジア地域への関与を強めている。(後略)【9月2日 AFP】

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ただ、中国とアメリカの関係は、貿易戦争の行方次第というところも。

 

これまでは強気の関税措置を繰り返してきたトランプ大統領ですが、アメリカ国内の経済悪化が明確になってくれば、最大の関心事である再選戦略に支障がでますので、一転して中国と関係改善に・・・という事態も十分にありえます。

 

そのときは南シナ海問題も(ベトナムなどの意向にかかわらず)中国の権利を一定に認める形で、セットで処理されることも。

 

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