(映画『帰ってきたムッソリーニ』より【9月20日 GLOBE+】 この映画ではムッソリーニがローマの街を車で回る場面はほぼドキュメンタリーとして撮影された、つまり路上の一般の人たちの反応はフィクションではないとのこと)
【連立で組閣難航・不安定化が常態化する欧州政治】
欧州では、比例代表制などの選挙制度や、昨今の極右・ポピュリズム勢力台頭による既成政党からの支持者の離反といったこともあって、単独過半数を制する政党が存在せず、複数政党間の連立によることが一般的に見られます。
結果、組閣までの長い時間を要したり、政党の間の離合集散で政治が不安定化したりすることも。
ドイツの中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と中道左派の社会民主党の大連立が、右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭、連立に埋没した感がある社会民主党の不振などで、揺らいでいることは周知のところです。
どんぐりの背比べ状態の政党間の意見対立が集約できないスペインも、総選挙は4月でしたが、なかなか組閣ができません。
****スペイン、11月10日再選挙へ 政権樹立できず****
4月の総選挙以降、政治空白が続いているスペインで、11月10日に再び総選挙が行われる見通しとなった。議会は大きく分裂しており、再選挙後も、政党間の意見の相違を克服して政権を樹立できる保証はない。
4月の総選挙では社会労働党が第1党となったが、どの政党も過半数の議席を獲得できなかった。各党は政権樹立を目指してきたが、溝は深く、協議は難航。16、17両日も行き詰まり打開に向けた動きがあったが、不調に終わった。
社会労働党のペドロ・サンチェス党首は、17日夜の記者会見で「政権を保証する過半数に届いておらず、11月10日に再選挙が行われる見通しだ」と語った。
世論調査では、社会労働党がさらに議席を増やす見通しとなっているものの、定数350の下院で過半数には依然として届かないとみられる。【9月18日日 ロイター】
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【イタリアで新連立成立も“この連立政権が何時まで続くか”】
短命内閣が続くイタリアも、8月16日ブログ“イタリア EU懐疑派の極右「同盟」サルビーニ副首相、総選挙実施で政権主導を狙う 市場は警戒”でも取り上げたように、第1党のポピュリズム政党「五つ星運動」と第2党の移民排斥・極右の「同盟」の連立が、支持率が上向く「同盟」のサルビーニ副首相が勝負時と見て連立解消・総選挙実施の賭けにでたことで暗礁に乗り上げました。
結果的には、サルビーニ副首相の思惑は外れ、「五つ星運動」と中道左派「民主党」の新たな連立が生まれることになりました。
サルビーニ外し・総選挙回避では一致した両党ですが、政策的な相違点も多く、また、もともと「五つ星運動」は「民主党」のような“腐敗した機能不全”の既成政党を批判して拡大したこと,一方の「民主党」は「五つ星運動」を“統治能力に欠ける田舎者と見ている”【9月18日 WEDGE】といったこともあって、今後の前途は多難です。
****イタリア、中道左派と連立政権 政策の不一致、危うさも****
マッタレッラ大統領に辞表を提出後、首相に再指名されたコンテ氏が5日、ローマの大統領府で行われた宣誓式に出席した。
新興政治団体「五つ星運動」が右派「同盟」とたもとを分かち、新たに中道左派「民主党」と手を結んだ連立政権が発足した。
イタリア上下両院は今後、発足した第2次コンテ内閣に対する信任投票を実施する。五つ星と民主党の合計議席は下院では過半数を確保。上院ではわずかに過半数に届かないために少数左派政党「自由と平等」を入閣させることで、信任を得る見通しだ。
閣僚は、五つ星から10人、民主党から9人、自由と平等から1人、専門家1人という構成となった。
五つ星を率いるディマイオ氏は外相に就き、経済財務相には、民主党所属で、欧州議会の経済金融問題委員会のロベルト・グアルティエリ委員長が就いた。
イタリアはユーロ圏3位の経済大国でありながら、政府債務残高が国内総生産(GDP)比で約130%と高水準にある。グアルティエリ氏は、欧州連合(EU)の財政規律に沿った来年度予算の編成という重責を担うことになる。
EUとしては、波乱要因だった同盟が閣外に出て、親EUである民主党の政権入りで懸念は後退した形となった。だが、両党は「総選挙回避」という共通点の下に政敵同士が政策の違いを乗り越えて手を結んだ形で、政策の不一致による不和が政権内に生じれば、連立政権が再び破綻し短命で終わる可能性は否定できない。
今回発足する新政権は戦後67代目となった。【9月5日 毎日】
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まあ、本来立場の異なる政党間の連立というのは、そういう不安定さを伴うものでしょう。
日本の自民・公明の連立のように安定して長続きするほうが「どうして?」というものかも。
大方の見方も、「いつまで、この連立がもつのか・・・」という視点です。
****EUの支持が左右するイタリア新連立政権****
(中略)
従って、問題は、この連立政権が何時まで続くかである。
それはイタリアの抱える最大の問題、つまり経済の長期的な停滞の問題について、EUが連立政権をどのように支援出来るかによる。
9月1日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘A flawed Italian coalition will need EU support’は次のように指摘する。
「サルヴィーニは野党にあって強い力を持ち続ける。EUにとって、ここは多数のイタリア国民を彼の主義主張になびかせた根の深い懸念に対処する好機である。EUは財政赤字を或る程度許容すべきである。そして景気後退期には公共投資の増加を可能とし規律を緩められるよう、財政ルールを見直すべきである。また、EUは南の加盟国の負担を軽減し、海上における難民救助を管理する難民庇護の体制を必要としている。そうでなければ、サルヴィーニの復権は単に時間の問題となろう」と。
コンテにはEUとの協調を目指す姿勢が見える上に、なかなか気骨のある人物のようであるから、EUとしてはコンテを助けて政策の前進を図ることに意を用いるのが正解であろう。
他方、連立政権の政権運営が軋み、政策が停滞するようでは、サルヴィーニの復権は時間の問題だ、という上記社説の警告は、その通りであろう。【9月18日 WEDGE】
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【EUと協調へ転じる兆しも】
EUとの関係で言えば、前政権がEUと厳しく対立していた難民対策で、協調の兆しが見られます。
****イタリア、移民・難民の上陸拒否を転換 EUと協調へ*****
新連立政権を今月発足させたイタリアのコンテ首相が18日、マクロン仏大統領と会談し、地中海を渡る移民・難民の上陸を認める方針に転換する姿勢を示した。
会談後の記者会見でコンテ氏は、仏など欧州各国と協力して、難民審査や受け入れ国への分配を進めていく方針を明らかにした。前政権は、海上で救助しイタリアなどに運んできたNGOを敵視したため、同国に上陸する移民・難民の数は激減した。
コンテ政権は、移民排斥政策を掲げた右派政党を外した形で2期目を迎え、欧州連合(EU)との協調路線に転じた。移民受け入れをめぐって、NGOの救助船の入港を認めるなど、態度を軟化させている。
記者会見でコンテ氏は「(密航業者による)人身売買行為への警戒を弱めるつもりはないが、現実的なやり方での管理が必要だ」と述べた。マクロン氏も「移民の上陸を認めた上で、受け入れていく欧州のシステムが必要だと確信している」と応じた。
コンテ氏はマクロン氏との会談前に、リビア暫定政府のサラージ首相とも面会した。リビア国内では、暫定政府と同国東部を支配する武装勢力が衝突を繰り返し、7月には移民・難民の収容施設が、対立する武装勢力によるとみられる空爆を受けた。
イタリアメディアによると、コンテ氏は移民の非人道的な状況への懸念を示した上で、暫定政府への支持を表明。移民問題に協力して取り組むことを確認した。【9月19日 朝日】
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EUと親和性のある政党で、サルビーニ前副首相の難民排撃に反対してた民主党はともかく、「五つ星運動」の方は、“サルヴィーニが主導したNGOが海上で救助した難民の上陸を禁ずる措置の継続を主張”【9月18日 WEDGE】していたはずですが・・・
コンテ首相個人の考えも強く影響した政策転換でしょう。
【蘇ったムッソリーニが市民に歓迎されるイタリア社会】
いつまでこの連立が続くかはわかりませんが、極右的な「同盟」サルビーニ前副首相が野党にあって強い力を持ち、復権を狙っていることだけは間違いないことです。
そして、イタリアの社会風潮に、そうした極右的主張を受け入れるような傾向もあるようです。
****『帰ってきたムッソリーニ』 独裁者が脚光浴びる、この危うい世界は現実だ****
イタリアのムッソリーニは、ドイツのヒトラーに比べると正直、影が薄い。でもファシズムの源泉はイタリアで、ヒトラーにも影響を与えた。
そしていま、経済低迷や難民危機を経てヘイト犯罪は増え、極右政党は一定の影響力を保ち、ムッソリーニの墓や別荘も観光地化している。
そうした現実に警鐘を鳴らすイタリア映画『帰ってきたムッソリーニ』(原題: Sono Tornato: 英題: I’m Back)(2018年)が20日公開される。ルカ・ミニエーロ監督(52)にインタビューした。
1945年4月に銃殺されたはずの独裁者ムッソリーニが現代のイタリアに蘇る――。映画はそんな設定で始まる。
かつてエチオピア侵攻を指揮した立場として、アフリカ系の人たちが大勢いるローマの様子に「エチオピアに侵略されたのか?」と驚くムッソリーニ(マッシモ・ポポリツィオ、58)。
一方、21世紀の人々は、まさか本人とは思わず、当時の軍服姿のそっくりさんだと思って笑い、自撮りをせがんで盛り上がる。
売れない映像作家カナレッティ(中略)は、彼を舞台回しにしたドキュメンタリーを思い立つ。巧みな演説によりネット動画で人気者になったムッソリーニは、テレビ番組でも高視聴率をたたき出してゆく。
このあらすじを聞いて、ドイツのヒット映画『帰ってきたヒトラー』(2015年)を思い起こす人も多いだろう(中略)。
『帰ってきたムッソリーニ』はその原作小説をもとに、舞台をイタリアに置き換えて映画化。ミニエーロ監督は「原作を読んで、映画化しようと興味を惹かれた。ドイツ版の映画ができる前だ」と話す。
大筋は原作に忠実ながら、ヒトラーとのキャラや末路などの違いが、筋立ての違いに随所に反映されている。
ドイツ版同様、ムッソリーニがローマの街を車で回る場面はほぼドキュメンタリーとして撮影した。つまり路上の一般の人たちの反応はフィクションではない。
「ムッソリーニが街に出たら人々が笑い、おもしろがって一緒に写真を撮る様子はショッキングだった。映画に取り込まなかった動画もある。そうした映像が意味するものが、今作の意味そのものだ」とミニエーロ監督は言った。
ドイツもイタリアもほぼ同様に、ヒトラーやムッソリーニのそっくりさんを街に登場させると一般の人たちがただおもしろがってしまうという、悲しい現実があるということだ。
「(中略)映画を作り終えてショックに感じたのは、ムッソリーニは私たちの一部だということだ。彼は悪魔ではない。悪魔的ではあるが、人間だ」
ムッソリーニは当初は社会主義者だったが、第1次大戦への従軍などを経て、国家主義者に転向。大戦後の経済や社会への不安を背景に、巧みな演説力でファシスト党を率いて1922年に首相となり、ローマ帝国の復活を掲げて大衆の心をつかんだ。
その点、トランプ米大統領の「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」を思わせるレトリックだ。ムッソリーニの手法は後に政権を握るヒトラーに影響を与え、右手をまっすぐ上げるローマ式敬礼はナチス式敬礼へと受け継がれている。
第2次大戦は、日独伊三国同盟と、米英ソなどの連合軍との戦いだった。ただ、同じ枢軸国ながら、日本、ドイツ、イタリアは、敗戦後の道筋がそれぞれ違う。日本とドイツが戦争責任を連合軍によって問われたのに対し、イタリアの場合、国内のレジスタンス運動のもと、ムッソリーニはイタリア人に銃殺された。
負の歴史への向き合い方にも違いを生んだ。ドイツではナチスのシンボルは教育目的など以外では違法。ヒトラーの最後の防空壕も一部破壊された。だが、イタリアではムッソリーニの別荘や防空壕、墓などが観光地になっており、ネオファシストらの巡礼や献花が絶えない。
地元報道によると、出身地プレダッピオの市長が、経済効果を狙ってムッソリーニの墓を観光名所として整備する計画を進めているという。また、ムッソリーニの孫娘アレッサンドラは極右政治家だ。歴史修正主義者が以前にも増してはびこる日本も、耳が痛い話だ。
「イタリアでは、ムッソリーニは悪かったが良いこともした、と言う人たちがいる。ムッソリーニには戦争突入とユダヤ人差別という2つの問題を起こしたが、それ以外は良いこともたくさんした、いいこともあった、という風に。だが、それは違う。ムッソリーニについて、時に無知だったりする。ムッソリーニは多くの罪を犯し、たくさんの問題を起こしてきたのに、人々は忘れている」
イタリアの歴史教育で、ムッソリーニはどれぐらい教えられているのだろうか。そう聞くと、ミニエーロ監督は「私の世代はファシズムや第2次大戦についてさほど教わっていない。若い世代もあまり知らない」と話した。
今作がイタリアで公開されたのは2018年2月1日。その2日後、中部マチェラータで20代の男性がアフリカ系移民6人を銃撃して重軽傷を負わせる事件が起きた。
男性は、直近のイタリア人女性殺害事件でナイジェリア出身の難民男性が逮捕されたことへの「報復」だったと供述、犯行時はイタリア国旗を肩にかけ、ローマ式敬礼をしていたという。
報道によると、このヘイト犯罪に極右政党「フォルツァ・ヌオバ(新しい力)」は喝采を送り、弁護団の提供も申し出たという。
このフォルツァ・ヌオバはムッソリーニの孫娘アレッサンドラと一時連携し、欧州議会で議席を獲得したこともある。公開直後だっただけに、「映画が事件と関連づけて議論された」(ミニエーロ監督)そうだ。
「歴史が繰り返されるとまでは思わないが、今の私たちは不寛容や人種差別主義、ファシズムに向かいつつある。今の経済状況はムッソリーニが権力を掌握した当時と似ていて、低所得者層や中間層は当時と同じ問題を抱えている。税負担や他の問題よりも移民について問題視する」。
ミニエーロ監督はそう語り、「ファシズムに独裁者は必要ない。強制収容所のようなものを持たなくても、アフリカからの移民・難民に似たような問題を起こしている」と警鐘を鳴らした。
だからこそ、「イタリア人がファシズムについてどう考えているか、この映画で示したかった。ファシズムがどうやってイタリアにやって来たか見せたかった」とミニエーロ監督。
「この映画で人々はムッソリーニを笑い、ムッソリーニと仲良くなったりしている。ムッソリーニがおもしろい人物で、演説もうまかったからだ。イタリア人は愉快な人たちで、滑稽な支配者を選びやすい。この映画は反ファシズムを明確にうたっていないと言う人もいるが、それは違う。観客は最終的に、(人々がムッソリーニを歓迎する様子を)恥じ入るだろう」
イタリアの人は今も、ムッソリーニのような指導者をどこかで欲していたりするのだろうか。
「ムッソリーニのような指導者を欲しているかというと、それはないと思うが、強い指導者は欲しているだろう。だからベルルスコーニやレンツィのような首相が登場した。今はサルヴィーニ副首相だ」。
サルヴィーニは連立与党の一角を占める右派政党「同盟」の党首で、反欧州連合(EU)、反移民を掲げて支持を集めている。
「イタリアの問題は、ソーシャルメディアやテレビ報道にもある。こうした場で政治は、指導者がいかに民意を得られるかというアプローチではかられる。でもイタリアは欧州で大きな問題を抱える国のひとつ。経済面などで解決策を見いだすには、ポピュリスト的にならず、支持の得られにくい行動をも起こせる指導者を持てるかどうかにかかっている」
さて、第2次大戦の指導者がこの世に蘇ったら……?という映画はこれでドイツ、イタリアとそろった。日本版も作るべきではないか、という声はネットで上がっている。
そう言うと、イタリアが戦後、ファシスト清算の一環で王制を廃止した経緯もあってのことか、ミニエーロ監督はこう言った。
「日本のことはよくわからないが、一点不思議に思うのは、ヒトラーやムッソリーニは敗戦とともに消えたものの、日本の天皇制は続いている。米国が維持させたわけだが、いずれにせよドイツやイタリアほどの変化を経ていないように思う。それについて、みなさんはどう思っているのだろうか?それが私からの問いかけだ」【9月20日 GLOBE+】
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ムッソリーニの別荘や防空壕、墓などが観光地になっているイタリアから見ても、日本は“ドイツやイタリアほどの変化を経ていない”ように見えるようです。