孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン 4年で4回目の総選挙 分断された民意 漂流するスペイン政治

2019-09-26 22:11:26 | 欧州情勢

(【9月24日 日経】 本文最後にもあるように、別の世論調査は、また若干異なる予測となっています。いずれにしても、過半数を制する政党がないのはもちろん、連立の組み合わせも難しそうです。)

 

【4年間で4回目の総選挙】

9月20日ブログでも取り上げたように、欧州では極右・ポピュリズム勢力台頭による既成政党からの支持者の離反といったこともあって、単独過半数を制する政党が存在せず、複数政党間の連立によることが一般的に見られます。

 

結果、組閣までの長い時間を要したり、政党の間の離合集散で政治が不安定化したりすることも。

 

スペインでも、4月の総選挙後も新政権が樹立できない状況が続いていましたが、結局、再選挙を11月10日に行うことになっています。この4年間で4回目の総選挙です。

 

****スペイン、11月10日に総選挙=連立交渉まとまらず****

4月の総選挙後も新政権が樹立できないままでいたスペインでは24日、中道左派・社会労働党を率いるサンチェス首相による連立交渉の期限が切れた。

 

沈黙するサンチェス氏は、いずれの党とも交渉をまとめられなかったとみられ、11月10日投票のやり直し総選挙実施が確実となった。

社会労働党は4月の総選挙(下院定数350)で123議席を獲得した。サンチェス氏はまず急進左派ポデモス(42議席)との連立を模索したが、閣僚ポストをめぐり対立。

 

下院は7月、少数与党で新政権発足を目指すサンチェス氏の信任投票を行ったが、反対多数で否決。連立交渉は、行き詰まりを打開できないまま夏を終えた。
 

最新の世論調査によると、やり直し総選挙では社会労働党が議席数を伸ばすとみられている。サンチェス氏は18日、議会で「社会労働党がより多くの議席を獲得し、行き詰まりから抜け出すことを望む」と語っており、無理に連立交渉をまとめる意欲は乏しかったとみられる。【9月24日 時事】

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【5党分立 分断された民意】

こうした組閣もできない状況の背景には、財政政策、移民問題やEUとの距離感をめぐって国民の意見が大きく分断され、主要な既成政党(スペインの場合は右派・国民党と左派・社会労働党)の支持が低迷、極右・ポピュリズム政党が台頭していることがありますが、スペインの場合はカタルーニャの分離独立運動をめぐる対立軸も加わって、連立が更に難しい事態ともなっています。

 

****スペイン、財政・移民 溝深く 11月に再び総選挙へ****

スペインは11月10日、過去4年で4回目となる総選挙を実施する。サンチェス首相が4月の総選挙後の連立交渉に失敗したのが直接のきっかけだが、11月の選挙でも過半数を確保する政党は出ない見通しで、政治の混迷が長期化しそうだ。

 

財政政策や移民の受け入れ問題を巡る民意の分断が深まり、政治を分極化させていることが、安定政権づくりが難しくなっている背景にある。

 

(中略)大手紙パイスが報じた18~20日実施の世論調査によると、11月の総選挙で社会労働党は132まで議席を伸ばし第1党の座を守るが、過半数には届かない見通し。各党の支持率に大きな変化はなく、再び連立交渉でもめる恐れが大きい。

 

スペインは1978年の民主化後、中道左派の社会労働党と中道右派の国民党による二大政党制が続いてきたが、近年は両政党の退潮が著しく、不安定な政治に陥っている。

 

顕著だったのが2015年12月の総選挙だ。前与党の中道右派国民党が過半数割れを起こし、16年のやり直し選挙につながった。その後政権を奪ったサンチェス氏も19年度予算案で他党の支持を得られず、4月の総選挙に追い込まれた。

 

政治の不安定化の背景には割れる民意がある。10年ごろ始まった欧州債務危機で失業率が20%を超え、既存政党では格差を解決できないとの世論が強まった。

 

15年選挙では「反緊縮」の旗を掲げて極端な社会保障の充実を訴えた急進左派ポデモスと、クリーンな政治を強調した中道右派シウダダノスの新興2政党が台頭し、従来の二大政党制が揺らいだ。

 

欧州の難民・移民問題もスペイン政治の不安定要因だ。18年にイタリアで誕生したポピュリズム(大衆迎合主義)政権が移民の受け入れ拒否に動くと、隣国のスペインに移民の流入が集中。

 

4月の総選挙では反移民を主張する極右ボックスが初めて下院に24議席を確保した。フランコ独裁体制への苦い記憶から極右勢力が弱かった同国にとって大きな転換点となった。

 

伝統の二大政党である社会労働党、国民党にこの新興3党を加えた計5党に票が分かれるのが現在のスペインだ。

 

独立問題がくすぶる北東部カタルーニャ州への対応も各党ごとに異なり、民意の分断に拍車をかける。

 

サンチェス氏は11月の総選挙で第1党の座を守れば、幅広く連携を探る見通しだ。だが移民に寛容でカタルーニャとの対話を重視するサンチェス氏に対し、右派政党は移民保護の制限、カタルーニャへの厳しい対応を唱え、意見の溝は大きい。

 

一方、サンチェス氏とポデモスは移民政策では立場が近いが、本格的な政権入りを求めたポデモスと、閣外協力にとどめたかったサンチェス氏の溝が埋まらず、連立交渉が決裂。ポデモスのイグレシアス党首は「サンチェス氏は無礼で議会制民主主義を軽視している」と非難する。

 

スペインの経済成長率は18年の2.6%から、19年の2.3%、20年の1.9%に鈍化する見通し。失業率も約14%で欧州連合(EU)ではギリシャに次いで悪い。相次ぐ選挙で景気対策の法案審議などに遅れが出るのは必至で、悪影響も懸念される。

 

同様の民意の分断は他の欧州諸国にもみられる。ドイツではメルケル首相が不安定な連立政権の運営を迫られているほか、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進する。

 

フランスでも極右政党の国民連合が、マクロン大統領の与党を抑えて5月の欧州議会選で第1党を獲得した。欧州各国の政治の不安定化は欧州統合の行方にも影を落としている。【9月24日 日経】

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民意が分断され、対立が強まったことの背景には、10年前のユーロ危機でバブルが崩壊したことから起因する後遺症的な怨念が国民に存在するとの指摘も。

 

****ポピュリズムの病根示す幽霊空港 怨念が国民を変えた 三井美奈****

見渡す限りの草原に、「幽霊空港」だけがあった。スペインの首都マドリードから南に160キロ。2012年に経営破綻したシウダレアル国際空港だ。

 

中をのぞくと、搭乗口は砂まみれ。遊歩道は空中で工事が止まったままで、なんとも不気味だ。南欧のまぶしい太陽の下、寒々とした風景が広がる。

 

10年前、欧州連合(EU)をユーロ危機が襲い、バブル景気に浮かれていたスペインやギリシャは一瞬で暗転した。幽霊空港は、その爪痕を生々しく残す。今月末の欧州議会選を前に、EUを覆うポピュリズム(大衆迎合主義)の病根を示す現場でもある。

 

1999年のユーロ導入後、ドイツやフランスの余剰資金が南欧に流入し、人口5000万人弱のスペインに10年で500万戸もの住宅が造られた。ゴルフ場、リゾートマンション、空港…。

 

バブル崩壊の「幽霊」は今も各地に残る。シウダレアル空港は一時、中国の投資会社に1万ユーロ(約120万円)で買収されそうになった。地元観光局の職員は「また新しい出資者が出てきたそうです。開港予定? 知りません」と話した。

 

ユーロ危機でEUは真っ先に、巨額債務を抱えた金融機関の保護に走った。経済全体のメルトダウンを防ぐ緊急措置だったが、痛みは各国の国民が背負った。スペインで若者の失業率は55%に達した。

 

スペイン経済は息を吹き返し、現在は2%超の安定成長を続ける。だが、政治への怨念は消えなかった。

 

先月の総選挙では「スペイン第一」を掲げる極右「ボックス」(VOX)が初めて国会に進出した。保革中道の2大政党制は完全に崩れ、主要5党体制になった。

 

「貧困層を守る」と訴える左派「ポデモス」、「清廉な政治」を掲げる右派シウダダノス、VOXの3新党は、いずれもユーロ危機後に台頭した。カタルーニャ自治州は中央政府の緊縮財政に反発し、独立運動に突っ走った。

 

マドリードのVOX集会に行き、若者や中産階級が多いことに驚いた。「極右支持=移民嫌いの労働者層」の思い込みは外れた。

 

カシミヤのコートを来た社長夫人、マリア・アズバルズさん(63)は中道右派「国民党」からくら替えした。「国を守るには、従来の生ぬるい政治ではだめ」と言う。大学生、ギエルモ・デルサズさん(19)は「EUで自己主張できる強い国にしたい」と訴えた。2大政党は緊縮財政で危機を克服したのに、全く評価されない。

 

5党分立で連立交渉は難航する。どんな政権が発足しても法案ごとに小党の協力を仰がねばならず、綱渡りの政権運営を迫られる。

 

2大政党制の凋落(ちょうらく)、小党分立が招く政権不安−。スペインで起きていることは程度の違いこそあれ、EU各国に共通する。「スペイン第一」「イタリア第一」というかけ声に国民が熱狂するのも、ユーロ危機に翻弄された恨みが深いからだ。「まず国民を守れ」という切実な叫びでもある。

 

EUは「9の年」に節目を迎えてきた。89年のベルリンの壁崩壊、99年の通貨統合、09年のユーロ危機。19年は英国のEU離脱騒ぎ、ポピュリズム旋風という試練の年になった。EU統合を進めてきた中道勢力はここで踏みとどまらないと、漂流を止められなくなる。【5月13日 産経】

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【再選挙でも状況は変わらない・・・との予測も】

再選挙で、こうした状況の解消ができるのか・・・冒頭記事には“サンチェス氏は18日、議会で「社会労働党がより多くの議席を獲得し、行き詰まりから抜け出すことを望む」と語っており”とありますが、どうも“結果は現状と同じではないか・・・”との選挙予測もあります。

 

前出【日経】は、“大手紙パイスが報じた18~20日実施の世論調査によると、11月の総選挙で社会労働党は132まで議席を伸ばし第1党の座を守るが、過半数には届かない見通し。各党の支持率に大きな変化はなく、再び連立交渉でもめる恐れが大きい。”とも。

 

サンチェス首相にとって、もっと厳しい予測も。

 

****スペインのやり直し総選挙、混迷解消できない見通し=世論調査****

世論調査によると、11月10日に行われるスペインのやり直し総選挙では、与党・社会労働党が再び過半数を確保できず、政治の混迷が続く見通しだ。

世論調査機関GAD3がABC紙の委託で実施した調査によると、社会労働党の下院(定数350)の予想獲得議席は121議席となり、前回4月の総選挙から2議席減らす見通し。

社会労働党が連立交渉を進めていた急進左派ポデモスも、前回から8議席減らすとみられている。

一方、右派勢力の獲得議席は合計150と、前回4月の総選挙から3議席増える見通し。ただ左派3政党の予想獲得議席は164と、右派勢力を上回る見通しだ。

調査は9月23─25日に1207人を対象に実施された。【9月26日 ロイター】

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スペイン政治の漂流は再選挙でも変わらないようにも見えますが、まあ、選挙はふたを開けてみないと・・・ということもありますので。

 

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