(8月31日、米ボストンで行われた「ストレートパレード」の参加者を先導した車。トランプ大統領の再選を支持し、メキシコとの国境の壁建設を訴えるメッセージが掲示された(上塚真由撮影)【9月1日 産経】)
【異性愛者のための行進「ストレートパレード」?】
最近は性的少数派のLGBTの人々によるデモは珍しくなくなっていますが、アメリカでも指折りのリベラルな都市とされるボストンで、異性愛者のための行進「ストレートパレード」が行われたそうです。
****米ボストンで「ストレートパレード」 「異性愛者が虐げられている」と訴え 参加者上回る数千人が抗議****
毎年開かれる性的少数者(LGBT)のパレードに対抗し、異性愛者のための行進「ストレートパレード」が8月31日、米ボストンで行われ、トランプ大統領の支持者を中心に約200人が参加した。
開催をめぐってはLGBTを侮辱する「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」と非難が殺到。多数の警察官が厳重な警備体制を敷く中、パレードの参加者をはるかに上回る数千人の抗議者が詰めかけた。
異性愛者のためのパレードを主催したのは、今年初めに設立された「スーパー・ハッピー・ファン・アメリカ」という団体。団体は設立の目的を「異性愛者の社会のため尊敬や結束、平等、尊厳を確立することを提唱する」と説明し、LGBTの権利が拡大する中、「異性愛者は虐げられている多数派だ」と訴える。
パレードはボストン中心部で正午から始まり、トランプ氏再選を支持し、同氏の発言である「壁を作れば、犯罪が減る」などのメッセージが貼り付けられた宣伝車が先導。参加者は「異性愛者であることはすばらしい」「正常を再び」などと書かれたプラカードを持って練り歩いた。
危険な極右思想を掲げたとしてフェイスブックのアカウントを閉鎖された同性愛者の編集者、マイロ・ヤノプルス氏がパレードの旗振り役として参加した。
パレードが進むと、数千人の抗議者が沿道で「ナチは去れ!」「恥を知れ!」「ボストンはあなたを嫌っている」などと罵倒。一部の抗議者が暴徒化し、警察官が催涙スプレーをかけて鎮圧する場面もあり、地元紙によるとこの日、数人が拘束されたという。
沿道からパレードに抗議した高校教師のホイットニー・ニールセンさん(33)は、「私は異性愛者として攻撃されたこともないし、差別されたことはない。なぜパレードが必要なのか。ばかげている。彼らは、とっぴな行動で注目を集めて社会の憎悪をあおりたいだけだ」と話した。
一方、他州からもパレードに参加した人は多く、ニューヨーク州に住むトランプ氏支持者のナディーン・コーエンさん(49)は「LGBTであることは米社会で特権のようになっている。反対に私たちは自由に発言できなくなり、居場所がなくなっている」と語った。
パレード後の集会も抗議者が取り囲み、「帰れ」と連呼。主催団体の代表、ジョン・ヒューゴ氏(56)は「異性愛者のパレードを許さないのは平等ではない。リベラルでないと拒絶される社会が問題だ」とし、「来年もパレードを続けたい」と語った。【9月1日 産経】
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同内容につき、別記事では以下のようにも。
****米ボストンで異性愛者のプライドパレード、反対派と怒鳴り合う場面も****
(中略)
この日は市庁舎前でストレート・プライドの参加者とカウンターデモ隊が相手の面前で互いに怒鳴り合ったり、コーヒーのカップや土を相手に投げつけたりする場面もあった。双方のデモには複数のグループの数百人が参加。いずれも、デモ自体は特に大きな暴力沙汰もなく行われた。
しかし、AFPのカメラマンによると、ストレート・プライドに反対していたカウンターデモ隊が、「ナチス」を警護したと警官らをののしり、「恥を知れ」とシュプレヒコールを上げた。さらに「人間の鎖」を作って警官らが通り抜けるのを妨げた。警察は催涙スプレーを噴射し、数人の身柄を拘束した。
ストレート・パレードは「スーパー・ハッピー・ファン・アメリカ」と称する団体が、米国のさまざまな都市で毎年行われる同性愛者のプライドパレードに対抗して開催した。主催者には、ボストンのLGBT(性的少数者)への嫌がらせへの嫌がらせを図る白人優位主義者という批判も受けている。
一方、ストレート・パレードへのカウンターデモを主催した一人、レイチェル・ドモンドさんは、「ボストンや全国に広がるこのような憎悪に抵抗するため」行動を起こしたと説明。
トランプ氏が権力の座に就いたことで、白人優位主義者らが「あのような言葉を公然と述べる権限を与えられた」と思ってしまったと指摘した。
米国各地では左派と白人ナショナリストの間で緊張が高まっており、トランプ氏の発言が過激思想をあおっているとの批判もある。 【9月1日AFP】
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LGBTの権利が近年認められるようになってきたとは言え、まだ様々な面で差別的な境遇に置かれており、それに抗議するLGBTのパレードというのはわかりますが、「ストレートパレード」なるものが何を求めてのものなのかわかりません。
今でも異性愛者は圧倒的多数派であり、そのことを理由に差別・迫害されているということもありません。
「LGBTであることは米社会で特権のようになっている。反対に私たちは自由に発言できなくなり、居場所がなくなっている」【産経】というのは、言い換えると「これまでのように自由気ままにLGBTを罵ることができなくなった。それが腹立たしい」ということのように理解できます。
「リベラルでないと拒絶される社会が問題だ」【産経】とのことですが、拒絶されているのはリベラルでないからではなく、その主張が差別的で攻撃的でヘイトに相当するからでしょう。
そして最近は、かつてはポリティカルコレクトネスから口にするのがタブーとされていたような、「差別的で攻撃的でヘイトに相当する言動」が大っぴらに口にできるようになっているように思われます。
そうした風潮を生みだしたのは、トランプ大統領の言動でしょう。
【トランプ政権下で進行する「揺り戻し」】
LGBTに関しても、これまでのLGBTを許容する社会的流れに抗して、政治的にはトランプ政権のもとで「揺り戻し」とも言えるような逆行が見られます。
****性別変更を不可能に、米政府が検討 「トランプ氏は公約破り」ワシントンポスト紙****
米国のトランプ政権が性別の変更を不可能にする新制度を検討していることが米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によって明らかになった。
厚生省がまとめた資料では、性別は「生まれ持った生殖器によって規定される」案が浮上していて、男性か女性のいずれかに限定される。
米国には心と体の性が一致しないトランスジェンダーが約140万人いるとされ、性的少数者(LGBT)の関連団体などが反発している。
■ワシントンポスト(米国)「トランプ氏は公約破り」
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は23日の社説で、性の定義を生まれつきの性別に限定する政策が実施されれば、「罪もない人々を傷つけることになる」と非難し、政策は「(トランスジェンダーの人々の)現実に即していない」と訴えた。
同紙はまず、性を定義することの難しさに言及し、「親が選んだ性別に適合せず、変更を望むケースもある」と指摘。国際スポーツの分野でも、遺伝子やホルモンレベルに基づいて科学的に正しい検査方法を模索してきたと紹介し、「遺伝子検査は、生物学的な性別に関する問題を解決するための信頼できる方法にはならない」と主張した。
また、政策の賛成派は、トランスジェンダーへの理解が欠如しているとも指摘。トランスジェンダーの人々は「浅薄な好み」ではなく、「深厚で本質的な自覚」によって自身の性のアイデンティティーについて考えていると強調した。
その上で、米社会で長年、否定されてきた同性愛や異人種間の結婚を挙げ、トランスジェンダーの政策が導入されれば、「再び社会から人々を疎外させることになる」と警告。
トランプ大統領は大統領選でLGBTのために戦うと訴えていたとし、「新たな公約破りが示されることにもなる」と批判した。
ニューヨーク・タイムズ紙は23日の社説で、中間選挙を前にトランプ氏が自らの支持層の歓心を買うため、移民問題などで過激な発言を繰り返していると指摘。トランスジェンダーの政策見直しもその一環とし「社会を二極化するゲームをやっている」と政治姿勢を批判した。
LGBTやリベラル層から反発が強まる中、保守系メディアのワシントン・エグザミナー(電子版)は22日の記事で「オバマ前政権の取り組みから後退したとしても、トランスジェンダーを『抹消』することにはつながらない」と反論した。(中略)【2018年10月29日 産経】
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トランプ政権が「揺り戻し」的な施策を進める背景には、トランプ大統領による保守派からの最高裁判事任命によって、法廷闘争に持ち込まれても勝てるとの認識もあるようです。
また、どこから手をつけるかについては、攻めやすいところから始めるという計算のもとで行われているとも指摘されています。
****なぜトランプは「LGBT排除」にここまで注力するのか まずはトランスジェンダーが標的に… ****
「トランスジェンダー否定」の衝撃
この報道(上記【産経】が紹介している米紙ニューヨーク・タイムズ報道)はすぐに反響を呼び、トランスジェンダーの人々と、その人権を守るために連帯する人々が、「#WontBeErased (私たちは消されない)」というハッシュタグを用いて、ツイッターなどのSNSで抗議する動きが起きた。この抗議には歌手のレディー・ガガさんなどの有名人も参加し、国を越えて声があがっている。
報道の翌日、トランプ大統領は、報道の内容が事実であることを認め、「現在、多くの異なる考え方があり、トランスジェンダーの尊重に関して多くの異なることが生じている」と語った。
そして、大統領選挙運動中に述べた「LGBTのコミュニティを守る」という約束との関係について尋ねられると、「私は、皆を守る。私は、私たちの国を守りたい」と述べている。
ニューヨークタイムズが、トランスジェンダー排除を煽っていると報じた保健福祉省には、トランプ大統領が、公民権局長に指名したロジャー・セベリーノ氏がいる。
彼は、このポストに就任する前から、このガイドラインのことも含めて、LGBTの権利を否定する発言を繰り返しており、LGBTの権利運動を進める団体から「過激な反LGBT活動家」と言われている人物で、今回の動きにも絡んでいると目されている。
トランプ政権下がスタートして間も無く、LGBTに関する否定的な政策として表面化したものの一つとして、高齢者に対する調査などから、以前は含まれていた指向性別(性的指向)や性別アイデンティティに関する内容が削除された問題があるが、これらは、米国保健福祉省下で実施されてきたものであった。
そして、それと同様に、政権発足後、真っ先にLGBT関係で出された方針が、タイトルナインにトランスジェンダーの学生を含む前提としてつくられたオバマ政権下のガイドラインの撤回がある。
一見、恣意的にも見えるトランスジェンダーの人たちを抑圧する施策を繰り出しているようにも見えるが、調査統計からの排除やこのガイドラインの撤回から始めたのには、(当然ながら)周到な計算がある。
利用された「トイレ問題」
オバマ政権下でだされたガイドラインは、学生の性別移行をどのように扱っていくべきか、プライバシーをどう守るかといった、包括的なサポートを含んだ内容となっている。しかし、世間的には、「トイレやロッカールーム使用の問題」に議論が集中してしまった。(中略)
つまり、トランプ政権は、まず、まだ世間で十分に理解されていないところから手をつけたということだ。しかも、ガイドラインは法律ではないため、撤回もしやすい。(中略)
おそらく、トランプ政権とそれを強く支持している人には、同性婚を認めた結婚の平等化を覆したいと考えている人たちも多いはずだが、連邦裁判所での判断が出た上に、世論調査でも、それを認める人たちが多く、その差は開く一方である(2018年のGallupの調査では、賛成67%、反対31%)。
長らく人工妊娠中絶と同性婚が、民主党と共和党の政策の対立軸となってきたように(そして、その中で、共和党が敗北してきたように)、今、トランスジェンダーの人権をめぐる問題が対立軸となりつつあるようにも見える。
だが、この性別の狭義化、固定化は、国際社会における性別に関する人権保護の流れに反すると同時に、米国内の具体的な政策で言えば、まず、オバマ政権下で進められた医療、学校などでのトランスジェンダーの人たちの権利を反故にするものである。
そして、トランプ政権下でトランスジェンダーを主なターゲットとしながら、LGBTを排除していく一連の流れの中にある。(中略)
そして、これらの後退に抵抗し、LGBTに平等な権利が与えられることを求めたい人たちにとって、とてもやっかいなのは、トランプ大統領が二人の連邦最高裁判所判事を指名することに成功し、「保守派」と目される判事が過半数になったことだ。
そのため、連邦最高裁まで争いが持ち込まれた場合、トランプ政権の思惑通りの結果が出る可能性が高い。米国の最高裁判事は終身雇用であり、その判決の持つ力は絶大だ。(後略)【2018年11月6日 砂川 秀樹氏 講談社】
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今年6月には、在外の大使館や領事館などで、LGBTのシンボルカラーである虹色の旗を掲揚することは認めない方針も。
****米政権、在外公館の虹色旗認めず LGBTのシンボルカラー****
トランプ米政権が、性的少数者(LGBT)の権利と尊厳を訴える月間中の今月、在外の大使館や領事館などで、シンボルカラーである虹色の旗を掲揚することは認めないと通知した。米NBCテレビなどが10日までに報じた。オバマ前政権の容認姿勢を一転させた。
トランプ大統領は一方でLGBTとの連帯を訴え、政権として同性愛を犯罪と見なさない国際的なキャンペーンを始めたとツイッターに書き込み、人権団体などは「偽善だ」と反発を強めている。
米紙ワシントン・ポストによると、オバマ前政権は2011年に大使館などによる虹色の旗の掲揚を容認した。【6月11日 共同】
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それでも世界的に見れば、LGBTが犯罪扱いされるようなイスラム諸国などや、ロシアにおける、LGBTの人々に対する暴力をゲームに変え、遊び感覚でLGBTの人々を“狩る”ことを推奨する自警団的集団の出現などに比べればアメリカの現状はまだましとも言えます。
ロシアの危険な状況や、逆に同性婚をアジアで初めて法制化した台湾の取り組みなども触れたかったのですが、長くなるので、また別機会に。