孤帆の遠影碧空に尽き

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減少する脱北者  難しい韓国社会への適応 若い脱北者からは人気ユーチューバーも

2019-09-22 21:49:49 | 東アジア

(【【625日 金 明中氏 ニッセイ基礎研究所】】)


【金正恩政権成立以降、減少傾向の韓国入国「脱北者」】

北朝鮮から韓国に入国する「脱北者」は、金正恩政権成立以降大きく減少しています。

 

****脱北者が減少傾向に、その理由は?*****

2012年以降、脱北者が減少傾向に

最近、韓国に入国する脱北者の数(以下、脱北者数)が大きく減少している。脱北者数は2009年に2,914人でピークを迎えた以降、減少し始め2017年にはピーク時の半分以下である1,127人まで減少した。特に、2012年以降脱北者数は急減している。

韓国で脱北者に関する統計を公表し始めたのは1993年からである。韓国政府の資料によると、1993年の脱北者数は8人に過ぎなかったが、1999年以降急増し始め、2002年からは年間1,000人規模まで、2006年からは年間2000人規模まで増加した。

 

最初の脱北者は軍人が多く、軍事境界線(38度線)や海を越えて韓国に入るケースが多かった。しかしながら、近年の脱北者は、留学生、外交官、貿易従事者、海外派遣労働者、高級官僚などと多様化している。

 

つまり、最近の脱北者は以前と比べて中流階級以上の者が多くなったと言える。また、脱北の経路も第3(中国やロシア)を経由した入国が90%以上を占めている。

90
年代後半から2010年前後にかけて脱北者が増加した最も大きな理由としては、北朝鮮の経済状況の悪化と食糧不足が挙げられる。

 

70年代と80年代の北朝鮮の主要貿易相手国は、旧ソ連と東ヨーロッパの社会主義国家であった。しかしながら、1991年に旧ソ連が崩壊し、東ヨーロッパの社会主義国家が市場経済に体制を転換することにより、対外ルートが断絶され貿易が難しくなった。

 

その結果、1990年から1998年までの経済成長率は9年連続でマイナスを記録し、一人当たりGNI1990年の1,146ドル(アメリカドル)から1998年には573ドルまで減少した。

 

さらに、95年以降続いた北朝鮮での自然災害は食糧供給をさらに悪化させ、飢餓者が続出した。いわゆる「苦難の行軍1」時代の餓死者数は、少なくは23万人から多くは300万人と推計されている。

 

経済状況が悪化し、食糧不足が続く中で、食糧や自由を求め、命がけで脱北の道を選択する人々が増えることになったのである。ある調査によると脱北の最も大きな理由としては「食糧不足と経済難(50.7%)」が、次いで「自由を求めて(31.2%)」、「北朝鮮の体制が嫌で(26.2%)」が挙げられた。

 

脱北者が減少した理由は?

では、2012年以降、脱北者数が急減した理由はどこにあるだろうか。その最も大きな理由として考えられるのが政権交代である。

 

201112月に金正日元総書記がなくなったことにより、金正日元総書記の三男である金正恩氏が委員長に就任し、金正恩政権が誕生した。金正恩政権は脱北者が増加すると、政権を維持することが難しいと判断し、中国との国境に対する監視体制を強化した。

 

脱北を防止するために国境付近の警備員の数を増やし、脱北者や脱北者を見逃した国境警備隊に対する処罰基準を強化した。

 

脱北は国境警備隊と脱北を助けるブローカーが結託することにより行われるケースが多かったが、金正恩政権以降、国境統制が強化されることになり、両者の結託が難しくなったのである。その結果、国境警備隊と脱北を助けるブローカーなどに渡される脱北費用は1200300万ウォンから1,000万ウォンまで釣り上げられたそうだ。

また、過去には脱北を試みた者が脱北に失敗し逮捕されれば、労働鍛錬隊や教化所などの刑務所に送られるのが一般的だったものの、最近は政治犯が収容される管理所、いわゆる強制収容所に送られているそうだ。

 

強制収容所は最も隔絶された場所に位置しており、ここに収容されている政治犯などは炭鉱労働、トンネル工事など最も危険な労働に従事させられている。北朝鮮では強制収容所は収容されると二度と生きて出てこられないと言われるほど恐怖の対象である。脱北費用の上昇と処罰の強化等の複合的要因が脱北者の減少に影響を与えた可能性が高い。

図表2(冒頭)は2002年から韓国に入国する脱北者の推移を示している。

 

一つ特徴的なことは、最近、女性脱北者の増加が目立っていることである。全脱北者に占める女性の割合は2002年の55.3%から2017年には83.3%まで増加した。

 

このように女性の割合が大きく増加している理由としては、女性の方が職場に拘束されている男性より移動の自由度が高い点が挙げられる。つまり、食糧などを求めて、あるいは生活費を稼ぐために中国などに密入国した女性が、北朝鮮の現実を理解して、そのまま帰らず脱北の道を選択したことが女性脱北者の増加に繋がっている。

 

結びに代えて

韓国に入国する脱北者の数は大きく減少したものの、今後も脱北者が継続して発生することが予想される。韓国政府は脱北者に対して、韓国への定着費や住居費などを支給し、職業訓練をさせるなど継続的に支援を実施している。

 

しかしながら、若者を中心に韓国での生活に適応できないケースが多いのが現実である。入学しても自分の出身地やアイデンティティを隠さなければならないストレスなどで学校生活に適応できないケースもあり、韓国の学生との教育水準(特に英語や数学)に差を感じて学校を辞めるケースもある。

 

韓国政府は10代の若者が学校生活に適応し、卒業できるように代案学校(フリースクール)を設立するなど対応に追われている。

韓国政府にとって、今後若者を含めた脱北者が韓国社会に溶け込むような政策を実施することが何より大事である。 【625日 金 明中氏 ニッセイ基礎研究所】

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上記記事の数字を補足すると、“2018年に北朝鮮を脱出した住民(脱北者)は1137人で3年前に比べ108%減少したが、年齢層をみると50代と60歳以上はむしろ増加した。”【913日 ソウル聯合ニュース】ということで、全体数の推移は変わっていないようです。

 

【韓国社会への適応が困難な脱北者も】

脱北者が減少傾向にある理由として、上記記事は、金正恩政権による規制の強化をあげていますが、記事の最後にもあるように、脱北者が韓国で生活することの難しさが北朝鮮内で知られるようになったこともあるのではとも指摘されています。

 

“李議員は「脱北者の減少に関し正確な原因は分析されていないが、北で金正恩(キム・ジョンウン)政権が発足した後、国防警備隊による警備が強化され、中国側も監視を徹底したためという指摘がある」と伝えた。また、韓国に逃れた脱北者が社会に適応できないという問題が北朝鮮に伝わり、脱北者減少につながったとの報道もあるとした。”【同上 ソウル聯合ニュース】

 

もちろん韓国側が何も配慮していない訳でもなく、脱北者の生活安定に向けた教育なども行われています。

 

****金一族称賛教育で基礎知識欠如、脱北者らに「再教育」 韓国****

北朝鮮から脱出したリ・グァンミョンさん(31)が韓国に来て最初にしたことは、学校へ戻ることだった。北朝鮮で教育を終えてから12年がたっていた。

 

リさんは韓国ソウルのウリドゥル学校へ通う数少ない成人の一人だ。この学校では、年を取っていたり、学業に遅れがあったりするためしかるべき公立学校へ通うことができない脱北者らが学んでいる。

 

昨年、韓国に到着してから半年後に学校へ通い始めたリさんは、「北で教育を受けて卒業もしたが、あまり知識がない」と語った。

 

韓国には特別な目的のために設立された学校が7校あり、そのうちの一つであるウリドゥル学校には約60人が在籍している。同校のユン・ドンジュ校長は、ここでは韓国での生活を「左右する」教育が無償で脱北者に提供されていると話し、「少なくとも文化、言語、社会、歴史の再教育は不可欠だ」と続けた。

 

北朝鮮は、自国の識字率は100%で、無償の義務教育が社会主義体制の優位性を示していると豪語する。だが、貧困にあえぐ北朝鮮から逃れて来る人々は、基本的な知識を欠いているため韓国で苦労することが多い。

 

脱北者らによると、北朝鮮の学校では指導者の称賛に多くの時間が割かれている他、極度の貧困や国外への脱出によって教育が中断されることも多い。また、1990年代半ばに国家経済が破綻し、飢饉(ききん)で数十万の犠牲者が出た時、多くの子どもが教育を断念せざるを得なかったという。

 

北朝鮮の教育カリキュラムでは、北朝鮮を支配する金一族に焦点を当てた革命についての授業が最重要科目の一つとなっている。(後略)【94日 AFP】

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しかし、悲惨な事例も。

 

****脱北した母親と息子が餓死か、ソウル市内で抗議デモ****

 韓国の首都ソウルのアパートで北朝鮮から脱出した女性と息子が餓死したとみられるケースをめぐり、文在寅(ムンジェイン)大統領に謝罪を求める脱北者数百人らが21日、同市内でデモを実施した。

 

デモ隊は当局が脱北者の福祉を無視していると主張し、死亡したハン・ソンオクさんを「返せ」と唱えて行進した。

42歳のハンさんと6歳の息子は、今年7月に遺体で発見された。数カ月前から水道代を滞納していたため、様子を見に行った検針員が異臭に気付いて警察に通報した。

 

部屋の冷蔵庫が空になっていたことから、警察は餓死の可能性があるとの見方を示した。しかし遺体の腐敗が進んでいたため、死因は特定できなかった。

 

韓国では母子の死を受けて、徹底調査や再発防止策を求める声が高まった。韓国統一省は今月、謝罪のコメントとともに対応策を発表。韓国にいる脱北者全員の現状を調査し、政府機関同士の情報共有を強化するなどの計画を示したが、脱北者団体はさらなる改善を要求している。

 

ハンさんは2007年に北朝鮮を脱出した。脱北者仲間としてハンさんを長年支援していた活動家によると、中国に住む韓国系中国人の夫に売り渡されたが、その後離婚し、息子を連れて昨年ソウルに移り住んだ。息子にてんかんがあって目を離せず、働くことができないとして生活保護を申請したものの、書類の不備を理由に却下されていたという。

 

韓国は1998年以降、計3万2000人の脱北者を迎え入れてきた。当局は脱北者に一時金や生活保護を支給しているが、金額が不十分との指摘もある。子育てなどのため仕事に就けない人が多く、昨年の調査によると脱北者の失業率は一般市民より2.9%高かった。【922日 CNN】

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【経由地中国でセックスワークを強要される女性脱北者 その客は韓国人】

以上は韓国に入国した脱北者の話ですが、北朝鮮を脱出したものの、悪質ブローカーの手によって、中国でセックスワークを強要される女性も多いようです。その客の大半が韓国人という指摘も。

 

****「客の大半は韓国人」中国の“ネット性売買”で北朝鮮女性が被害に****

米ニューヨーク・タイムズは13日、中国で脱北した北朝鮮の女性たちが望まないセックスワークを強要され苦しんでいる実態を報じた。これに対し国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「中国国内の脱北女性たちがうけている残酷な人権侵害の一例だ」と指摘したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

 

ニューヨーク・タイムズによると、イ・ジニ(仮名)という脱北女性は中国東北部地域のアパートの一室で一週間、PCの前に座り、正午から翌日午前5時までビデオカメラの前で淫らな行為をさせられ、その様子をネットを通じて客に見せることを強要された。いわゆる「アダルトビデオチャット」だ。

 

北朝鮮から中国に逃げ出した脱北女性が、人身売買の犠牲となりセックスワークや「アダルトビデオチャット」を強いられる事例はこれまでも多数報告されている。

 

イさんは2年前、中国でレストランの従業員として働くと聞いて脱北したが、中国人のブローカーに引っかかり人身売買の犠牲となってしまった。同紙に証言したもう一人の女性、キム・エナ(仮名)さんは中国でマツタケを採る仕事と聞いて越境したが、中国人のブローカーに引っかかってしまった。

 

彼女たちには一定額のノルマが与えられ、それを達成しない限り、食事も取られず体調が悪くてもPCの前で、淫らな行為を行わなければならないと明かす。顧客の大半は同じ言語を使う韓国人男性だという。

 

これまで多くの人権団体が、毎年何千人もの北朝鮮女性たちが人身売買の犠牲となり、中国の田舎で結婚していない中国人男性に売られたり、売春やサイバーセックスを強要されていると指摘している。(中略)

 

ニューヨークタイムズに紹介された2人の脱北女性は、セックスワークを強要されていたが、北朝鮮へ帰ることは考えたことがなかったという。韓国へ行ってお金を稼ぎ、北朝鮮に残っている家族を脱北させることが彼女たちの目的だったからだ。

 

彼女たちは、運良く韓国のキリスト教の牧師に助けられ、ブローカーから逃れて韓国に入国することができ、自分たちの悲惨な体験を証言した。しかし多くの女性の心の傷は深い。韓国に在住する脱北女性のキム・ジヘさん(仮名)は、次のように述べた。

 

「中国に脱北した女性たちはパスポートはおろか身分証を持てない。だから、否が応でも中国にいなければならない。頼る人もおらず、その境遇から抜け出すこともできない。生きていかなければならないので仕方がなく、そうする(セックスワークに従事)しかない。私にもそのような境遇にいた知人がいるが、そうした話は口にしたがらない。女性だからその気持ちがわかる」(中略)

 

韓国の文在寅政権は金正恩体制との対話には積極的だが、脱北者らの人権問題については及び腰だ。それが事実でないと反論したいならば、こうしたビデオチャットへの韓国からの接続を徹底的に遮断することから、具体的な行動を始めてはどうだろうか。【922日 デイリーNKジャパン

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【若い脱北者の中には、北朝鮮での生活・脱北体験を活用して人気ユーチューバーになる人も】

もちろん、なにごとにおいても、うまく時流に乗れる人も存在します。

 

韓国の脱北者でも、若い人のなかには、その体験をうまく活用している人々もいるようです。

適応力の差でしょうが、北朝鮮での体験も高齢層とは異なるようです。

 

****若い脱北者、続々と人気ユーチューバーに ****

北朝鮮の日常を包み隠さず語る動画、注目集める

 

11年前に脱北したホ・ジュンさん(27)は韓国でより良い生活を求め、熱心に勉強し、同国で最も誉れ高い大学への入学資格を勝ち取った。

 

だが、ホさんの目指す先は、輝かしい学歴が不要な職業へと変わった。人気ユーチューバーだ。

 

ホさんがユーチューブに投稿する動画には、「共産主義者、スパイ、あるいは反逆者」である自分を道行く人々がハグできるか試す内容だったり、脱北者がデートアプリを試したりする様子などがある。

 

韓国の人気ボーイズグループ「BTS(防弾少年団)」のミュージックビデオを見てリアクションする自分自身の姿も撮影した。チャンネル登録者数は最近、10万人を突破した。

 

「われわれ脱北者は関心を集めるという点で優位性がある」。ホさんは広告収入で月に数千ドルを稼いでいると話す。ソウル大学での勉学を中断するのに十分な収入だ。(中略)

 

K-POPアイドルのような容姿のカン・ナラさん(22)は、大学のキャンパスを歩いていると周囲が気づくほどの有名人だ。地元メディアが「北朝鮮美人」と呼ぶカンさんは、北朝鮮を題材にした映画に出てくるアクセントを皮肉る動画や美容系動画を専門とする。

 

「セレブになれてうれしい」とカンさんは話す。

 

こうした動画を見るのは主に韓国人だ。韓国の児童や生徒が反共産主義の詩やポスターを作り、全国コンクールで競い合ったのはそれほど昔の話ではない。だがこのところは南北の融和ムードが高まり、脱北者や金正恩体制への関心が広がっている。

 

自由を求めて

一方、「暴露」路線のユーチューバーに当惑する年上の脱北者もいる。彼らは伝統的に注目を浴びるのを避けてきたからだ。率直に発言する者はほぼおらず、もし声を上げても、体制批判の一環として悲惨な逃走劇を語るなどに徹していた。

 

これに対し、若い世代は北朝鮮に対する見方が比較的穏やかだと年上の脱北者は話す。推定200万~300万人が食糧難で死亡した1990年代の大飢饉などを経験していないからだという。

 

「もっと重要な問題に関心を向けてほしいと思う。だが彼らに強制することはできない」とソ・ジェピョンさん(49)は話す。20年近く前に脱北したソさんは現在、大規模な脱北者団体のリーダーを務めている。

 

韓国統一省によると、195053年の朝鮮戦争の後、北朝鮮から約32000人が韓国に逃げてきた。だが脱北の理由は様変わりしている。韓国政府が委託した調査によると、わずか7年前には主な動機が食糧難と経済的困窮だった。現在、一番に挙げられるのは自由を求めるためだ。(中略)

 

チャンネル登録者が10万人に達した(冒頭紹介の)ホさんには、ユーチューブから「銀の盾」が贈られる。あと1学期で大学卒業だが、企業などへの就職を急ぐつもりはないと語る。

 

「ユーチューブのチャンネルで十分な稼ぎがあるのに、企業で働く理由があるだろうか」。ソウル中心街のシックなワンルームマンションに住むホさんはこう話す。

 

人気が衰えない限り、今後もユーチューブ動画を作り続けるつもりだ。「北朝鮮出身という経歴を恥じることはない。それが私という人間だ」【829日 WSJ】

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適応力も、体験も様々ですが、上記ホさんのような成功事例は例外的な部類ではないでしょうか。

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