孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  虐待も横行する外国での家政婦労働 それでも外国に出ざるを得ない国内事情

2018-02-20 22:19:16 | 東南アジア

(クウェート市で、フィリピンから到着したばかりの女性たちが配属先の決定を待つ。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2014年1月号】)

海外出稼ぎ労働者からの送金は国内総生産(GDP)の1割に相当
国内に十分な就業機会がないフィリピンでは、女性のメイド(家政婦)、男性の建設業など、外国への出稼ぎが重要な収入源となっています。こうした海外で働く者からの国内への送金は、GDPの1割にもなるとのことです。

下記はかなり古い記事ですが、状況は現在とあまり変わらないでしょう。

****フィリピン人の出稼ぎ 送金額、GDPの1割 ****
フィリピン政府によると2013年末時点で同国人口の1割の約1023万人(永住者を含む)が海外で暮らす。渡航先は米国が353万人と最も多く、中東が248万人で続く。

フィリピン人は公用語の英語が堪能で、世界中で看護師や技師、船員、ホテル従業員などとして働く。米ホワイトハウスの料理長が比人女性であることも知られている。日本の商船会社の乗組員の7割近くは比人で、日本郵船は現地に商船大を設立したほどだ。
 
こうした人たちは「OFW(オーバーシーズ・フィリピーノ・ワーカーズ)」と呼ばれ、首都マニラの国際空港には専用の出入り口まである。

OFWからの送金は国内消費に直結し、経済成長を支える。比中央銀行によると14年の送金額は前年比6%増の243億4800万ドル(約2兆9200億円)。国内総生産(GDP)の1割に相当する。
 
フィリピンは国民の平均年齢が23歳と若い。人口増に見合った就業機会を国内で提供できていなかったことがOFW増加の背景にあった。

優秀な人材が流出したり、家政婦として働く女性が虐待される事件が後を絶たないといった負の側面も無視できなかった。
 
経済成長に伴い「貧困層の出稼ぎ」の図式は変わりつつある。渡航費を自分で負担できる中間層が、より収入の高い仕事を求めて渡航する例が増えている。

一方で家族と離ればなれの暮らしを敬遠する風潮も出ており、在外比人の数は12年末の1048万人をピークに漸減傾向にある。【2016年1月4日 日経】
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ドゥテルテ大統領「アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、ごみを食べさせている」】
“経済成長に伴い「貧困層の出稼ぎ」の図式は変わりつつある”とは言え、未だ、そうした面が色濃く残っているのも事実でしょう。

そして上記記事が指摘している、家政婦として働く女性への虐待・搾取という“負の側面”がしばしば国際問題ともなります。

家政婦労働は家庭内で行われるため、虐待等の問題が表面化しにくいこと、主な出稼ぎ先である中東において、“アジア女性蔑視”とも思えるような風潮が見られることなども、そうした虐待の背景にあると推察されます。

こうした出稼ぎ労働が多いのはフィリピンだけでなく、インドネシアでもしばしば同様な問題が表面化して国際問題ともなっています。

2013年1月10日ブログ“サウジアラビア 繰り返されるアジア人出稼ぎメイドを巡るトラブル 背景に差別意識も

また、出稼ぎ先はアメリカ・中東だけでなく、マレーシア(特に、類似言語のインドネシアからの出稼ぎが多い)、台湾、香港、シンガポールなど、近隣アジア諸国でも多くが働いており、問題も起きています。

2012年11月9日ブログ“インドネシア メイド問題で高まる反マレーシア感情 パプア独立問題への暴力的対応

問題の一方で、家政婦労働受け入れ国では、共働きを前提にした市民生活や介護などを支える重要なファクターともなっています。

現在問題となっているのは、フィリピン女性の中東クウェートでの虐待・レイプです。

****比大統領、中東でのメイド就労禁止を示唆 「レイプ事件横行」受け****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は24日、中東クウェートでフィリピン人の家庭内労働者たちがレイプされているとして、自国民女性がメイドとして中東地域で就労することを禁止する方針を示唆した。
 
中東で就労しているフィリピン人は200万人以上。その多くがメイドとして働いており、家族への送金によりフィリピン経済を下支えしている。
 
しかし、クウェートおいて虐待や搾取のまん延、および複数の死亡事例が報告されたことを受け、ドゥテルテ氏は先週、自国民に対して就労を目的とした自国民のクウェートへの渡航を禁止した。ただ、すでに同地で就労している労働者は対象外だという。
 
ドゥテルテ氏は首脳会議出席のためインドに向かう直前、怒った表情で「また一つ女性に関する事件があった。フィリピン人女性労働者が向こうでレイプされ、自殺を図った。もう止めるつもり、禁止するつもりだ」と語った。
 
また、ドゥテルテ氏は「クウェートは同盟国だから、これについては率直に言わせてくれ」と述べ、「お願いだから、中東の他の国のためにも何とかしてほしい」「わが国の人々を人間として、尊厳を持って扱ってくれないか?」と述べた。
 
ドゥテルテ氏は先週、フィリピン人女性4人が過去数か月の間に死亡したことを明らかにしていた。自殺とみられるという。【1月24日 AFP】
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特にフィリピン国民、ドゥテルテ大統領の怒りを掻き立てたのが、フィリピン女性メイドの遺体が1年以上冷蔵庫の中に押し込められて放置されていたという事件。

****クウェートで出稼ぎのフィリピン人女性、冷凍庫で発見 無言の帰国****
クウェートでメイドとして働いていたフィリピン人女性が今月、冷凍庫内に押し込まれた状態で発見され、16日に無言の帰国をした。
 
ジョアンナ・デマフェリスさんは、レバノン人男性とシリア人女性の夫婦のメイドとして働いていた。雇用主の夫婦は2016年から消息を絶っている。
 
首都マニラの空港で待ち受けた遺族は、輸送機から降ろされたデマフェリスさんのひつぎに取りすがって号泣した。デマフェリスさんは生前、両親と一番年下のきょうだいを助けたい一心で故郷を離れるのだと語っていたという。
 
事件はフィリピンとクウェートの外交問題に発展。激怒したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、ごみを食べさせていると非難した。
 
さらにフィリピン政府はクウェートにおける自国民の新規就労の全面禁止を発表するとともに、数百人を飛行機で帰国させた。この動きは中東諸国の反発を招いている。
 
当局によると、クウェートで出稼ぎするフィリピン人の数は25万2000人に上っており、その多くがメイドとして働いている。クウェートでは家事労働者には一般の労働法が適用されておらず、虐待や搾取の被害を訴えるフィリピン人労働者が後を絶たない。【2月16日 AFP】
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ドゥテルテ大統領は「彼・彼女らの尊厳と基本的人権を重んじて欲しい。危害を与えないで欲しい」とも。

****ドゥテルテ大統領、クウェートへのOFWsの派遣を禁止****
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、虐待やそれによる死亡のケースが増えていることから、海外フィリピン人労働者(以下、OFWs)をクウェートに派遣することを禁止にした。(中略)

大統領は、「フィリピン人は誰に対しても、どこででも、奴隷ではない」と強調し、「私達は労働者への特別なケアや特権を求めているわけではない。ただ彼/彼女らの尊厳と基本的人権を重んじて欲しい。危害を与えないで欲しい。お願いします」と述べた。

記録によると、2016年には82件のOFW死亡のケースがあり、昨年は103件であった。現在クウェートでは約262,000人のOFWsが働いており、そのうち170,000人が家政婦として働いている。

先月、大統領がクウェートでのOFWsへの虐待に対して懸念を示した後、 Silvestre Bello III労働長官は、フィリピン海外雇用庁に、クウェートへの労働者派遣の手続きを止めるよう指示をだした。

大統領は、一連の労働者の死についてクウェート政府と話し合いをする予定だ。【2月13日 DAVAWATCH】
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麻薬犯罪撲滅を目指すドゥテルテ大統領の「麻薬戦争」の取り組みによって「数千人の人々が違法薬物の使用や取引への関与を理由に殺害された」として超法規的な殺害を問題視する国際刑事裁判所(ICC)が、国際法に違反する過剰な弾圧を行っている恐れがあるとして、予備的な調査に着手すると発表していますが、そのドゥテルテ大統領が“尊厳と基本的人権”を訴えるのもいささか・・・という感もありますが、今日はその件はパスします。

【「仕事が見つかる保証もなく帰国するのは本当に恐ろしい。クウェートでは何があっても、何かしら仕事はありました。」】
家政婦女性労働者への虐待・搾取が許されない行為であることは当然ですが、一方で、フィリピン国内に収入を得る機会がない人々は、多少の危険は承知のうえで、海外での出稼ぎ労働をせざるを得ない・・・という現実もあります。

そういう貧困層にとっては、出稼ぎ禁止令は海外でのトラブル以上に絶望をもたらすものともなります。

****虐待か無職か フィリピン人出稼ぎ労働者に突き付けられる究極の選択****
クウェートでメイドとして働いていたフィリピン人女性が殺害された事件をきっかけに、同国で家事労働をしていた多数の女性たちがフィリピンの首都マニラに相次いで帰国している。

彼女のたちの多くは雇用主による虐待や暴力を経験しているが、それでも再び国外で働くリスクを負う覚悟をしている。

自国の家族を養う必要性が、時として劣悪な環境やクウェート警察の目をかいくぐりながら生活することの危険性を上回っているからだ。
 
富裕国クウェートで5年近く働いたというマリッサ・ダロットさんは、「雇用主の母親に暴力を振るわれました。厚底の靴で殴られ、体にあざができましたが、それでもとどまりました」と語った。

「子どもたちが学校に通っている間は、帰国せずに働き続けたかったんです」と話すダロットさんは、結局先週末に帰国することに決めた。
 
国外で働くフィリピン人労働者は約1000万人。その職業はさまざまだが、中央銀行によると彼らが国に送金した金額は去年だけで計280億ドル(約3兆円)を上回り、フィリピン経済の屋台骨となっている。
 
クウェートで家事労働をする人々の環境をめぐる問題は、フィリピン人のジョアンナ・デマフェリスさんが遺体となって冷凍庫から発見されたことによって浮き彫りにされた。
 
激怒したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、アラブ人らは雇ったフィリピン人女性らを日常的にレイプし、毎日21時間働かせ、残飯を食べさせていると非難した。
 
クウェートで働くフィリピン人労働者は約25万2000人。多くはメイドとして雇われており、虐待や搾取が横行しているという報告もある。
 
ドゥテルテ大統領は、自国民に対して、就労を目的としたクウェートへの渡航を禁止した。すでに同地で就労している労働者を法的に保護する手立ては、現在閣僚らが検討している。また、クウェートからの出国を希望する家事労働者には無料の航空券を手配している。

■「つらい生活待っていても国外で働きたい」
先週末に帰国したミシェル・オベデンシオさんも、雇用主から暴力を受けた一人だ。雇用主の下で2年耐えた後に逃げ出し、労働許可のないまま美容室で働いた。警察の目を逃れながらの不法就労だったが、労働環境は改善したという。
 
オベデンシオさんはAFPの取材に対して、6年の間に経験した国外でのつらい生活とリスクを鑑みても、機会があればまた出稼ぎに出ると話した。

「もしここ(フィリピン)で安定した仕事が見つからず、国外で私を雇ってくれる人がいるとしたら、私は戻るつもりです。学校に通っている子どもが3人いて、一番上は大学で勉強しています。夫は無職なので、私が国外に出る努力をしないといけません。クウェートでなくてもいいんです」
 
フィリピン政府によると、今回の本国帰還プログラムによってこれまでに約1700人が帰国している。その一部は、クウェート政府が2月22日までに帰国する不法就労者は罪に問わないという方針を発表したことで、帰国を決断したという。
 
しかし多くの労働者はほぼ身一つで帰って来た。AFPがマニラで取材した女性の多くは、貯金は全くないと語った。何人かの月収はわずか80クウェート・ディナール(約2万8000円)ほどで、それらは全て家族の家計と教育費のために本国に送金されていた。

■スキル要する技術職でもフィリピンでは月収10万円
政府の資料によると、フィリピンでは、コンピューターエンジニアのようにスキルを必要とする仕事でも4万9300ペソ(約10万円)ほどの月収しか得られない。そのため労働者らは自国では得られない額の給料に魅力を感じている。
 
出稼ぎ労働者らは経済に貢献するため、国を支える英雄としてたたえられる。その一方で、彼らが他国の出稼ぎ先で受ける虐待は、頻繁に政治問題として議題に上がる。
 
ロレザ・タグルさんは、クウェートでは雇用主から超過労働を強いられ、食べ物を十分に与えてもらえなかったと語る。彼女はフィリピンで待つ4人の子どもと、収入が少ない夫を支えるため、5年間、レストランで不法就労していた。
 
しかし帰国してからの先の見えない将来の話をすると、タグルさんの目にはみるみる涙がたまっていった。

「仕事が見つかる保証もなく帰国するのは本当に恐ろしい。クウェートでは何があっても、たとえ警察に捕まる可能性があっても、何かしら仕事はありました。ここは、そんな心配はないかもしれないけれど、その代わり無職になるかもしれないんです」【2月20日 AFP】
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クウェートでの虐待・搾取を非難・罵るのも道理ですが、そうした危険な労働を余儀なくさせている国内経済状況の改善が大統領に求められる最大の課題です。
ドゥテルテ大統領は「皆さんが帰国して快適に暮らせるよう、魂を悪魔に売ってでも財源を調達する」とも。“魂を悪魔に売る”なかには、南シナ海での資源開発のために中国と合同で鉱物探査を行うことなどもあるのかも。


(海外で家政婦になる資格を得るため、研修を受ける女性たち。彼女たちにとって裕福な国で働くのは、母国より高い給料が魅力だが、一方で不満も感じさせる。たいていの場合、母国で教師や看護師をするよりも、海外でベビーシッターをするほうが多く稼げるからだ。【ナショナル ジオグラフィック日本版 2014年1月号】)

これまでのフィリピン・インドネシアの措置からして、問題が起きて出された出稼ぎ禁止令は、ほとぼりがさめると解除される・・・といった具合でしょう。そうせざるを得ない国内現実がありますので。

外国人家政婦を安価に雇うのは“奴隷”労働か?】
日本は、看護師・介護士といった専門職は別にして、途上国からの家政婦のような労働者の受け入れは行っていません。

家政婦労働を受け入れれば、介護の面や、女性の就労支援に役立つところでしょうが、そもそも外国人労働者への強い拒否感が日本には存在します。

また、虐待は論外としても、途上国労働者を安い賃金で雇用することに“搾取”であるとのうしろめたさ・批判もあります。

そうした日本の外国人家政婦労働への意識に関し、外国人家政婦を利用することを前提に成立しているシンガポールで生活している者からは、強い反論もあります。

シンガポールのメイドは奴隷か?!と議論する前に知っていて欲しいこと

主要な論点は、シンガポールでの外国人家政婦労働は一定に保護されており、決して“奴隷”に比較されるようなものではないこと、そうした外国での労働によって、彼女らは国内で得ることができない収入を得ることができ、大方は満足していることなどです。

シンガポールの外国人メイドを低賃金で雇用するスタイルを批判する日本ネット民に対し、“他国を非難するのは、天引きが不明朗だったり、技能がつかないのに実習扱いする、自国の技能実習制度の欺瞞をなんとかした後の方が良いのではないでしょうか”とも。

また、安価な外国人労働を拒否する姿勢に、“発展途上国の工場で安価な賃金で作られ輸入された工業製品は喜んで使うのに、輸入が移民のサービスとして可視化された瞬間に、壮絶な拒否反応が起きた”とも。

日本における外国人労働のあり方については、多くの議論があるところですが、上記の指摘は“ごもっとも”といった感も。

なお、、以下の理由で、「日本人には外国人家政婦の雇用はムリ」というのがシンガポール在住の上記論者の考えです。

・日本人家政婦でも給与は時給千円前後と最低賃金に近いが、外国人家政婦にも最低賃金が適応されるため価格低下が見込まれない。
・家政婦に時給2千円超を支払う価値観やお財布の人は限られる。
・英語で指揮監督できる日本人は極少数。家政婦の片言日本語には不満。
・他人を家にあげるのが嫌。掃除に来てもらう前に自分で掃除をするメンタリティ。

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