孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

歴史認識を問う“言葉”  アルメニア人迫害は「ジェノサイド」か? わかれる各国対応

2015-04-24 21:28:33 | 国際情勢

【4月24日 AFP】

ジェノサイド:「国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊する意図をもって行われた行為」】
第一次世界大戦期の1915年に当時のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害が起きて、24日で100年となります。

この問題については、4月13日ブログ“ローマ法王 「アルメニア人虐殺」問題に言及 「虐殺」を否定し続けるトルコ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150413)でも取り上げたように、100年が経過した今も、アルメニアとトルコの「歴史認識」をめぐる争いとなっていますが、100年という節目を迎えて、その他の国々もどのように認識するかが問われています。

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アルメニアは、オスマン帝国が崩壊に向かっていた1915~17年に、最大150万人のアルメニア人がオスマン帝国によって組織的に殺害されたと主張している。

一方、トルコ側は、侵略してきたロシア軍の側についたアルメニア人による帝国への反乱で、アルメニア人とトルコ人双方に30万~50万人の死者が出たとしている。【4月22日 AFP】
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アルメニアとトルコの対立は100年前からの話ではありますが、「ジェノサイド(集団虐殺)」という言葉が国際的に定着したことで、アルメニア人殺害を「ジェノサイド」として認識するかどうかが、注目されるようになっています。

アルメニア側は組織的な虐殺「ジェノサイド」であったと主張するのに対し、トルコ側は「戦乱の中で起きた不幸」という位置づけです。

「ジェノサイド」と認めることは、ナチス・ドイツが行ったユダヤ人大虐殺「ホロコースト」と同列に扱うということにもなります。

****オスマン時代のアルメニア人虐殺は「ジェノサイド」、100年迎え訴え****
第1次世界大戦中のアルメニア人虐殺開始から、24日で100年が経過する。

アルメニア政府や世界に住むアルメニア人の間では、この節目を前に国際社会、とりわけオスマン帝国の後継国家であるトルコに対し、祖先の虐殺を「ジェノサイド(集団虐殺)」として認めさせようとする動きが活発化している。

しかし、このアルメニア人虐殺について「ジェノサイド」という言葉を用いるかどうかをめぐっては、いまだ国際世論は大きく割れている。

アルメニア人にとって「ジェノサイド」とは、1915年にオスマン帝国の手によって祖先が受けたすさまじい恐怖の決定的証拠を示す言葉だ。

一方、トルコ側は、暴力を行使したのは当時関与していたすべての勢力だと主張し、「ジェノサイド」という表現は越えてはならない一線を越えていると主張している。

米シンクタンク、カーネギー国際平和財団のトマス・デ・ワール氏は、アルメニア人にとってはジェノサイドという言葉を使うことで「過去の経験を、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と同列に位置付けることになる」と説明する。

また「トルコ側も、自分たちの祖先の行為がナチスと同様に扱われるというまさに同じ理由で、この言葉を否定してきた」という。そこにはさらにトルコに対する法的要求につながることへの懸念もあるという。(中略)

アルメニア人虐殺から30年ほどは、呼び方をめぐる議論はなかった。
ジェノサイドという言葉は、1944年にユダヤ系ポーランド人法律家のラファエル・レムキンが考案し、1948年に国連で制定されたジェノサイド条約で法律として成文化された。

「国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全体または一部を破壊する意図をもって行われた行為」として定義されている。

事件をジェノサイドとして位置付けようとする試みは、50年の節目を迎えた1965年に始まった。運動は80年代に米国のアルメニア系移民が中心となって国際的に活発化し、急進的な勢力がトルコ政府高官らを殺害する事件まで起きた。

アルメニア政府によると、巨大なアルメニア人社会があるフランスをはじめ22か国が、1915年の虐殺をジェノサイドだと認めている。

今月12日には、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王がこの虐殺を「ジェノサイド」と表現し、トルコを激怒させた。

米国の歴代大統領も、この問題に頭を悩ませている。1980年代初頭、当時のロナルド・レーガン大統領が「ジェノサイド」という言葉を使ったのを最後に、この言葉の使用は避けられている。

バラク・オバマ現大統領は、大統領選で勝利するまではジェノサイドとして認める意向を示していたが、就任後にはアルメニア語で「大惨事」を意味する「Medz Yeghern」を使うことで問題を回避している。【4月22日 AFP】
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トルコは、首相が昨年に続き哀悼の意を表し、今日24日にはイスタンブールでアルメニア正教会総主教による追悼式典を開くとしていますが、「ジェノサイド」という見方は否定しています。

****<トルコ>アルメニア人迫害 首相が哀悼の意を示す声明****
 ◇オスマン帝国による「ジェノサイド」改めて否定
トルコのダウトオール首相は20日、オスマン・トルコ帝国統治下の1915年に起きたアルメニア人迫害について、犠牲者への哀悼の意を示す声明を発表した。

事件から100年を迎えるのを機に、トルコ最大の都市イスタンブールで24日にアルメニア正教会総主教による追悼式が開かれることも明らかにした。

ただ、首相はオスマン帝国による「ジェノサイド(集団虐殺)」との見方を改めて否定した。

声明は「オスマン帝国下のアルメニア人の記憶と文化遺産を守ることはトルコの人道的、歴史的義務だ」と指摘。一方で「すべてを一つの言葉に集約し、あらゆる責任をトルコの人々に押し付けてヘイトスピーチ(憎しみの言葉)とするのは道徳的にも法的にも問題だ」と強調した。

トルコは昨年4月、当時のエルドアン首相(現大統領)が政府として初めて事件について哀悼の意を表明した。【4月21日 毎日】
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トルコ・エルドアン大統領は23日、「アルメニアが主張していることはすべて、特に(犠牲者の)数字はまったく根拠がない」と指摘し、虐殺との見方を改めて否定しています。

欧州:迫害を「虐殺」と認めるようトルコへの圧力
多くのアルメニア人移民を抱え、「ジェノサイド」と認める立場のフランスでは、2012年に議会がアルメニア人虐殺を演説や出版物で否定すれば犯罪として罰則を科す法案を可決し、当時のサルコジ大統領も支持しました。法律はその後、法律の違憲審査をする憲法会議が「違憲」と判断しています。

今月12日の、「20世紀最初の大虐殺(ジェノサイド)だと広くみなされている」というローマ法王の発言は、前回ブログで取り上げたところです。

欧州にあっては、総じて「ジェノサイド」を認める方向の流れがあります。
最近のトルコとの関係があまりよくない事情も反映しています。

****アルメニア人迫害は「大虐殺」 EUが決議、トルコ反発****
欧州連合(EU)の欧州議会は15日、100年前のオスマン帝国によるアルメニア人迫害を大虐殺(ジェノサイド)と非難し、トルコとアルメニアに和解を促す決議を採択した。

トルコは反発しており、トルコのEU加盟交渉にも影響を及ぼす可能性がある。

決議は、アルメニア人約150万人が犠牲になったとされる事件を大虐殺だと非難し、哀悼の意を表明した。また、トルコには100年を機に大虐殺を認め、真の和解を進めるよう促している。

同議会は87年にも事件を大虐殺と認定する決議を採択しており、今回もそれを踏襲した。

トルコは05年からEUへの加盟交渉を進めている。だが、エルドアン政権がメディア弾圧など強権色を強め、ウクライナ情勢でEUと対立するロシアと関係を深めていることから、EUとの溝が深まっている。【4月16日 朝日】
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トルコ系住民が多く暮らすこともあって、これまでジェノサイドとの認識表明に慎重だったドイツも初めて公式に「ジェノサイド」という言葉を使用したうえで、同盟国として虐殺を看過したドイツ自身の罪にも言及しています。

****アルメニア人虐殺「ドイツにも責任」 独大統領、歴史の罪に言及****
ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は23日、1世紀前に起きたオスマン帝国軍によってアルメニア人約150万人が殺害された事件について「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと非難すると共に、同盟国だったドイツにも責任があるとの見解を示した。

事件からちょうど100年を迎えるに当たり首都ベルリンのベルリン大聖堂で行われた追悼行事で演説したガウク大統領は、ドイツ政府として初めて公式に「虐殺」という言葉を使用。

「われわれドイツ人は、アルメニア人の虐殺に対する連帯責任、そして共有しているであろう罪について、過去を受け入れなければならない」と述べ、当時のドイツ帝国の関与をこれまでになく明確に認めた。

ガウク大統領はまた、特に第二次世界大戦中にナチス・ドイツが600万人ものユダヤ人を虐殺し、ドイツ政府が過去数十年にわたって公式に贖罪(しょくざい)に努めてきたことを考えれば、アルメニア人虐殺についてもドイツの歴史的な罪を認めなくてはならないと語った。

ガウク大統領によると、当時のドイツ帝国はオスマン帝国の同盟国として兵士を派遣していたが、この兵士たちは「(アルメニア人の)国外追放の計画にも、そして一部実行にも加担していた」という。

ドイツ帝国の外交官や観戦武官たちは、目の当たりにした残虐行為を帰国後に政府へ報告したが、オスマン帝国との関係悪化を懸念した政府はこれを「無視した」という。

ガウク大統領は、歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だと主張。「ドイツに暮らすわれわれは、恥ずべき先送りなどの厳しい経験を通して、ナチス時代の犯罪を記憶することを身をもって知っている」と述べた。(後略)【4月24日 AFP】
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ドイツ議会は24日、大統領演説と同じ表現の声明を審議する予定で、ドイツ政府もこの声明を支持する意向とのことです。

トルコとの関係にも配慮するアメリカ・ロシア
一方、戦略的に重要な位置を占めるトルコとの関係を重視するアメリカは、前出【4月22日 AFP】にもあるように慎重な対応を示しています。

****<アルメニア人迫害>米政権「虐殺」表現使わず****
オスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害で、オバマ米政権は発生から100年の今年も「虐殺」との表現は大統領声明で使用しない方針をアルメニア系米国人団体に伝達した。
各団体は「トルコへの屈服」「信頼への裏切り」と厳しく非難している。

オバマ政権側はマクドノー大統領首席補佐官らが21日にアルメニア系団体幹部と面会。米国として「完全で、率直で、正当な事実の確認」を行い、24日のアルメニアでの追悼式典にルー財務長官が出席することを説明したが、団体側によると、この際に「虐殺」不使用も伝えられた。

オバマ政権にとり、トルコはイスラム過激派「イスラム国」対策の重要な協力国。シュルツ米大統領副報道官は22日、「虐殺」の表現回避について「過去を認め、現在のパートナーと協力するには、この方法が正しいと信じる」と記者団に説明。トルコへの「配慮」をにおわせた。

オバマ大統領は就任前の2008年1月の声明では「米国はアルメニア虐殺について真実を語る指導者が必要だ。私はそういう大統領になろうと思う」と述べていた。

だが、就任後の毎年の追悼声明では「虐殺」とは言わず「20世紀最悪の残虐行為の一つ」「人類の歴史の暗い章」などと表現。選挙前の「公約」との差異を意識してか「私の考えは変わっていない」とも毎回述べている。【4月23日 毎日】
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ロシアも、アメリカ同様に悩ましい立ち位置です。
旧ソ連のアルメニアはロシア主導の経済ブロック「ユーラシア経済同盟」の数少ない加盟国という大切なパートナーです。

ただ、ウクライナ問題での欧米による対ロシア経済制裁を背景に、ロシアにとってトルコはエネルギー分野などでの極めて重要なパートナーとなっています。

****<アルメニア人迫害>100年追悼式 露はトルコに配慮****
第一次世界大戦期の1915年に当時のオスマン・トルコ帝国によるアルメニア人迫害が起きて100年となる24日、アルメニアで犠牲者を追悼する式典が開かれる。

同国政府は迫害を「虐殺」と位置づけ、国際社会に認知を求める外交攻勢を強めている。一方、アルメニアにとって最も親密なロシアは、ウクライナ危機で対トルコ関係の重要性が高まる中、バランス外交に腐心している。

「過去の虐殺を非難することは将来の人道への犯罪を予防するために重要な意味がある」。アルメニアのサルキシャン大統領は22日、首都エレバンでの国際フォーラムで訴えた。

キリスト教徒主体の人口約300万人の小国にとって、虐殺問題は隣のイスラム大国トルコをけん制し、国際社会で存在感を示す重要なテーマだ。

両国間では2009年に国交樹立をうたった合意文書が署名されたが、関係正常化は進まず、サルキシャン大統領は今年2月、文書の撤回を宣言。22日には「トルコが虐殺を認めることが和解への最短の道だ」と迫った。

24日の追悼式典にはロシア、フランスなど4カ国の首脳が出席する。ロシアは1995年に下院が「虐殺」を非難する決議を採択。アルメニアはロシア主導の経済ブロック「ユーラシア経済同盟」に加盟するなど両国は緊密な関係を維持する。

こうした中で目立つのがロシアの慎重な姿勢だ。プーチン大統領は22日、「このような悪行は二度と繰り返させてはならない」とする文書を発表したが、トルコには一切触れなかった。

式典出席についても、ペスコフ大統領報道官らが「ロシアとトルコの関係を害するものではない」と強調。同じ24日にトルコで開かれる第一次大戦関連の式典には側近のナルイシキン下院議長を出席させる。【4月23日 毎日】
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プーチン大統領がアルメニアでの式典に出席する一方で、下院議長がトルコの第一次大戦関連式典に参加すると、アルメニアとトルコの双方に二股をかけたようなロシアです。

****プーチンのアルメニア訪問にトルコは*****
・・・・トルコのマスメディアは、ロシアの首脳がアルメニア人虐殺100年の追悼式典に出席することを不満としているものの、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を含めた高官は今のところ、沈黙している。

「(アルメニア首都の)エレバンでもナルイシキン議長が(トルコの式典が開催される)チャナッカレを訪問することに憤りの声がある。(後略)【4月24日 ロシアNOW】
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プーチン大統領は「我々は過去の悲劇を回想しつつ、お互いを尊重できるよう学ぶ必要がある」と演説し、遠回しにトルコとの和解を促しています。【4月24日 毎日より】

【“歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だ”】
「ジェノサイド」という言葉が歴史認識を判断する政治的ツールとなっているのは、日本と中国・韓国をめぐる「痛切な反省」や「心からのおわび」と似たようなところです。

各国の置かれた立場で対応は様々ですが、“歴史を「否定し、抑圧し、平凡化すること」によって罪から逃れることは不可能だ”【ドイツ・ガウク大統領】というのが重視すべきことでしょう。
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