goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス:有給休暇30日、一方で職場のストレス深刻化 ドイツ:時間外の業務連絡禁止 日本は?

2014-08-11 22:49:02 | 国際情勢

(「日本人の働き方と労働時間に関する現状」 内閣府規制改革会議雇用ワーキンググループ資料 2013年10月31日 黒田祥子(早稲田大学) http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/koyo/131031/item2.pdf

アメリカ:有給休暇が保証されていない国
お盆休みで帰省や旅行を楽しんでおられる方も多いかと思いますが、たまに仕事をやり繰りして短い休暇をひねり出し慌ただしい海外を旅行したりすると、欧州からの旅行者の長い休暇をうらやましく思ったりもします。

その代表例がフランスのバカンスでしょう。
フランスでは年間の有給休暇日数が30日だとか。

****フランスは夢の国?米国で有給休暇の保障求めて署名活動****
現在米国で実施されている、「休暇の平等」を求めるオンライン上の署名活動が、休暇期間をめぐる世界各国との「格差」を浮かび上がらせている。

もしあなたが米国やカナダ、日本で働いているのなら、フランスへと移り住みたいと思うかもしれない。
なぜなら、カナダや日本の労働者は年に10日の有給休暇が与えられているが、米国では1日もなく、その一方でフランスの労働者は30日の有給休暇を取得しているからだ。

米国では、バカンス目的であろうと、病気が理由であろうと、有給休暇が与えられるかどうかは雇用者が決めることになっており、その結果米国の労働者の4分の1に当たる2800万人は有給休暇を一日も取得していない。

一方、この時期のフランスは国全体が「休業状態」となり、ほとんどの家族にとって8月は、南仏で日光浴を楽しむか、ビーチで海水浴に興じるか、もしくは惰眠をむさぼるか、はたまた世界中を歩き回るためのシーズンだ。

宿泊施設予約サイト「ホテルズドットコム(Hotels.com)」は、世界の経済先進国では唯一、有給休暇を保障していない国である米国で、連邦政府に対して「休暇の平等」の実現を求めるキャンペーンを開始した。

30日の有給休暇という目標の達成は難しいかもしれないが、米国人がより多くの休暇を取るようになればサイトの利用も増えるというホテルズドットコム側の目論見もある。

米シンクタンク、経済政策研究所(CEPR)が昨年発表した論文の統計によると、世界各国の有給休暇日数は、フランスに次いで英国が28日で2位、その後を25日のノルウェー、デンマーク、フィンランド、スウェーデンが続く。

連邦政府が請願を審査し、返答するためには10万人分の署名が必要で、記事の執筆時点では1万3660人の署名が集まっている。キャンペーンは8月15日まで実施される予定。詳細は以下のサイトを参照:http://1.usa.gov/1kwHl6Z.【8月8日 AFP】
********************

フランスと言えば、経済的に好調なドイツとの比較でその景気回復の鈍さが指摘されたり、オランド政権の経済立て直しが成果を出しておらず、オランド大統領の支持率が非常に低くなっている・・・等々、経済的にはネガティブな話が多いのですが、“有給休暇を30日も取るような社会・経済システムだから経済的な苦境に陥るのだ”と言うべきか、それとも、“なんだかんだ言われても30日も休んでなんとかやっていけるならそれでいいじゃないか”と言うべきか。

職場ストレスからのうつ病、「燃え尽き症候群」、自殺
もっとも、フランスの労働者が仕事のことなど眼中になく、自分の生活をエンジョイしている・・・かと言えば、特に最近はそれほどお気楽な状況でもないようです。

****フランス、職場のストレス深刻化 人員削減などで自殺者も****
競争、プレッシャー、嫌がらせ──労働関連の法整備が進んでいるといわれるフランスで、職場で繰り返される「容赦のない」精神的危機に直面するホワイトカラー労働者が増えている。

専門家らによると、特にサービス業で働く労働者の間で、うつ病や長引く病気、極度の疲労で仕事への意欲を失う「燃え尽き症候群」、さらには自殺が増えている。

ファビエンヌ・ゴドフロアさん(41)は、フランス南西部トゥールーズの職場で2年間にわたり、性的、精神的な嫌がらせを受けた。重度の拒食症になって体重が30キロ減り、パラノイア(妄想症)を患った。

ゴドフロアさんは、主任や上司から絶えず付きまとわれたり、会議でわいせつな言葉を浴びせられたりしたほか、自宅に匿名のわいせつ電話がかかってきたりして、自分が「追われている動物」のように感じたという。

「仕事が原因で死にたいと思うこと。ええ、実際にあることよ」と話すゴドフロアさんは、勤めていたフランス郵政公社を数か月前に辞め、今は2人の精神科医による観察のもと、治療を受けている。

こうした状況はゴドフロアさんに限ったことではない。仏通信大手のオレンジ(Orange、2013年7月1日に社名をフランステレコムから現社名に変更)で、2008~09年に従業員35人が相次いで自殺し、フランスの職場におけるストレスの深刻さが鮮明になった。

自殺した人たちの一部は職場で命を絶った。大半の人が遺書を残していて、管理者に対する「恐怖」や、技能を無視した配置転換による精神的打撃など、批判がつづられている。

ある男性従業員はコールセンターに回された後、橋から飛び降りた。会議で担当業務がなくなると知った男性技術者がその場で自殺を図った数日後、32歳の女性が職場の窓から飛び降りたケースもある。(後略)【7月8日 AFP】
********************

「過剰な競争と市場の制約で、労働者は不安定になっている。米国や日本の経営手法が容赦のないやり方で適用されている」(監視団体「ストレス・強制流動性監視所」広報担当者)【同上】とも。

なお、こうした職場における精神的ストレスの増大はフランスだけでなく欧州全体に共通する傾向のようです。

冒頭【8月8日 AFP】記事に戻ると、フランス人が長期のバカンスを楽しんでいるのは周知のことですが、“米国の労働者の4分の1に当たる2800万人は有給休暇を一日も取得していない”というのが意外でした。

もっとも、昨日ブログでも取り上げたように、アメリカでも長期休暇をしっかりとっている人もいます。

****イラク緊迫でも夏休み=高級保養地で就任後最長16日―米大統領****
オバマ米大統領は9日から、東部マサチューセッツ州の高級保養地マーサズ・ビンヤード島で2009年の就任以来最長となる16日間の休暇を過ごす。

イラクでの空爆作戦の開始直後に長い休暇に入ることになるが、ホワイトハウスは意思決定に問題は生じないと強調している。【8月9日 時事】 
*******************

労働者が完全に仕事から離れる権利
先述のように、フランスと対照的に経済好調のドイツですが、仕事のストレスによる健康被害を防ぐために、「上司は就業時間後、部下に電話してはいけない」という法規制が導入されたそうです。

****勤務時間外、業務連絡禁止? 「心身に負担」法制化巡り論争に 最大州、労働相提言****
上司は就業時間後、部下に電話してはいけません−−。ドイツ最大人口州の北西部ノルトライン・ウェストファーレン州のシュナイダー州労働相が、ストレス過多による健康被害を防ぐため、勤務時間外に業務関連の電話やメールを禁じる法律の全国的な導入を求め、議論を呼んでいる。

ドイツでは働き過ぎで心身を病む「燃え尽き症候群」と診断される人々が年間13万人に上るとの試算もあり、中央政界の反応が注目されている。

ライニッシェ・ポスト紙(電子版)によると、シュナイダー州労働相は「特定の時間以降、上司が部下に連絡することを禁じる法律が必要だ」と述べ、勤務が終われば、労働者が完全に仕事から離れる権利の重要性を指摘した。

州労働相が属する社会民主党は国政でもメルケル大連立政権の与党のため、提言は中央政界からも注目された。社会民主党のライマン副議員団長も「法律ができれば、健康被害防止に重要な役割を果たす」と歓迎。ナーレス連邦労働社会相も5日、報道官を通じ「科学的知見を集め、検討する」と述べた。

一方、法的に規制してしまうことの妥当性については議論もあり、「法制化はやりすぎだ。心身の負担を職場の上下関係だけのせいにするのは不当」(ドイツ経営者連盟)と反対の声も上がっており、法制化実現は不透明だ。

ドイツでは既に一部の省庁や自動車メーカーが、終業後には緊急事態以外、従業員に業務メールを送らないなどの規則を導入している。

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、ドイツの労働者の年間1人当たり平均労働時間は1388時間(2013年)で、日本の1735時間(同)より少ない。【8月8日 毎日】
*******************

“労働者が完全に仕事から離れる権利”・・・・何事にも徹底するドイツらしい試みのようにも思えます。
もっとも、仕事人間などは、職場からの連絡がないと逆にストレスになったりして。

日本:労働時間の全体平均値は低下 その実態は・・・
ドイツと言えば、昔からその労働時間の短さが特徴的で、長時間労働が指摘される日本の労働運動にとってもひとつの目標にもなっていました。

2013年で年間労働時間がドイツの1388時間というのは驚異的です。それで今の経済水準をキープできるのですから。
日本の1735時間とはかなりの差がありますが、ただ、日本の数字も以前に比べると随分短くなっています。
アメリカ・イタリア・カナダなどと近い水準になっています。

1990年頃までは2100時間水準にあって、この頃、賃上げで成果を出せない労働組合は時短を目標に掲げて、そっちで何らかの成果を出そうという動きを強めていました。

その後の労働時間の短縮は、別にそうした労働組合運動の成果という訳でもなく、社会的な流れでもあったのでしょう。

*****************
1990年代における日本の労働時間の短縮に関しては労働基準法の改正の影響が大きい。

世界からの働きすぎという批判を受け、1987年の新前川レポートが労働時間1800時間を国際的に公約してから、88年には法定労働週を48時間から40時間へ短縮する改正労働基準法が制定され(当面46時間)、さらに93年に40時間への実際のシフトが決まり、97年には猶予措置を与えられていた中小企業等についても猶予期間が切れた。

こうした流れの中で、1990年代に、週休2日制が普及し、おりからの長期不況も時短の点からは幸いし国際的に見て「働きすぎ」でない労働時間が実現したのである。【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3100.html
*******************

年間1735時間ということは、週33.3時間程度ということになります。フルタイム雇用の実感とは差があります。


年間総労働時間の推移を見る場合、フルタイムとパートタイムの構成比も考慮する必要があります。
日本の場合、ここ20年あまりでパートタイム比率が2倍以上に増加していますので、実質的な時短がなくても構成比の変化だけで全体平均は低下します。


(「日本人の働き方と労働時間に関する現状」 内閣府規制改革会議雇用ワーキンググループ資料 2013年10月31日 黒田祥子(早稲田大学)http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg2/koyo/131031/item2.pdf

フルタイム雇用者について、労働時間の変化を見ると、週当たり労働時間はあまり変化していません。
一方、先述のように週休2日制の普及によって、休日数は大きく増加しています。

結局、土曜日が休みなった分、平日の労働時間が伸びた・・・というところのようです。
まあ、それはそれで意味のない話ではありませんが。多くの職場がそれを承知で週休2日制を選択しています。

日本の労働時間は未だ長く、労働時間1時間当たりの生産性は、ECD加盟国中19位と低いレベルにあるようです。
生産性を高めるための労働強化が必要という訳ではありませんが、なんらかの工夫の余地があるとも言えるでしょう。

少子高齢化で労働人口が減少していきますので、抜本的な転換も必要になってくるかも。

いずれにしても、生活の質を考える場合、所得も労働時間も多くの要素のなかの一部に過ぎず、労働時間ひとつをとっても、いろんな側面から考えていく必要があるという当たり前の話です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  アメリカのイラク空爆に“反対せず” ウイグル族問題を抱えてイスラム過激派の標的にも

2014-08-10 22:45:21 | 中国

(カシュガルにある中国最大のモスク、エイティガール寺院の前を歩く兵士ら 【8月1日 WSJ】)

【ようやく最後に大統領は言った・・・・】
上院議員時代からイラク戦争を批判し、大統領就任後の数少ない実績としてイラク撤退を実現したアメリカ・オバマ大統領が、厭戦気分が強く内向き傾向のアメリカ世論の現状にあって、イスラム過激派「イスラム国」の脅威に対し限定的空爆という形でイラクへの介入を決意した瞬間というのは興味深いものがあります。

****米空爆 オバマ氏、急転直下の決断 イラク軍・クルド人支援重視****
オバマ米政権のイラクでの限定的な空爆は、急転直下決断されたものだった。その軌跡の一端を関係者の話などを基に追った。

6日、オバマ大統領は、ワシントンで開かれた米・アフリカ首脳会議に忙殺されていた。その頃、約9600キロ離れたイラク北部シンジャールでは、約4万人のクルド人が、イスラム過激派「イスラム国」に山頂へと追いつめられていた。

ホワイトハウスでは、安全保障担当の高官らが情報を分析していた。クルド自治区の中心都市アルビル近郊で、クルド人部隊がイスラム国の攻勢の前に、後退を余儀なくされているとの情報ももたらされた。

こうした情報は大統領にも伝えられた。首脳会議の会場を後にし、ホワイトハウスへ戻るリムジンの中で大統領は、同乗していたデンプシー統合参謀本部議長につぶやいた。

「クルド人の人道危機を、何とかしなければならないのは分かっている」

翌7日朝、ホワイトハウス西棟の地下にあるシチュエーションルーム(状況分析室)。大統領、ライス大統領補佐官らが顔をそろえ、外遊中のケリー国務長官などの顔もスクリーンに映し出されていた。

情勢は悪化するばかりで、クルド人の女性はイスラム国の戦闘員にとらえられ、奴隷になっている…。室内には切迫した空気が漂い、「潜在的な大量虐殺か」と口にする者もいた。

約2時間にわたる協議の間、出席者の一人は大統領が限定的な空爆を決断するだろうと思ったが、確信はできずにいた。ようやく最後に大統領は言った。

「限定的な空爆と、クルド人への支援物資投下を承認する」(後略)【8月10日 産経】
*******************

確かに、アメリカが軍事介入に踏み切った背景には、人道的見地や自国民保護だけでなく、経済利権を守りたい思惑も存在するでしょう。

“自治区の魅力の一つが未開発の油田だ。現在の原油生産量は日量20万バレル程度で、イラク全体の1割にも満たない。だが原油埋蔵量はリビアと同等の450億バレル以上(国別の世界9位に相当)とも推定される。既に米国の石油メジャーなどが開発に乗り出しており、軍事介入には石油利権を守る意味合いもあるとみられる。”【8月9日 毎日】

ただ、やはりジェノサイドを放置しては、アメリカの根源的価値観が揺らぐ・・・という思いが決断には強く影響したのではないでしょうか。

シリアの化学兵器では介入を回避しましたが、すでに起きた事件への懲罰と、これから目の前で起ころうとする事件への予防的介入では、やはり緊急度が異なります。

重大な決断を下して、さぞや緊張の中で指揮にあたっているのか・・・と思ったら、そうでもないようです。

****イラク緊迫でも夏休み=高級保養地で就任後最長16日―米大統領****
オバマ米大統領は9日から、東部マサチューセッツ州の高級保養地マーサズ・ビンヤード島で2009年の就任以来最長となる16日間の休暇を過ごす。

イラクでの空爆作戦の開始直後に長い休暇に入ることになるが、ホワイトハウスは意思決定に問題は生じないと強調している。【8月9日 時事】
*******************

絶えず世界のどこかで戦争をやっているような国の大統領ですから、このくらいでないと務まらないのでしょう。
アメリカにとっては、戦争というのはある意味“日常的なこと”なのかも。

日欧は支持 中国“反対せず” ロシアは否定的
アメリカのイラク再介入に欧州同盟国や日本も支持を表明しています。

****米軍のイラク空爆、欧州は支持…中国も反対せず****
米軍が8日、イラク北部で空爆を開始したことについて、欧州各国は空爆を支持し、後方支援や人道支援に積極的に関与する方針を示している。

中国も空爆に反対しない姿勢だ。

英国のファロン国防相は8日、英BBCに、偵察や給油など米軍の支援に回ることを表明した。英空軍機を使って食料投下も実施するという。ただ、空爆参加については、キャメロン首相の報道官が公式に否定した。

ドイツ政府は8日、最高290万ユーロ(約4億円)の人道支援を表明した。シュタインマイヤー外相は声明で、「我々はさらに何が出来るか検討しなければならない」と上積みを検討する方針を示した。

フランスのオランド大統領も同日、声明で、「米国や同盟国と共同でどのような支援が出来るか検討したい」とした上で、「役割を担う用意は出来ている」と強調した。【8月10日 読売】
******************

ウクライナでアメリカと緊張関係にあるロシアは、シリアでの立場の違いもあって否定的です。
“ロシアでは否定的な声が上がった。露下院のプシコフ外交委員長は、ツイッターで「米国が今度は、シリアで反アサド勢力として自分たちが支援していた『イスラム国』を空爆している。理性を失った回転木馬だ」と批判した。”【8月9日 毎日】

イランやトルコ、アラブ諸国は明確な反応を示していません。
“各国は6月以降、イスラム国の急速な勢力拡大に強い危機感を示してきたが、その半面、米国の軍事介入を嫌う国内世論への配慮やイスラム国との戦いの矢面に立つことへのためらいがあるとみられる。”【8月10日 産経】

イラク・アフガニスタンの最大の受益者は中国
興味深いのは“中国も空爆に反対しない姿勢”ということです。
理由はふたつ。

ひとつは中国がイラクに大きな石油権益を有しており、イラクの混乱は困る・・・ということでしょう。

****イラクに最大石油権益=滞在1万人、避難準備も-中国****
イスラム教スンニ派の過激派が攻勢を強めるイラクで、最大の石油権益を持つのが中国だ。

イラクに滞在する中国人は1万人超。さらに混乱が拡大する事態になれば、大量の国外避難が予想され、中国の石油戦略にも影響が出かねない。中国政府や企業は、イラク軍と過激派の攻防の行方に神経をとがらせている。

経済成長に伴いエネルギーの確保に注力する中国は、ここ数年、イラクの石油開発への投資を急速に拡大させている。2013年のイラクからの輸入は前年比約50%増の2350万トンと、ロシアからの輸入量に肩を並べた。

国営企業が中南部の油田開発を進め、中国はイラクの石油の最大輸入国。「イラク戦争の最大の受益者は中国だった」との声まである。(後略)【6月21日 時事】
*******************

「イラク戦争の最大の受益者は中国だった」・・・・同様の構図はアフガニスタンでも見られます。
アイナク銅山などアフガニスタンに進出している中国は、今年末の米軍撤退によるアフガニスタン混乱を懸念しています。

【「超法規的措置も辞さない」封じ込め
もうひとつは、イスラム過激派の台頭、新疆ウイグル自治区のウイグル族問題への影響を阻止したい思いが強いことでしょう。

中国は新疆ウイグル自治区の混乱という非常に厄介な問題を抱えています。
アメリカや欧州もイスラム過激派のテロを警戒していますが、中国は国内にウイグル族問題を抱えているだけに、欧米より事態は深刻とも言えます。

その新疆ウイグル自治区・カシュガルで7月末に起きた事件は、死者が1000人規模に及ぶものだった・・・との報道もあります。

死者が1000人規模となると天安門事件にも匹敵する動乱にもなりますが、中国が厳しく情報管理していますので実態はよくわかりません。亡命ウイグル組織の情報もプロパガンダ的な要素もあるでしょうから、鵜呑みにもできません。

****亡命ウイグル組織、新疆暴動「死者2000人超」 中国発表を上回る可能性****
7月末に中国新疆ウイグル自治区西部で発生した暴動について、米政府系放送「ラジオ自由アジア(RFA)」は5日(米東部時間)、ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」とする亡命組織「世界ウイグル会議(WUC)」のラビア・カーディル議長の発言を伝えた。RFAは中国語放送でも、現地在住漢族の話として、死者が千人に達したと報じた。

報道が事実なら、事件は当局の発表をはるかに上回る深刻な状況だったことになる。

イスラム教のラマダン(断食月)明けの直前に起きた暴動について、中国の治安当局は「テロ事件」として非難を強める一方、死者数は一般市民37人を含む96人と発表していた。

RFAウイグル語放送とのインタビューで、ラビア氏は同自治区カシュガル地区ヤルカンド県のイリシク郷付近で、「少なくとも2千人以上のウイグル人が中国の治安部隊に殺害された証拠を得ている」と語った。発生から3日間程度をかけて中国当局が遺体を片付けた、とも述べた。

また、現地情勢に詳しい漢族女性はRFAに対し、「巻き添えになった人を含めて(死者は)千人に上る」と述べた。

女性は暴動の実行犯グループとして、治安当局と同様に自治区の分離・独立を叫ぶ「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」を名指し。

「この組織は爆弾のほか銃器も持っている。(爆弾を)あちこちで投げつけるほか、大刀で人を襲った」と述べ、一部は外国勢力が関与したと語った。暴動は28日から3日間続いたという。

事件発生後、外国メディアのヤルカンド県への立ち入りは厳しく制限されている。【8月7日 産経】
*******************

ウイグル族の死者だけで「少なくとも2千人」というのもどうでしょうか。そこまでの騒乱なら、もう少し情報が漏れてくるようにも思えますが。

いずれにしても、ウイグル族問題が中国にとって厄介な状況にあり、中国当局が強圧的な姿勢を強め、徹底した封じ込めを行っていることは間違いないところです。

********************
習主席が「超法規的措置も辞さない」と宣言した通りに、ウイグル族弾圧が進んでいる。

令状なしの逮捕は当たり前として、テロ実行犯と知り合いだった、というだけで逮捕・拘禁され、さらには数日で裁判にかけられ有罪判決を受ける。

裁判といってもウルムチなどの街中の屋外競技場などに百人以上のウイグル族が引き出され、審理もないまま判決が読み渡されるだけの団体裁判。

被告に反論の機会も与えず、検察側は証拠の提示のないまま、懲役十年、二十年、さらに死刑判決までもが何のためらいもなく出される。文字通りの超法規的な対応だ。【選択8月号 「アジアでも火を噴く「イスラム聖戦」】
********************

中国が新疆のウイグル族問題にここまで神経質になるのは、新疆が石油・天然ガス資源で極めて重要な地域であること、そして、国外のイスラム過激派との連動を当局が危惧していることが指摘されています。

次の「9・11」は北京がターゲットになったとしても、何ら不思議ではない
頻発するウイグル族関連の事件について、中国当局は一貫して新疆ウイグル自治区の独立を主張する組織「東トルキスタン・イスラム運動」によるテロ活動としています。

ただ、多くの事件は過激派のテロ活動というより、圧政に対する民衆の抵抗運動・反政府運動のようにも見えます。

しかし、当局が容赦ない姿勢で封じ込めを図るなかで拡大するウイグル族の憎悪は、イスラム過激派が浸透する温床となることは間違いでしょう。

現在は抵抗運動でも、将来的には過激派によるテロ活動へと転換することは容易に想像できます。

*****イスラムによる新たな中国包囲網*****
アジアにおけるイスラムの最大の敵はウイグル族を徹底弾圧する中国だ。

胡錦濤政権は新疆ウイグルに対し、飴を与える政策なども取ってきたが、習政権は新疆ウイグルへの投資案件のほとんどを漢民族企業に与え、新疆ウイグルを完全な漢族支配の地域に転換しようとしている。

中国はエネルギー資源、物流の必要性に加え、上海協力機構(SCO)が示すように中央アジアへの影響力を拡大する野望があり、世界第二位の経済大国になった今が好機とみている。

だが、ソ連は二回の石油危機で原油価格が上昇したタイミングでアフガンに侵攻して失敗、国が滅んだ。
米国も強大な軍事力でイラクのサダム・フセイン政権を倒したものの、軍事費の膨張で国力を低下させた。

イスラムとの戦いは大国にとって決していい結果を招いていない。

アジア各地で、イスラム人口は急増している。ウイグル族弾圧で中国がイスラムを敵に回す事態は、新たな中国包囲網の構築を招くことになる。次の「9・11」は北京がターゲットになったとしても、何ら不思議ではない。【同上】
*********************

中国としては、イラクでもアフガニスタンでもアメリカに頑張ってもらい、イスラム過激派を徹底的に潰してほしい・・・というところでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インド  「赤ちゃんポスト」利用者が減少したことを喜べない過酷な現実

2014-08-09 21:10:58 | 南アジア(インド)

(「パルナ」の施設前に置かれた赤ちゃんをいれる籐のかご “flickr”より By Steve Browne & John Verkleir https://www.flickr.com/photos/proxyindian/2972041628/in/photolist-bdKHEM-6GuxWX-7pDWsN-dAF1Dz-aQMBbg-dALt4N-7pA3Q2-7pDWtd-7pDWuJ-7pA63T-7pDYkG-7pDYgU-7pA2da-7pDYeS-7pDUQs-7pDYwQ-7pA3Xk-7pDWqN-7pDYpG-7pA3Uk-7pA2bp-7pDYhf-7pA2fc-7pA2ck-7pDWvd-7pA2at-n9RFki-ibo6Uj-8CgiYx-okNiBZ-okMNpn-35Pmo-gU5Cr-odk5fM-otKgab-ocaDFZ-ocbR9X-oefQKH-oxAFcF-7pDUSq-7pDWrw-7pA3Si-7pDWw9-7pDULq-i52hcT-5wCur3-4Lttwm-6eCZ8i-ouvNru-owa97u)

日本:年間9人 7年間で101人
一般に「赤ちゃんポスト」と呼べれているものは、日本では熊本市の慈恵病院「こうのとりのゆりかご」が運営されています。

****赤ちゃんポスト、昨年度は9人 設置から7年で101人****
熊本市は22日、親が育てられない子どもを匿名で預かる慈恵病院(同市西区)の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」に2013年度は9人(男児4人、女児5人)が預けられたと発表した。

12年度と同数で、07年の設置から7年間で累計101人になった。

発表によると、親の身元を特定できず、市が戸籍を作成したのは6人(66・7%)で、割合は過去最高。

生後1カ月未満の新生児は8人で、うち7日未満が3人。生後1カ月以上1年未満の乳児が1人。

子どもを預けた父母らの居住地は熊本以外の九州・沖縄が1件、近畿地方、関東地方が各1件、不明が6件。出産場所は自宅(推測含む)が最多の6件、医療機関(同)は2件で、不明が1件。

ゆりかごを利用した理由(複数回答可)は「不倫」が2件で、「生活困窮」「未婚」が各1件、6件は不明。

母親の年齢は30代が2人、40代が1人、不明が6人。9人の親の婚姻状況は、1人が離婚、2人が既婚、6人が不明だった。【5月23日 朝日】
*******************

その賛否については、いろんな意見がありますが、ここでは触れません。

中国:全国32か所 多くが障害を抱えた乳幼児
同様の制度は世界各地にありますが、中国の場合は障害を抱えた赤ちゃんが多く、子供への不十分な医療福祉制度の現実も指摘されています。

****赤ちゃんポスト」深刻な現実=1400人収容、多くに障害―中国****
育児できない乳幼児を託す中国版「赤ちゃんポスト」が2011年6月、初めて河北省石家荘市に設置され、現在までに全国32カ所に設けられたが、過去3年間で約1400人に上る乳幼児らが収容されたことが国営新華社通信の報道で25日までに分かった。

多数が重度の障害や疾病を抱えており、子供への不十分な医療福祉制度の現実が浮かび上がった。

山東省のメディアなどによると、同省済南市の児童福祉施設の赤ちゃんポストには6月1~6日、42人の乳幼児が捨てられ、このうち5~6日の24時間だけで12人に達した。

5日深夜には熟睡した6歳の女児が突然、車から降ろされ、施設前の路上に放置された。服のポケットには2600元(約4万2000円)が入っていたという。

また別のケースでは女児を捨てる際、「パパを許して」と漏らし、ひざまずいて路上に頭を付けた父親の姿もあった。

中国で赤ちゃんポストは「赤ちゃん安全島(安全地帯)」と呼ばれるが、広東省広州市の施設では今年1月末の運用開始後、計260人超が収容されたものの、施設の受け入れ能力を大幅に上回ったため3月中旬に運用を停止。

新華社電によれば、浙江省衢州市当局者は捨てられる乳幼児のあまりの多さに「このままのペースでは1年でわれわれの施設の子供は100人を超える。収容能力をはるかに超過している」と訴えている。

また赤ちゃんポストに捨てられるのは、脳性まひや知的障害、ダウン症など疾病や障害を抱えた乳幼児がほとんど。

「『赤ちゃん安全島』を、乳幼児を捨てる場所と勘違いしている親」(新華社電)が多いことから、昼間だけ運営したり、監視カメラを備え付けたり、警察と連携して周辺でのパトロールを行ったりする対策を講じる施設も出ている。

赤ちゃんポストは生命をつなぎ留める役割を果たしているが、捨てられる乳幼児の多さ、捨てざるを得ない親の状況などは中国の社会福祉問題の深刻さを示している。【6月25日 時事】 
*******************

“3年間で約1400人”というのは相当な数ですが、中国の場合は全国32か所に設けられていること、出生数が日本の約100万人に対し1600万人と桁違いに多いことなども考慮する必要があるでしょう。

インド:1~10ドルで売られる子供
インドの場合は1970年代に同様の仕組みが生まれたとのことですが、男児が望まれる社会風潮を反映して、女児が「バスケットベビー」の7割を占めています。

****インドで置き去りにされる「バスケットベビー****
インドの首都ニューデリーの古い街並みが残る一角に近い、レンガの壁に囲まれた場所に籐のカゴが1つ置いてある。
この小さなカゴには大きな役割がある。望まれずに生まれてきた赤ん坊を受け取るという仕事だ。

カゴの所有者は「パルナ」――ヒンディー語で「ゆりかご」の意味――という団体。このカゴに置き去りにされた子供たちはその後どうなるのだろうか。

パルナの起源はインドとパキスタンが分かれた60余年前にさかのぼる。このとき、大勢の移民と社会的な大混乱が発生し、そのさなかに孤児となった子供たちの面倒をみるために発足したのがパルナの前身となる組織だ。

籐のカゴは1970年代に置かれるようになった。生まれたばかりの赤ん坊が施設の前に置き去りにされることが相次いだからだ。

パルナのプログラムディレクターは「籐のカゴに入れられた最初の子供たちは、今は30代になっている」と話す。

現在、パルナには85人から100人の子どもたちが暮らしている。パルナは寄付で賄われているNGO(非政府組織)のデリー児童福祉協議会(DCCW)の支部組織だ。

ここにやってくるのはカゴに置き去りにされた子供ばかりではない。列車の駅や人混み、宗教施設などで迷子になっていたり、捨てられている子供が警察に連れられてくることもある。(中略)

置き去りにされた乳児の多くが精神的・肉体的な障害をもっている。しかも、大半(70%前後)が女児だ。かつては90%が女児だったという。(中略)

この数年間、カゴに捨てられる乳児の数は減少した。理由は不明だが、パルナのスタッフは子供の人身売買や悪質な養子縁組が増えているせいではないかと疑っている。

DCCW関係者によると、インドの最も貧しい地域では、子供はわずか50~500ルピー程度で売られるという。せいぜい1~10ドルだ。

パルナは独自に養子縁組も行っている。例外もあるが、大概はインド国内で養子先が決まるという。【8月7日 WSJ】
******************

上記記事で印象的なのは、後半部の“この数年間、カゴに捨てられる乳児の数は減少した。理由は不明だが、パルナのスタッフは子供の人身売買や悪質な養子縁組が増えているせいではないかと疑っている。”という箇所です。

「バスケットベビー」が減少して喜ぶべきかと言えば、そうではなく、もっとおぞましい現実が進行しているようです。

1~10ドルで売られる子供・・・なんとも過酷な現実です。

タミルナードゥ州では少なくとも毎月1~2人の新生児は捨てられているか、死んだ状態で発見されている
もともとインドで「赤ちゃんポスト」が推進されたのは、「女の子の赤ちゃん殺し」という残虐な現実があるからだと言われています。

****インドで止まらない女子新生児殺し、タミルナードゥ州の「赤ちゃんポスト」は是か非か ****
インドでは「女の子の赤ちゃん殺し」が収まらない。
女子の新生児はある時は水路やごみ箱に捨てられ、ある時は親に毒で殺され、またある時は生まれる前に殺される。この問題の是非を考える記事をロイターは12月3日、ホームぺージに掲載した。

■救った命は数千!
こうした残虐な行為を防止するため、インド南部のタミルナードゥ州政府は1992年から、“捨てられる運命にある新生児”の世話を親が匿名で同州に任せられる「ゆりかごの赤ちゃん政策」を進めてきた。

親が望まない女子の新生児を福祉施設などが受け入れて育てる。いわゆる「赤ちゃんポスト」のひとつだ。これまでに救った命は数千に上るという。

タミルナードゥ州の中でも、新生児の遺棄がとりわけ深刻なのはセーラムだ。

この地区の児童保護担当者は「女の子の赤ちゃんが水路やごみ箱に捨てられるのはよくあること。赤ちゃんが生きている場合もあるが、すでに死んでいることもある」と話す。「一人目の女の子は生まれても大丈夫。でも、二人目、三人目は殺されてしまうことがある」

ゆりかごの赤ちゃん政策が始まった20年前、親たちは、人目を避けて新生児を施設に委ねに来ていた。だが最近は堂々と渡しに来るという。

施設へ預けられた女子の新生児は「ライフ・ライン・トラスト」と呼ばれる養子縁組に出すシステムに孤児として登録される。

ゆりかごの赤ちゃん政策がスタートして以来、貧しい親やシングルマザーが3700人以上の新生児を預け、このうち3600人以上が中流階級の夫婦に引き取られた、と州政府は発表している。

■新生児の遺棄を後押し?
女の子を身ごもった場合、妊娠中絶もポピュラーな間引き方だ。超音波を使った胎児の性別判定はインドでは違法だが、胎児が女子とわかると多くの親が中絶を選択する。

医学雑誌ランセット・メディカル・ジャーナルは2011年、過去30年でインド全体で1200万の女子の胎児が中絶されたとの記事を載せた。

性別判定を依頼する金銭的余裕がない貧しい地域ではやはり、中絶よりも乳幼児殺しが多くなる。正確な数字は定かでないが、タミルナードゥ州では少なくとも毎月1~2人の新生児は捨てられているか、死んだ状態で発見されている、と州政府や活動家などは明らかにしている。

2013年6月にはタミルナードゥ州ダルマプリで、女子の新生児に毒入りミルクを飲ませ、殺し、遺体を埋めた容疑で父親が逮捕される事件も起きた。

新生児・胎児殺しは、インド人口の男女比を大きく歪めている。1961年は、男性1000人に対する女性の比率は976人だった。ところが2011年は919人にまで減っている。

だがどうして女子の新生児は嫌がられるのだろうか。その主な理由は「ダヘーズ」(結婚持参金)による経済的な圧迫だ、と活動家らは指摘する。

ダヘーズとは、結婚する際に女性側が男性側に金品を贈る習慣のこと。ダヘーズの金額が少ないと新婦が殺される事件も多発している。法律はダヘーズを禁止するが、今もなおこの習慣は続いている。

タミルナードゥ州政府によると、ゆりかごの赤ちゃん政策が実施されている地域では男女比の開きは改善されるなど、成果を残しているという。

だが人権活動家らは「この政策は、赤ちゃんを遺棄することを推し進めている。女の子の赤ちゃん殺しの根本的な解決にはなっていない」と批判する。(田中美有紀)【2013年12月13日 開発メディアganas http://dev-media.blogspot.jp/2013/12/blog-post_13.html
*******************

圧倒的な貧困、カースト制や「ダヘーズ」などの因習、レイプ事件でも明らかになった男尊女卑の風潮・・・めまいがするようなインドの現実ですが、開発手腕が評価されているモディ首相はどのように立ち向かうのでしょうか?

経済面での成果は時間を要するでしょうが、懸念されてていたヒンズー至上主義の側面を窺わせる出来事の方は早くもいくつか報じられています。

****インド:多言語国家で政権が進めるヒンディー語使用促進****
5月に発足したヒンズー教至上主義政党・インド人民党政権が、ヒンディー語の使用を促進している。
だが、インドは多言語社会で理解できない国民も多いうえ、ヒンディー語はヒンズー教に密接に結びついた言語のため、イスラム教徒や非ヒンディー語話者から反発が上がっている。(後略)【7月30日 毎日】
******************

****インド:ミャンマー難民動揺 モディ首相、強硬姿勢の恐れ 「誰も助けてくれない****
ミャンマーで多数派の仏教徒との衝突を逃れインドへ避難した少数派ベンガル系イスラム教徒(ロヒンギャ族)の間で、不安が広がっている。

5月に就任したヒンズー至上主義を掲げるインドのモディ首相がイスラム教徒の移民に強硬姿勢を取るとみられるためだ。

支援者は「(世俗的な)前政権すら難民を不法移民扱いした。モディ政権ではどうなるのか」と懸念する。(後略)【8月2日 毎日】

******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク北部クルド系少数民族に迫るジェノサイドの危機 アメリカは限定空爆へ

2014-08-08 23:25:03 | 中東情勢

(イラク北部シンジャルからクルド自治区へ避難してきたヤジディ教徒の家族 “flickr”より By Ogbodo Solution https://www.flickr.com/photos/124724222@N05/14671292130/in/photolist-omsd1A-oCz7DY-ojRZd5-omuPbR-oE88xa-okShKG-oCEgWM-omnone-okSMPo-oAmaBS-oAQvQG-okJfNx-oAT2Az-oCk82h)

これまでのイラク情勢:“漁夫の利”のクルド人、独立への動きも
これまでのイラク情勢は、主に急拡大するスンニ派イスラム原理主義「イスラム国」とシーア派主導の中央政府・マリキ政権の攻防という構図でした。

この間、北部のクルド人はかねてより領有権を主張していた油田地帯キルクークを中央政府撤退の間隙に占有するなど、“漁夫の利”を得る形で、分離独立への動きが強まることも考えられる・・・とも言われてきました。

****クルド自治区独立の可能性 カギ握る米国の態度****
エコノミスト誌6月21-27日号は、混乱のイラクにあってクルドが力を増しており、クルド指導部は事態を静観しているが、状況はクルド独立に有利になってきた、と報じています。

すなわち、イラクの混乱が拡大する中、クルド自治区では通常の生活が続いており、クルドの力は増しつつある。

イラク軍がクルド自治区との境の検問所を放棄し、ペシュメルガが、キルクークを含め、帰属を巡ってバグダッドと争ってきた全地域を支配下に置いた今、クルドはイラクの5分の1の領域を支配している。

イラク軍もイラクのアラブ人もクルドの「強奪」を非難するが、どうにもできない。

一方、クルドの外交責任者は、自分たちはこれまでの過ちを正したのであり、国民投票によってキルクーク等の帰属を決めるとした、憲法140条の規定が事実上実現された、と言っている。

確かにクルドの評価は高まっている。バラバラになったイラク軍に対し、ペシュメルガは団結しており、クルド自治区はモスル等からの難民30万人を受け入れた。

これまでも、爆弾テロに苦しむバグダッドを尻目に、エルビルには外国人ビジネスマンが出入りし、イラクの他地域から逃れてきたキリスト教徒も平和に暮らしてきた。腐敗はあるが、民主主義も他地域に比べてはるかによく機能している。

そうしたクルドをマリキは必要とするかもしれないが、クルドにはマリキを必要とする理由がない。
元々バグダッドとエルビルの関係は緊密ではなかったが、今回の危機が始まっても、両者間の連絡は限られている。

マリキはまだクルドに支援を要請していないが、要請されても、クルドが喜んで応じるかどうかわからない。彼らの優先課題は自治区とクルド人の防衛だからだ。

それに、1988年、フセインによって毒ガスでクルド人5000人が殺されたことへの怒りはまだ収まっていない。
また、ISISに率いられたスンニ派が、今後、クルド自治区にも向かって来ると見る者もいる。

いずれにしても、立場を強めたクルドは、バグダッドに対し、
(1)クルド自治区の石油輸出権および新油田を開発・管理する外国企業との契約から直接利益を得る権利の承認、
(2)連邦予算のクルド分の委譲、
(3)中央政府によるペシュメルガの給与負担、
を強く迫ることになろう。勿論、マリキは同意を躊躇してきたが、今や彼の立場は弱い。

キルクーク周辺の油田を支配するようになれば、クルドが扱う原油量は倍増する可能性がある。加えて、最近、独自のパイプラインも完成した。バグダッドからクルドとの取引を禁じられる恐れがなくなれば、輸出量はさらに増えるだろう。

一方、今は団結しているが、クルド内部では、独立の程度と追求すべき戦術を巡って論争が続いてきた。
バルザニ自治区大統領が率いるクルド民主党は、近年トルコとの関係を深めており、自治権を拡大しようとしているが、クルド愛国同盟はバグダッドやイランと近い。

しかし、クルドが頼りにする米国は、クルド自治区の完全独立を、悪しき前例、地域の不安定化要因になると見て、支持していない。

自国内のクルド人を刺激されたくないイラン、トルコ、シリアも独立を嫌っている。

クルド自治区では至る所にクルドの旗があるが、イラク国旗は見当たらない。アラビア語を話すクルド人もほとんどおらず、イラクへの帰属意識は希薄だ。

指導部は、独立を急がないと述べ、事態を静観しているが、ここ数日で彼らが独立の実現に近づいたのは明らかだ、と報じています。【8月1日 WEDGE】
******************

従来、クルド人とイスラム国(IS)との間では衝突はあるものの、一種の“棲み分け”的な共存関係も見られ、全面的な対決はありませんでした。

北部でのクルド人とイスラム国の抗争激化
しかし、ここにきて北部地域での両者の抗争が激しさ増しており、クルド人勢力も“漁夫の利”を謳歌してばかりはいられない状況にもなっています。

****イスラム国:イラク最大のダムや油田掌握****
イラクで侵攻を続けるイスラム教過激派組織「イスラム国」主導のスンニ派武装勢力は3日、クルド人治安部隊ペシュメルガとの戦闘の末、イラク北部ニナワ県にある同国最大のモスル・ダムやアインザラ油田を掌握した。国営テレビが報じた。

ペシュメルガは6月以降、撤退した政府軍などに代わって重要インフラを守ってきたが、イスラム国側の攻勢に屈した。イスラム国側は、大規模油田がある北部キルクーク県への攻撃も強めており、支配をさらに拡大しそうだ。

国営テレビなどによると、イスラム国側は2日、アインザラ油田に近いズマルなどでペシュメルガへの攻撃を始め、少なくとも14人を殺害。ペシュメルガは3日までにズマルやモスル・ダムなどの拠点を放棄し、イスラム国側が掌握した。イスラム国側が支配下に置いた油田は5カ所目となる。

モスル・ダムは発電や治水などの多目的ダムで、下流のチグリス川は首都バグダッドやモスルなど主要都市を流れている。イスラム国側がダムを狙った背景は不明だが、ロイター通信は「(イスラム国が)下流で洪水を起こしたり、農業用水を制限したりすることも可能になった」と指摘した。(後略)【8月4日 毎日】
******************

なお、ダムについては、“イスラム国が侵攻を続ければモスル北部の主要ダムも掌握される恐れが出ているが、クルド筋によればダムではペシュメルガの精鋭部隊ゼレバニがまだ持ちこたえているという。”【8月4日 AFP】との報道もあります。

また、イスラム国は3日、北東部ズマルに続き、クルド人勢力の管轄下にあったイラク北部の都市シンジャルを掌握しました。

いずれにしても、キルクーク、更にはクルド自治区の主都アルビルへ向けてイスラム国が侵攻してくるということになると、強力な治安部隊ペシュメルガを擁するクルド側も切迫してきます。

アルビルはイスラム国が占有するモスルからは直線距離で80kmほどしかなく、すでに中間地点のいくつかの町がイスラム国側に落ちています。

山間部に取り残されたクルド系少数派に迫る人道危機
現在、喫緊の問題となっているのは、イスラム国がおさえた北部の都市シンジャルです。
シンジャル周辺にはクルド系の少数派であるヤジディ住民が居住していますが、このヤジディが逃げ込んだ山間部に取り残され、生命の危機にさらされています。

****少数民族が窮状に、飢えや乾きで子どもら数十人死亡 イラク****
イスラム過激派組織が勢力を強めているイラク北部で、ニネベ州シンジャルの町から山間部に逃れた少数民族ヤジディの住民が孤立し、生命の危険にさらされている。

数万世帯が猛暑の中で食料も水も医薬品もない状態に置かれ、数十人の子どもが渇きのために死亡したという。

同地ではイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(旧イラク・シリア・イスラム国=ISIS)」が攻勢を強め、キリスト教や少数民族、イスラム教シーア派の住民などが標的とされてきた。

ヤジディ系の国会議員は演説の中で、これまでにヤジディの子ども70人が死亡したほか、女性は殺害されたり人身売買され、男性500人あまりが虐殺されたと述べ、助けが必要だと涙ながらに訴えた。

「48時間の間に3万世帯が水も食糧もないまま山間部に取り残された。状況が悪化する中で老人50人が死亡し、女性は捕まって人身売買された」と同議員は語る。

国連児童基金(ユニセフ)も5日、この数日でヤジディの子ども40人が、脱水症状などのため死亡したと発表した。

「2万5000人もの子どもがシンジャル周辺の山間部で孤立しており、飲料水や衛生設備などの人道援助を緊急に必要としている」という。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、シンジャルから住民が避難した山間部は、イスラム国の戦闘員に包囲されている。行方不明になった民間人数百人は、殺害されたり拘束されたりしたと伝えられているという。

ヤジディはクルド系の宗教民族で、約50万人がシンジャル周辺に住んでいた。【8月7日 CNN】
**************

ゾロアスター教の影響も受けていると言われるヤジディについては、ウィキペディアによれば以下のとおりです。

****ヤズィーディー****
ヤズィーディー(Yazidi、ヤジーディー、ヤズィード、ヤジディ)は、中東のイラク北部などに住むクルド人の間で信じられている民族宗教。

Mishefa ReşやKitêba Cilweといった独自の聖典を持つ。イスラーム化する以前の諸宗教の系譜を引く、クルド人の宗教と言われる。

イスラム教、キリスト教、ゾロアスター教の影響を受けており、天使マラク・ターウースを信じる。多数派のムスリム(イスラム教徒)から邪教扱いされている。【ウィキペディア】
****************

国連安保理もこのヤジディの状況を危惧しています。

****イスラム国を非難=イラク情勢で緊急会合―安保理****
国連安全保障理事会は7日、イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」によるイラク北部での攻勢激化を受けて緊急会合を開催し、イスラム国を非難した上で、被害を受けた住民を支援するため、国際社会に対し「可能なすべて」を行うよう求める報道機関向け声明を発表した。

声明は、イスラム国がキリスト教徒ら少数派の宗教・宗派や民族を組織的に迫害していると強調。「最も強い言葉」で非難した。

一方、潘基文国連事務総長も7日、最近のイラク情勢に「ひどく衝撃を受けている」と訴える声明を報道官を通じて発表した。

声明は「国際社会、とりわけ状況を好転させるだけの影響力と資源を持つ国」に対しイラク政府を支援するよう要請している。

イスラム国の攻勢により、ヤジディ教徒と呼ばれるクルド人中心の民族宗教の信徒多数が家を追われ、避難先の山地で孤立。緊急の人道支援を必要としているとされ、事務総長は重大な懸念を示した。【8月8日 時事】 
****************

オバマ大統領の方針転換 イラク介入へ
この事態に、これまでシリア・イラクへの直接関与を極力避けてきたアメリカ・オバマ政権も、ヤジディ救済の人道支援、及び、イスラム国への限定的空爆に乗り出すことを明らかにしています。

****オバマ米大統領:イラク限定空爆を承認−−緊急声明****
オバマ米大統領は7日、ホワイトハウスで緊急声明を発表し、イラク北部で支配地域拡大を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」に対する限定空爆の実施を承認したことを明らかにした。

また、避難民数千人を対象に米軍機から食料と飲料水を投下する人道支援作戦を実施したと述べた。

空爆が実施されれば、2011年にイラクから米軍が撤退を完了して以来、初めての実戦行動となる。イラク政府の要請に基づく措置という。

オバマ大統領は空爆について、「イスラム国部隊の抑止」が主目的だと説明。クルド人自治区の中心都市アルビルや首都バグダッドなどに滞在する米軍顧問や米外交官らの保護が必要になった場合や、イスラム国による宗教的少数派の迫害を止めるために実施することを承認したという。

また、イスラム国との戦闘を効率的に行うため、イラク政府とクルド部隊への緊急支援も行っているという。

軍事活動は拡大せず、地上戦闘部隊を派遣しない方針も改めて強調。治安改善には挙国一致政権の樹立が必須だとして政治プロセスの加速をイラク指導者らに求めた。

米軍機が支援物資を投下したのはイラク北西部ニナワ県シンジャル付近。
現地の山岳部には、イスラム国の部隊から逃れたクルド系の少数派ヤジディー教徒ら数千人が避難しているが、水や食料が不足し国連によると子供40人が死亡したとの情報もある。

オバマ大統領は、イスラム国がヤジディー教徒に対し「情け容赦のない野蛮な攻撃を仕掛けている。ジェノサイド(大量殺人)にあたる行為だ」と厳しく批判。避難民救出のため空爆も辞さない姿勢を強調した。

国連人道問題調整事務所の報道官はロイター通信に、イスラム国部隊の侵攻で「20万人がイラク北部のクルド人自治区などに避難した」と語った。【8月8日 毎日】
********************

空爆は、イラク北部で孤立した少数派住民の救援に必要な場合や、アメリカ権益・国民が危険にさらされた際に行う。イラクに地上部隊を再派遣することはない・・・という限定的空爆ということですが、大統領就任以前からイラク撤退を主張し、実際にイラクから米軍を完全撤退させたオバマ大統領にとっては大きな転換点とも言えます。

現在のイラクの混乱は、やみくもにイラクに侵攻したブッシュ前大統領と明確な青写真がないまま完全撤退してマリキ首相の独善を招いたオバマ大統領、両者の責任だ・・・・とも批判されているオバマ大統領ですが、ヤジディの問題で明確な姿勢を見せることでそうした批判をかわそうという狙いでしょうか。

先ほどのニュースによれば、クルド自治区の中心都市アルビルを守るクルド部隊がイスラム国の砲撃を受けた後、米軍がイスラム国拠点に対し空爆を行ったとのことです。

それにしても、ウクライナ国境ではロシアが侵攻も辞さないような不穏な動きを示しており、パレスチナ・ガザでは停戦延長ができずハマス・イスラエル双方の攻撃が再開され・・・と、アメリカ大統領のストレスは想像を絶するものがあります。

まあ、そういうことをストレスと感じるような人間には勤まらないということでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国・雲南省地震  「泥水ラーメン」報道に対する市民反応 殺到するボランティア

2014-08-07 22:58:50 | 中国

(写真はhttp://news.ifeng.com/a/20140804/41436870_0.shtmlより
写真説明には「地下水や水道水は地震のため濁っており、限られたきれいな水は負傷者に優先的に使用し、解放軍・消防士など救援隊は濁った水で麺をゆで、ご飯を炊いている」とあります。)

死者589人
3日に中国・雲南省を襲った地震の犠牲者は昨日の段階で589人と報じられていますが、おそらくまだ増加するものと思われます。
全壊・半壊した家屋は8万棟を超えているとも言われています。

****雲南省の地震、死者589人に 土砂ダム、19カ所確認****
中国雲南省の昭通市魯甸(ルーティエン)県で3日に発生したマグニチュード(M)6・5の地震は6日も救出作業が続き、国営新華社通信によると死者は589人、負傷者は2401人に増えた。

また、土砂崩れにより河川がせき止められた土砂ダムが19カ所で確認された。

中国メディアは5日、救援隊の話として、60人前後が土砂に埋まったままの村があると伝えた。5日時点で村人約70人のうち10人しか生存が確認されていないといい、死者が今後さらに増える可能性がある。

最大の土砂ダムができた牛欄江では、5日夜の時点でダム湖内に約5千万立方メートルの水がたまり、さらに水位が上昇。下流の住民840人が避難している。

地震の規模からみて死者が比較的多かった理由として、新華社通信は中国地震局の分析を紹介。
①現地は貧困県に指定されており、土壁やれんが、木材による古い民家は耐震性が低かった
②人口密度が、同省平均の2倍の1平方キロあたり256人と高かった
③震源の深さが約12キロで比較的浅かった、の3点を挙げている。【8月6日 朝日】
******************

中国の地震被害としては、2008年の四川大地震が思いだれますが、その教訓が十分に生かされたとは言い難いようです。

******************
中国紙によると、雲南省政府は2008年の四川大地震後に、約100億元(約1600億円)をかけて地震が多い地域で耐震工事を施した。

だが、複数の被災者は「耐震化をしろと地元政府も口では言うが、補助金などもらったことはない。貧しい地域では自力でできない」と訴える。【8月6日 毎日】
******************

【「泥水ラーメン」・・・頭に問題があるのではないか
そうした本筋の話とは別に、非常に興味深く読んだ記事がありました。

****中国で驚きの声・・・雲南地震で「泥水で麺ゆでて食べる救援隊****
中国では、雲南省昭通市魯甸県付で3日に発生した地震で、現場入りした救助/救援隊が、泥水で麺(めん)をゆでて食べている写真が発表され、全国的に議論になった。中国新聞社などが報じた。

インターネットに掲載された写真では、制服を来た軍人とみられる男性数人が、カップ麺に湯気の出る泥水を入れたりしている。現地では水源施設が破壊され泥水しか手に入らず、けが人の傷口を洗浄するのも困難な状態になったという。

救援指揮部関係者は、「地震発生後、救援隊を極めて迅速に現地入りさせることができたが、考えが至らなかった面があった。浄水器が足りなかった」、「一部の救援隊員が泥水を簡単に濾(こ)しただけで、後は沸かして使用している」と、救援隊員の衛生に問題が発生していることを認めた。

被災地は山間部が多く、道路が寸断されたために車両が通行できない個所も多い。そのため、必要な物資は空から投下しているが、けが人の手当てのためにも浄水装置がとりわけ必要という。

救援指揮部関係者は、救援隊員について、迅速な現地入りは極めて困難だったとして「体力も大いに消耗しているので、泥水を飲んで発病する可能性も高い。彼ら自身の健康も損ねてしまうし、その後の救援活動にも影響するだろう」と心配した。

それ以外に、被災現場に真っ先に到着した救助隊が携行していた医薬品が、すぐになくなってしまうという問題も発生したという。

これまで、ボランティアとして地震被災地の救援活動に参加したという女性は、救援隊に対する補給が軽視される場合があると指摘。「2日間にわたり、何口か水をすすって、わずかなパンを食べるだけでした」と述べた。

同女性は、救援者に対して衛生状態は確保せねばならないと主張。彼女が属するボランティア組織は、救援活動に際しては必要な量の水を持参することにした。清潔な水の確保は「最低限の条件」だからだ。

一方、2008年に発生した四川大地震で救助作業に加わった消防士という男性は「救助作業の際は、きわめて切羽詰まった状況だ。泥水でも直接飲まねばならないこともある」と説明。救援隊は浄水装置を持参すべきとの考え方に対しては「そんな余裕はない」と主張した。

簡易投稿サイトの微博(ウェイボー、中国版ツイッター)では、「(救援対策側の)頭に問題があるのではないか」、「中国の軍人の命は本当に安い」、「後方勤務にも時間がかかる」、「自殺式救援」、「これが戦争だったらどうなる? 戦いを進められるのか?」など、さまざまな書き込みが寄せられた。

被災地では5日昼ごろには、住民を含めて即席麺、ミネラルウオーター、パンなどの配布が始まり、食料や水の問題は基本的に解決されたという。一部では軍部隊が「炊き出し所」を設け、米飯や粥、炒め料理の供給も始めた。【8月6日 Searchina】
*******************

“中国で驚きの声・・・雲南地震で「泥水で麺ゆでて食べる救援隊」”という見出しを見て、極めて困難な状況で使命を果たす救援隊に感動する中国国民・・・そういった類の記事かと思いました。
「雷峰に学べ」的な革命精神鼓舞(そんなものが残っていればの話ですが)の記事かとも。
(最初に報じられたニュース自体は、そうしたプロパガンダ的なもののようですが)

しかし、記事を読んでみるとそうではないようです。
一言で言えば「必要な水や浄水装置も持たずに救助に入ってどうするの?泥水でゆでるなんて自殺行為じゃないか 段取り悪過ぎ」という批判的な意見が多く寄せられているという話のようです。

救助活動が直面している状況・切迫度はケース・バイ・ケースでしょうから、「泥水で麺ゆでて食べる救援隊」については一概にとやかく言えないところですが、少なくとも「雷峰に学べ」的な無批判的賛美に比べれば、今回ネットに寄せられた多くの意見は極めてノーマルな反応でしょう。

日中関係は難しい状況にあり、とかく両国の反日・反中的言動が多く報じられ、相互理解も難しいようにも思えてくるのですが、上記のようなごくノーマルな反応、ごく普通の感覚があれば、話が通じるものも多々あるのでは・・・と思った次第です。

環球網「ウソだ、信じるな」・・・その後謝罪
なお、この「泥水で麺ゆでて食べる救援隊」報道については、「こんなことあるはずない。ニセ情報だ!」とする人民日報系のメディアである環球時報が謝罪に追い込まれたという話もあるようです。

****雲南省地震 被災地の「泥水ラーメン」報道に、「ウソだ、信じるな」と報じた環球網 一転して事実を認め「謝罪」=中国メディア****
3日に中国雲南省で発生した地震の救援隊が、水不足のために泥水を沸かしてカップ麺を調理している様子を撮影した動画が中国国内で注目を集めた。

しかし、この映像をめぐって中国・人民日報系のメディアである環球時報が、自国の他メディアに対して謝罪を強いられる結果となった。事態の一部始終について、当事者でもある中国広播網が6日に報じた。

中国の動画サイト・騰訊視頻に4日、震源に近い中学校で救援部隊の救援スタッフと思しき人びとがカップラーメンを持って鍋を取り囲む様子を撮影した動画が公開された。

鍋には泥水が入っており、煮沸消毒したうえでラーメンの調理に用いるという。この光景は直ちに多くの国内メディアが報じた。

しかし、環球時報のウェブ版・環球網は5日「泥水ラーメンはウソ、情報を簡単に信じて前線の士気を傷つけるな」という環球時報記者の文章を掲載。

ある軍の救援部隊責任者が「そんなことは常識的ではない」と語ったことを理由に、「泥水ラーメン」の映像を「ニセのニュース」と断定するとともに、救援部隊責任者が「別のたくらみがある画像を簡単に信じて、救助部隊の士気をそがないでほしい」とコメントしたことまで伝えた。

これに対して、中国中央ラジオ局の記者が真っ向から反発。

同局の特別報道部は6日午前、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)上で「調査をしていないものに発言権はない」という見出しを付したうえで、「局の記者が現場に居て、確かに見たこと。そうせざるを得ない状況だった」と発言。

同局の記者アカウントも「事実だ。自分も同僚もそれを食べた」とつぶやいた。

すると、同局が発言した約3時間後に、環球網の微博アカウントが「現地にいる記者や動画撮影者による報道は事実で、誤っていたのは私だ。一切を軽々しく否定してしまった」などとする、報道部副主任の謝罪発言を掲出。

現地で組織された民間の救援部隊が混濁した水道水に消毒薬を入れ、煮沸したうえで調理に使用していたことを認めた。

謝罪声明を受けた中国中央ラジオ局はその後「あなたの謝罪を見た。しかし、こんな報道をしてはいけない」というタイトルを付け、「われわれは無知の言論に対してねちねち言うつもりはない。しかし、デマの拡散が前線の物資供給状況に対する誤解を生んだ。虚偽報道は記者にとって大きな恥であり、すべてのメディアが守るべき最低ラインだ」と改めて環球網の報道を非難した。【8月7日 Searchina】
******************

虚偽報道云々は、日本でも慰安婦報道で問題になっているところではありますが、早い段階で誤りを認めることはよいことです。

それにしても、先述のように、救助活動が直面している状況・切迫度はケース・バイ・ケースですから、国営メディアであれば「こんな困難な状況で“泥水ラーメン”を食べて頑張っている。素晴らしいじゃないか!」という意見があっても不思議じゃないとも思いますが、そうではなかったところが面白く感じました。

道路をふさぐボランティア
雲南省地震に関する話題をもうひとつ。

****中国・雲南省地震、死者589人に ボランティア殺到で救援に支障も****
・・・・また中国政府は6日、救援物資を運ぶ車両やボランティアを乗せた車などで長い渋滞が発生し被災地へと続く道路をふさいでいるとして、人々に被災地には入らないよう広く呼び掛けた。

また周辺道路は地滑りによる土砂で所々寸断されており、救出活動に支障が出ている。【8月6日 AFP】
******************

災害が起きたときボランティアが殺到し、現場が混乱することもあるというのは日本でも同じです。

日中間では衝突や事件でとかく異質性だけが強調されがちですが、「泥水ラーメン」に対する市民反応に加え、社会的に見ても日本と共通する市民行動があるようで、そうしたことも相互理解の土壌となるのでは。

日本企業も早い対応
なお、ネット検索すると、今回の地震に対していち早く日本企業が義援金などを送っている情報がいくつも見られます。

政府間の関係が機能していない状況ですから、それだけに個々の企業が自分たちの努力でなんとか・・・というところでしょう。

****安倍首相は紹介せず=各国のお見舞い―中国国営テレビ****
中国国営中央テレビは5日午後7時(日本時間同8時)のニュースで、雲南省の地震被害に対し、お見舞いなどを表明した各国を伝えた。韓国やロシア、ベトナムなど12カ国の首脳らからのメッセージが読み上げられたが、安倍晋三首相は紹介されなかった。

安倍首相は4日、習近平国家主席と李克強首相にメッセージを送り、「心よりのお見舞いと哀悼の意」を表明。支援の用意があることも伝えている。【8月5日 時事】 
*******************

「大国」を自称する国にしては、随分と大人げない対応です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  難航する大統領選挙再集計 副大統領の不正指示疑惑も 政治にとどかぬ人々の思い

2014-08-06 22:50:33 | アフガン・パキスタン

(決選投票の投票所 【6月14日 WSJ】 タリバンの影響が強い地域では、投票は命がけです。)

800万票すべてについて、不正がなかったかを確認
アフガニスタンでは4月5日に大統領選挙の初回投票が行われ、1位のアブドラ元外相と2位のガニ元財務相によって6月14日に決選投票が行われました。

この決選投票の暫定結果ではガニ元財務相がアブドラ元外相を10ポイント以上、上回りましたが、アブドラ元外相が大規模な組織的不正があったとして結果受け入れを拒否。一時は、それぞれの陣営による二つの政府が並立することも懸念されました。

アブドラ元外相を支持する少数派のタジク人、ガニ元財務相を支持する多数派のパシュトゥン人という民族対立が背景にあるだけに、政治混乱は容易に民族間の衝突につながります。

その後、今年末の撤退を控えてアフガニスタンの混乱を危惧するアメリカ・ケリー国務長官の仲裁によって、有権者が投じたおよそ800万票すべてについて、不正がなかったかを確認する調査の実施が決まりました。

報道によれば、最終結果発表後に両候補が挙国一致内閣を樹立することで合意したとのことですが、かなり玉虫色の合意のようでもあります。

“外交筋によれば、挙国一致内閣案は敗者が行政長官となり、約2年後のロヤ・ジルガ(国民大会議)での憲法改正を経て新ポストの首相に就任するという内容。取材に対し、アブドラ氏陣営の関係者は合意案を認めたが、暫定結果1位のガニ氏の陣営幹部は、「制度変更については合意していない」と明らかにした。”【7月28日 産経】

「不正の有無の確認」とは言っても、実際に両陣営が納得する形でどうやって行えるのか・・・難航することは容易に想像できますが、実際、難航しているようです。

****アフガニスタン:大統領選 決選投票の再集計が難航****
アフガニスタン大統領選で決選投票の再集計が難航している。

独立選挙委員会(中央選管)は約810万のすべての投票について不正を調査しているが、不正票の選別基準などを巡り両候補者がたびたび対立。26日には再集計の作業が3度目の中断に入った。

最終結果が出るまで当初は「3週間程度」と言われていたが、発表のめどは立っていない。(中略)

選管などによると、再集計は17日に始まったが、両陣営で不正票の判断基準が食い違うなどして作業が停滞。再集計が終わったのは、投票箱約2万3000個のうち1300個あまり。

オバマ米大統領は25日、両候補に電話で結束を保つよう求めたが、選管は26日、再集計を一時中断した。

関係者の協議を経て、ラマダン(イスラム教の断食月)明けの祝祭「イード」が終わる31日にも再開する方針だ。

新大統領は8月末にも就任する予定だが、再集計作業が停滞すれば遅れる可能性もある。【7月29日 毎日】
*******************

【「カルザイ大統領と政府、国際社会は(ガニ氏の)勝利を望んでいる」】
6月の決選投票では、アブドラ元外相は得票率45%を確保した1回目から約50万票増えたものの346万票にとどまったのに対し、ガニ元財務相は1回目の2倍を超える449万票を獲得。
特に地盤の東部ホースト州で4・6倍、南部カンダハル州で7・6倍に増やすなど驚異的な得票数の伸びを見せました。

このあたりの票の動きを“不自然”と見るかどうか・・・・。

パシュトゥン人が暮らす上記地域で、初回投票時のパシュトゥン人候補がいなくなりガニ元財務相に一本化されたため、ガニ元財務相の得票が大幅に伸びた(実際に初回投票にそうした対立候補がいたのかそうかは知りません)・・・ということは可能性としてはあり得ますが、投票率自体が大幅に高くなっていることなどがどういう理由によるものなのか・・・・。

また、組織的関与を疑わせるものとしては、選挙管理委員会事務局長アマルヘイル氏とされる人物が、「ヒツジを持ってこい。カラにするな」「彼らはヤギを詰め込むために雇われた」と話している録音音声(ヒツジは投票箱、ヤギは票を意味しているという)が公表され、アマルヘイル氏は辞任に追い込まれています。

更には、副大統領の不正指示も表沙汰になっています。

****副大統領が不正指示か=元外相、極秘会議の録音暴露―アフガン大統領選****
アフガニスタン大統領選挙で、候補のアブドラ元外相は3日、カルザイ政権のハリリ第2副大統領が選挙管理委員会関係者らとの極秘会議で発言した内容の録音テープを公表した。

現政権が票の水増しなどの不正に関与した証拠だと主張している。

6月実施の大統領選決選投票では、選管が組織的不正があったと認めている。
今回新たな証拠が提示されたことで、アブドラ氏の対立候補であるガニ元財務相に、現政権が不正に勝利をもたらそうとした疑いが強まってきた。

極秘会議が開かれたのは決選投票前で、選管やガニ陣営関係者が出席していたとみられる。

ハリリ副大統領はこの中で「カルザイ大統領と政府、国際社会は(ガニ氏の)勝利を望んでいる」と発言し、「どのような手段を使っても(ガニ氏に)勝利をもたらせ」と指示していた。

アブドラ陣営幹部は記者会見で「この国では選挙結果はあらかじめ決められ、有権者の投票が全く無意味だったことが証明された」と批判した。【8月4日 時事】 
******************

前回2009年選挙でも激しい不正が横行し、カルザイ大統領はアメリカなどの国際圧力で決選投票を行うことになりました。

このときも対立候補であったアブドラ氏は不正防止策として選挙管理委員会の委員長の更迭などを要求し、結局公正な選挙が期待できないとして、せっかく準備された決選投票をボイコットしました。

そうした経緯があって、選挙結果受け入れを拒否したアブドラ元外相については「またか・・・」という感もあり、当初「アフガニスタンの現状を考えれば、多少の不正は仕方ないじゃないか。結果は結果として受け入れないと・・・」という印象もありました。

しかし、副大統領の陣頭指揮での不正行為という話になると、また違ってきます。

自立への第1歩 正念場のアフガニスタン
NHKのドキュメント番組「投票できなかった3人の若者~アフガニスタン大統領選挙~」を観ました。

******************
従来はタリバンの勢力はさほど強くなったにもかかわらず、最近その力が大きくなってきている北部クンズドゥ州が舞台です。

選挙を妨害するタリバンによるテロを心配して投票を認めない父親。それでも新しい国の在り方を自分の1票でつくりたいという思いで、選挙に参加しようと悩む女性。

かつての内戦時は兵士で、今は武器を捨てたはずの農民。しかし復興が進まない現状にいらだち、タリバンから村を守る自警団として再び武器を取った元兵士。投票日はタリバンとの戦闘で、投票どころではありませんでした。

外国部隊の通訳として働いていた男性。裏切り者としてタリバンから命を狙われる恐怖の中で、投票日を前にドイツへ出国。

近年この地域で台頭したタリバンの兵士。もともとは農民であったが、政府の無策で暮らしが立ち行かず、タリバンに身を投じ、農民から税金を取り立てる側に。
*****************

こうした人々の想い、苦悩にもかかわらず、選挙の意味を認めず不正で勝利しようとする政治家、腐敗・不正が横行して復興を進められない政治・・・なんともやりきれない思いです。

****タリバン1千人が検問所を襲撃、60人以上死亡 アフガン東部****
アフガニスタンのメディアによると、アフガン東部ナンガルハル州で29日、イスラム原理主義勢力タリバンのメンバー約1千人が当局の検問所を襲撃した。治安部隊との間で戦闘になり、タリバン側約60人と治安要員6人が死亡した。タリバンは、同州など首都カブール近郊での攻撃を強めている。【7月30日 産経】
***************

****アフガニスタン:外国人へ攻撃相次ぐ…軍人・警官が狙う****
アフガニスタンで駐留外国軍の兵士などが軍人や警官に攻撃される事件が相次いでいる。5日には首都カブールでアフガン軍兵士とみられる男が米軍幹部らを殺傷したほか、東部パクティア州でも警官が外国軍に発砲し負傷者が出た。こうした内部からの「インサイダー攻撃」は外国軍や治安当局の脅威になっている。【8月6日 毎日】
***************

今年末の外国部隊撤退を前にした、大統領選挙の混乱とタリバンの攻勢。
なんとか踏みとどまって、必死に生きる人々の暮らしが改善することになればいいのですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア  撃墜事件後も欧米との対決姿勢を強めるプーチン大統領

2014-08-05 23:32:48 | ロシア

(“flickr”より By Karel Meijers https://www.flickr.com/photos/karelmeijers/14824576583/in/photolist-ozZQ8Z-ogLaxk-ox5C4Q-oAnGyr-oAnGCV-ozNnqH-oBGJqt-oBGJkt-oBGJnx-oBGJqi-ox5C63-ox5C8h-ox5C2q-oAnGAF-oAnGDX-ozNnuk-ozNnr4-oy8jFF-oy8jHV-oh6p66-oh6p3F-ogvWKe-ozNnqx-ogtB5C-ogvWGD-ogtB5s-ogtB69-ozNnoZ-ogvWEK-ozNnoD-oxNLwW-ogvWDH-oxNLzb-ogtB5Y-oiqQvG-oBD4rc-oBD4n4-oBD4ne-oBD4hz-ox5C87-ogrVuD-oxUzfy-oxUzf3-oxUzdE-ohye5v-oz2TJ7-ohye7V-ohye6x-ohye36-oAXbQa

プーチンは新しい反欧米イデオロギーを推進してきた
ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力がロシアの支援のもとでマレーシア航空機を撃墜するという事件は、乗客・乗務員298名の命が奪われる痛ましい悲劇ではありましたが、これによってロシア・プーチン大統領もウクライナでの画策が難しくなり、親ロシア派と距離を置き、欧米側に歩み寄る形でウクライナの混乱について事態の収束を図るのでは・・・との期待もありました。

しかし、その後の展開はそうした甘い期待を裏切るものとなっており、ロシア・プーチン大統領の頑なな姿勢に変化はないようです。

事故現場を支配する親ロシア派武装勢力に対するロシアによる明確な働きかけは見られず、事故調査が遅延しているばかりでなく、事件後もロシアはウクライナへの関与を継続しているものと見られます。

****ロシアが国境越え砲撃 米国務省「証拠入手****
米国務省のハーフ副報道官は24日の定例会見で、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域でマレーシア航空機がロシア製地対空ミサイルにより撃墜された後も、ロシアが国境を越えてウクライナ側の軍事拠点を砲撃し、親露派に多連装ロケット発射装置を供与する準備を行っている「新たな証拠」を米情報当局が入手したと語った。(後略)【7月25日 毎日】
**************

ロシア・プーチン大統領の頑なな姿勢の背後には、単にウクライナをどうするかとか、ウクライナ問題でのロシアの得失はどうなるか・・・といった観点ではなく、欧米的価値観を否定してロシアの独自性を強調する近年のプーチン大統領の基本的考えがあるように見えます。
(7月6日ブログ“ロシア 「ロシアはヨーロッパではない」 欧米的価値観・システムの否定を強めるプーチン大統領”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140706

****旅客機撃墜事件にもプーチンは焦つていない****
ウクライナ情勢などどうでもいい 「戦うべき相手は欧米」と考えるしたたかな戦略

・・・・誰もが知りたいのは、マレーシア航空機撃墜事件が起きた今、プーチン大統領がウクライナ情勢でどう出るかだ。・・・・実はこれらの問題設定はすべて間違っている。プーチンにとってウクライナなどどうでもいいからだ。

彼の戦いの相手はこれまでもこれからも、欧米諸国だ。そういう視点で分析すれば、過去1週間のプーチンの言動はほぼ筋が通っているし、平和は望めないという結論になる。

大統領として再登板した約2年前から、プーチンは新しい反欧米イデオロギーを推進してきた。
まずは同性愛宣伝禁止法を成立させ、抗議する人々は米国務省の回し者だなどと糾弾した。

そこでプーチンが描き出した世界観は驚くほどロシア国民を魅了し、一致団結させた。
欧米の現代的な価値観こそ、ロシアの伝統的価値観を脅かす敵と見なされたのだ。

その文明と文明の戦いが、たまたまウクライナで勃発したにすぎない。

ロシアはウクライナで欧米の拡張主義と戦い、ロシア系住民と祖国を守るのみならず、人権の普遍性を押し付けるような「人権ファシズム」の拡散から世界を救うというわけだ。

だが実際の軍備でいえば、欧米諸国のほうが勝っているのをプーチンも承知している。強大な米軍があり、NATO(北大西洋条約機構)軍もある。豊かな先進国が団結して立ち向かってくることも想定できる。

だから彼は頭脳戦に出る。強硬発言をしながら正面対決は避け、いざ攻撃するなら不意打ちだ。この戦法はクリミアで成功した。まさかのタイミングで侵攻し、勢力の均衡を確保した。

さりげなく核戦力を吹聴
ウクライナ東部ではロシアの兵器供与を受け、ロシアに操られた武装勢力が地元民を装って大暴れしていた。だがマレーシア航空機事件により、その隠れた戦いは表にさらされた。

これでウクライナ危機も正念を迎える、と世界の人々は思ったかもしれない。だがプーチンにしてみれば、長年に及ぶと覚悟していた欧米との戦いで手違いが生じただけ。

・・・・22日にはロシア安全保障会議の緊急会合を開き、冒頭でこう述べた。「わが国の主権も領土も、直接の脅威にはさらされていない。世界における戦略的なパワーバランスのおかげだ」

ロシアには核戦力があるということを強調し、最後にはこう語っている。「NATOの部隊がロシア国境に迫った場合、適切かつ相応の対応をする。国際的なミサイル防衛の開発や、核・非核を問わず高精度の戦略兵器の配備拡大に対して、わが国は見て見ぬふりはしない」(後略)【8月5日号 Newsweek日本版】
*******************

欧米とロシアの対立は新たな段階に入った
こうしたロシア・プーチン大統領の姿勢に、欧米首脳は、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派へ兵器や戦闘員の供与を継続しているとして、連携して対ロシア経済制裁を強化する方針を確認しています。

当初ロシア制裁に慎重だっだドイツなどEU諸国も、アメリカに歩調をそろえる形で対ロシア制裁を発動することで、ロシアへの圧力を強めています。

****強硬な対ロ制裁に傾いたドイツ首相 マレーシア航空機撃墜後の対応などでプーチン大統領への信頼喪失****
・・・・ロシアの支援を受けた分離主義の勢力がMH17便を撃墜したという主張がすでに表面化していたにもかかわらず、ロシア政府に対する新たな制裁を議論するのは「時期尚早」だとメルケル首相は記者団に語った。

「これらの出来事は、我々が必要としていることが政治的解決であることを改めて我々に示している」。メルケル氏はこう述べて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と話をする以外に選択肢はないという持説を繰り返した。

それから2週間も経たない間に、メルケル氏は、ロシアの防衛、エネルギー、金融部門に打撃を与え、西側の対ロ関係における冷戦以降最悪の亀裂をさらに深める広範な欧州連合(EU)の制裁の最も重要な支持者になった。

(中略)メルケル氏はまだプーチン氏に正しいことをするための時間を与えるよう訴えていた。

惨事が好機になる可能性があるとメルケル氏は考えていたのだ。何しろ前例があった。2010年、ポーランドの政府専用機がロシアで墜落し、ポーランドの大統領を含む搭乗者全員が死亡した後、ロシアの大統領は(一時的に)ポーランドに同情を示した。

ドイツの当局者たちは、プーチン氏が、ウクライナの反政府勢力が墜落現場を守り、死者を尊重し、国際調査団に早期のアクセスを認めるようにしてくれると思うと公言していた。だが、それは起きなかった。

(中略)これまでずっと慎重だったメルケル氏だが、ひとたび行動を取ると決意してからは、実際に行動を取っている。
しかも最も緊密なドイツのパートナー諸国が予想したよりもさらに断固とした姿勢で。【7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
********************

****EU:初の対露経済制裁 対立は新段階へ****
欧州連合(EU)は29日、ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件後もロシアが親露派武装勢力に武器を提供、不安定化工作を続けているとして、対露経済制裁を31日に発動することを決めた。経済制裁は初めて。

ロシアの政府系金融機関の資金調達禁止や石油掘削技術の提供禁止などが柱で、露経済に深刻な打撃をもたらすとみられる。

ロシアと経済関係が密接なEUは経済制裁をためらってきたが、撃墜事件を機に厳しい態度に転じた。米国も追加制裁を決定、欧米とロシアの対立は新たな段階に入った。【7月30日 毎日】
******************

ロシアとの関係が深い欧州にとっては、自国への反動も大きい措置です。
“ロシアの景気低迷が欧州企業にとってもリスク要因となってきた。ロシア関連事業の縮小に踏み切る企業も出ており、混乱が長期化すれば、欧州・ロシア双方の経済を下押ししそうだ。”【8月4日 毎日】

また、欧米と協調して追加制裁措置をとった日本にとっても、ロシアが北方領土問題を議題とする日ロ次官級協議を延期すると発表するといった形で影響が出ています。

国際的な圧力に屈してすべてを失うよりは、世界からつまはじきにされる方がまし・・・
一方のロシアは対決姿勢を変えておらず、欧米側の行動への反発を強めています。

ロシアの農業衛生当局は7月28日、ウクライナ産の牛乳やチーズなどの乳製品の輸入を禁止しました。
ロシアが定める衛生基準を満たしていないことを理由としいますが、ウクライナが6月、欧州連合(EU)と自由貿易を柱とする「連合協定」の経済条項に署名したことに対し、ロシアが対抗措置を取ったとも見られています。

ロシア政府は30日、ポーランド産の果物や野菜の多くを輸入禁止にすると発表しました。今後、EUの全域に広げる可能性も示唆しています。

****ウクライナ国境などで大演習=空軍100機、NATOけん制か―ロシア****
ロシア国防省は4日、空軍の戦闘機、爆撃機、ヘリコプター計100機以上による大規模な軍事演習を、西部軍管区などで開始したと発表した。西部軍管区は、ウクライナ国境地帯を管轄する。

ウクライナ東部ではポロシェンコ政権が親ロシア派武装勢力に対する軍事作戦を続けている。
西部軍管区は、エストニアやラトビアといった北大西洋条約機構(NATO)加盟国との国境も管轄する。

今回の大演習には、ウクライナ情勢を受けてウクライナの一部や旧東欧共産圏諸国の間で強まるNATOの東方拡大強化への期待感をけん制する狙いもありそうだ。【8月4日 時事】 
*****************

欧米との対決姿勢はロシア経済にとって大きな負担となりますし、国際政治のうえでもロシアの孤立を強めます。
ただ、プーチン大統領は“それでもかまわない・・・”と考えているようです

****対ロシア制裁:痛みを覚悟するプーチン大統領****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナで打って出た賭けの代償が大きくなっている。それでも方針変更の兆しは見られない。(中略)

マレーシア航空機の撃墜で、ためらっていた欧州首脳も決意
数カ月にわたってばらばらの対応を続けてきた米国とEUが、ついに協調して厳しい制裁を決断した。

対象はロシアの国有銀行で、ロシアの石油産業、軍事産業が必要とする技術の輸出も禁止される。これだけの制裁では、ロシアを屈服させることにはならない。しかし、すでに低迷しているロシア経済に大きなダメージを与えることはできるだろう。(中略)

国有銀行への制裁はロシア経済に最大の、そして最も差し迫った脅威をもたらす。(中略)
新たな制裁が科されれば、これらの銀行が欧米の資本市場で株式や債券で資金を調達するのは難しくなる。長期的に外部からの資金調達の道を断たれれば、債務の返済は困難になる。(中略)

いかなる犠牲を払っても戦う
プーチン大統領は、欧米が躊躇を続け、関心は長く続かないと踏んでいた。そうなれば、大きな危険や犠牲を払うことなく、ウクライナで好きなように振る舞うことができる。

外交関係は悪化するかもしれないが、実質的な痛みはない。ロシアの経済やプーチン大統領の対外的なイメージがどれほど損なわれようと、クリミアを奪還し、ウクライナに恩義を感じさせておけるのであれば、その価値はある。

今や、賭けの代償がプーチン大統領の予想を超えることがはっきりした。しかし、恐らくプーチン大統領が屈するほどのものではない。

シンクタンク、カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレーニン氏は、プーチン大統領は現在、政治生命を懸けて戦っていると話す。

大統領は、大胆な振る舞いを続けて国内での支持を伸ばすか、国際的な圧力に屈し、場合によってはすべてを失うかのどちらかだと考えているのだ。(中略)

欧米との対決にかかっているものについてのプーチン大統領の考えからすれば、事態がエスカレートしても不思議ではない。

プーチン大統領は、自身の政治家としての将来は、ロシアの地域的影響力を守れるかどうかにかかっていると信じている。これは、プーチン大統領がソビエト連邦の崩壊から得た教訓だ。

ウクライナの分離派が敗北し、ロシアが何の見返りも得られない事態こそ、プーチン大統領にとって悪夢となる。ミハイル・ゴルバチョフ氏の二の舞いを演じるくらいなら、世界からつまはじきにされる方がましだと考えているのだろう。【英エコノミスト誌 2014年8月2日号】
*******************

ロシア国内では情報管理によって、プーチン大統領への支持はかつてなく高まっています。
ロシアの世論調査機関レバダ・センターによると、マレーシア航空機墜落はウクライナ軍の責任だと考える人が82%を占めています。

******************
・・・・今回の事件では、「プーチン大統領の専用機と見間違え、ウクライナ軍が撃墜した」「飛行機は元々遺体だけを乗せて飛んでいた」などの珍説がマスコミで相次いだ。

露政府のマスコミ統制ぶりを示す一方で、現実逃避、自暴自棄的なシニシズムの色が濃い。

ウソで固めた社会では時折、暴力的な反動が起きる。一一年の下院選挙では、プーチン与党「統一ロシア」の大規模選挙違反に、全国的な抗議デモが起きた。集計のゴマカシが広範に撮影されていたのも、国民が以前から違反を熟知していたからだ。

プーチン政権には、抑圧を強める以外に策はない。

今年導入されたのは、娯楽芸術作品の中での「汚い言葉」の使用禁止、違法デモに半年間で二回参加すれば懲役最高五年、オンラインで「分離主義」を唱えれば重罰といったもので、当局の恣意的弾圧の幅を広げた。(後略)【選択 8月号】
***************

クリミア編入では、その“手際の良さ”“断固たる姿勢”が一部では高く評価されたプーチン大統領ですが、ウクライナ東部の“ならず者”を支援する姿勢には批判が強まっています。

「プーチンはスパイだった頃と全く同じ世界観、人間観を持ち続けている」とも。

いずれにせよ、硬直した対決姿勢で突き進んでも、ロシアにとって明るい出口はないように思えます

****奈落に沈むプーチンのロシア****
撃墜事件で見せた「凶悪国家」の本性

マレーシア航空MH一七便がウクライナ東部で地対空ミサイルによって撃墜された事件で、ロシアのプーチン大統領が、内外で坂を転げ落ちている。実力以上の軍事行動が、国家消滅につながったソ連時代との類似性を指摘する声も出始め、武力と抑圧で絶頂を味わった指導者は、突然の運命の暗転に打つ手を失っている。

プーチンの立場を端的に示すのが、「ロッカビー・ライン」という言葉だ。カダフィ大佐時代のリビアが一九八八年、パンナム機を英国ロッカビー上空で爆破した後、リビアは国際的ならず者になった。

米欧外交関係者の間では、プーチンは越えてはならない一線を越えたとの見方が有力で、リンチで惨死した「中東の狂犬」と大差がない。

「今後は、国際舞台で『尊敬に値する指導者』を装うことはできない」と、クレムリン・ウオッチャーのマーク・ガレオッティ・ニューヨーク大学教授はブログで論じた。

ロシアは「本質的に攻撃的で、破壊的で、混乱の源」(同教授)であることを、自ら露呈した。【選択 8月号】
*****************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン・ロウハニ大統領 就任から1年 今後は核問題交渉の進展具合次第

2014-08-04 23:34:15 | イラン

(6月9日 トルコ訪問時のロウハニ大統領(左)とトルコのギュル大統領 “flickr”より By Yerevan News https://www.flickr.com/photos/98979659@N04/14387472171/in/photolist-nYMYfX-nYMZWc-nGixdQ-nGiyZ5-nGihPt-nF4G2d-o9dseo-ossTNi-oquS19-oqFxT3-nZrZDj-nGiuEw-o2meFt-nZrYMu-nXwiRj-o2mfbX-o1CxxM-nYFdPh-nJ97m1-nxRy8A-nVnye2-nCKU61-o7KpqF-nWYVuM-nEvoY8)

国際的孤立からは抜け出す
8月3日、保守穏健派とされるイランのロウハニ政権が誕生して1年を迎えました。
この間、イランを取り巻く国際関係の緊張はある程度緩和し、懸案事項である経済は若干の回復の兆しを見せています。

しかし、自由の拡大は保守強硬派の抵抗もあって殆ど進んでいません。

まず、対外関係については、核開発問題を巡る主要6カ国(米英仏中露独)との協議が続く中で一定に改善しており、国際的孤立からは抜け出しています。

****強硬派との対話がカギ****
「イランは、米国とイスラエルの結束や、アラブ諸国の団結をある程度崩し、自国に対する暗く、悲観的な雰囲気を軽減した」

元国会議員のファラハピシェ・アラメタバタバイ大教授は取材に対し、イラン核協議の進展が対外関係の改善を後押ししたと指摘する。

ロウハニ師は対話外交を重視し、イラン革命(1979年)後の在イラン米大使館占拠事件以降、断交していた米国のオバマ大統領との電話協議を実現。

昨年11月には、米欧など6カ国との核交渉で暫定合意にこぎ着け、一部制裁緩和も引き出した。

その結果、経済制裁の全面解除後のイラン市場を狙う各国の動きが活発化し、イランへの対応が軟化した。

シリア内戦で対立していたトルコは、経済協力を積極的に働きかけ、敵対していたイスラム教スンニ派国家サウジアラビアも5月末、「中東地域の安定に協力したい」とイランのザリフ外相の招待を表明した。

ファラハピシェ教授は「オマーン、クウェート、カタールも緊張緩和に向き始めた。サウジとイランの接近はイスラム世界の平和に貢献する」と期待する。

核開発をはじめとした重要政策は、最高指導者ハメネイ師の専権事項だ。ハメネイ師に近い強硬派とうまく渡り合いながら、国内外の課題に対処できるか、ロウハニ師の手腕が試される。【8月3日 毎日】
******************

主要6カ国との核問題をめぐる包括交渉は「著しい隔たり」を残しており、最終合意に漕ぎつけるかは不透明ですが、11月24日まで4カ月延長することが決まっており、9月初旬に再開予定です。

イランにとっては、この協議を続けている間はイスラエルから核施設攻撃を受ける心配はありません。(イスラエルも今はガザ地区で手いっぱいでしょうが)

****イラン核:協議延長合意もウラン濃縮巡り「著しい隔たり*****
イラン核問題を巡りウィーンで開かれていた同国と主要6カ国(米英仏中露独)の包括交渉は19日、今月20日の交渉期限を11月24日まで4カ月延長することで合意した。

ただ、双方の間にはイランのウラン濃縮規模を巡り「著しい隔たり」がある。交渉をリードする米国とイラン両国とも国内に安易な妥協を許さない勢力を抱えており、最終合意の可能性は不透明な状況だ。

「1万9000基は明らかに多い」。ケリー米国務長官は15日の記者会見で、イランが現在保有するウラン濃縮用の遠心分離機を削減することを求めた。

一方、イランは「核の平和利用の権利」を主張。最高指導者ハメネイ師は8日に「19万基必要」と、現在の10倍の台数を提示した。(中略)

経済再生を掲げて当選したロウハニ大統領の就任から8月で1年。
原油の禁輸や金融取引停止などの経済制裁は解除されておらず、経済の立て直しからはほど遠い。

国内には強硬路線を維持したい勢力も存在する。核交渉の最終合意にこぎ着け、経済制裁の全面解除を引き出さなければ国民の怒りが政権に向かう可能性もある。

一方、オバマ米政権が交渉期限の延長を受け入れたのは、長年「敵」と見なしてきたイランに、核問題という国家安全保障上の重要分野での外交成果に期待をつないだ側面がある。

ケリー国務長官は延長決定後の声明でイラン核問題は「世界で最も優先順位の高い問題の一つだ」と述べ、解決の必要性を強調。アーネスト大統領報道官は「最終合意の確かな見通しがある」と前向きの姿勢を示した。

ただ、11月の中間選挙で野党・共和党が上院も支配する事態になれば、「交渉妥結は極めて困難になる」(議会筋)との見方がある。

中東の同盟国でイランを強く警戒するイスラエルやサウジアラビアも厳しい目を向けており、関係各国まで納得させる包括合意の実現は至難の業だ。【7月19日 毎日】
******************

パレスチナの人々へ連帯を示す「コッズ・デー(エルサレムの日)」の7月25日には、イランの770都市でイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に対する抗議デモが行われました。

パレスチナ・ガザ地区のハマスがイスラエルのテルアビブ、エルサレム、更には核施設があるディモナにまでロケット弾を撃ち込めるようになったことがイスラエルの危機感を強め、現在の厳しい攻撃の背景ともなっていますが、これらのハマスの長距離ロケット弾はイランが提供したものと思われています。

前任者アフマディネジャド大統領であれば、そうした“成果”をアピールし、激しくイスラエルを非難するところでしょうが、ロウハニ大統領はイスラエルを刺激することを避けて非常に抑制的です。

***************
デモは世界各地で毎年行われ、イランでは大統領が演説するのが恒例だが、この日、ロウハニ大統領は就任後初のデモが行われるなか、演説しなかった。

核協議の進展で諸外国との対話ムードが広がるなか、イスラエルを刺激したくないとの思惑があるとみられる。

テヘラン市内のデモに参加したロウハニ師は、アフマディネジャド前大統領が昨年の演説で「この地域にイスラエルの場所はない」と強調したのとは対照的に、「ガザの平和を望む。イスラエルを前に、イスラム教徒が団結して抵抗するしかない」と報道陣に述べるにとどめた。【7月26日 毎日】
*******************

インフレは改善、しかし経済成長は未だ
欧米諸国の制裁で疲弊した経済の立て直しについては、“どん底の経済にも薄日が差しつつある”【8月3日 朝日】といったところですが、今後の核問題に関する協議が進展して本格的な制裁緩和が取られないと、国民の期待は失望・怒りに変わる危険な状態が続いています。

****制裁緩和には道筋****
・・・・11月には核開発の縮小を米欧など6カ国に約束、原油売り上げ42億ドル(約4300億円)の資産凍結が解除された。

核開発に絡む欧米からの制裁で低迷する経済も上向きつつある。

国際通貨基金(IMF)が4月に出した報告書によると、インフレ率は昨年の年35%から年23%に改善。「経済の安定に前進した」と評価を受けた。

ただし、失業率は高止まりし、18~25歳の若者では45%。大卒でも職がなく、将来への不安が渦巻く。20年前に4%あった出生率は1・3%に下がった。【8月3日 朝日】
********************

イラン中央銀行の発表によれば、インフレ率は“就任時(昨年8月)の43・1%から14・6%(今年6月末)に改善した。”【8月4日 毎日】とも。

ほぼ一直線に右肩下がりに低下していますので、今後も期待が持てます。

しかし、失業率の高止まりに見るように、経済成長は予想(期待)ほどは改善していません。

この原因は、“穏健派を重用した人事で能力のない人間が入閣し、国内強硬派の、特に国会議員が足を引っ張った。また、(制裁緩和など)国際分野でロウハニ師が目指した水準まで前進がなく、創造的な政策もなかった。”(イランの経済アナリスト、セイエドホセイン・ガセミ氏)【8月4日 毎日】と報じられています。

イラン側からの日本への働きかけも行われています。

****イラン、対日関係テコ入れ 閣僚が相次ぎ来日****
核開発問題を巡り米欧との協力で合意したイランが対日関係のテコ入れに動いている。
過去1カ月の間に重要閣僚2人が相次ぎ来日。

2日、都内で記者会見したエブテカール副大統領兼環境庁長官は環境、自動車、石油分野について「イランには多くの機会がある。日本の投資を歓迎する」と述べ、経済関係の再構築に意欲を示した。

記者会見に先立ち、エブテカール副大統領は石原伸晃環境相と、水質管理など環境5分野での協力覚書を締結。湿地保護対策で国際協力機構(JICA)との協力実績にも言及した。

イランでは2013年8月に穏健派のロウハニ政権が発足。米欧との対話を通じ核開発の縮小を受け入れることで合意した。第1段階として1月に米欧が自動車産業への制裁や石油化学製品の禁輸を一時停止した。

3月初めに日本を訪れたイランのザリフ外相は「日本が不在になって久しい」と語り、日本企業の早期復帰を呼び掛けた。制裁でイラン経済は大きな打撃を受けた。人口増で若年層の雇用環境は厳しく、外国投資誘致は切実な課題だ。

イタリア炭化水素公社(ENI)など欧州石油メジャーや仏系自動車メーカーがイランでの活動再開の意欲を表明している。米国は最終合意に至らない段階での欧州勢のイラン・ビジネス再開の動きをけん制する立場だ。【4月3日 日経】
********************

【難しい「自由な社会」・・・・ハメネイ師との摩擦を避けている
公約に掲げた自由な社会の実現は厳しい状況です。

****司法と宗教、改革が停滞****
イラン政府は表現の自由を厳しく制限し、体制への批判には警察や民兵が目を光らせてきた。出版物や映画は発表前に検閲し、ネットについても欧米メディアやツイッターなど約500万カ所への接続を制限する。

ロハニ氏は、そんな息苦しい社会を変えると選挙戦で訴えたが、変化はまだ見えない。

7月、ネット上で体制を批判した若者8人に、禁錮11~21年の判決が下ったと報じられた。5月には、曲にあわせてダンスする動画をユーチューブに投稿した6人が逮捕された。

ロハニ氏と大臣の全員がフェイスブックに自身のページを持つが、国内からは閲覧できない。

政治評論で知られるテヘラン大のサデグ・ジバキャラン教授は、核開発に使う巨額の資金を教育や福祉に回してはどうか、と記した公開書簡を強硬派の国会議員に送ったことが罪に問われている。

5月下旬、裁判所で「最高指導者や国会、政府に異を唱え、人心を混乱させた」と検事に告げられ、3週間後に届いた文書で「禁錮1年半を命じる」と言い渡された。

ジバキャラン氏は「司法制度が特定の政治勢力に利用されている」と憤り、控訴中だ。

「すべての政治犯の釈放」も公約だが、2009年の反政府デモで中心となった改革派のムサビ元首相らは自宅軟禁のままだ。

イランの大統領は行政機関の長に過ぎず、上位には最高指導者のハメネイ師がいる。

ロハニ氏は司法や宗教に関わる問題では、ハメネイ師との摩擦を避けているとみられる。
その結果、両分野に関わる政策では、改革が停滞しているようだ。

これには「上ばかり見て国民を見ていない」(イラン人記者)と批判もくすぶっている。【8月3日 朝日】
*****************

この問題に関しては、保守強硬派の壁がいまだ厚いようです。
核問題の包括交渉が進展して制裁が本格的に緩和され、経済が上向く状況になれば、ロウハニ政権の国内での発言力も高まり、自由拡大にも薄日が差します。

逆に、交渉も制裁緩和も進展しなければ、政権は力を失い、自由の拡大もかなわぬ夢となります。

****イラン大統領:「自由な社会」道半ば 国際的孤立は脱却****
・・・・米国人歌手の大ヒット曲「ハッピー」に合わせて踊る動画をインターネットサイト「ユーチューブ」に投稿したイランの若者6人が逮捕された。

「社会の道徳を傷付けた」とするテヘラン警察署長に対し、表現の自由を巡り国内外から批判が相次いだ。

ロウハニ師は事件後、当選時にツイッターに投稿した「ハピネス」で始まるメッセージを再投稿し、警察当局の対応を暗に非難した。

イランでは、フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)への接続規制が前政権から続く。

中東民主化運動「アラブの春」のようにSNSを通じて体制批判が拡散するのを防ぐ狙いがあるとみられる。

ロウハニ政権下で、映画や出版の検閲緩和を進める文化・イスラム文化指導相のジャンナティ氏は「文化の活性化には、開かれた空間が必要」などと繰り返し、SNS解禁を訴える。

だが、国内強硬派を中心とした反対に阻まれている。

イスラム教シーア派最高権威の宗教指導者、マカレム・シラジ師にSNS解禁反対の理由を聞いた。シラジ師は「道徳、社会、政治的な堕落を招き、イスラム法の考えに反するため許されない」と携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)で回答した。【8月3日 毎日】
*******************

繰り返しになりますが、経済にしても、自由拡大にしても、今後の核問題交渉の進展による制裁緩和が実現できるかどうかにかかっています。

しかし、核問題は最高指導者ハメネイ師の専権事項であり、保守強硬派の壁も厚く、ロウハニ大統領の前途は厳しいと言わざるを得ません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国との関係  日本の場合、台湾の場合

2014-08-03 22:54:21 | 東アジア

(台湾前途 自己決定・・・・6月末、中国の台湾担当閣僚級高官として初めて訪台した中国国務院台湾事務弁公室の張志軍主任は、敢えて政治的話題は避け、住民との交流など親しみやすさをアピールする演出を行いましたが、車にペンキを投げつけられるなどの抗議行動によって日程変更を迫られるなど、根強い反中感情の洗礼も受けました。 “flickr”より By 葉 信菉 https://www.flickr.com/photos/122494993@N04/14525663883/in/photolist-o8zPNK-o6NM18-o8zQwZ-o4LkAC-o6vkQZ-eRV9qa-fui6dq-fu3LpF-eRVaxD-eRV6Jk-ohDnGv-nZuSpf-nSpXMM-nK3ZEu-o7LMAo-nNokVo-oatF8Z-o9gypG-o8SubH-nPjcz7-nPj9Am)

東南アジア諸国でも強い中国への配慮
歴史認識や沖縄県・尖閣諸島などの問題で日中間の関係が、首脳会談もままならない険悪な状況が続いているのは今さら言うまでもないところで、中国の影響力拡大を阻止するのが最近の日本外交の基本姿勢ともなっています。

その主戦場ともなるのが東南アジア・南シナ海ですが、パラセル(西沙)諸島近海で中国と対峙したベトナムへ巡視船に転用できる中古船6隻を供与するなどで、中国を牽制しています。

****防衛協力、中国を牽制 日本、ベトナムに巡視船****
岸田文雄外相は1日、ベトナム・ハノイでファム・ビン・ミン外相と会談し、巡視船に転用できる中古船6隻を供与すると表明した。

南シナ海を巡って中国と対立するベトナムの海上防衛を支援し、中国を牽制(けんせい)する狙いだ。安倍政権は「積極的平和主義」のもと、東南アジア諸国との防衛協力を加速させる。

岸田氏は会談で「法の支配が海洋の平和と安定に不可欠」と強調。ミン氏も「情勢を複雑化させる行動は慎むべきだ」と応じ、暗に中国を批判した。

中国は5月、100隻以上の船団を引き連れてパラセル(西沙)諸島近海で石油掘削に着手したが、ベトナムは約30隻の老朽化した公船での対応を迫られた。

船数でも装備でも中国との差を見せつけられ、船舶の増強が喫緊の課題となっていた。新造船では時間がかかるため、中古船を日本に要望していた。

日本の途上国援助(ODA)は軍事目的には使えないため、ベトナムは海上警察を軍から切り分ける組織改編を済ませた。日本側は早ければ年内にも引き渡す意向だ。

安倍政権は現在、外国の軍隊も直接支援できるようにODA大綱の見直し議論を進めている。【8月2日 朝日】
*******************

ODAについては、災害救助など非軍事分野なら、これまで禁じていた外国軍への支援が出来るようにして、外国軍に対するより広範な援助ができるようにする方向での見直し作業が進んでいます。

ただ、中国と激しく対立したベトナムを含めて、東南アジア諸国は経済的に中国と強い関係があり、日本の思惑どおりに事が進むものでもないようです。

****対中国、日本と温度差****
・・・・もっとも、東南アジアが対中国で日本と一枚岩になれているわけではない。

ベトナムは6月、日本の陸上自衛隊も参加している南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に、初めて軍事連絡要員2人を送った。
日本は現地宿営地での受け入れなどの支援を申し出ていたが、実現しなかった。
理由は不明だが、関係者の間では「自衛隊との緊密化を嫌う中国への配慮があったのでは」との見方が強い。

シンガポールで5月末から開かれたアジア安全保障会議でも、安倍首相がスピーチで名指しを避けながらも中国を強く批判したのに対し、ベトナムのフン・クアン・タイン国防相は中国批判を抑えた。
小野寺五典防衛相との会談では、経済依存を理由に中国に強い態度をとれない窮状を示唆する場面もあった。

中国に勤務経験のある元ベトナム外交官は「国民感情は現在『反中国』が支配的だが、政治的には『共産党同士』の深いつながりがある。ベトナムは簡単に中国を切れない」と指摘する。

PKO活動で自衛隊から支援を受けているカンボジアだが、中国の影はより濃い。岸田文雄外相は6月末、カンボジアを訪れてホー・ナムホン副首相兼外相と会談し、副首相はその場で積極的平和主義について支持を表明したが、後日「『集団的自衛権』や『自衛隊』という言葉は使っていない」との異例の声明を出した。

「国際法に則して地域紛争の解決を目指す考えに賛同しただけで、集団的自衛権の行使容認を支持したわけではない」という趣旨だ。

多額の投資や支援を受けている中国に配慮し、「日本寄り」と受け止められる報道を打ち消す必要があったとみられている。【8月2日 朝日】
*********************

南米での“オセロゲーム”】
一方、“遠交近攻”という訳でもないでしょうが、日中から遠く離れた南米でも両国の“オセロゲーム”が繰り広げられています。

****首相歴訪 日中“オセロゲーム” 米の裏庭・中南米で「味方」争奪戦****
中南米の伝統的な親日国を歴訪中の安倍晋三首相は、経済協力を深めて成長市場を取り込み、各国との連携を通じて中南米地域や国際社会での日本の影響力拡大も狙う。

ただ、中南米では中国も進出に積極的だ。米国の「裏庭」で繰り広げる日中の勢力争いは“オセロゲーム”のように激しさを増している。

「アジアを含む一部の国では、力や抑圧による一方的な現状変更の試みがある。法の支配の考え方を国際社会に浸透させたい」
首相は7月28日の日カリブ共同体(カリコム)首脳会合で、中国の海洋進出を念頭にくぎを刺した。

首相は最後の訪問国のブラジルをはじめ各国で、中国が東シナ海や南シナ海で「力」によって問題を引き起こしていることを念頭に、国際法の順守や「積極的平和主義」を打ち出す日本への賛同を求めた。

同時に、国連安全保障理事会改革への支持固めにも奔走、国際社会での日本への協力を狙った。

「日本の対中南米政策は、歴史的な友好協力関係に基づく独自の絆を共にしている」
首相は31日の日チリ首脳会談でこうも訴えた。

歴史的な結び付きを強調し、日本の最先端技術を基に積極的に日本の売り込みを展開。同行筋は「首相の外遊全てが中国を意識しているわけではないが、対中という意味で今回の歴訪の手応えは十分だ」と話す。

ただ、首相に先んじて中南米を歴訪したのは中国の習近平国家主席だ。習主席は7月に大型インフラ投資などの巨額の経済支援を手土産にブラジル、ベネズエラなどを歴訪。

新興5カ国によるBRICS首脳会合では「いかなる勢力も侵略の歴史を覆そうとすることを許してはならない」とわざわざ歴史問題を持ち出し、日本を牽制した。

すでに中国と中南米諸国との貿易総額は昨年、日本の約3・6倍まで拡大。外務省幹部は「中南米で中国は着実に浸透と台頭を図っている」と警戒する。

中国が着々と自陣を固める中、日本は伝統的な親日国以外の国を味方に取り込むための「次の一手」も必要になる。【8月2日 産経】
*********************

“すでに中国と中南米諸国との貿易総額は昨年、日本の約3・6倍まで拡大”・・・・中国政治・経済を揺るがすような変動が起きない限りは、この差はますます拡大するでしょう。

すでにピークをうった感がある日本が、人口13億を抱え伸びしろがまだ大きい中国と力まかせの“オセロゲーム”を続けても難しいものがあるように思えます。

現時点ではともかくも、将来的には中国の力を利用するような方向への発想の転換も必要なのではないでしょうか。

【「一つの中国」のもと、政治的立場が微妙な台湾
中国と国家承認をめぐる“オセロゲーム”を展開してきた台湾ですが、台湾を国家と承認している国は現在22か国のみに減少しており、その勝敗は明らかです。中国がその気になればもっと減るのでしょうが。

両国の影響力を考えれば当然の結果でもあり、日本も台湾を切って中国を選択した国のひとつです。

台湾の国家的地位というのは微妙なところがあり、日本でも最近問題となりました。

****台湾総統夫人、故宮展ポスターめぐり延期の来日を確定****
東京国立博物館で開催中の台北・故宮博物院(National Palace Museum)展のポスターをめぐって延期されていた台湾の馬英九総統夫人の周美青氏の来日が確定した。故宮博物院が28日、明らかにした。

周氏は当初、先月末に開幕した台北・故宮博物院展の開幕式に出席する予定だった。
だが開幕まで1週間を切った時点で、同展のポスターやチケットに記載された故宮博物院の表記に「国立」の文字が入っていなかったことを問題視した博物院側が同展の中止をほのめかし、周氏の来日延期が発表された。

東京国立博物館側がポスターなどに「国立」の文字を入れなおしたことで問題は開催直前に回避されていた。(中略)

1949年の中華人民共和国成立によって大陸から分断した台湾を国家と承認している国は22か国のみで、その呼称や政治的立場は、台湾にとって微妙な問題となっている。【7月29日 AFP】
*********************

その台湾も近年は中国との経済関係強化によって台湾経済を牽引しようという流れになっており、不倶戴天の敵同士として対峙していた頃からすれば隔世の感があります。

中国は今も「一つの中国」の立場から最終的には台湾を政治的にも吸収することを目指しており、昨今の経済関係強化はその手段にすぎません。

ただ、あまり台湾を刺激するのも得策でないので、ジワジワと・・・というところでしょう。
もっとも、ときに本音が噴出したりもします。

****台湾記載のページは破り捨てろ!」 欧州の学会で中国代表、冊子の台湾団体の紹介欄に難癖****
欧州で今月下旬に開かれた中国研究の学会で、中国政府高官が冊子に掲載された台湾の協賛団体の紹介ページを破るよう要求し、実際に破棄されていたことが28日、分かった。

台湾の有力紙、自由時報が同日付で報じた。中国側が海外での学術交流にまで政治問題を持ち込んだ形で、中台関係にも影を落としそうだ。

問題となったのは、ポルトガルの大学2カ所を会場に22~26日に開催された欧州中国学会の2年に1度の総会。同学会には欧州の中国研究者を中心に約700人が登録している。

自由時報によると、23日の開会式で、中国政府傘下の「孔子学院」トップ、許琳氏が、冊子に台湾の元総統の名を冠した「蒋経国国際学術交流基金会」の紹介文があることを問題視。

自身も協賛団体であることを理由に、該当ページを破らなければ配布を認めないと訴えた。このため、冊子はページを破って配布されたという。同学会憲章は「いかなる政治活動にも関与しない」と定めている。(後略)【7月28日 msn産経】
*****************

【“現状維持”とは言うものの・・・
一方の台湾は、中国を呑み込むことはもはやできませんが、“独立”を声高に唱えて中国を刺激するのも怖い・・・というところで、中国の思惑を警戒しつつも経済関係は続ける“現状維持”を願っています。

****中台閣僚級会談を6割が評価 台湾世論調査****
台湾で対中政策を主管する行政院大陸委員会は17日、中国の主管官庁トップ(閣僚級)の6月末の初訪台後、初めての世論調査結果を発表、約6割が中台の主管官庁トップの会談を評価した。

一方、86.7%が中台の「現状維持」を希望。台湾側が会談で「台湾の未来は台湾の2300万人が決める」と述べたことに対しては、88.6%が支持した。【7月17日 産経】
*****************

党綱領に“独立”を掲げる野党・民主進歩党も、“独立”論議は棚上げしてします。

****台湾最大野党が党大会 「独立」で対立深まる****
台湾の最大野党、民主進歩党は20日、台北市内で党大会を開いた。大会では、党員から「独立」を掲げる党綱領を一部凍結する案と、2016年の次期総統選候補者に「独立」行程表の策定を求める案がそれぞれ提出された。

両案は「討論する時間がない」(蔡英文主席)として議決されず、中央執行委員会に付託されたが、中国との距離感をめぐり党内の路線対立が深まりつつあることを印象付けた。

独立綱領の「凍結」は、1月に発表した対中政策の見直し過程でも議論になった。
12年の総統選で候補者だった蔡氏は、財界などから対中政策を不安視され敗北した経緯がある。

このため、5月末に発足した蔡氏の執行部が、中国との交流強化を目指す上で、独立綱領の「凍結」にどう向き合うかが注目されていた。

だが蔡氏は、「台湾はすでに民主独立国家」だとして「独立」を事実上棚上げした1999年の「台湾前途決議文」が「党内と台湾の総意だ」と強調。

その一方で、19日には「独立は若い世代にとって『天然成分』であり、凍結できない」とも指摘した。

蔡氏がバランスに苦慮するのは、政治大選挙研究センターが9日に発表した世論調査で、独立支持が23.8%と92年の調査開始以降で最高となるなど、強固な支持基盤である独立派の発言力を無視できないためだ。

11月末の統一地方選を前に、党の結束の乱れが表面化するのを避けたい思惑もありそうだ。【7月21日 産経】
*******************

大きな引力を有する中国のそばで“現状維持”というのは、極めて微妙なかじ取りが要求されます。
中国との関係で苦慮するのは日本と同じではありますが、「一つの中国」をどうするのか・・・台湾は、日本よりはるかに難しい国家の存立にかかわる問題を抱えています。

日本が中国との間で抱える課題は難しいとは言っても、台湾に比べたら政治的決断でなんとかできる範囲の問題でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エボラ出血熱 流行中心地を隔離へ 欧米も感染拡大を警戒

2014-08-02 23:08:39 | 疾病・保健衛生

(治療を受ける感染者 “flickr”より By Médecins Sans Frontières https://www.flickr.com/photos/126392347@N06/14772299882/in/photolist-ovnU6y-oaovaZ-ovcyLo-otoZTj-o8N8Ur-ov8knp-ovnZAw-o8N9a6-o8NbD3-ovpFHM-ozpMYr-oxKS9x-ovGMU8-ox1ZV2-oy2Drp-ouc3SQ-ovp1UW-ofWcmi-oxp4TW-oysoJn-oe6gH8-ovXKVw-op4RPU-osrYY3-oh8aQT-oyfaoL-oxN6id-odQnyX-odTWgV-ocZjnV-odPX9H-ouQzWm-og7Q3o-oznMLg-owKiAp-ozxd3K-ogruCq-oxEsP4-o7Zwwq-otjkUG-oxtR8D-osbrrf-oxhLFF-odWo3F-owcvcL-oy9oKB-osHKDa-ofWk27-oex6TB-ofUF8W)

死者729人 WHO「緊急事態」認定も検討
6月24日ブログ“西アフリカで深刻な「エボラ出血熱」流行 「もはや制御不能」とも”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140624)で取り上げた、3月に西アフリカで発生したエボラ出血熱は、「もはや制御不能」という悲観的な見解どおり、感染拡大は史上最悪の規模となっています。

エボラ出血熱は確実な治療法がないうえ、致死率が50〜90%と極めて高く、感染者の体液などに触れると感染するとされています。また、アフリカでは、葬儀の際にお別れの儀式として死者の体に直接触ることがあり感染拡大の一因になっているとも指摘されています。

世界保健機関(WHO)は7月31日、エボラ出血熱により729人が死亡したと発表しています。前回ブログのときから倍増しています。

****西アフリカで猛威、死者最悪の729人、渡航自粛勧告相次ぐ****
西アフリカでエボラ出血熱が猛威を振るっている。3月から始まった感染拡大は史上最悪の規模となり、世界保健機関(WHO)は7月31日、729人が死亡したと発表した。

関係各国は非常事態を宣言するなどして封じ込めに全力を挙げており、欧米諸国も感染の連鎖を防ごうと対策に乗り出した。
                 
感染が広がっているのはギニア(死者339人)、シエラレオネ(同233人)、リベリア(同156人)の3カ国。国境を接していないナイジェリアでも1人が死亡し、空路による感染拡大の懸念が欧米に広がった。(後略)【8月2日 産経】
*******************

この間の感染拡大の様子は、各紙報道の見出しをいくつか並べてみてもよくわかります。

エボラ熱死者、500人突破=WHO【7月9日 時事】
エボラ出血熱流行、ギニアに対応センター開設へ WHO【7月12日 AFP】
西アフリカのエボラ出血熱、死者600人超える WHO【7月16日 AFP】
西アフリカのエボラ流行、治療施設の主任医師が感染 シエラレオネ【7月24日 AFP】
ナイジェリア:エボラ出血熱感染で初の死亡者【7月26日 毎日】
エボラ出血熱が広がる西アフリカ、リベリアが国境を封鎖【7月29日 AFP】
エボラ感染、「山火事」のように広がる 米当局が警告【7月29日 AFP】
エボラ出血熱 リベリアが緊急対策【7月31日 NHK】
エボラ出血熱 シエラレオネが緊急事態宣言【8月1日 NHK】
エボラ出血熱:WHO、対策会議を開催…西アフリカ首脳と【8月1日 毎日】
エボラ出血熱:WHO事務局長「人命損失は壊滅的な規模」【8月2日 毎日】
制御不能の速さで拡大=エボラ熱で首脳会議【8月2日 時事】
エボラ出血熱 WHO「緊急事態」か判断へ【8月2日 NHK】


最後のWHO「緊急事態」については、もし緊急事態と判断されれば、感染が国境を越えて西アフリカの3か国以外の国にも広がるおそれがあり、状況が極めて深刻だと認定されることになります。

アフリカ以外への感染拡大も懸念
一連の感染拡大のなかで、ナイジェリアでも死亡者が出たことは、アフリカ最大の都市部への拡大、及び航空機を利用した移動に伴う遠隔地での感染拡大の危険性を窺わせるものとして注目されています。

****エボラ出血熱、アフリカ以外に広がるか****
現在のエボラ出血熱の流行は、過去最大級の規模と言われている。世界保健機関(WHO)によると、今年2月以降1100人近い人々がウイルスに感染し、少なくとも660人が死亡している。

この数字にはまだ、ある死亡例が含まれていない。25日に死亡したリベリア政府関係者だ。世界の公衆衛生の当局はこうしたケースを恐れていた。

Q:リベリアの政府関係者パトリック・ソーヤー氏の死亡がとりわけ気掛かりなのはなぜか

A:ソーヤー氏は、アフリカ最大の都市であるナイジェリアのラゴスに到着して間もなく死亡した。ラゴスには2100万人近くが暮らしている。
同氏は航空機でリベリアの首都モンロビアからラゴスに入った。リベリアでは少なくとも129人がエボラ出血熱で死亡している。
WHOは、エボラ出血熱がリベリアや、最も被害を受けているもう2カ国、つまりギニア(313人が死亡)とシエラレオネ(224人が死亡)から近隣諸国に広がる可能性があると警告してきた。
また、エボラ出血熱にかかった人が航空機で移動すれば、アフリカ以外に広がる可能性が高まる。(後略)【7月29日 WSJ】
*******************

この事態を受けて、アメリカ疾病対策センター(CDC)は28日、エボラウイルスは山火事のように広がると警告を発し、西アフリカへの渡航者は通常以上の予防策をとるように呼び掛けています。

西アフリカ以外の国においても、航空機による感染者の移動以外にも、西アフリカでボランティア活動などを行っている者が感染するリスクが拡大しています。

****エボラ流行地から撤収=患者と接触の2人隔離―米組織****
途上国にボランティアを送り出す米政府組織「平和部隊」は30日、エボラ出血熱が流行しているギニア、リベリア、シエラレオネの西アフリカ3カ国で活動するボランティア計340人を国外に一時退避させると発表した。

平和部隊はギニアに102人、リベリアに108人、シエラレオネに130人のボランティアを派遣している。

ロイター通信によると、平和部隊はエボラ熱に感染し死亡した患者と接触していたボランティア2人を隔離。経過を観察しているが、2人にエボラ熱の症状は見られないという。【7月31日 時事】 
****************

****エボラ熱封じへ欧米も厳戒*****
(米疾病対策センター)CDCは31日、感染が広がる3カ国への不要不急な渡航を控えるよう求める米国居住者向けの勧告を出した。

勧告は3段階のうち最も高い「レベル3」で、2003年の新型肺炎(SARS)の際にも出された。ドイツとフランスの外務省も同様の勧告を出した。

AP通信などによると、米国人医師らが現地で活動中にエボラ熱に感染し、本国に搬送され治療を受ける予定だ。【8月2日 産経】
*****************

欧米諸国だけでなく、アフリカへの経済進出が進む中国も対策を進めています。

****エボラ出血熱で北京市表明「備えある。患者発生すればすぐ分かる****
西アフリカでエボラ出血熱の感染が過去最悪の規模に達したことを受け、北京市疾病予防コントロール・センターのホウ星火副主任は、同市内で感染の疑いが持たれる病例が出た場合、「速やかに発見できる」体制を整えるなど、準備を整えたと説明した。中国新聞社が報じた。(「ホウ」は「广」の中に「龍」)
(中略)
エボラ出血熱が流行しているのは、アフリカ西部のギニア、ナイジェリア、シエラレオネ、リベリアが中心で、中国から同4国に出かける観光客は少ない。

しかし中国では建設やエネルギー関連でアフリカに進出する企業も多い。多くの場合、中国人作業員を現地に派遣する。【8月1日】
*****************

感染の中心となっている地域をすべて隔離して、人の動きを制限
発生の中心国であるギニア、シエラレオネ、リベリアでは学校の閉鎖、人が集まるイベントやデモの禁止、国境の封鎖などの緊急対策が取られていますが、治療法がないエボラ出血熱に対しては、結局のところ人の移動を禁じて封じ込める以外に対策がないようです。

****ギニアなど3か国、エボラ出血熱の流行中心地を隔離へ****
ギニア、リベリア、シエラレオネの3か国は1日、700人以上の犠牲者を出し史上最悪の流行となっているエボラ出血熱について、関係国の首脳らが出席した緊急会議で、流行の中心となっている同3か国の国境が接する地域を封鎖して隔離すると宣言した。

上記3か国とコートジボワールが加盟しているマノ川同盟のハジャ・サラン・ダラブ事務局長は「われわれは、発生数の70%以上を占めている国境をまたぐ地域に集中して、国家間レベルの重要かつ特別な措置を取ることで合意した」と述べた。「これらの区域は警察と軍が隔離する。これらの区域内で隔離される住民には物質的な支援が与えられる」

コートジボワールと世界保健機関(WHO)も出席した今回の会議では、1億ドル(約103億円)の対応策も発表された。

この地域の医療保健サービスを強化して治療、検査、接触者追跡を効果的に行うことや、各国の衛生法規に従った埋葬の実施、医療従事者にインセンティブ、治療、防護措置を提供して職場復帰を促すことなどが合意された。

ダラブ事務局長は隔離地帯の正確な範囲は明らかにしなかったが、流行の中心地はシエラレオネ東部のケネマから、ほぼ300キロメートル離れたギニア南部のマセンタまで広がっている。【8月2日 AFP】
******************

発生地域を隔離・・・・映画のアウトブレイクものではよく見られるシチュエーションです。
映画などでは、感染拡大を防ぐため感染地を封鎖して、中にいる者が外に出ることを銃で禁止し、基本的にそれらの者の命は見捨てる・・・・といった場面がよく描かれます。

今回の“隔離”が具体的にどのようになされるのかは知りません。
「これらの区域は警察と軍が隔離する。これらの区域内で隔離される住民には物質的な支援が与えられる」ということからは、映画の場面にも近いような事態も想像されますが、“この地域の医療保健サービスを強化して治療、検査、接触者追跡を効果的に行う”とも言っていますので、“見捨てる”訳でもないのでしょう。

ただ、“隔離”という形で強権的に人の移動を制限しようとすると、そこから密かに抜け出そうとする者も出てきます。

それらの者は、衛生・治安当局の管理をかいくぐって秘密裡に移動することになるので、思わぬ感染拡大を招く危険もあるようにも思えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする