(中国では伝統的に中秋節に月餅を食べる習慣がありますが、ここ数年は月餅ギフトがエスカレートする傾向にあり、大切な取引先との関係を築くために、2000人民元(約3万3000円)もする月餅が贈られることもあります。
高額の月餅ギフトは高級茶やアルコール飲料をセットにしたり、現金や金券の封筒をしのばせるなど、贈答と賄賂の区別がつきにくいものも。
こうした実態に対して中国政府は2012年には「月餅」と明記された箱に月餅以外のものを入れることを禁止する規制を打ち出し、昨年2013年には中秋節の贈答用の月餅を公費で購入することを禁止する通達を出しています。【2013年9月5日 CNNより】
賄賂とは別に、1個1000kcalといういうのも非常に危険です。)
【腐敗・汚職の蔓延】
中国では習近平国家主席が進める腐敗・汚職撲滅、綱紀粛正運動によって、一部では戦々恐々とした雰囲気もあるようです。
****中国山西省 「黄金の月餅」、今年は宣伝もひっそりと****
9月8日の中秋節を前に、中国山西省太原市の金販売店では19日、「黄金の月餅」が売られていたが、興味を示す客はほとんどいなかった。
例年、中秋節に合わせて各店がこうした金製品を大々的に宣伝していたが、今年は当局が公費を使って月餅などを贈ることを禁止したこと、また、金の価格が低迷していることから、宣伝もひっそりとしたものとなっているという。【8月20日 Searchina】
*****************
中国社会、特に党・役人における腐敗の蔓延は枚挙にいとまがないところですが、下記記事などもその1例でしょう。
****買収に1000万円も使ったのに落選!・・・その場で気絶する候補者、中国「腐敗選挙」の実態明らかに****
湖南省衡陽市で発生した「腐敗選挙」の実態が徐々に明らかになってきた。
“満を持して”選挙に臨んだにもかかわらず落選の悲報に接し「60万元(約1008万円)も使ったのに!」と、その場で気絶した候補者もいたという。中国新聞社などが報じた。
中国は、市人民代表大会(市議会)が1つ上級の行政単位である省人民大会の代表(省議会議員)を選出する、「多段階間接選挙」と呼ばれる制度を実施している。党員であることは議員になるための必要条件ではないが、実際には共産党員が多い。
2012年12月28日から13年1月3日まで開催された湖南省衡陽市人民代表大会は、上級の湖南省人民代表大会の代表(議員)を選出したが、当選者のうち56人が金品で票を買っていたことが明らかになった。
中国の人民代表大会議員は、兼務であることが一般的だ。56人の57.1%に相当する32人は共産党員または公務員だった。
金品をうけとった市代表大会議員は518人で、73.9%に相当する383人が共産党員または公務員だった。金品を受け取った代表大会関連従事者は76人で、60.5%に相当する46人が共産党員または公務員だった。
同市の最高権力者である共産党委員会の童名謙書記は、選挙開始の直前に、「買収行為は厳粛に、厳重に、快速に処理する。少しでも発覚するたびに、調査する」と述べ、公正な選挙を実現すると公言していた。
しかし実際には、複数の市代表大会議員が童書記に対して不正が行われている事実を報告したにも関わらず、童書記はなにもしなかった。「取り締まりはない」とみた市代表大会議員らが、買収工作をエスカレートさせていったとみられている。
同選挙では、「珍現象」も発生した。買収用に総額60万元を使った候補者のひとりが、落選という結果が判明したとたん、その場で気絶したという。
それだけの衝撃を受けたことからは、結果判明までは「絶対に大丈夫」と信じこんでいたものと考えられる。投票者の数はかぎられており、「あなたに投票する」と約束した人を事前に数えていれば、「票読みに失敗した」とは考えにくい。
「取れるはずの票を取れなかった」という事態だったとすれば、「カネをもらったからには、投票する」という、不正を行うにしても「最低の仁義」すら失われ「多く支払った方に投票」という現象が発生していた可能性がある。
議員選出終了後、「度をこした腐敗選挙」であることが広く知られるようになり、童書記に対しては調査すべきという求めが相次いだ。しかし童書記は「カネを受け取ったのに落選した場合には、カネを返却するように」などと、的外れの指示をしていたという。
省関係者によると、童書記は、もめごとを嫌う性格だ。さらに、2013年には栄転させるとの話があり、本人もそれを知っていたのだろうという。市人民代表大会で不祥事が発生すると、栄転の話が取り消しになると恐れて、腐敗選挙の実態解明と処罰に乗り出さなかった可能性がある。(後略)【8月20日 Searchina】
*****************
まあ、日本の“かつての”自民党総裁選挙でも、2派からカネを受け取った者を「ニッカ」、3派からの場合を「サントリー」、各派からもらうことを「オールドパー」などと称していたように、“「最低の仁義」すら失われ”云々は中国だけの話ではありません。
それにしても、童書記の「カネを受け取ったのに落選した場合には、カネを返却するように」というコメントは笑えます。「そこかよ!」という感じです。
贈収賄などの汚職事件の立件も前年同期比で1割ほど増加していますが、個人的には「メディアで騒ぐ割には、その程度か・・・」という感もあります。
なお、絶対件数の多さは、腐敗の蔓延を示すものです。
****「トラもハエも全てたたく」中国、汚職で2万5千人立件 上半期、前年同期比5・4%増****
中国最高人民検察院(最高検)は25日、今年1~6月に立件した贈収賄などの汚職事件は1万9081件に上り前年同期比9・6%増だったと明らかにした。立件した人数も2万5240人で同5・4%増としており、汚職取り締まりの強化が進んでいることを示した。
習近平指導部は、深刻な官僚の汚職に対する不満が体制批判につながることを警戒。「トラもハエも全てたたく」として、共産党幹部から現場の役人まで、階級にかかわらず汚職を厳しく取り締まる姿勢を示している。
立件された国家機関の官僚は6343人に上り全体の約25%を占めた。
同期間に汚職事件で起訴されたのは1万57人。判決を受けたのは8110人で、うち99・8%が有罪判決だった。【7月25日 msn産経】
******************
【権力闘争としての“トラたたき”】
上記は“ハエ”の部類ですが、“トラ”については周知のように、共産党の常務委員以上の役職者は逮捕しないというこれまでの不文律を破って、江沢民派の大物である周永康前党中央政法委員会書記を汚職容疑で立件したことです。
皆が指摘するように、習近平国家主席が進める腐敗・汚職撲滅運動は、経済格差が拡大するなかで腐敗・汚職の蔓延をこのまま放置すれば民衆の不満が増大し、党に対する信頼が揺らぐことになという危機感のあらわれ、自浄作用でもありますが、同時に、中南海における熾烈な権力闘争、習近平国家主席の権力固めとして遂行されています。
****全国党委が周永康氏立件支持=習総書記、基盤強化―中国****
中国共産党機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網」は18日、周永康前党中央政法委員会書記に対する汚職容疑での立件決定に対し、全国31省・自治区・直轄市のすべての党委員会が「断固支持」を表明したと伝えた。
既に人民解放軍のほか、周氏の権力母体の政法委や公安省なども同様に習近平総書記(国家主席)の決定に「忠誠」を誓う意向を示しており、習氏は権力基盤を強化した形だ。【8月18日 時事】
*****************
権力闘争の真相については、部外者にはうかがい知れぬところでもあり、周永康立件について江沢民元国家主席の承諾を得る形で行われたとか、江沢民勢力を排除するために胡錦濤前国家主席のグループと手を組んだ結果だとか、最終的には胡錦濤前主席が院政を狙っているとか・・・様々な話があります。
いずれにしても、権力闘争として行われる“トラたたき”には一定に限界があり、権力掌握の目的に沿わないようなことは行われませんし、自分やその周辺のトラたちに話が及ぶこともありません。誰が標的とされるかは、極めて不透明です。
****破られた不文律:周永康氏疑惑 「虎退治」に疑心暗鬼 内実なき法治システム****
中国共産党の周永康・前政治局常務委員(71)に対する立件決定が発表されてから2日後の7月31日、中国中央テレビは党中央規律検査委員会が調査グループを全国に派遣したと報じた。
派遣先は上海市や国家体育総局、大手国有自動車メーカー「一汽集団」など13カ所。今年2回目の巡回を伝える報道は連絡先も紹介し、不正の告発を奨励した。
規律検査委は党員の規律違反を調べる組織だが、党幹部らの汚職疑惑では本人や周辺に対する調査を司法機関に先行して行い、「最強の捜査機関」とも呼ばれている。
北京紙・新京報(電子版)によると、今年に入って不自然な死を遂げた官僚は31人に上る。反腐敗運動を担う規律検査委の調査の苛烈さを物語るが、誰がどんな手法で調査されるのかは明かされず、不透明さがぬぐえない。
4月、大手国有企業・華潤集団の宋林会長が愛人とベッドに座る写真がインターネット上に掲載され、2日後に規律検査委が宋氏の調査を発表した。
宋氏は李鵬元首相の長男、李小鵬・山西省長と親しいとされる。李元首相は「電力閥」の中心だ。7月初旬には賈慶林・前中国人民政治協商会議主席や曽慶紅元国家副主席の拘束情報も飛び交った。2人とも周氏と同様に江沢民元国家主席に近い常務委員経験者だ。
「大虎の周永康を打倒したが、反腐敗は終わりではない」。党機関紙「人民日報」系のニュースサイトが掲載した論評に党関係者は「次は誰か」と期待と不安の入り交じった感想を漏らす。
しかし、中国の研究者や北京の外交当局者は10月の第18期中央委員会第4回総会(4中全会)を境に大物幹部を狙った「虎退治」は下火に向かうとみる。理由はこうだ。
4中全会で周氏の処分が決まるとみられ、習近平国家主席の権威は確立される。その後も政敵排除の色合いが濃い「虎退治」を続ければ党内の団結が崩れ、1党支配体制が揺らぎかねない。
ただ、庶民から支持された反腐敗の看板は下ろせず、4中全会で腐敗防止の仕組みづくりの「法治」を強調し、庶民の不満を抑え込もうというのだ。
「法治」を巡っては権力監視のための情報公開法や幹部の財産・収入を公開する法律の制定などが党内で議論され、中国政法大学の馬懐徳副学長は腐敗を法で防止する必要性を強調している。
だが、権力のチェックに不可欠な政治改革や報道の自由化は議論の対象とはなっていない。
習主席は反腐敗運動と並行して外交から経済まであらゆる重要政策の権限を一手に握る体制を築いた。権力基盤を強化した習主席が引き続き規律検査委の調査という「恐怖」で党内を支配するのか、真の法治システムを確立するのか。反腐敗運動の本気度が問われている。【8月2日 毎日】
****************
メディア統制を強め、新公民運動を徹底弾圧する習近平政権には、“権力のチェックに不可欠な政治改革や報道の自由化”と発想は微塵もないようです。
反腐敗運動が行われる間、地方の党幹部・役人たちは首を縮めて嵐が過ぎるのを待ち、良くも悪くも目立つようなことは行わない・・・といったところでしょうか。
【地方役人の抵抗】
習近平国家主席が進める腐敗・汚職撲滅運動と並んで、李克強首相は経済改革を進めています。
しかし、既得権益を奪われることになる役人からの抵抗を受けているようです。
****中国政府「笛吹けど役人踊らず」の事態に・・・業を煮やし本格査察に着手****
中国で、中央政府の指示に対して、「実行部隊」である官僚が反応を示さない事態が進行中という。
習近平主席が主導する反腐敗キャンペーンや李克強首相が力を入れる規制緩和などへの“反動”とも解釈できる事態だ。北京紙の新京報が報じ、中国新聞社など各メディアが転載した。
中国では通常、中央政府が方針や基準を決めて各地方政府に指示。政策を具体的に推進する「実行部隊」は地方政府の官僚ということになる。その地方政府の官僚が、中央政府の指示に反応しないケースが増えたとされる。
まず第1の原因が習近平主席が強力に進めている反腐敗キャンペーンだ。「何かを実行すると、問題点を指摘されるのでは」と疑心暗鬼になり、とにかく「さわらぬ神にたたりなし」を決め込んでいるという。
李克強首相が推進する規制緩和に対しても、ボイコットに近い状態が発生しているという。李首相は規制緩和の大きな手立てとして、役所による許認可事項の大幅削減を進めている。官僚にとっては「最も貴重な商品」を手放せと指示されたも同然で、当然ながら従いたくはない。
役人からの「権限引きはがし」は、不正の温床を一掃する効果もある。しかし、“甘い汁を吸えなくなる”ことに対しての抵抗だけでなく、「その許認可事項がなくなれば、不正が横行して市場が混乱する」との、役人としての「良心」から、積極性を見せない例もあるという。(中略)
李首相は「政令が中南海から外に出て行かない」弊害が発生しているとして、査察や監督の必要性を力説したとされる。
新京報は「国内外の多くの研究は、一定の条件のもとであれば、腐敗も資源の再配置という機能があり、特に国有制度が主導的な経済体制では、腐敗はいわゆる経済の潤滑油であることを示している」と紹介した上で「長期的な視点での経済発展を考えれば、腐敗は社会における巨大な利益損失をもたらす。資源の再配置の間違い、社会における福利厚生の損失、信用獲得のためのコスト増大などだ。腐敗現象が経済発展に危害をもたらす研究と著作は膨大だ」と主張した。
北京大学の周其仁教授は「腐敗は改革の成果を飲み込んでしまうだけでなく、改革に対する大衆の支持を崩壊させてしまう。社会おける激烈な衝突をもたらす。最終的には改革に対する“殺し屋”になる」と警告したという。
同記事は、腐敗撲滅には経済面の痛みが伴うと紹介。強力な腐敗撲滅キャンペーンを実施している影響で、高級飲食業などの落ち込みが発生していることから、2014年には腐敗撲滅キャンペーンが中国の経済成長率を0.6-1.5ポイント引き下げる結果をもたらすとの研究があると紹介した。
◆解説◆
李首相にとって、規制緩和の推進は「待ったなし」の取り組み事項だ。中国では首相を含む国家首脳の任期は5年間だ。通常は、定年の問題も考慮して、2期10年間を務められる有力者が就任するが、2期目の続投が保障されているわけではない。
李首相が目指すのは、これまでの輸出、投資の増進に加え、「内需の拡大」を「経済発展の第3の矢」として軌道に乗せることだとされる。そのための重要な手段が、規制緩和の推進だ。
そのため、2017年前半には「内需拡大の成果が出始めている」という成果が出始めていないと、2018年3月に開催される全国人民代表大会で、改めて首相に選出されることに「黄信号」が点滅しはじめると考えざるをえない。
残された時間は3年程度だ。時間にそれほど余裕があるわけではない。役人にサボタージュされたのでは、「志半ばにして政権を去る」事態にもなりかねない。李首相が「査察チーム」を結成したのも「業を煮やした結果」と理解できる。
李首相は7月16日の国務院常務会議で、許認可の撤廃に抵抗する動きがあった場合には「絞め殺せ。叩きつぶせ」と激越な言葉を使って、決定を貫徹させることを求めたという。【8月12日 Searchina】
*****************
李克強首相が「絞め殺せ。叩きつぶせ」・・・・本当でしょうか。話としては面白いですが。
“水清ければ魚棲まず”という言葉は日本でもありますが、メディアが堂々と「国内外の多くの研究は、・・・・腐敗はいわゆる経済の潤滑油であることを示している」と掲げるあたりは(長期的には・・・と否定する文脈ではありますが)、“中国では腐敗は文化だ”とも言わんばかりです。
文化となると根絶も難しいでしょう。そこを変えようとすると相当の劇薬が必要にもなります。