孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  難航する移民制度改革

2013-08-26 21:34:08 | アメリカ

(映画『闇の列車、光の旅』より)

闇の列車、光の旅
2009年のアメリカ・メキシコ映画で、日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガの長編監督デビュー作『闇の列車、光の旅』という作品があります。
以前、予告編を観て気になっていたのですが、観そびれています。

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ホンジュラスで暮らす少女サイラは、未来のないこの地を捨て、父と叔父と共にアメリカにいる家族と一緒に暮らすことを決める。だがそれは、グアテマラとメキシコを経由する長く危険な旅だった。

なんとかメキシコ・チアパス州まで辿り着いたサイラたちは、アメリカ行きの列車の屋根に乗り込む。そこには、同じようにアメリカを目指す移民たちがひしめきあっていた。

ほっとしたのも束の間、リルマゴ、カスペル、スマイリーのギャング一団が屋根に上がってきて、移民たちのなけなしの金品を強奪。

さらにリルマゴは泣き叫ぶサイラに銃をつきつけて暴行しようとするが、以前同じような経緯で恋人を亡くしたカスペルは、手にした鉈をリルマゴに向けて振り下ろし、リルマゴは列車から転落する。

組織を裏切ったカスペルには、列車にとどまって旅を続けるしか選択の余地はなかった。(後略)【Movie Walker】
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この映画『闇の列車、光の旅』の舞台となっている、メキシコからアメリカへの不法移民を運ぶ貨物列車の事故が報じられています。

****米国に向かう移民が乗った貨物列車が脱線、6人死亡 メキシコ****
メキシコ南東部タバスコ州の沼沢地方の川の近くで25日午前3時(日本時間同日午後5時)ごろ、米国に入国しようとしていた250~300人が乗っていた貨物列車の貨車12両のうち8両が脱線転覆し、少なくとも6人が死亡した。

当局者が明らかにした。メキシコ政府のルイス・フェリペ市民保護調整官は当初この事故で22人が負傷したと話していたが、その後マイクロブログのツイッター(Twitter)でこの事故で病院に運ばれたのは18人だと訂正した。

18人は19~54歳で、17人はホンジュラスから、1人がグアテマラから来ていたという。タバスコ州政府の報道官がAFPに語ったところによると、死者のうち4人はホンジュラスから来た人だったという。

脱線した列車は「ザ・ビースト(The Beast、野獣の意味)」と呼ばれているもので、越境請負人から貨車の屋根の上に座る権利を買った人たちが乗っていた。

事故が起きた場所は道路から遠く離れており、空からかボートでしか近づくことができない。救助隊は油圧機械を使い、金属車体を切り開いて生存者を捜している。

■豪雨の中スピードを出し過ぎ?
タバスコ州の市民保護当局者はMilenioテレビに、負傷者は事故現場からボートで25分のところにある隣接するベラクルス州ラス・チョアパスの病院に運ばれたと語るとともに、金属スクラップも積んでいたこの列車が事故を起こした原因はまだ分かっていないと述べた。

また、転覆した車両を動かすにはクレーンが必要だが、車両の下からさらに犠牲者が見つかる可能性もあると述べた。

メキシコのメディアは列車は豪雨の中でスピードを出し過ぎていた可能性があると報じている。

貨物列車「ザ・ビースト」は、越境請負人に100ドル(約1万円)を超える金を払ってグアテマラに近い駅からメキシコ北部の駅まで貨物列車に乗る権利を手に入れたメキシコなど中米から来た人たちを運んでいる。

メキシコの国家人権委員会によると毎年約14万人がメキシコに不法入国して米国に向かっている。
こうした人たちは数多くのリスクにさらされる。越境請負人は高額の金を要求し、メキシコ国内に入るとギャングがさらに高額の金をゆする。犯罪組織による強盗や強姦、殺人の被害に遭うことも多い。

メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領は7月、同国ではほとんど残っていない旅客鉄道サービスの再生を含む、3090億ドル(約30兆円)規模のインフラ近代化計画を発表した。【8月26日 AFP】
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12年度 国境のアメリカ側周辺での死亡者は463人
映画のなかで、主人公サイラの父親は、「アメリカも厳しいだろうが、ここ(ホンジュラス)にいるよりはましだ」と語っています。

アメリカは不法移民の流入を防ぐため、米メキシコ国境に沿いフェンス建設、国境警備隊を増強し、監視体制を強化しています。

****不法移民流入最前線:米加州 鉄製の壁延々 光る監視の目****
・・・・「こうやって砂地の脇の茂みに水を置くんだ。(不法に)国境を越えてきた人たちは夜に動いて、茂みに身を潜めるだろう」

不法移民のために無人の水分補給地点を設ける活動などをしている非営利組織「ボーダー・エンゼルズ」のエンリケ・モロネス代表(56)は、水が入った大きなポリタンク二つをそっと置いた。

米西部カリフォルニア州南端、太平洋岸から約6キロ東の山間部を走るメキシコとの国境地帯。モロネスさんの約500メートル後方の丘には、巨大な鉄製フェンスが見渡す限り東西に一直線に走っている。

乾いた砂に足を取られながら周囲を歩くと、空のペットボトルやお菓子の空き袋が埋もれていた。スペイン語の表示がある。別の場所には、ジャンパーやトレッキングシューズも落ちていた。メキシコからの入国者が残したものだろうか。

モロネスさんは「砂の下にもセンサーがあるだろうから、我々が足を踏み入れた瞬間から国境警備隊は監視しているだろう」とつぶやいた。ひときわ高い尾根にパトロール車が止まり、隊員がこちらを見ている。

地下センサーと聞いてぴんときた。約2時間前、内陸側に東に数キロ離れた国境沿いで、車を止めて国境に近づこうとした瞬間、土煙を上げながら猛スピードで近づいてきた国境警備隊のパトロール車から警告を受けた。「何をしようとしているんだ。撮影は連邦法で禁止されている。車に戻れ」。車を降りる前から監視されていたのは明らかだった。

米国はクリントン政権時の1994年、不法入国を防ぐため、米メキシコ国境に沿いフェンス建設を始めた。ブッシュ政権も「テロとの戦い」を進める中、国境警備隊を増強し、監視体制を強化した。

しかし、メキシコ側から不法に国境を越えようとする人は後を絶たない。民間研究機関「ピュー・ヒスパニック・センター」によると、2010年の不法移民約1100万人のうち約650万人がメキシコ人だという。

米税関・国境警備局が12会計年度(11年10月から12年9月)に米メキシコ国境で逮捕した不法入国者は約36万人。00年度の約164万人をピークに減少傾向だが、過去40年間で30万人を割ったことはない。

だが、越境には大きな危険が伴う。12会計年度に不法入国しようとして国境の米国側周辺で死亡した人は463人。1998会計年度からの累計では5570人に達している。

入国できても、不法移民としての生活は過酷だ。カリフォルニア州に住む30代前半の臨時教員、マリソルさんに話を聞いた。米国市民権を持つが、結婚を考えているダニエルさんはメキシコからの不法移民だという。

ダニエルさんは、身分証明ができないため車の免許も取れず、定職にも就けない。病気になっても病院にいけず、「国境警備隊がいたるところにネットワークを張っているため、びくびくしながら暮らしている」という。マリソルさんは、ダニエルさんにも米国の市民権獲得への道を開く移民制度改革法案に「すべての始まりになる」と期待を寄せる。

一方、カリフォルニア州サンディエゴとメキシコ・ティフアナとの間の国境検問所を夕方に訪れると、正規の手続きを踏んで国境を越える人たちでにぎわっていた。「友人5人とメキシコで遊んできた」と話す同州ロサンゼルスの教師、ダッシュ・ダースさん(38)もその一人だ。

サウジアラビア出身で米市民権を持つというダースさんは「不法移民は貧しい暮らしをしており、今回の法案は良い。ただ、メキシコの経済状況が良くなるよう米国が助けることが、問題解決の糸口ではないか」と語った。【8月26日 毎日】
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【「米国は常に移民の国であり続けてきた。それが米国経済を世界最強にしてきた」】
不法移民の流入を許容することはできませんが、現実問題としてアメリカ経済はこうした不法移民の労働力によって支えられている面があります。

また、すでに1100万人存在し、アメリカの生活に溶け込んでいる不法移民の人々の生活をどうするのか、その子供たちの権利をどうするのか・・・という問題もあります。

政治的には、大統領選挙のキャスティングボードを握りつつあるヒスパニック系住民への配慮という側面もあります。一方で、保守派の不法移民への強い反発もあります。

オバマ政権が、歴代政権が取り組みながら実現できなかった難題、移民制度改革を重要課題として取り組んでいることはこれまでも何回か取り上げました。

“法案は、罰金支払いなど一定条件を満たした不法移民に暫定的な法的地位を与え、13年かけ市民権を獲得できる道を開く。一方で、国境警備は強化する”というものですが、下院・共和党の強い反対で難航しています。

****米移民法案:下院で未審議2カ月 見通したたず「漂流****
オバマ米大統領が2期目の重要課題に掲げる移民制度改革に関する法案が、上院を通過したものの下院で審議入りできず2カ月近く「漂流」している。
下院多数派の共和党は反対論が強く、上院案をそのままでは扱わない方針を表明。夏季休会明けの9月以降の予定も立たない状態だ。

大統領は繰り返し法案の早期成立を要請。上院通過後の週末恒例ラジオ演説でも、「米国は常に移民の国であり続けてきた。それが米国経済を世界最強にしてきた」と訴え、移民制度改革で経済を活性化させる必要性を強調。「下院は今こそ行動すべきだ」と早期可決を呼びかけた。

米国には1100万人の不法移民がいるとされる。法案は、罰金支払いなど一定条件を満たした不法移民に暫定的な法的地位を与え、13年かけ市民権を獲得できる道を開く▽新規不法移民の流入を防ぐためメキシコとの国境警備を強化▽高技能労働者などへのビザ発給枠の拡大−−が柱。国境警備の強化は、共和党の支持を増やすため上院で法案を修正して大幅に拡充した。

上院本会議採決では共和党(46人)から14人が賛成に回ったが、下院は強硬姿勢を維持。特に不法移民は「法を犯した」と見る保守派の間では市民権付与に拒否感が強い。

各議員とも来年の中間選挙が徐々に視野に入る中、保守層の支持をつなぎ留めるため上院案に簡単に賛成できないという事情がある。

これらを背景に、ベイナー下院議長(共和党)は「我々は多数の意思、米国人の意思を反映した独自の法案を前に進める」と表明している。

下院では5月に国境警備強化法案が委員会を通過、ビザ改革を巡る動きなどはあるが、上院案はたなざらしのままだ。共和党内では取り扱いは早くて10月との声がある程度で、見通しはまったく立っていない。【8月22日 毎日】
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アメリカの中間選挙では、上院議員の3分の1、下院議員の全員が改選されます。
そのあたりで、来年に選挙を控えた下院・共和党の抵抗が強い・・・という政治情勢のようです。
一方、支持率低迷が続くオバマ大統領は、長年の懸案である移民問題を前進させ、支持率回復を狙っているとされています。

ただ、上院・共和党からもかなりの賛成者が出ているように、選挙対策抜きに考えれば、それなりに評価できる部分の大きい改革案でもあります。

強硬な保守派に引きずられる傾向が強い共和党は、全国民レベルではますます多数を獲得することが難しくなりつつあります。ただ、その強い抵抗で、ねじれ状態のアメリカ議会・政治は“決められない”状況が続いています。

【「私たちはまだやれるし、やらなければならない」】
ワシントン大行進50周年記念の今年、黒人差別だけでなく、移民問題を含めた幅広い差別の現状が取り上げられています。

****人種間不公平の解消を 米の大行進50年、キング牧師長男が演説****
米公民権運動を大きく前進させるきっかけとなったワシントン大行進から50周年を記念する24日のイベントで、同運動の黒人指導者だったキング牧師の長男、マーチン・ルーサー・キング(3世)氏が演説した。

「今は(同運動の成果という)郷愁に浸るときではない」と話し、なお残る人種間の不公平や同性愛者に対する差別の解消、移民制度改革などへの一段の取り組みを促した。

1963年8月28日に行われた大行進と「私には夢がある」の言葉で知られる牧師の演説は黒人差別を禁じた公民権法の成立などの大きな推進力となった。
キング氏は「仕事はまだ終わっていない。私たちはまだやれるし、やらなければならない」と強調した。

この日は、当時と同じく行進の場となった首都ワシントン中心部のリンカーン記念堂に早朝から大勢の人々が集まり、市民団体や労働組合、宗教界指導者らが演説。その後、少なくとも数万人規模に膨らんだ参加者らが約2キロ離れたワシントン記念塔まで、銃犯罪や環境問題なども含むさまざまな社会問題の解消を訴えるプラカードを掲げて行進した。【8月25日 中国新聞】
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