孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア大統領選挙 ジョコ氏勝利宣言  社会的課題:宗教的不寛容と腐敗・汚職

2014-07-09 22:02:13 | 東南アジア

(9日、インドネシアの首都ジャカルタで、集会に参加しVサインのジョコ・ウィドド氏(ロイター=共同)【7月9日 共同】)

大接戦、ジョコ氏逃げ切りか
インドネシア大統領選挙は9日午後、投票が終了しました。
争うのは、庶民派のジョコ・ウィドド・ジャカルタ州知事(53)と、スハルト元大統領の元娘婿で、軍のエリートであるプラボウォ・スビアント氏(62)のふたり。

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「ジョコウィ」の愛称で知られるジョコ氏は、政治家に転身する以前は家具輸出業を営んでおり、独裁政権と無関係の人物としては初の有力大統領候補となった。当選すれば、全く新たなスタイルの指導力を発揮し、民主主義体制を強固なものにすると見込まれている。

一方、独裁政権下で民主活動家の拉致を命じたことを認めているスハルト氏の元娘婿で、軍のエリートでもあったプラボウォ氏は、強力なリーダーシップを持つ指導者を求める多くの国民から高い支持を得たが、当選すればインドネシアを再び独裁体制へと後退させるかもしれないとの懸念も出ていた。【7月9日 AFP】
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両者の掲げる政策は殆ど差がないと言われています。
また、大統領権限に限りがあることもあって、政策の財源的裏付けといった具体性はあまりない総花的な施策が並んでいるとも。

ただ、両者の経歴・政治スタイルは正反対で、どちらが選ばれるかによって、今後のインドネシアの方向が大きく変化することも考えられます。

****正反対の指導者像****
両陣営の特徴をみてみると、プラボウォ陣営にはイスラム系政党が多く集まったとはいえ、いずれも世俗主義政党とイスラム系政党の連合であり、イデオロギー的差異はそれほど大きくない。

両陣営の政策にも大きな違いはみられない。どちらも、汚職の撲滅、地方や農村の開発、農林漁業の振興、教育、保健、住宅政策の強化などを打ち出している。
政策潮流は、ユドヨノ時代の成長優先から、成長と分配のバランス重視へと大きく変化しつつある。

それでは、有権者は何を基準に投票すればいいのであろうか。今年の大統領選挙で有権者が問われている選択は、2人の候補者がそれぞれ体現する政治指導者像であり、それから生じる政治スタイルの違いである。

ジョコウィは、庶民出身の政治家として、国民と同じ目線に立ち、国民との対話を通じて、国民とともに歩んでいく新しい政治スタイルを有権者に提示している。

自らを飾らず、誠実であろうとする彼の姿勢は、これまでの既存エリート政治家にはみられなかったものであった。

連日報道される汚職事件のニュースに接していた国民にとって、政治家とは自らの利権獲得ばかりを考える存在でしかなかった。既存の政党・政治家に対する不信感が高まっているときに、ジョコウィは新しい指導者像と、新しい政治スタイルを国民に提示したのだ。

これまで政治的に顧みられることのなかった下層や庶民は、自らが中心となる新しい政治のあり方を実現してくれる政治家として、ジョコウィに期待を寄せるようになったのである。

一方、プラボウォは、旧来の伝統的な政治指導者像を提示することで、民主化後の時代に失われた強い指導者の出現を求める国民の渇望感に応えようとしている。

選挙戦でプラボウォは、馬に乗って登場し、拳を振り上げて支持者を鼓舞する。演台に上がる時には、1950年代の政治家のようにカーキ色のシャツを着て、クラシックな形のスタンドマイクの前に立つ。

演説では、外国によって国富が奪われていると説き、民族の尊厳を回復して強いインドネシアを建設するためには強い指導者が必要だと訴えている。

それは、まさにスカルノ初代大統領の姿に重なるものである。プラボウォは、叡智によって国民を導いていく政治家と自らを位置づけているのである。

2人が提示している指導者像は、まったく正反対のものである。
この異なる指導者像は、政治スタイルの違いに直結している。両者が国民に示した政策綱領の内容は似通ったものであるが、その実現方法はまったく違うものになるだろう。

ジョコウィが、国民とともに政策課題を解決していこうとするのに対して、プラボウォは、自らのリーダーシップで政策を実現していこうとする。

果たして国民は、新しい指導者像を体現するジョコウィを選ぶのか、それとも 旧来の伝統的な指導者像を体現するプラボウォを選ぶのだろうか。(後略)【7月2日 川村晃一氏 フォーサイト】
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昨年9月21日ブログ“インドネシア 来年7月の大統領選挙は早くも「当確」?”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130921)で「当確」をうってしまったように、当初「庶民派」ジョコ氏が圧倒的人気を得ていました。

しかし選挙が近づくにつれ「強い指導者」を演出するプラボウォ氏が猛烈に追い上げ、投票前の支持率で数ポイント差、あるいは調査によっては逆転といった大接戦にもつれこんでいます。

選管の公式発表は今月下旬の予定ですが、“民間調査機関が出す非公式の開票速報によると、ウィドド氏の得票率は53%で、一騎打ちとなっていた対立候補の元軍幹部プラボウォ・スビアント氏(62)の47%を僅差で上回った。”【7月9日 AFP】とのことで、ジョコ氏も「開票速報で我々が優位との情報もあり、感謝している」と語っており【7月9日 毎日】、前出AFP記事では「勝利宣言」ともされています。

正確なところはもう少し情報を待つ必要もありますが、“選挙速報によると、開票率約90%時点で、ウィドド候補がプラボウォ候補を約5%ポイントリードしている”【7月9日 ロイター】とのことですから、どうやらジョコ氏が逃げ切ったようです。

ただ、“プラボウォ陣営は敗北を認めないとしている。選挙管理委員会は今月下旬に公式結果を発表する予定だが、同陣営が異議を申し立てるのは確実だ。”【7月9日 共同】ということで、少しゴタゴタするのかも。

民主化が進み、信教・言論の自由の名のもと広がる宗教的不寛容
選挙前にインドネシアに関して報じられた記事から、気になったものを紹介します。

イスラム国家インドネシアの経済成長、今後に向けた潜在的可能性はしばしば言及されるところですが、社会的には、宗教的不寛容の雰囲気が濃くなりつつあるとも言われています。

かつて自爆テロを行ったイスラム過激派「ジェマ・イスラミア」の影響は低下していますが、これまで強権的に抑えられていた宗教的主張が前面に出てきた感があります。

****成長大国の岐路 インドネシア大統領選:下)多様な国民、統合道半ば****
 ■宗教対立、襲撃相次ぐ
「家が襲われている」。5月29日夜、出版会社に勤めるユリウス・フェリシアヌスさん(54)は息子から連絡を受けた。ジャワ島中部ジョクジャカルタ近郊のスレマンにある自宅に着くと、家を取り囲んでいた男たちに突然殴られ、意識を失った。

自宅ではキリスト教徒の友人らが祈りを捧げていた。女性と子どももいた。英字紙ジャカルタポストによると、襲撃で5人がけがをした。スレマン県の担当者によると、キリスト教徒が集まって聖歌を練習していることに近所のイスラム教徒が腹を立て、外部から人を呼んで襲ったという。

3日後、同じスレマンで別の民家が数十人のイスラム教徒らに襲われた。キリスト教徒が集まり、礼拝をしていたからだ。

警察と軍が現場に来たが、積極的に襲撃を止める様子はなかった。県担当者は取材に「2件とも宗教対立ではない。住民間のもめごとだ」と説明した。

宗教間交流団体幹部のアブドゥル・ムハイミンさん(63)によると、ジョクジャカルタでは1~6月に宗教が理由の暴力事件が8件起きた。だが、襲撃者は起訴されていない。

ジャワ島東部シドアルジョにある集合住宅には、約115キロ離れたマドゥラ島サンパンの村から避難した約180人が暮らす。イスラム教シーア派の人たちだ。イクリク・アル・ミラルさん(42)は「故郷を忘れられない。でも、いつ戻れるのか」とつぶやいた。

2012年8月、村を多数派スンニ派の数百人の集団が襲った。民家が50軒以上焼かれて2人が死亡、10人が負傷した。スンニ派の指導者団体が数カ月前にシーア派を「異端」としたことに刺激されたとされる。

その後も抑圧は止まらない。今年4月、ジャワ島西部バンドンでスンニ派指導者ら1千人以上が「あらゆる手段でシーア派の増加を食い止める」と宣言した。

 ■少数派抑圧語られず
インドネシアは「多様性の中の統一」を国是とする。民族、宗教、人種、集団を意味するインドネシア語の頭文字をとった略語「SARA」は、集団間の対立を指す際に使われる。

1967年から約30年続いたスハルト政権下では、国軍や情報機関が過激な運動の芽を摘んだ。キリスト教徒が多い地域では知事をキリスト教徒、副知事をイスラム教徒から任命するなどバランスにも配慮した。

それが、98年の民主化以降、首長も直接選挙になると、イスラムの教えを土台にした地方条例が次々とできた。民主化推進団体「SETARA」によると、その数は316。

内容は、公務員の(女性は頭にスカーフなどの)イスラム的服装の義務付け▽コーランの読み書き推奨▽酒の製造販売や飲酒の禁止▽プールを男女別に▽婚前交渉の禁止▽女性の夜間外出禁止――と広がる。

SETARA理事のイスマイル・ハサニさん(36)は「選挙で支持を集めるのに宗教的価値観に訴えれば金がかからなくてすむ。だが、こうした条例は差別を助長する」と心配する。

00年代、バリ島やジャカルタでイスラム過激派の爆破テロが相次いだ。警察が掃討し、近年は大規模テロは起きていない。

一方、民主化が進み、信教・言論の自由の名のもと、イスラム主義の排他的な一面を許容する風潮が目立ってきた。

昨年、ジャカルタのある区長がキリスト教徒という理由で解任を求める運動が起きた。ジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏(53)は「解任の理由がない」と拒んだ。

だが、ジョコ氏は大統領選に立候補すると、「背後にキリスト教徒がいる」と中傷され、イスラム学校訪問などで多数派の支持離れを防ぐのに必死だ。

元陸軍幹部のプラボウォ・スビアント候補(62)はほとんどのイスラム系政党から支持を受ける。だが、反対にキリスト教徒離れを恐れ、キリスト教徒の多い地域では「私の母はキリスト教徒」と強調した。

両候補が、宗教対立や少数派への抑圧について踏み込んで語ることは少ない。【7月3日 朝日】
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民族、宗教、人種の多様性について、強権支配政権にあっては封印されていたものが、“民主化”によって表面化し、対立・紛争が激化する・・・・ユーゴスラビア、リビア、イラク等々、各地で見られる現象です。

【「(解答を)買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」】
インドネシアも他の途上国同様に腐敗・汚職の蔓延が大きな課題となっています。

****安定」その先に:インドネシア大統領選/下 汚職横行、巡礼費まで****
「20万ルピア(約1800円)で買わない?」。4月中旬にあった全国統一卒業試験の前、ジャカルタの女子高校生、マリさん(17)=仮名=が同級生から声をかけられた。

友人は教育委員会にいる内通者から1000万ルピア(約9万円)で事前に答えを入手し、募った生徒50人で費用を分けるという。

「各教科の試験開始10分前に携帯電話へ答えが送られて来る」。志望大学の合否に直結する試験。迷ったが、両親に「不正はだめだ」と再三注意されていたこともあり断った。だが、友人は計画を実行したという。

解答の売買はインドネシアでは公然の秘密。教員協会のホットラインには今年、全国から300件以上の不正情報が寄せられた。

現場も半ば黙認で、マリさんの高校の校長はこう話すだけだったという。「買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」

利益のためには不正をいとわない。インドネシアで深刻化する汚職の背景には、そんな社会の雰囲気がある。

5月、スルヤダルマ宗教相が汚職で摘発され辞職し、衝撃が走った。現職閣僚というだけでなく、容疑がイスラム教の聖地メッカへの大巡礼(ハッジ)希望者が積み立てた預金の不正流用だったからだ。

世界中から希望者が殺到する大巡礼は、サウジアラビア政府が各国に人数を割り当てる。インドネシアは人口2億5000万人の約9割がイスラム教徒で、毎年、大巡礼には一国として世界最多の約20万人が参加する。

インドネシアでは宗教省が管轄し、希望者は庶民の年収にも匹敵する代金約20万円を預け、12〜17年待つ。政府が管理する代金は総額7200億円、利息だけでも年間約200億円に達するという。

捜査当局は詳しい容疑を明らかにしていないが、穴埋めのためサウジアラビアで発生する経費を水増ししたり、親族や関係者を優先的に巡礼させたりした疑いが持たれている。

資産は3年で6000万円増えたとの調査もあり、宗教相がうまみのあるポストだったことがうかがえる。イスラム教でハッジは「以前の罪を全て洗い流す」神聖な行為とされるが、それすら汚職のネタになるとは驚きだ。

政府は2003年に独立捜査機関の汚職撲滅委員会(KPK)を設立。これまでに政治家、首長、高官、裁判官など407人を検挙し、高い支持を集めてきた。

ただ、1998年のスハルト政権崩壊と民主化で、スハルト一族や特権層が独占していた利権は拡散し、捜査が及ぶのは一部とみられている。

「汚職撲滅に日本も協力してほしい」と話すのは、NGO「インドネシア汚職ウオッチ」のタマ・ランクンさん。「インドネシア当局の捜査力はまだまだ不足している。日本の法律や捜査の専門家が指導してくれれば、必ず役に立つ」と話す。【7月5日 毎日】
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高校校長の「(解答を)買ってもいいけど、偽物もあるから注意しなさい」というコメント、最近では一番笑えました。

社会の現実を雄弁に語る言葉でしょう。
こうした現実にあって、汚職・腐敗の一掃には時間がかかるよう思えます。

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