孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス大統領選挙  サルコジ、オランドどちらでもEU求心力に問題

2012-03-15 21:52:37 | 欧州情勢

(パリ・マドレーヌ教会前で物乞いするムスリム女性 “flickr”より By Eric.Parker http://www.flickr.com/photos/ericparker/4796726181/ )

【「移民半減」など極右支持層を取り込む戦術が奏功
フランスでは4月22日に大統領選挙第1回投票が行われますが、ここまで野党・社会党のオランド前第1書記にリードを許し苦戦を強いられてきたサルコジ大統領が、極右票狙いの「右旋回」が功を奏して、ようやく第1回投票での首位をつかむまでに支持を伸ばしています。
ただ、決選投票については、依然としてオランド候補が大きくリードしており、サルコジ苦戦の情勢は変わっていません。

****仏大統領選:世論調査でサルコジ氏がオランド氏を初逆転****
フランス大統領選の第1回投票(4月22日)に向けた世論調査の支持率で、右派・国民運動連合のサルコジ大統領(57)が、これまで首位を走ってきた最大野党・社会党のオランド前第1書記(57)を初めて逆転した。

2月15日の正式出馬表明以来、メディア露出を激増させたほか、「移民半減」など極右支持層を取り込む戦術が奏功した形だ。だが上位2人による決選投票(5月6日)になった場合の支持率では、依然としてオランド氏がリードを保っている。

世論調査会社IFOP社が13日発表した調査によると、第1回投票の支持率は、サルコジ氏28.5%、オランド氏27%。前回の2月26日よりサルコジ氏が1.5ポイント伸ばしたのに対し、オランド氏は1.5ポイント下げた。だが決選投票となった場合の支持率は、オランド氏54.5%に対し、サルコジ氏は45.5%と、オランド氏のリードが続いている。

支持率3位の極右政党「国民戦線」のルペン氏(43)は、今回の調査では前回より1ポイント下げ16%だった。サルコジ氏の支持率上昇とともにルペン氏の支持率が下がる傾向が続いており、サルコジ氏や右派与党・国民運動連合の右旋回戦術に支持層を侵食されているとみられる。ただ、ルペン氏は13日、これまで懸案だった、立候補に必要な市町村長など500人の推薦人の確保は達成したと発表。選挙運動を本格化させる体制が整ったため、巻き返す可能性もある。
支持率4位の中道政党「民主運動」のバイル氏(60)は13%だった。【3月13日 毎日】
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サルコジ大統領:「シェンゲン協定」厳格化を要求
そのサルコジ大統領の、「わが国の領土にあまりにも外国人が多すぎる」「(新しく入国する)移民の数を半減させる」といった反移民政策など「右旋回」については、3月9日ブログ“フランス大統領選挙  苦戦のサルコジ大統領は「右旋回」 リードする社会党候補は「まるでユートピア」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120309)でも取り上げたところです。

更に、サルコジ大統領は、欧州諸国間の自由移動を認めた「シェンゲン協定」について、不法移民対策強化のための改正が行われない場合、一時的に実施を停止する意向を表明した。

****サルコジ氏、不法移民対策を強化 保守票取り込みへ****
・・・・サルコジ氏は最大野党、社会党候補のオランド前第1書記に苦戦を強いられており、協定の停止は極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首の支持層など保守票を取り込むためだ。これまでにもフランスが受け入れる移民数を年間10万人に制限する方針を示すなど、保守的主張を強めている。

シェンゲン協定は各国間の出入国審査の廃止を定めており、欧州連合(EU)加盟国中22カ国とスイスなど4カ国が実施している。不法移民でも一度入れば、自由に域内を移動できる。
サルコジ氏はパリ近郊で同日開かれた集会で、移民対策のための協定改正について、「1年以内に重大な進展がなければ、交渉が終了するまでの間、参加を中止する」と述べた。

サルコジ氏はさらに、公共事業に自国製品の優先調達を義務付け、保護貿易主義との批判を招いた米国の「バイ・アメリカン」条項を引き合いに、同様の制度をEUで導入することを主張。1年以内に実現しなければ、「バイ・フレンチ」法としてフランス一国でも実施するとした。(後略)【3月13日 産経】
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人、カネ、モノの自由な移動によって域内統合を図るEUにとって、人の自由移動を認めた「シェンゲン協定」は、ヨーロッパ市民としてのアイデンティティー形成、政治的主体としての共同体の一体感形成に寄与する重要な柱です。国境で分断されない統一体を形成し、域内においては警察・司法の協力態勢をとろうとする試みです。
また、経済活動の自由化ひいては活性化が期待されています。
現在は、 アイルランドとイギリスを除くすべてのEUの加盟国と、非加盟国のノルウェーおよびアイスランドが参加しています。

この協定によって、国籍取得が容易な加盟国で国籍を取得すれば「合法移民」として、フランスなど移民制限をしている国へも移動・就労が可能となります。また不法移民についても、一旦域内に入れば、域内他国への移動が可能となります。
その結果、移民の増加を招くことにもなり、国内失業者や貧困層からは、雇用を奪われている、競合により低賃金となっているとの不満も出てきます。フランスの場合、北アフリカや中東からのイスラム系移民の増大が問題視されています。

2011年の「アラブの春」の影響で、チュニジアやリビアから多数の難民新たに抱え込んだイタリアは、EUに支援を要請しましたが回答がなかったため、仮の滞在許可証を発行し、難民の希望地であるフランスなどへの越境を促しました。これに対しフランスは、イタリアとの国境を一時的に閉鎖し、イタリアとフランスの間で緊張が高まったこともありました。

サルコジ大統領が再選を果たし、実際に「反移民」政策を実行すれば、EU統合の理念とぶつかる場面が出てきそうです。

オランド候補:「経済成長戦略も必要」】
一方、厳格な歳出削減策に消極的な社会党オランド候補が当選しても、EUにとっては大きな問題を抱え込むことになります。

****仏大統領選:積極的財政出動唱えるオランド氏に不安の声*****
フランス大統領選(4月22日第1回投票)で、サルコジ大統領(57)の対立候補である最大野党・社会党のオランド前第1書記(57)の債務危機対策に不安の声が上がっている。
オランド氏が欧州連合(EU)の25カ国により2日に署名された「財政規律条約」の改正を主張、積極的な財政出動を唱えているからだ。オランド氏が当選すれば、独仏主導で進めてきた債務危機対策が根底から崩れるとの不安感がEU各国に流れている。

オランド氏は財政規律条約の厳格な歳出削減策に強い不満を示し、「経済成長戦略も必要」と主張。財政赤字を絶対悪とみなすメルケル独首相やサルコジ氏の路線とは明確に異なる。債務危機解決の切り札とされる「ユーロ共同債」もこれまで仏独の合意で先送りされたが、オランド氏は実現を目指している。

債務危機ではこれまで、独仏首脳会談で対応策の大枠を決め、他のユーロ圏諸国が従うパターンが続いてきたが、既に変化の兆しが見える。仏ルモンド紙は「メルケル首相はサルコジ氏以外の欧州首脳との面会回数を増やしている」と指摘。「サルコジ後」をにらんだ対策に加え、「1月の仏国債の格下げで、独仏はもはや以前の力関係にない」と分析した。

一方のオランド氏側近も仏経済紙「レゼコー」で「成長戦略を打ち出すには欧州全体との対話が重要だ」と語るなど、欧州の構図が大きく変わる可能性がある。

仏大統領選ではこれまでも、第1回投票を前に左右の2大政党の候補者がそれぞれ極左、極右により近い政策を掲げて支持基盤を固め、決選の第2回投票では中道層を奪い合う展開が繰り返されてきた。仏世論調査会社「CSA」の5日の調査では、極左政党「左翼戦線」の支持者の7割が、オランド氏の経済政策を「信用できる」と回答している。【3月15日 毎日】
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【「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」】
財政規律強化を目的とした新条約で当面のギリシャ危機をしのいだEUですが、財政削減に国内の抵抗が強いのはフランスだけではありません。
緊縮策を受け入れた当のギリシャでも選挙態勢に入るにつれて、次期政権の中心となることが予想されている新民主主義党(ND)のサマラス党首は11日、「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」と強調し、緊縮策を見直す考えを示しています。

****ギリシャ、高まる選挙ムード 反緊縮の左派、支持伸ばす 2次支援決定****
欧州債務危機の発端となったギリシャで、無秩序なデフォルト(債務不履行)回避にめどがついたことを受け、総選挙ムードが一気に高まってきた。国民の反発が強い財政緊縮策に対し、主要政党から見直しを目指す声が上がり、緊縮策反対を掲げる左派の少数政党が支持を伸ばしている。

昨年11月に発足したパパデモス政権の連立与党は、欧州連合(EU)などからの第2次支援の受け入れ後、解散・総選挙の実施で合意していた。民間投資家への債務削減が成功し、支援実施が12日に決定され、選挙への環境は整ってきた。

連立与党でも、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)は、支援の交渉役だったベニゼロス財務相が新党首に就くことになり、選挙態勢を固めつつある。新民主主義党(ND)は11日に党大会を開催。サマラス党首は選挙が4月15日の復活祭後、早期に行われるとの見通しを表明した。

焦点は、パパデモス政権が支援の代わりにEUなどと約束した緊縮策への次期政権の対応だ。世論調査ではNDが優位だが、サマラス氏は11日、「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」と強調し、緊縮策を見直す考えを示した。

ただ、国民は長年にわたり政権を交代で担ってきた2大政党へ不満を募らせ、世論調査では両党の支持を合わせても50%に届かない。一方で緊縮策反対の左派3党が計4割前後の支持を集めている。うち1党がNDに次ぐ支持を得ている調査結果もあり、選挙後の政権の枠組みには不透明感が漂う。

ドイツのショイブレ財務相は11日、ギリシャの総選挙について「すぐに実施することが最善なのか分からない」と疑念を示した。【3月14日 産経】
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オランダ極右政党、ユーロ圏からの離脱を主張
ギリシャ以外でも、財政削減が難しいのは同様です。

****赤字削減」EUに早くも不協和音が****
失墜したユーロの信頼を回復させようと、EU首脳は財政規律強化を目的とした新条約に署名。しかし早くも不協和音が聞こえてきた。

スペインのラホイ首相は今月初めのEU首脳会議の終了直後、今年の財政赤字目標を対GDP比で5・8%にすると発表。サパテロ前政権は赤字を4・4%に抑えるとしていたが、ラホイは目標をほごにしてしまった。

最近まで財政運営の模範生とみられていたオランダも、今年の財政赤字が目標の3%を大幅に上回る4・5%に達する見込み。ルッテ首相は歳出を減らすと話しているが、極右の自由党はより過激な問題解決策を提唱する
ユーロ圏からの離脱だ。
自由党のヘールト・ウィルダース党首は、オランダが旧通貨ギルダーを使い続けていたら国民1人当たりで年間1800ユーロ豊かになっていたという報告書を引き合いに、ユーロ圈残留の是非を問う国民投票を実施するよう求めている。もっとも世論調査では国民の7割がユーロ圈残留を望んでいる。

スペインとオランダの状況を見ても分かるように、赤字削減はそう簡単にはいかない。ドイツ主導の財政規律強化は前途多難なようだ。【3月21日号 Newsweek日本版】
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EUは13日、ハンガリーが財政赤字の抑制を怠ったとして、2013年の同国向け補助金の一部に当たる約5億ユーロの交付を停止することで合意しています。
今後、こうした各国の利害の対立が更に深まることが懸念されています。
そうした状況に中心国ドイツが嫌気がさせば、EU・ユーロ圏の求心力は一気に低下します。

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