孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  ローマ法王の訪問で、教会と対立してきたキューバの変化をアピール

2012-03-28 21:46:42 | ラテンアメリカ

(キューバのサンティアゴデクーバ 3月26日 ローマ法王ベネディクト16世を熱烈歓迎するキューバ国民 法王は、写真中央の白い箱のような防弾仕様車両の中に。 “flickr”より By El Mundo, Economía y Negocios http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/6874930328/ )

訪問は引き裂かれた社会に「和解」をもたらす意味も
キューバの守護聖人とされる「カリダデルコブレ聖母像」の発見から400年になる今年、ローマ法王ベネディクト16世が26日から3日間、キューバを訪問しています。
法王のキューバ訪問は98年の前法王ヨハネ・パウロ2世以来、14年ぶりとなります。
カトリック教会は59年のキューバ革命で反革命派を支持したことから、両者は長く対立を続けていましたが、キューバ政府は前法王の訪問を機にクリスマスを「休日」と定めるなど、近年は「雪解け」が進んでいました。

その後、フィデル・カストロ前議長の引退、弟のラウル・カストロ議長による改革路線の開始というキューバ側の変化もあって、今回のベネディクト16世訪問でカトリック教会との関係の修復が更に加速しています。
キューバ政府にとっては、法王訪問は、変化するキューバを世界にアピールする絶好の機会ともなっています。

****キューバ、法王歓迎ムード 長年確執、ラウル政権で一変****
ローマ法王ベネディクト16世が3月末にキューバを訪れる。ラウル・カストロ政権の改革を受けて、カトリック教会との関係が急速に改善。在外キューバ人もミサ参加のために帰国できるようになり、訪問は引き裂かれた社会に「和解」をもたらす意味もある。(中略)

キューバ政府とカトリック教会は長く確執を続けてきた。カトリック教会は1959年の社会主義革命に反対し、反革命派を支援。60年代にはキューバが司祭や尼僧ら約300人を国外追放した上、教会が所有していた学校を全て国有化、教会は資金源を断たれた。

だが、98年に前法王の故ヨハネ・パウロ2世がキューバを訪問し、関係改善が徐々に進んだ。兄のフィデル・カストロ氏を継いだラウル国家評議会議長が社会・経済改革を推進し、雪解けが加速。キューバ側は教会の求めに応じて政治犯釈放などに取り組み、昨年末には政治犯を含む囚人2900人を恩赦した。教会はこうした姿勢を評価しており、訪問を通じてラウル政権を後押しする狙いだ。

また、訪問には、「キューバの分裂した社会の傷を癒やし、国家の統一と調和をもたらす意味がある」(地元ジャーナリスト)との指摘がある。
社会主義政権による締め付けを嫌ったり、経済的な理由で移住したりした海外在住のキューバ人は米マイアミなどに約200万人いるとされ、キューバ人の多くは、家族や親戚が離れ離れになっている。前回の法王訪問時には、キューバ政府はミサへの参加を希望した在外キューバ人の入国を拒否した。

ラウル政権はこれまでに、キューバ人が海外に永住する際、国が家などを没収していた制度を廃止。出入国制度も改革し、海外在住のキューバ人が帰国しやすい政策を進めている。今回の訪問でも在外キューバ人の帰国を認めている。
キューバ司祭会議幹部のホセ・ペレス氏は、「法王の訪問は、キューバ政府にとって海外に良いイメージを発信する機会。教会にとっては、社会での存在感を高めるいい機会になる」と話している。【2月28日 朝日】
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なお、法王は国旗を振る市民などから温かい歓迎を受けましたが、キューバの反体制派は式典出席を阻止されたとしており、週末に取り締まりが始まり、少なくとも50人が拘束されていると語っています。一方、キューバ政府の報道官は、政治的な理由による拘束はしていないと述べています。【3月 27日  ウォール・ストリート・ジャーナルより】

【「キューバは将来を見据え、改革しようと努力している」】
ベネディクト16世はキューバ訪問に先立ち、「マルクス主義が現実的でないことは明らか」(日本語への翻訳ですから、「現実に対応していない」とか「現実にそぐわない」、更には「時代遅れ」などと、いろんな表現が各紙でなされています。)と、いささか率直に過ぎるような発言もしていました。

しかし、サンティアゴデクーバの空港に着いた法王は「キューバは将来を見据え、改革しようと努力している」と語り、経済改革を進めるラウル・カストロ政権に一定の評価を示す配慮も見せています。

バチカン法王庁報道官によると、27日のラウル・カストロ国家評議会議長との会談では、キューバ国内の人権状況やカトリック教会の権利拡大などが話し合われたとのことで、キューバの体制変革が議題に上ることはなかったそうです。

****ローマ法王:14年ぶりキューバ訪問 進む「雪解け*****
世界約12億人のカトリック教徒の頂点に立つローマ法王ベネディクト16世(84)が26日、キューバ東部サンティアゴデクーバに到着し、3日間の訪問を開始した。(中略)

ラウル・カストロ国家評議会議長らに出迎えられた法王は空港で「キューバ政府と教会の関係には、さらなる発展の余地がある」とあいさつ。教会の権利拡大のほか、在米の亡命キューバ人との和解や政治犯の釈放などを暗に求めた。議長は「キューバ憲法は信教の自由を保障している」と述べ、教会と対立してきたキューバの変化を印象づけた。

法王はキューバ入りに先立ち、経済改革を進めながらも社会主義体制を堅持するキューバを念頭に「マルクス主義が現実的でないことは明らか」と述べたが、キューバ到着後には「あるべき価値観を欠いた人間を作る」と資本主義も批判した。

キューバでは革命以前、人口の8割がカトリック教徒だったが、教会統計によると、90年には41.2%にまで低下した。その後、回復傾向にあり、2010年には59.7%まで戻った。
改革を進めるキューバ政府は最近、政治犯の釈放問題で教会の仲介を利用している。法王の訪問で信教の自由がさらに拡大すれば、教会の「隠れ信者」が立場を公にする可能性がある。

ハバナ在住のカトリック教徒の女性(35)は「母から『信者であることは秘密にするように』と言われて育った。今回の法王訪問では記者会見の様子がテレビで放映されるなど、98年の前回訪問時と比べて隔世の感がある」と驚きを口にした。
法王は26日午後、サンティアゴデクーバ市内でミサを執り行った。【3月27日 毎日】
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【「開かれた新しい社会を」】
法王は、約20万人が参加したサンティアゴデクーバ市内での26日のミサで、「許しという武器をもち、開かれた新しい社会を建設するために闘いますように」と呼びかけています。
一方、マリノ・ムリジョ閣僚評議会副議長は27日、法王と議長による会談の前に行った記者会見で「経済改革には取り組んでいるが政治改革は考えていない」と語り、社会主義体制堅持の姿勢を強調しています

****開かれた新しい社会を」、ローマ法王がキューバ訪問****
キューバを訪問中のローマ法王ベネディクト16世(84)は27日、首都ハバナに入った。(中略)

法王はキューバ訪問初日の26日、同国南東部サンティアゴ・デ・クーバで開かれた大規模なミサで大勢の参加者を前に、「開かれた新しい社会」を作り上げるべきだと呼びかけた。

これに対し政府指導部は、既にキューバには民主主義が存在すると強調した。マリノ・ムリジョ閣僚評議会副議長は記者会見で、「キューバで政治改革は起きないだろう。われわれはむしろ、国民の福利のためにわが国独自の社会主義を維持していくため、キューバの経済モデルの刷新について議論している」と述べた。

キューバ政府は今回の法王訪問を、同国が宗教活動に対して寛容で開放的であることを世界に向けて発信する機会だと捉えている。法王は28日にハバナの革命広場で約100万人が参加するミサを行い、同日キューバを離れる予定になっている。【3月28日 AFP】
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今後の改革には、指導部若返りが急務
ラウル・カストロ議長のもとでキューバは改革を進めており、11年の共産党大会では、国民全体に富を等しく配分する「平等主義」からの脱却を明文化し、食糧配給制度の廃止や、働きに応じて賃金を増減させる成果主義を盛り込んでいます。また、公務員のリストラや、民間部門の雇用増を進め、11年9月には自動車の売買も解禁、更に11月には個人が資産として不動産を所有することを認め、1959年の革命以来初めて不動産売買を自由化すると発表しています。

キューバの改革が今後どのように進展するのかは注目されますが、高齢化が進む指導部の若返りが必要とされています。

****キューバ政権 “定年制”問う 議長80歳、副議長81歳…指導部硬直化*****
任期最長10年 正式に議論
キューバ共産党は28日、国の基本方針改定に向けた会議を開催し、政権指導部の任期を最長10年(5年2期)に限るとの方針を正式に議題とする。ラウル・カストロ国家評議会議長、ホセラモン・マチャド副議長ともに80代。硬直した指導体制に“風穴”を開けることで、党の活性化を図る考えだ。

カストロ議長は昨年4月の共産党大会で、政権指導部に定年制を導入すべきだとの考えを表明している。議長は現在80歳でマチャド副議長も81歳。引退した身とはいえ、キューバ政界に厳然たる影響力を持つ議長の実兄、フィデル・カストロ前議長も85歳と高齢で、死亡や重篤など、万が一の事態にも柔軟に対応できるよう、「新旧交代」の必要性が叫ばれていた。

定年制の方針が決定された場合に、ラウル・カストロ議長やマチャド副議長がいつ引退するのかなどは一切不明だが、ロイター通信によれば、28日の会議では、議長の意中の若手指導者が後継者として紹介される可能性もありそうだという。

キューバは昨年春から、疲弊した社会主義体制を活性化させるため、市場経済を積極的に導入し、1959年の革命以来禁止されていた不動産や車の自由売買などを容認した。今回、指導体制そのものに“メス”を入れることで、改革がいよいよ本格始動することになる。

米欧などは一連の改革の行方を注視している。ただ、カストロ議長の娘で、国内で強い影響力を持つマリエラ・カストロさんは最近、「政治決定に(若手指導者など)多くの国民を参加させるという仕組みは、キューバの社会主義体制を維持するためのものだ」と発言。従来の政治路線には一切、変更がないとの考えを強調している。【1月29日 産経】
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キューバでガン再治療中のチャベス大統領は・・・・
なお、法王は今回訪問中にフィデル・カストロ前国家評議会議長と会談する可能性もあるとされていますが、今朝のTVニュースでは、キューバでガン再治療中のベネズエラのチャベス大統領の謁見の可能性も触れていました。

病状についてはいろんな憶測(一部には「既に死期が近いのを受け入れた」とも)がなされているチャベス大統領ですが、そういう時期だけに、敬虔なカトリック信者とされるチャベス大統領自身としては法王に謁見したい気持ちは強いのではないでしょうか。
もっとも、そうなると、いよいよ「既に死期が近いのを受け入れた」といった憶測を強めかねないので、政治的にはどうでしょうか・・・。

チャベス大統領の病状は、10月に大統領選挙を控えたベネズエラの国内情勢に大きく影響するのはもちろんですが、フィデル・カストロ前国家評議会議長とチャベス大統領の盟友関係をもとに、ベネズエラから低価格で原油輸入を行っているキューバにも影響します。
コメント (3)
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